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某大手ダンジョンをクビになったので、実家のダンジョンを継ぎました。  作者: 雉子鳥幸太郎
第一部

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円卓を囲みました。

 ズズズズ……。

 ズズ……。


 ズズズズ。

 この状況は何だ……?


 あの後、母の一声でダンジョンを早仕舞いした俺は、なぜか皆で丸いちゃぶ台を囲んでいた。


「あの~、じゃあ俺たちはお先に……」

 二人の若い男性。ダンジョンを閉めた後に、入れ違いで来てくれたお客さんで、申し訳ないからと俺が実家に招待したのだ。

「本当にすみません。明日はちゃんと開けますので……」

「いやいや、大丈夫ですよ、また来ますから。うどん、ご馳走さまでした」

 俺は、ダイバーたちを玄関まで見送って、居間へ戻った。


 伏し目がちに席へ戻り、少したってから目線を上げると

「うっ!」

 ちゃぶ台を囲む、母、矢鱈(やたら)さん、紅小谷(べにこや)、JK絵鳩(えばと)が全員でこちらを見ていた。


 俺がオドオドと目を泳がせていると、母が

「で? あんたのダンジョンの宣伝をこの娘に頼んだってわけね?」

「ま、私はもう、ズズズ、どっちでも良いけどね、ズズッ」

 紅小谷がうどんを啜りながら言った。

「食べながら話さない!」

「ちょっと母さんってば」

「まあまあ、親身になってくれている証拠ですよ、ねぇしおりさん」

 矢鱈さんはすでに母を名前で呼ぶようになっている、恐るべしコミュ力。


 唐突に絵鳩が口を開いた。

「あのー、私もう用事ないんで。写真だけ撮ります」

「「「は?」」」

 ――パシャッ!

「じゃ、ご馳走様」

「え? ちょ、ちょっと……」

 絵鳩はスマホを見ながら、さっさと帰ってしまった。


「変わった子ねぇ。ジョーン、言っとくけどあれはダメよ?」

「母さん!」

 矢鱈さんが静かに箸を置き

「しおりさんは、ジョーンくんがダンジョンをやる事に反対なのですか?」

「反対ってわけじゃないけど……。この子にそんな大それた事できるのかしら?」

「ははは、何事も経験ですよ。それに、ジョーンくんはプロの僕から見ても、良く頑張ってると思います」

「あら、そう?」

 と母は満更でもない表情を見せた。

「まあ、元々のコアが良いんじゃない? こんな短期間で十五階層なんて」

 そう言って、紅小谷が箸で俺を指す。

「箸で人を指さない!」

「……」

 すかさず母から突っ込みが入ると、紅小谷は渋々箸を置いた。


 紅小谷を横目に、母は眼鏡を直す、

「で、ジョーン。あなたは本当にダンジョンがやりたいの?」

 そう問いかける母の目はとても真剣だった。

「そ、そりゃあもちろん! 俺はダンジョンが好きなんだ!」

「……そう。なら、もう何も言わないわ」

 え、納得してくれた?


「でも、やるからには条件があります」

「条件……?」

「まず、日々の営業報告を私に入れること。それと、お爺ちゃんには頼らないこと。あと、お爺ちゃんに必ず私へ連絡を入れさせること。わかった?」

「営業報告って……」

 母は、ノートPCを取り出すと

「ちょっと待ってなさい」と言って、何やら作業を始めた。


「しおりさんってパソコンが得意なの?」

 矢鱈さんが俺に訊いてくる。

「あ、えーっと、プログラムの仕事をしてるんです」

「へぇ、そうなの?」

 紅小谷が急に食いつく。


「出来たわ、このアプリをあなたのスマホに送っておくからインストールしておきなさい」

「うん、それはいいけど……」

「あなたのスマホにダンジョンのデバイスから引っ張った売上データが同期されるようにしたわ。私がそれを見て今後の判断をするから、心しておいて」

 皆がきょとんとする中、紅小谷だけが

「す、すげーーー!! オバ……し、しおりさん、どうやってデバイスから引っ張ったんですか!!」

 と興奮して身を乗り出し、ちゃぶ台の食器が鳴った。

「何? あなた興味あるの?」

「だって、デバイスのプロテクトなんて一体……」

「まあ大手銀行と同程度ってところかしら」

 母はこともなげに言う。

 よほど凄いことだったのか、紅小谷は口を開けたまま固まってしまった。


「ところでジョーンくん、これから大変じゃない? 確かに短期間で十五階層に拡がったのは凄いけどさ、もう少し、こう……特色があった方が良いと思うんだよね」と矢鱈さん。

「はい……確かにそうですよねぇ」


 ふと横を見ると、紅小谷が母に何かを一生懸命訊いている。

「ま、そこはジョーンくんの腕の見せ所だし、何か協力できることがあったら言ってよ」

「矢鱈さん……」

 シュッとした矢鱈さんが輝いて見えた。


「さ、紅小谷。そろそろ行くぞ」

 矢鱈さんが立ち上がり、紅小谷の背中を軽く突いた。

「うーーー、もう少し」

「ダメだ、これ以上邪魔しちゃ駄目だよ、ほら」

「……わかった」

 名残惜しそうに紅小谷が席を立つ。

鈴音(すずね)ちゃん、もし、わからないことがあったらメッセージしなさい」

 と、母がスマホを見せて振る。

 おぉ! 良かった、打ち解けてくれたみたいだ。

「ありがと、しおりさん! じゃ、遠慮なく連絡します!」

「じゃあ、僕たちはこれで。ご馳走さまでした」

 

 帰り際、玄関から漏れ出た光が、外に出た二人の下半身を照らす。

 紅小谷は振り返って

「あ、そうだ! ジョンジョン、さんダに記事書いとくから」

「え! あ、ありがとうございます!」

 ていうか、ジョンジョン……?

 俺は二人を見送ると、母と二人で食器の後片付けを始めた。


 一通り、片付けも終わり、二人でお茶を飲む。

 円卓というちゃぶ台を囲むのは俺と母だけだ。


「良かったよ、母さんが許してくれて」

「まだ、完全には許してないからね」

「あ、あれ? ははは……」


 母は短く息を吐く。

「お爺ちゃん帰って来ないわね……」

 壁掛け時計を見て

「もう時間がないわ、行かなきゃ」

「え、もう帰るの?」

「まだ案件抱えてんのよ、急がないと」

 母は急いでバッグにノートPCをしまうと

「じゃ、あんたインストール忘れちゃダメよ」

 と言って、足早に玄関に向かった。


 慌てて追い掛けると、母が振り返り

「頑張るのよ」と優しい声で言った。

「うん、わかった」

「母さんも……」

 と、言おうとしたが、すでに母は車に乗り込んでいた。


 居間へ戻り、母の作ったアプリをインストールする。

 画面にはデバイス上と同じ売上データが表示されていた。

「へぇ~、やっぱ凄ぇな母さんは」


 あ、そうだ、爺ちゃんにメッセージ送っておかないと。

『母さん帰ったよ』と送信すると、

『助かったわい、すぐ戻る』と返信があった。


 二階の部屋でダンジョン雑誌を見ていると車の音が聞こえた。

「お、帰ってきたな」

 窓から表を覗く。すると、

「ったく、いい年して恥ずかしくないの!?」

 暗闇の中で、母の怒る声が聞こえる。

「あ、あれ……母さん?」

 

「いやいや、プラトニックっちゅうやつやから……」

「はぁ? ったく、男は金持つとこれだから……」

「私は金目当てじゃありませんけど?」

 陽子さんも負けていない。

「だったら何だってのよ!」

「だから、真面目にお付き合いしてるんですよ!」

 腕組みをした陽子さんが、母とにらみ合う。


 うん『触らぬ神に祟りなし』だ。

 そっとカーテンを閉める。

 俺は、成り行きを天に任せて布団に潜った。



 ――その頃、D&M・十二階層。

 草木生い茂る密林の中、モンスたちの蠢く声が響く。


「わわわ、取れないラキ!」

「グシュルルルル……」

 ラキモンの体に纏わりつくガム状の赤い粘体。

 呑気に十二階層で遊んでいたラキモンは、白い鱗を薄ピンク色の粘液に覆われた大蛇リュゼヌルゴスに襲われていた。

「気持ち悪いラキよ~!」

「グシャアア!!!」

 リュゼヌルゴスは青い牙を見せて威嚇しながら、次々に口から粘体を飛ばす。

「やめてラキーッ!」

 草むらの中を逃げるラキモンだったが、身体についた粘体が周りの草にくっついて上手く走れない。

 次第に距離を詰めてくるリュゼヌルゴス。

 その影がゆっくりとラキモンを覆っていく。

「あわわ、ダンちゃん……ラ、ラキ~~ッ!!!」

 青い牙から粘液が糸を引き、震えるラキモンの体に垂れた――その時。


「ウッホウッホ!」


 突然、茂みの中から繰り出された巨大な拳骨が、リュゼヌルゴスの巨体を吹っ飛ばす。

「グシャーッ!!」

「ウホホッウッホホッ!」

 それは巨人の如き体躯を誇る野獣バルプーニであった。

 バルプーニの気性は荒い。縄張り意識が強く、自分のテリトリーに入る者を許さない。群れを持たず、単独行動を好み、その戦闘力は高い。


 どうやら、バルプーニはラキモンには気付いてないようだった。

 リュゼヌルゴスとバルプーニが戦っている隙に

「い、いまのうちラキ……よいしょっ、ラキッ!」

 地鳴りのようなバルプーニのドラミング音が遠ざかっていく。

 ネバネバをなんとか引き剥がしながら、ラキモンは命からがら脱出に成功したのだった。

「ラ、ラキ……ダンちゃん……」



 ――当然、ジョーンは知る由もなく大きな寝息を立てていた。

所持DP 676,102

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