表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第六部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

134/214

今日も誰かにメールが届いている

 枕元のスマホが鳴る。

「う、うーん……」

 まだ重い目を擦りながら画面を見ると、昨日、丸井くんに送ったメールの返事が届いた。


『お久しぶりです、いやぁお恥ずかしい……。実は絵鳩さんと蒔田さんのお二人に偶然アンダーグラウンドで会いまして、条例の話を聞いたんです。それで、僕も何かお手伝いできないかと思って、番組で紹介させていただきました。ほんとに大変だと思いますけど、応援してますので頑張ってくださいね!』


 これは何かお礼をしなきゃな。

 離れていても、こうして応援してもらえるのは本当に嬉しい。

 思えば、あのメダルブームもあっという間だったよなぁ……。


 布団から出て、身支度をすませて外に出た。

 思いっきり背伸びをして、「よし!」と気合いを入れた。


 丸井くんの動画から、署名に協力してくれる人が500人以上も集まっていた。

 今日はその件で、役所に相談に行くことにした。

 ダンジョンの開店準備は花さんが来てくれるので問題ない。


 スクーターに乗り、長閑な田舎道を走り抜け、国道に出た。

 途中、うどん屋に寄って、かけうどんを三玉ずずずと掻き込む。

 安いわ、旨いわ、ボリュームあるわで、消化は早いし、糖尿リスク以上の恩恵があるわー。

 すっかり身体が温まったところで、再びスクーターを走らせ役所に向かった。


 *


 ――123番。

「お、俺だな」


 順番が回ってきたので、受付に向かう。

 整理券を渡すとお姉さんが、

「今日はどうなされましたかー」とにっこり微笑んだ。


「あ、すみません、あの署名に関してお伺いしたいのですが……」

「署名……ですか?」

「はい」

「少々、お待ちください」

 お姉さんはすっと席を立ち、後ろに座ってふんぞり返っていた男性職員に何やら相談している。

 男性職員はちらっと俺を見て、お姉さんと少しやり取りした後、面倒くさそうに席を立った。


「では、ご案内しますのであちらにどうぞ」

 戻って来たお姉さんが、簡易パーティションで区切られた応接ブースに手を向けた。

「ありがとうございます」


 ブースに行くと、さっきの男性職員が満面の笑みで出迎えてくれた。

「どうも~、こんにちは、さ、どうぞどうぞ、お掛けになってください~」

 人が変わったように、低姿勢で笑顔を崩さない男性職員。

 少し気味が悪いなと思いつつ、「失礼します」と言って席に着いた。


「えっと、ご署名に関して、と伺っておりますが……」

「あ、はい、あの先日の条例に関して署名を集めようと思ってまして」

 男性職員の頬が一瞬、ピクッと引き攣ったように見えた。

「なるほどですねぇ~、そうですか、それはそれは……」

「一体、どういう形でどこに提出すればいいのか知りたいんです」

「そうですかぁ~、それはそれは」

 と言って、大袈裟に頷いた後、

「はい、まずですね、有権者の50分の1の署名をご用意していただき、一旦こちらで名簿の審査がございます、提出先等につきましてはこちらの資料をご確認ください」と、職員はクリアファイルに入った資料を差し出した。


「あの、例えば、他県の方の署名なんかはどうなりますか?」

「ええ、選挙権さえ有していれば問題ありません」

「そうですか、良かったぁ~」

「他に何かご質問等なければ……」

「あ、はい、ありがとうございました」

「いえいえ、では失礼いたします」


 深々と頭を下げ、男性職員はデスクに戻っていった。


 意外と良い人なのかな……。

 ま、これで後は集めるだけか。

 まずは行動あるのみ! やれるだけやってみよう。


 俺は資料を片手に役所を後にした。


 *


 家に戻り、荷物を置いてダンジョンに向かった。


「お疲れ様~」


 カウンター岩の中にいた花さんが振り返った。


「あ、ジョーンさん、おはようございます、準備は終わってます」


 暖かくなってきたからか、髪の毛をラフな感じでお団子に纏めている。

 岩カウンターと後ろのダークブラウンの棚の落ち着いた色合いの中で、花さんが着ているスタンドカラーの白シャツがとても綺麗に引き立って見えた。


 しかも、今日は細い丸フレームの眼鏡を掛けている。

 これは、繁盛するぜ……。


 そう小さく頷きながら、俺はカウンター岩に資料とスマホを置いた。


「ありがとう、いや~助かるよ」

「いえいえ、あ、どうでしたか?」

「うん、他県でも問題ないみたいだから、連絡くれた人にメールを送ってみようと思って」

「そうですか……、何か手伝います?」

「いやいや、接客してくれるだけで十分ありがたいよ」

「じゃあ、今日は私が珈琲淹れますね」

 花さんがちょっと得意気味にふふふ……と笑った。

「え、ほんと? それは楽しみ!」

「い、いや、あんま期待しないでくださいね……、まだ練習中なので」

 少し顔を赤らめながら、花さんは珈琲を淹れ始めた。


 俺はデバイスをOPENにして、カウンターの隅で作業に入った。

 スマホからさんダを開く。

 さんダのページは良くできていて、メールボックスに届いたメールを選択して、一括でメールが送れるようになっている。


「えーっと、チェックボックスで選択して……、このメールを送信、と。お、意外と簡単だな」

「はい、ジョーンさん、どうぞ」

 花さんがマグカップを置いた。


「うわー、ありがと! へへへ……いただきます」


 ふーふー、と少し冷ましながら口を付ける。

 おぉ! やっぱセンスがエグいな。

 もう、全然、その辺の喫茶店にも引けを取らない。


「花さんすごいね? マジで美味しいよ」

「ホントですか⁉ やったー!」

 嬉しそうに笑顔で両手を上げる花さん。

 ちょ、眼福すぎて意味がわからない。

 俺はせり上がる頬を精神力で押さえつけた。


 後はご近所さんにも協力を頼んでみるか……。


 *


 ――ダンジョン協会うどん県出張所。


 誰もいなくなった所内で、帰り支度をしていた沢木に大石が声を掛けた。


「沢木さん、ちょっといいですか?」

「おう、どうした? 飲みは勘弁してくれよ、今日こそ帰らないとカミさんがな、ははは」

「違います、その、例の条例の件なんですが……」

 大石が切り出すと、沢木の顔つきが変わった。


「あー、あの条例ね、もう明日でいいか? 早く帰りたいんだよ」

「すぐ、すぐに終わります! これ、見てもらえますか?」

 大石は手に持っていたA4の紙を見せた。

 そこには、To:Mindという会社から送られた、条例伴う講習会の予定や、付随するDVDの納入予定などが纏められていた。


「どこでこれを?」

「今朝方、メールで届いたものです」

 沢木は一瞬、チッと舌打ちをして顔を歪めた。


「これ、沢木さん宛でした! どういうことですか⁉ まだ条例は可決していませんよ⁉」

「おいおい駄目じゃ無いか、流石に勝手にメールを覗くのは良くないぞ?」

 意外にも沢木の口調は優しい。

 てっきり怒鳴られると思っていた大石は勢いを失ってしまう。


「それは……件名に条例の事があったので、確認しようと……」


「なぜ、お前がそれを確認するんだ? 気を利かせてくれたのかも知れないが、俺宛のメールのはずだろう?」

 沢木は穏やかな態度を崩さない。


「も、申し訳ありません! その事については謝罪します! ですが――」


「大丈夫、大石の思っているようにはならない、それは約束する」

「沢木さん……」


「そうだ、お前海が好きだったよな? 沖縄とか良いぞ~、女の子も綺麗だ。そうそう、なんくるダンジョンもあるしな、あそこのスタッフの子見たことあるか? アイドル顔負けだぞ?」

「え……」


「お前、有給消化してないだろ? ちょっと休んで来たらどうだ?」

「さ、沢木さん……ちょ――」

 沢木は大石の言葉を遮る。

「悪かった、お前が仕事できるもんだからさ、ついつい俺も頼っちまうんだよな……、すまん!」

「そんなこと……」

「いつでも言ってくれ、有休消化できるようにするから、な? 彼女も喜ぶんじゃないか?」


 沢木はわざとらしく腕時計を見て。

「あ! じゃ、悪いな、カミさん待ってるからさ、明日また聞くから、お先!」

 ぽんと肩を叩き、沢木はスーツを肩に掛け出て行った。


「あ……」


 一人取り残された大石は、閉まった扉を呆然と見つめていた。

五〇万字突破しました、これからもよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 不穏しかない…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ