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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第五部

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111/214

松山に着きました。

「ここいらでコンビニ休憩にしますよぉー」

 停めにくそうな駐車場だったが、スムーズに車庫入れを終えた蒔田がボソッと言った。


「意外と運転上手いんだな?」

「まぁ、こう見えて器用なんで」

「き、聞こえる……⁉」

 何故か蒔田の声がはっきりと聞き取れた。

 車の中だからか? むぅ、謎すぎる……。


「何をわけわかんないこと言ってんの?」

 後部座席から紅小谷が言った。

 絵鳩と紅小谷は普通に聞こえるみたいだけど、俺は何か波があるんだよなぁ……。


「あはは……、それにしても、いつの間に仲良くなったんだ?」

「あ、森保さん繋がりでーす」

 紅小谷の隣でスマホをいじっていた絵鳩がそっけなく答える。

「そんなことどうでもいいから、ほら、早く行くわよ」

 車を降りる紅小谷に続いて、俺たちもコンビニに向かった。


 うーん、まさかこんなメンバーで行く事になるとは……。

 端から見れば一応、女子に囲まれているわけだし、羨ましがられるかも知れないが、俺からすれば罰ゲームに近い。

 それに紅小谷はともかく、絵鳩&蒔田コンビはどう接していいのやら……。


 店内を物色していると、棚の向こうから絵鳩と蒔田が楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてきた。

 何がそんなに楽しいのかと覗いて見ると、二人は結構な量のお菓子やらジュースやらを買い込んでいた。

「お、おい……、そんないっぱい食べられるのか?」

「ジョーンさん、普通それ聞きます?」

「モテませんよー」

「あはは、それ!」

「それな!」


「……」


 盛り上がる二人を置いて、俺はその場を離れた。

 うーん、わけがわからん。

 二人の事はもう気にするまいと、おにぎりを物色する。

 鮭とこんぶ、それにHOT緑茶を買ってレジカウンターに置くと、ちょうど隣のレジで蒔田と絵鳩が会計をしていた。

「324円になりますー」

「あ、はい」

 俺が小銭を出していると、

「げ、現金……⁉ う、うそ……、信じられない」と、蒔田が大袈裟に震える。

「へ? 何が?」

「いや、現金を使う意味がわからなくて」

「え……?」

「え?」

「は?」

「は?」


 お互いにきょとん顔で見つめ合い、束の間、奇妙な沈黙が流れた。


「あの……、お客様?」

「あ、はい、すみません」

 ハッと我に帰り、お釣りを受け取って蒔田たちと車に戻る。


「なぁ、電子マネー使ってないってこと?」

「で、でんしまねーww」

「もーやだ、何だよ、いちいち煽ってくんなって」

「いやいや、すみません、つい」

「ジョーンさん、折角、ポイントがついたり、割引できるアプリがあるのに、なんで現金で払ってるのかなってことですよ」

 見かねた絵鳩が横から口を挟んだ。

 チッ、早速ポッキーを咥えてやがる……。


「あぁ、そうなのか。いや~、俺ってそういうの疎くてさ……、良いのあったら教えてよ」

「ググれ、おこ太郎」

 エンジンをかけながら蒔田が食い気味に答える。


「ぐぬ……」

「ぐはははは! いいね、蒔田最高!」

 後ろで馬鹿笑いする紅小谷と絵鳩。


「はぁ……」

 ったく、やれやれだ。

 完全に遊ばれてるな……、まぁいいんだけどさ。


 絵鳩と紅小谷は、いつの間にか仲良くなっているようだった。

 俺の知らない間に、女子ネットワークなるものが構築されているのかも知れない。

 なんせ、最初に会った時は、見てるこっちが冷や冷やしたもんなぁ……。

 数ヶ月前の壮絶な修羅場を思い出していると、蒔田がエンジンをかけた。


「じゃ、出発しますよー」

「おーっ!」


 再び車は走り始める。

 蒔田の運転はこなれたもので、助手席に乗っていても安心できた。


 目的地の松山には高松自動車道で約2時間程度。

 ちょっとしたドライブみたいなものだ。


「なぁ、紅小谷。そのダンジョンでラキモンが見つからなかったらどうすんだ?」

「その時はその時、また出直すわ」

「また声かけてくれれば、いつでも車出しますよ」

 蒔田がバックミラー越しに親指を立てた。

「ありがと、頼りにしてるわ。……それにしても絵鳩、あんた良くそんなに食べられるわね?」

「ふぇ?」

 呆れたように言う紅小谷に、シリコン製のトングを持った絵鳩がきょとんとした顔を向けた。


「そ、それって、もしかしてマイトング?」

「そうですよ、だってスマホベトベトになっちゃうじゃないですか」

「……ふぅん、でも便利そうね? 私も買おうかなー」

「あ、それならここの店のポイン……」

「……私も持ってる……のよねー」


 二人の会話を聞き流しながら、窓の外を眺める。

 俺はラキモンの偽物について考えてみた。

 そもそも、何であんな宣伝をしてしまったんだろう。


 よっぽど経営不振で、仕方なくああいう形になったのか。

 それとも本当にラキモンが出るようになったのか……。


 仮にラキモンが出現したのなら気持ちはわかる。

 俺も、『これで喰いっぱぐれない!』なんて調子に乗って、ラキモンの宣伝をしてやろうと思っていた。


 でも、よくよく考えた結果、俺は思い直した。

 最初にそんな宣伝をしてしまうと、D&Mのイメージは『ラキモン』だけになってしまうだろう。

 一度付いたイメージを変えるのは難しい。それに、俺にとってダンジョン経営とは、自分で選んだ道なのだ。

 ダイバー達に胸を張れない仕事など、するつもりはない。

 たくさんの人から支持を得られるようなダンジョンにしてみたいし、それに……ラキモン頼みで、ただ、客を待ってるだけなんて、やる意味がないと俺は思う。

 ラッキーダンジョンの店長さんは一体、どんな人なのだろうか……。


 車は愛媛に入り、順調に松山市内へ向かっていた。



 ***



「うわ……、なんか、すご……」

「前に来た時より派手になってるわね……」

 紅小谷が神妙な顔で店前の写真を撮った。


 ――愛媛松山ラッキーダンジョン。

 松山市内の某所にあるラキモンを売りとしたダンジョンである。


 店の壁にはびっちりと隙間なくラキモンの絵が描かれたポスターが貼られていた。

 一種の狂気を感じさせる外観に、俺は圧倒されながらも、

「じゃ、じゃあ、入ってみる?」と皆に声を掛けた。

「……ちょっと先行きなさいよ」

「え、紅小谷入ったことあるんだろ?」


 店前でまごついていると、数人の客が出てきた。

「二度と来ねぇよ!」

「行こうぜ、ったく……」

 口々に文句を言いながら去っていく、大学生らしき男性客。

 すると、紅小谷が男の一人に駆け寄った。


「すみません、ちょっとだけ話を聞いても良いですか?」

 今まで聞いたことのないような可愛らしい声だった。

 うぅん、恐ろしい……。


 少し顔を赤くした男が答える。

「え? 俺? べ、別にいいけど……」

「わぁ、ありがとうございますぅー。あのお店で、何かあったんですか?」

「それがさー、ラキモンがいるっつーからさー、わざわざ千葉から来たんだよ俺ら」

 男は親指で自分の連れをクイックイッと指した。

「えー、大変ですよねぇー」

「でしょ? それなのに全然出ねぇし、モンスも殆どいねぇしさ、店主もなんていうの? 病んでるっつーかさー、ま、お姉さんもあそこは行かないほうが良いよ?」

「そうなんですか、すみません呼び止めちゃって、ありがとうございました」

 紅小谷はこれまた見たこともない笑顔で頭を下げた。


 あ、あれが営業スマイルってやつか……。


「あ、ねぇ、お姉さん、良かったら俺らと……」

「あ゛ぁ?」

 瞬間、いつもの紅小谷が戻った。


「え、いや……な、なんでもないです……」

「それじゃ、お気をつけてー」

 逃げるように去っていく男たちに手を振り、紅小谷が戻ってきた。


「す、すごい! (ねえ)さんかっけぇ!」

「お、大人の女性って感じでした!」

 絵鳩&蒔田コンビが鼻息を荒くして、紅小谷を囲む。

「まーまー、落ち着いて。ちょっと、ジョンジョン、ぼーっとしてないで行くわよ」

「わ、わかった」


 何故か一番前に立たされた俺は、嫌だなぁーと思いつつ、入り口の扉を押し開けた。


「ごめんくださーい……」


 恐る恐る中を覗くと、小さなカウンターが目に入った。

 奥に新聞を読んでいる店主がいる。


「すみません、四人なんですが……」


 店主は新聞を畳みながら、訝しげな目で俺達を見た。

 そしておもむろに立ち上がり、

「……じゃあ、IDを出してもらえますか」と、覇気の無い声で言う。

「あ、はい」

 店主がデバイスにIDを読み込んでいる間、俺はダンジョン内を観察した。

 ふと壁を見ると、色褪せた、いかにも年季の入った店内MAPが。

 これって、いつ頃から更新していないのだろう……。

 

 ここは、かなり小規模なダンジョンだ、二階層しかない。

 結構な年数が経っているようだが、コアの活性がうまく行かなかったのだろうか……?

 だとしたら、自暴自棄になってしまった可能性もあるかも知れない。


「装備は?」

「あ、はい、えーっと、ルシール改と……」

 装備を選んで、紅小谷達の受付が終わるのを待った。


 そういえば、トイレってどうなってるのかな。

 少し気になって、店主に尋ねてみた。


「あの、トイレってありますか?」

「ん? あぁ、悪いが、近くのコンビニでも行ってくれ」

「え……」


 そこで会話は終わった。

 目の下に真っ黒な隈を作った、店主のおどろおどろしい異様なオーラに呑まれ、俺はそれ以上何も言えなかった。


「さ、ジョンジョン、行くわよ」


 張り詰めた空気を裂くように、死の大鎌を肩に乗せた紅小谷が先を促す。

 後ろには、フェザーメイルを纏った絵鳩と蒔田が、キョロキョロと辺りを見回していた。


 こうして見ると、たった二階層のダンジョンに挑むには、随分と過剰な装備だな……と、俺は苦笑いを浮かべ、

「よし、行こうか」と、ダンジョンに踏み入った。


 MAPによると、一階は洞窟タイプで、二階は迷宮タイプ。

 ラキモンがいるとしたら、間違いなく二階だろう。


「それにしても、あの店主ヤバくなかったですか?」

「やっぱそう思うよねー、あの隈は尋常じゃないわ」


 絵鳩と紅小谷が話すのを、蒔田がうんうんと頷きながら聞いている。

 確かに、見た感じはちょっと異様な雰囲気だったよな……。


「え、何これ、ロンドンじゃん」

 急に蒔田がボソッと呟く。

「な、何だよ急に」

 蒔田は黙って地面を指差した。

 よく見ると、道の隅には紙くずや空き缶などのゴミが溜まっていた。


「え、ウソ? ロンドンってこんななの?」

 絵鳩が声をあげると、蒔田は頷く。


「へー、話には聞いたことあるけど……、ま、でも、これはちょっと酷いわね……」

 紅小谷は小さなため息を吐いた。


 こ、これはありえない……。

 おかしい、こんなことはあってはならない。

 こんなにもゴミを放置して、しかもあんな宣伝で集客をするだと?


 ふざけてる、一体、どういうつもりなんだ⁉


「ちょ、ジョンジョンどうしたの? 何か怖いよ?」

「あ、いや……、ごめん。ゴミが気になっちゃって……」

 いかん、思わず頭に血が昇ってしまった。


「D&Mは綺麗だもんね」

「うん、花ちゃんも可愛いし」

「は、はは……ありがと」

 絵鳩と蒔田がさりげなく褒めてくれた。 

 だが、そういう問題じゃなく、この状態はやっぱりおかしい。

 きっと、何か問題が……。


「あ、あれっ!」

 紅小谷が声を上げた。

 指を指す方向に黄色い影が動いたように見えた。


「え? ま、マジで?」

「ジョンジョン! 追って!」

「おけ!」


 俺が走り出すと、後ろから紅小谷達もそれに続いた。

 二階層へ続く階段を飛ぶように駆け下りる。


「逃がすかっ!」

 迷宮タイプのフロアに降り立つと、奥の壁際にスッと隠れる黄色い影が見えた。


 ま、マジでラキモンなのか?

 いや、それは……。


「紅小谷! 右から! 絵鳩、蒔田! 真ん中を見張っててくれ!」


 俺はそう叫んで、左の通路へ走った。

いつもありがとうございます!

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