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第六話 ラビットホーン

軽い戦闘シーンがあります。

流血表現はありませんが、小動物(魔物)を攻撃していますのでご注意ください。

 冒険者としてのや説明を受けた真奈は試しにどんな依頼があるのかと掲示板を確認し、お試しに丁度良さそうな依頼を二つほど受けて、ソムニウムの街の外までやってきていた。


「薬草採取とラビットホーンの討伐。うーん、難しいのかそうでもないのかわからないな……」


 一応依頼ランクとしては最低のEランクなのだが、モンスターの実物を見たことが無いので何とも判断がつかないのだ。

 我ながら自分で受けてきたにも関わらず、お粗末な認識度である。

 まあ悩んだところで仕方ないので、ヤバそうだったら離脱するしかないのだが。


「えーと、確かこの辺で良い筈……あ! あった!」


 依頼を受けた際に受付嬢から説明された初心者向けの薬草採取ポイントにたどり着き、下草を掻き分けて薬草を探していけば、てっぺんに小さな黄色い花が咲いた草が群生している場所を見つける。

 受付嬢から見本として渡された絵と同じ草だが、もしも別物だと困るのでスキルの【鑑定】で間違い無いことを確認する。


「……よし、間違いないね。あとはこれを根元で切って……と」


 受付時の説明によれば、薬草は根さえ残っていれば、数日中に再び同じ場所から生えてくるらしい。

 その為、見本絵の下には「この採取ポイントを維持するためにも採取の際は引っこ抜くのではなく切り取るように」と注意書きが書き込まれていた。

 もちろん真奈としてもわざわざ逆らう理由も無いのでおとなしく注意書きに従って、アイテムボックスから出したナイフで茎を切断する。

 ちなみにこのナイフは、依頼を受けた後で一度宿屋に戻りスキル【鍛冶:武器:ナイフ】で作った物だ。


 群生している薬草をザクザク刈り取って、アイテムボックスの中に放り込む。


 実は掲示板の依頼の中に「アイテムボックスのスキル持ち求む」といった内容のものがあり、近くにいたベテランっぽい冒険者に聞いてみたところ、アイテムボックスのスキルはレアではあれど、探せばいる、くらいのものらしい。

 それがわかれば何もわざわざ隠さなくても良いわけで、真奈としては非常にありがたい情報だったのは言うまでもない。


 目に見える範囲の薬草を採取し終え、ナイフを仕舞う。

 何本とったか数えていなかったのでアイテムボックスを開いて数を確認すると、【薬草】の欄に五十六本と表示されていた。

 依頼表によれば薬草一本で銅貨三枚なので、銅貨百六十八枚分。銀貨一枚、大銅貨六枚、銅貨一枚の収入になる計算だ。


 一回の採取でこれだけの稼ぎになるのなら、冒険者を目指す人数が多いのも頷ける。

 しかし今回は薬草の群生地帯が刈られていなかったからこれだけ手に入ったのであって、真奈より先に採取依頼を受けた冒険者がいれば、この辺りの薬草は刈りつくされていたことだろう。

 その場合は当然ながら真奈の成果はゼロとなり、依頼は失敗ということになる。


 まあ薬草採取の依頼に期限は無いので、今日ダメなら明日、明日ダメなら明後日と根気よく続けて採取に来れば良いのだが、この依頼しか受けていない場合はその間ずっと収入無しになってしまう。

 この採取ポイントが駆け出しのEランク冒険者に優先権がある理由であるが、それだけでカバー出来るものではない。

 依頼に失敗すれば生活に困るのは冒険者の方なので、やはり簡単な職業ではないのだろう。


「あとはラビットホーンっと。お! いたいた」


 受付嬢いわく、ザコモンスターであるラビットホーンは初心者向けの弱いモンスターではあるのだが、繁殖力がずば抜けて高いらしい。

 通常のウサギも多産なので、その強化版ともいえるラビットホーンの出生率はとんでもなく高いそうだ。

 狩っても狩ってもすぐに現れるので、こちらも薬草採取ポイントと同じように効率的に狩ることができる狩場が存在する。

 ラビットホーンからすると餌場らしいのだが、何度も狩られているなら学習しても良さそうなものだと思う。

 まあ、そういった知恵が回らないあたりがモンスターの特徴らしいのだけれども。


 ちなみに余談だが、モンスターと呼称されるのは下級の魔物のみで、それ以外は中級も上級もまとめて「魔物」と表現するそうだ。

 何故かといわれても理由は知らない。そういうもの、らしい。


「数は三匹、か……」


 薬草の群生地帯からさほど離れていない場所で、元気に跳ねまわっている白い毛皮のウサギの姿を確認する。

 討伐対象を見失わないように視線を向けながら、アイテムボックスから武器の棍棒を取り出す。


 棍棒、とは言ってもいわゆる鈍器としてのものではなく、全体を同じ太さで作った直線棒状の武器だ。日本武術では棒と呼ばれるもので、真奈がナイフと同様に【鍛冶:武器:六尺棒】で作成したものである。使用方法を考えるとやはり鈍器ではあるのだが。


 なお、純木製の六尺棒が【鍛冶】のジャンルに分類されているのは違和感があったが、気にしても仕方がないことなのでおいておく。


「……っ」


 六尺棒の中央を右手で持ち、左手を添えてそっと足を踏み出せば、オートで【忍び足】と【棒術】スキルが発動した。


「はっ!」


 草陰から飛び出し、構えていた六尺棒をラビットホーンの一匹に向けて思い切り突き出す。

 ドンッ。という手応えと共に、狙ったラビットホーンの体が宙を舞った。


 べしゃりと地面に落ちて動かなくなった毛玉を視界の端で認識しながら、その場から飛びのいて残り二匹のラビットホーンの突進攻撃を何とかかわす。

 スキルの補正で攻撃自体に問題は無いが、状況判断するのは真奈自身のため、とにかく周囲の状況を正確に認識することに意識を向ける。


 ぴょんぴょん跳ねるラビットホーンには、その名のとおり小さな角が生えている。

 いくらザコモンスターと言えど、あれで刺されたら怪我するのは分かり切っているので、とにかく跳ねまわっては突進してくるラビットホーンの攻撃を片足を軸として体を反転させることでかわしながら、タイミングを計る。


「そらっ!」


 掛け声とともに横薙ぎに振るった六尺棒は、丁度左右から挟撃してこようとしていた二匹のラビットホーンにクリティカルにヒットした。

 攻撃を受けて飛んで行った二体は、それぞれ地面で何度かバウンドして、そのままパタリと動かなくなった。


「勝った……かな……?」


 武器は構えたまま、そうっと三匹の様子を伺う。動く様子はない。よし。ちゃんと倒せているみたいだ。


 構えをといて、地面に投げ出されているラビットホーンを持ち上げる。


「……」


 ラビットホーンには額から角が生えている。だが、それ以外は可愛らしいウサギのままだ。

 ふわふわとした白い毛に包まれた小さな動物の、もうこと切れた体。


 小さな小さな命だが、確かに真奈自身が屠った命。その抜け殻だ。


「なるほど、ね……。これは結構、くるものがあるわ……」


 異世界転移とくれば冒険者。冒険者と来れば魔物の討伐。

 テンプレ宜しく討伐依頼を受けてしまったが、こうして終わってみれば中々結構ヘビィな職業だ。


 この辺りも、冒険者ランクがEからDに昇格出来ずに冒険者の道を諦める見習いが多い理由の一つだろう。

 いくら魔物、それも最下級のザコモンスターだとわかっていても、根っこが優しい人には辛い職業だ。


「よし。うん。気にしたら負け!」


 暗くなりかけた思考を頭を振って吹き飛ばし、持ち上げていたラビットホーンをアイテムボックスの中に仕舞う。

 そのまま残りの二匹も回収し、ソムニウムの街への帰路につく。


 手に残った命を奪った感触から逃れるように、真奈の手は強く六尺棒を握りしめたままだった。

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