深淵からの鳴き声編 ⑧ 紫の悪夢
「ソワカーーーーーーーーーッ‼」
『にゃはーーーーっ!』
数体の猫又が宙に舞う。
鬼神の如き形相で六角棒を振るう犬神の姿。
「ほらほら、どうした猫ちゃん達? この程度か?」
『く、くそっ! このままでは……』
猫又達が後ずさりする。
『ど、どうする?』
『我らでは歯が立たん、だが、せめて足止めを!』
猫又達が互いに顔を見合わせて頷き、一斉に犬神に突進した。
『『ケ、ケットシーさま、ば、ばんざーーーーい!』』
「応ッ! のぞむところだ!」
犬神が身構えた、その時――
突如、巨大な髑髏が猫又達と犬神の間に現れた。
「なっ⁉ が、がしゃ髑髏か? いや、これは……煙?」
よく見ると巨大髑髏はもこもこの煙で出来ている。
『お前さん達、早く逃げな……』
「むんっ!」
犬神が巨大髑髏の煙を払うと、猫又の代わりに着流し姿の大柄な猫が立っていた。
そして、その向こうには、走り去る猫又達の後ろ姿が見える。
『やれやれ、まったく、何でこんな面倒なことを始めんのかねぇ……。旦那もそう思いませんか?』
そう言って猫は、ぷかぁ~と美味しそうに煙管を吹かす。
「……ほぅ、人語? 珍しいな、ケットシーの手下か?」
『いや、俺は五徳猫っていいましてね。何やら下が騒がしいもんで来てみたら、ケットシーがまた何か始めちまって……』
「変わった奴だな」
犬神は興味深そうに五徳猫を眺める。
『それで……一応お尋ねしますが、旦那はここらで引くつもりは?』
「……無いな」
五徳猫はふふっと小さく笑う。
それに合わせて鼻から煙が吹き出た。
『そうですかい……、そりゃぁ野暮なことを聞いちまったようで』
「そろそろ良いか?」
犬神が六角棒を向ける。
『仕方ねぇ』と、五徳猫が勢いよく煙を吐き出した。
「⁉」
煙はピラルクのような巨大魚の形になり、五徳猫の周りをぐるぐると回り始めた。
「ふん、ネタ切れか? ワンパターンだなぁっ!」
犬神は煙の巨大魚を掻き消すように、最多角隕鉄念珠を振り回す。
巨大魚はあっという間に散り散りにされてしまう。
だが、散らばった煙は小さな魚に姿を変え、みるみるうちに魚群となって犬神の周りを回遊し始めた。
「おい! この……じゃま、だ! だーーーくそっ! 面倒くせぇーーーー!」
纏わりつく魚群を払う。
しかし、消えたと思った煙の魚は、すぐに元通りになって犬神の視界を塞ぐ。
「この! この! くそっ!」
犬神が必死にすべての煙を払い終わると、いつの間にか五徳猫はどこかへ消えてしまっていた。
「チッ、逃げられたか……」
***
――D&M十六階層・中央付近。
神輿ソファで担がれたケットシーと、ベビーベロスに跨る老齢のコボルト。
ついに両雄が対峙し、辺りにはただならぬ空気が満ちていた。
『ひとつ聞きたい! なぜ俺たちを攻めてくる?』
コボルトの言葉に、ケットシーは耳をピクンと震わせた。
『ニャムゥ……、なぜ? そんニャもの……、このケットシーさまが気に入らニャい以上の理由が必要ニャのか?』
『……』
ケットシーがゆらりと身を起こした。
『どうやら交渉の余地はなさそうだな』
コボルトが肩を竦めると、隣で聞いていたコジロウも肩を竦めた。
その時、伝令役の猫又が、別の猫又に支えられながらケットシーの元へやって来た。
『お、お伝え、申す……、召喚魔法陣が完成! 召喚魔法陣が完成!』
『ニャムゥ! 完成したニャムかっ! ニャッニャッニャッ……、これですべて終わりニャム!』
ケットシーは神輿ソファの上から、
『みニャの者! 良く聞くニャム! 時は来た! ニャムはこれよりニャンラトホテプ神を召喚するニャム!』と両手を広げ、猫又達に伝えた。
『つ、ついに……』
『お、おい……、逃げようぜ』
『ケットシーさまのお決めになったこと。某は最後までお供し申す!』
『お主はどうするのだ?』
『逃げろ逃げろ』
逃げる者、決意を固める者、ただその場に立ち尽くす者……。
猫又達の反応は様々だった。
少し離れた場所からケットシー陣営を見つめるコボルトが呟く。
『何だ? 様子がおかしい……』
『ワゥ? みんな行ったり来たりしてるガル』
『全軍退避、退避だーーーー!』
コボルトが叫んだ。
***
――ズドドドド……ドォォン!
強烈な地鳴りの後、突き上げるような地震が襲った。
「え⁉ なに⁉ 何なのっ⁉」
俺は慌ててカウンター岩にしがみついた。
「うぉ、お、お、お、お、うおおお~~~~~!」
ゆ、揺れる!
遊園地のアトラクションみたいにダンジョン全体が揺れている!
掴まっていないと立っていられない。
壁の棚のダンジョロイドが地面にコロコロと転がり、マグカップが落ちて粉々に砕け散る。
あぁ! お気に入りのマグカップがぁーっ!
俺はデバイスを手で押さえ、地震が収まるのを待った。
「ひ、ひぃぃ~~~!」
――ゴゴゴゴゴ……ゴッ。
「お、収まった?」
――揺れが止まる。
急に耳が良くなったみたいだ。
「や、やばかった……、何なんだ?」
俺はスマホを取り、地震速報を検索する。
――――――――――――――――――――――
震源・震度に関する情報
現在、震度1以上の地震は観測されておりません。
――――――――――――――――――――――
「え……あんだけ揺れたのに⁉」
他の掲示板や自治体のHPなどをチェックしても、地震に関するアナウンスはなかった。
おかしいな……。
「あ!」
そうだ、下はどうなったんだろう⁉
デバイスの土埃を払って、ビューを操作する。
「あれ? 変だな映らないぞ?」
他のフロアを確認してみると、普通に見ることができた。
何かトラブル?
もしかして、さっきの地震?
「そうだ、MAP表示で……」
デバイスをビューモードからMAPモードに切り替えてみた。
MAPには、モンスを示す赤い点、リーダーや十傑の二人を示す青い点。
そして――、紫の点が輝いていた。
コピペミスってました……。
わけがわからなくなった方、申し訳ありませんでした。(;^ω^)
ということで、二話まとめての更新です。
どうぞよろしく!