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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第四部

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ギッチギチです。

『ダン・ジョンジョン・ジョ~ン♪ ダン・ジョジョジョン・ジョ~ン♪』

 スマホの着信音で目が覚める。

「ん……誰だよ?」

 霞む目で画面を見て飛び起きた。


 ――ダンジョン協会⁉


「……も、もしもし?」

 何事かと思いつつ電話に出ると、甲高い男の声が聞こえる。


『あ、朝早くに申し訳ありません、ダンジョン協会の杉本と申します。壇様でしょうか?』

「はい、そうです」


『ありがとうございます。えー、壇様、落ち着いて聞いて頂きたいのですが、実は昨夜遅くにですね、D&Mに設置したサイコロワイヤルαから異常信号が発報されております。それで、こちらの方でリモート調査を行いましたところ、モンス排出に異常をきたしていることがわかりました』

「えっ⁉」


『現在、システムの復旧に全力で当たっておりますが、復旧までシステムが使えなくなりますので何卒ご容赦ください。勿論、イベントの参加費用は、日割り計算でお戻しいたしますので……』

「ちょ、そんな……」

 おいおい、イベント二日目だぞ⁉

 金の問題じゃねぇ! お客さんの期待を何だと思って……。


『本当に申し訳ありません。協会と致しましても、問題解決に向け出来る限りのサポートをさせて頂きます。あ! 顧問、ちょ……』

 何やらガサガサと音が聞こえ、次の瞬間――。


『もしもし、ジョーン?』

「か、母さん⁉ 何やって……」


『あんた何やったの? ログデータを見てるんだけど、何か強烈な物理的負荷がかかってるわね。とりあえず応急処置でモンスの排出は止めてあるけど、このままじゃシステムの回転が制御できないのよ』

「ど、どうすれば?」


『サイコロ止めて』


「は? 止めるって……手で?」

 あんなデカいサイコロをどうやって……。


『大丈夫、見た目より軽いし力は殆どいらないから。とにかく、一度止めないと復旧できないの。終わったら連絡頂戴』

「ちょ、母さん――」電話が切れた。


 ったく、いつも突然なんだもんなぁ……。って、そんなこと言ってる場合じゃない!

 布団から出ると、急いで着替えを済ませて階段を駆け下りた。

「こらジョーン! 朝から騒がしいぞ!」

 居間から爺ちゃんが顔を覗かせる。

「ごめん! 行ってくる!」

 俺は玄関を転がるように飛び出し、ダンジョンへ走った。



「はぁ、はぁ、はぁ……」

 息を切らせながら、タブレットデバイスを立ち上げる。

 ビューモードで十六階層を表示した瞬間――俺はタブレットを落とした。


「な、なんじゃこりゃぁーーーーーーーーーーーっ‼」


 フロアギチギチに詰まったモンスの群れ。

 というか――塊。


 い、一体何が起こったのだ⁉

「ど、どうしよう……これじゃサイコロ止めるどころか……」


 落ち着け、落ち着くんだ。

 えーと、こういう場合はどうすればいい?


 自分のアイテムボックスからルシール改を取り出す。

 ちょ、違う! 俺は何をしてるんだ⁉


 そうじゃなくて、えーと、えーと……。

 そうだ! と、藤堂さん! まだ、こっちにいるかな?


 俺は聞いていた連絡先に電話を掛けてみた。

『もっしもーし』

 軽快な声が聞こえる。

「あ! 藤堂さんですか、あの今どちらに……」

『今? フェリーの中だけど?」

 OMGオーマイガッ……。

「そ、そうですか、ははは。いやー、まだ、こっちにいらっしゃるかな~なんて思って」

『何だよ? どうかしたのか?』

「いえいえ、特に何でもないです。ま、また、遊びに来てくださいね」

『ん? おお、そっち行く時はまた寄るわ。じゃあなー』

「はい、ではまた――」

 くっ、駄目だ、藤堂さんには頼れない……。


 だとすれば、どうする?

 いかん、落ち着け! そうだ、こういう時こそ珈琲を……。

 俺はなるべく考えないようにして珈琲を淹れ、グイッと飲んだ。


「わちちーーーーーーーーーーーっ!」

 珈琲をブーッと噴き出す。


 あっつ! あっつぅ‼ 死ぬかと思った!

 急いで水で洗うが、唇が真っ赤に腫れ上がってしまった。

 う~、ジンジンする。だが、焼けるような痛みのお蔭で少し冷静になれた気が……。

 俺は膨れ上がった唇を触りながら、ふと思った。

 ――この逆境をどうにか利用できないか?


 タブレットを再度手に取り、ジェ●ガ状態のフロアを眺める。

 モンスは身動きできないくらいに詰まっていて、見てるこっちが息苦しい。

「うわ~、やっばいなこれ……」

 だが、落ち着いて見てみると、それほど強そうなモンスは今の所見当たらない。

 故障しても、難易度調整は機能していたってことか?

 うーん……。


 しかし、これだけの数になると、単独攻略はまず不可能だろう。

 一体ずつ岩を掘り進むように倒していくか?

 それとも、パーティーを組み火力でなぎ倒していくか?

 でも、この塊の中に強力なモンスがいたとしたら……。

「……まいったな」


 その時、表から花さんが入ってきた。

「おはようございます」

「あ、花さん! そうか、日曜か! 良かったぁ~!」

「わ! ジョ、ジョーンさん、どうしたんですか、その唇⁉」

「うわ~」と、痛そうな顔で唇を見る花さん。

「え? あ、あぁ、ちょっと火傷しちゃって……。違う! それより大変なんだよ!」

 俺はシステムの暴走を説明し、タブレットの画面を見せた。

 花さんは食い入るようにタブレットを見つめている。


「こ、これは……」

 そう呟き、何やら俺の方をチラチラ見ている。

「ど、どうしたの?」

「いえ、あ、あの……、こんな大変な時に、本当に申し訳ないと思うんですけど……、その、写真を撮ってもいいですか? すみませんっ!」

 スマホを取り出して花さんが頭を下げた。


「え、あ、いや、別に構わないけど……」

「ありがとうございます、すぐに終わりますので」

 早口で答えると、パシャパシャとモンスの塊を写真に収めた。

 頬を少し赤らめた花さんは、何事もなかったようにスマホをしまう。

 そして、一つ咳払いをした後、「困りましたね……」と神妙な顔で呟いた。


「あ、うん……」

 いかんいかん、開店時間も迫ってる。

 俺がしっかりしないと、折角のイベントが台無しに……。


 ――イベント?

 そうか、イベントにしてしまえば良いんだ!


「花さん! 急遽イベントのイベントを行います!」

「は、はい! イベントのイベント……?」

 不思議そうに小首を傾げる花さん。


「そう、サイコロの暴走を止めるイベントをやります! 止めた人には、壇ブランドの『オーダー武器作成権』を進呈!(いま決めた)」

「でも、今からじゃ告知が間に合わないんじゃ……」


「大丈夫、今はイベント期間中だし、討伐依頼ハンティング・オーダーも合わせて出せば、誘い合わせて来てくれるかも知れない」

「そ、そうですねっ!」


「じゃあ、花さんは開店準備を。ガチャは多めに補充を用意して、染料の予備がそこの奥にあるから入れ替えてくれる? あと更衣室のパンフが切れてたらそれも補充で」

「わかりましたっ!」


 そこからは早かった。

 テキパキと花さんは準備を済ませ、その間に俺はSNSと協会サイト、紅小谷にも連絡を入れて『討伐依頼ハンティング・オーダー』を出した。


༼ꉺ✺ꉺ༽༼❁ɷ❁༽༼இɷஇ༽༼´◓ɷ◔`༽༼•̃͡ ɷ•̃͡༽༼ꉺεꉺ༽༼ꉺ౪ꉺ༽༼ꉺ✪ꉺ༽


 緊急討伐依頼ハンティング・オーダー・パニックフロアを駆逐せよ!

 ダイバー求む! 当イベントフロアにて緊急事態発生!

 現在システムの暴走により、フロアまるごとモンスで埋め尽くされています!

 見事討伐を完了し、システムを止めたダイバーには、壇ブランドより『オーダー武器作成権』を進呈いたします!  ※強化カスタムなど応相談。

 

༼ꉺ✺ꉺ༽༼❁ɷ❁༽༼இɷஇ༽༼´◓ɷ◔`༽༼•̃͡ ɷ•̃͡༽༼ꉺεꉺ༽༼ꉺ౪ꉺ༽༼ꉺ✪ꉺ༽


「……これで準備はOK。花さん、そっちはどう?」

「はい、終わりました!」

 俺は頷き、大きく深呼吸をした。

 うーん大丈夫だよな……? 大丈夫……ん? 待てよ?

 良く考えてみれば、この状況を楽しまないダイバーなんていないだろ?


 そうだ、そうだよ! この何が起こるかわからないワクワク感!

 それこそが――ダンジョン、俺の求めるロマンじゃないか!

 きっと皆も……。


 予定調和なイベントなんてクソ食らえだっ!

 よーしっ、燃えてきた‼

 

「ふははは! これだよ、これ!」

「ジョ、ジョーンさん?」

 困惑気味の花さんに、俺は自信満々の笑みを向けた。

 デバイスの画面にOPENの文字が輝く。


「――さぁ、始めようか」

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