目を開けたら
〈PLAYER:hana hirako〉
ゆっくりと目を開けると、私は草原に立っていた。
「え⁉ こ、ここは……ラキちゃん? ジョ、ジョーンさん……? 紅小谷さん?」
周りを見回しても、背の高い草が邪魔をして良くわからない。
私の他には誰もいない……と思う。
「たしか……シャッフルって言ってた。ということは転送?」
私は共鳴針を使おうと、ウィンドウを開いた。
「あ、そうだ! 時間……」
14時過ぎか……ジョーンさんは奇数時間って言ってた。
――15時まで時間がある。
とにかくどこか見渡せる高台を探さないと……。
私はとりあえず目に付いた大きな木に向かって歩き始めた。
*
〈PLAYER:suzune benikoya〉
「眩しっ! ったく、ジョンジョン! 状況は⁉ ……ジョンジョン?」
チカチカする目を擦りながら周りを見ると、どこかのオフィスのようだった。
「へ……?」
な、なによこれ⁉
整然と並ぶデスクには、それぞれPCモニターとキーボードが置かれていた。
ちょっと高そうな事務椅子……フロアにはグレーのカーペットが敷かれている。
念のため、机の陰に隠れる。
注意深く周りを見るが、物音一つせず、誰もいる気配は無い。
「なんだってのよ……」
机づたいに窓に近づき、そっと外を覗いてみた。
「ちょ……」
Circle Pitという企業はここまでやるのね。
どれだけ開発費をつぎ込めば街を再現できんのよ……。
渋谷そっくりの街並みを見下ろしながら、私はため息をついた。
*
〈PLAYER:john dan〉
「スクランブル交差点⁉ マジかよ⁉」
どこからどう見ても渋谷のそれだった。
え? これ再現してんの⁉
うぉおお! す、すげーっ! これどうやって作ったんだろう……。
『だれもいないラキィ~……』
まるで初めて渋谷に来たお登りさんのように、キョロキョロと周りを見ていると、建物の影からふらふらとした足取りの人影が現れた。
「ん……?」
『こっちに来るラキよ』
人影はゆらゆらと揺れながら彷徨っている。
「リ、リビングデッドじゃん⁉ まずいな……」
俺はそっとハチ公口の方へ向かう。
すると、その時周囲の物陰から、ゆらりゆらりとリビングデッドが湧き出てくる。
「ぐっ……⁉」
か、囲まれる……!
俺は慌てて交差点中央に戻り、ウィンドウを開いて『ダイバースーツ』と『ファングバックラー』を取り出して装備した。
くそっ、こんなことなら、武器を新調しとけば良かった!
『ダンちゃん、はやくはやく~』
周りを見ると、いつの間にかとんでもない数のリビングデッドが集まってきている。
他の参加者はどうした?
俺だけのステージなのか? それともマップが広すぎるのか……。
もし、あの光が転移なら、参加者をバラバラに再配置したんだろうな。
――やるしかねぇか!
俺はルシール改を握り絞める。
「うぉおおおおーーーーーっ!! ラキモン、掴まってろよ!」
『ぴょ~~~っ!』
俺はラキモンを頭に乗せ、リビングデッドの群れに突進した。
「ファーストアターック!」
リビングデッドの頭部を吹っ飛ばす。
単体なら、さほど強い相手ではない。
危険なのはその数だ。
倒しても倒しても、うじゃうじゃと迫ってくる。
俺は囲まれないようにして、リビングデッド達が少ない場所を選んで突き進んでいく。
「おらおらおらーーーっ!!」
『うぴょっ!』
矢鱈さんやリーダーがいれば一瞬なんだろうけど……俺にそんな力はない。
だが、リビングデッド如きなら負ける気はしないぜ!
リビングデッドの壁をくぐり抜け、視界が広がる。
よしっ!
俺は全速力で走った。
あっという間にリビングデッド達の姿は見えなくなる。
ふぅ……あいつらの足が遅くて助かった……。
『ふわぁ~、な~んもないラキねぇ……』
ラキモンは頭の上で眠たそうにしながら、キョロキョロと周りを見ている。
さてと……、このバーチャル渋谷はどこまで続いてんだろう?
高いビル、高いビル……。
待てよ……?
ビルの中であいつらに襲われたら……逃げ場がないな。
うーん、入り口塞がれたらアウトか……。
立ち止まって考えていると、ビルの影からまたリビングデッドが現れた。
「チッ! もー、こいつら数だけは多いからいやなんだよ!」
俺は向かってくるリビングデッドを蹴り、そのままビルの間に逃げた。
自動販売機の影に隠れて息を整える。
――そうだ、時間!
ウィンドウを開き、時間を確認する。
14:44か……。
どこか身を隠せる場所が欲しいな……。
他の参加者達はどこにいったんだろう?
これだけ動き回っても、まだ誰とも遭遇しないなんて……。
『ダンちゃん、ダンちゃん、あっちから良い匂いがするラキよ……』
ぴょんと頭から飛び降りて、ラキモンはふらふらと誘われるように路地に入っていく。
「ちょ⁉ ま、待てよ!」
慌てて追いかける。
だが、路地に入った瞬間、すでにラキモンの姿はなかった……。
「おいおい、嘘だろ……」