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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
オブザデッドの孤島編 ~またも名刺を拾ったら~
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気になる木

〈PLAYER:hana hirako〉


「大きな木……」


もはや、樹齢を考えるのが馬鹿らしくなるくらい大きな木だった。

ダンジョンに自生する植物は様々だけど……これほどの巨木となると、思い当たるのはエルフが育てる世界樹しかない。


エルフ自体が希少種な上に、彼等が世界樹を育て始めるには条件がある。

一定以上の個体数の増加、または生息エリア面積に対する個体数の割合の上限突破という説も。そして、エルフはダンジョン内に自らの集落を作るのだが、その集落規模によりエルフの中から『オベロン』なる統治種が発生する。


オベロンなんて、学会に共有された情報はデンマークで確認された一体だけ。

しかも、デンマーク政府が厳重に管理するシェラン島ロスキレ大聖堂の地下に広がる国有ダンジョンの中で目撃されたものだけだ。


「まさか……だと思うけど」


壁のような幹に触れながら、私は思わずここがダンジョンの中だと忘れそうになる。


オベロンは、唯一世界樹を育てることができるという。

世の中には、世界樹と名の付くアイテムがたくさん出回っているけど、それは世界樹にあやかってつけられただけのもの……。


もし、本当に世界樹由来のアイテムが日本で発見されたなら、例外なく最高機密管理倉庫『天の岩戸』ダンジョンに保管されるだろう。


まあ、世界樹なんて都市伝説よね……。


「15時になっても反応がなかったなぁ……ジョーンさん達、大丈夫かな……」


巨木を背に、草原を見渡す。

いったい、ここはどこなんだろう……。


ザザザザ……ザザ……


「え?」


ザザ……ザザザ……ザザ……


「な、なんの音……?」


私はダガーを握りしめ、身を低く構えた。

背中が少し汗ばむ……。

レンジャースーツがぴったりと張り付くのがわかった。


『オオオォォ……』

『オオ……』

『オオオォォオオ……』


草原の草むらから一斉に黒い影が顔を出す。

リビングデッドだ――。


「こ、この数は……ど、どうしよう⁉」


とにかく逃げなきゃ!

でも、どこへ⁉


慌てて周りを見るが、巨木ににじり寄ってくるリビングデッドしか見えない。


木に登る?

でも、できるかな……あ~もう!


『――PLAYER:suzune benikoyaがボーナスモンスをキルしました! モンスポイント+5をゲットしました。PLAYER:suzune benikoyaには、ファーストボーナス+10が加算されます』


「あれ? ……紅小谷さん? MP……ファーストボーナス⁉ 何かボーナスが設置されているのかな?」


『『オオオォォオオ……』』


「って、のんきに考えてる場合じゃなかった!」


私はどうにか足を掛けられそうな窪みを見つけて、木を登り始めた。


「うぅ……」


結構難しい……けど、こんなところで、兄達に連れられて遊んだボルダリングの経験が役に立つなんて思わなかった。


慎重に足場を確保しながら、上を目指す。

しかし、下を見るともうそこまでリビングデッドが迫っていた。


『『オオオォォオオ……』』


どうしよう、間に合わないかも……⁉


『『オオォォ……』』



「きゃっ――⁉」

リビングデッドに足首を掴まれる。

と、同時に掴んでいた木の皮が剥がれた――。


「あ……」


落ちる――。

そう思った瞬間、私の両手に木の蔦が巻き付いた。

足を掴む手を蹴り払い、そのまま蔦を頼りに無我夢中で上枝に登る。


「よっ……と、はあ……はあ……た、助かった……」


どうにか登り切り、広い上枝の上に座り込む。

手には蔦の巻き付いた痕がほんのりと赤く残っていた。


「ポーションあったかなぁ……なんかベタベタする」


アイテムボックスを開こうとして手を止める。


あれ? これってキクランゲじゃ……。

そこら中に大きな茶色の団扇のようなものが生えていた。


キクランゲはポピュラーな素材で、装備品の材料や防寒材などに良く使われる。


「ジョーンさんが見たら喜びそうだけど……」


それよりも、気になることがあった。

キクランゲは……枯れ木にしか生えないということだ。

この巨木がすでに枯れているのなら……さっきの蔦はいったい……。


ハッと上を見上げる。

巨木の葉かと思っていたものは大量の猛戦苔モウセンゴケだった――。


興味はある! 調べたい……でも、いまはダメ!

単体ならなんとかなるけど、この数は危険……!


猛戦苔は動く物を捕まえようとする習性がある。

刺激しないようにしないと……。


下を見る、リビングデッドの姿は消えていた。

でも、草むらに潜んでいるのかも知れないし……。


どうしよう……。


「そこにいるのは誰だ?」


「へ?」


恐る恐る声のした方を向くと、そこにはどこかで見たような男の人が立っていた。

年は私より少し上くらいかな……さっぱりした顔で怖い感じはしない。


「あ、その……私は……」


スッと男の人が手の平を私に向け、上を指さした。


「なるべく静かに、ゆっくりだ」


私はアイコンタクトを送り、

「プレイヤーの方ですか?」と尋ねてみた。


「ああ、俺は富山で黒部ダンジョンを経営している『あめのま』だ」


あめのまさん……思い出した!

船の中でジョーンさん達が噂していた人だ。


「私は香川のD&Mというダンジョンのスタッフをしています、平子花と言います」

「D&M……ああ、ウチの顧客から何度か聞いたことがあるよ。熱心な店長がいるってね」


「ふふっ、はい、たしかに熱心だと思います」

「そうか、もう少し話を聞きたいところだが……」


「猛戦苔ですよね」

「平子さんは、あれが何か知ってたの?」

あめのまさんは意外そうな顔を向ける。


「私は山河大学のモンス学部で、鳴瀬教授の研究室に所属していますから」

「鳴瀬教授……ほぉ、モンス学の第一人者だな。なるほど、俺なんかよりよっぽどモンスに詳しそうだ」と、苦笑する。


「参加はお一人ですか?」

「いや、念のためプロのダイバーを雇っていたんだが……みんな飛ばされただろ? どこにいるのか見当もつかないな……」


「そうですか……」

「いつまでもここにいるわけにもいかないんだが……。飛び降りても地面に着く前に猛戦苔に引き上げられてしまうんだ。それに、運良く草原に逃げられたとしても、リビングデッドが潜んでいる可能性が高い」


あめのまさんは、そう言って草原に顔を向けて目を細めた。


うーん、とても均整の取れた体だ。

素人目にも体幹が通っているように見えるし、武道家のような雰囲気がある。

たぶんこの人、かなり強いはず……。


「あの、もし下に降りられたら、草原を抜けられると思いますか?」

「……こいつは俺が造った『神使聖鐘ウルティマ・コール』という武器で聖属性がある。リビングデッド相手ならそこそこ戦える自信はあるが、問題は相手の数だな……」


言いながらあめのまさんは、ピカピカの杖のような武器を私に見せてくれた。


「……私があめのまさんの回復役に徹すればどうでしょうか?」

「それなら、何とかなりそうだが……猛戦苔がな。ここに飛ばされてからずっと試しているんだが、上手く行かなくてね」


あめのまさんが小さくため息をつく。


「私に考えがあります――」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 花さん的にはずっとこの場で観察したい所でしょうに 後で戻ってこれるかな
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