第五話 ギルド証
宿屋の一室で備え付けの机に向かった真奈は、生産系スキルのデザインページを操作しながら、ああでもない、こうでもないと、一人頭を捻っていた。
「ブレスレットはあえて皮素材にしてみるのも面白いかもなー」
表示されている完成予想図を見ながら【細工:装飾品:腕】のデザインを少しずついじっていく。
パーツは【ブレスレット(幅広):皮】と【スタッズ:フェイクシルバー:星】の二つ。
幅広の皮のブレスレットの中心に星型のスタッズが光るシンプルなデザインだ。
あまり服の色やデザインが多くないこの世界でも、皮素材ならば普段着にもあわせやすいだろう。
これに関しては種類より数を優先にして二十個用意する。
「あとブローチは……と。あ、ブローチよりコサージュにするか。バレッタはラメにしよう」
布で花を象ったコサージュは十個。楕円形のシンプルな形をしたバレッタは赤・青・黄の三色ラメ入りをそれぞれ五個ずつ。
これだけ用意しておけば、品揃えが少ないという印象を受けることもない筈だ。
「じゃ、明日は冒険者ギルドにギルド証を受け取りに行って、その後の流れ次第では商業ギルドに行って試しに売ってみよう」
今作った装飾品が、この世界でどれだけの価値があるのかイマイチ判断出来ないが、ギルドマーケットで何となく把握した相場から値付けをすれば良いだろう。
実際に商売をしてみた結果によっては自分で販売するよりギルドに卸した方が良いかもしれないが。
とにかく全ては明日になってからだと作業で固まった体を伸ばしながら、真奈は机に並んだ商品達を見て目を細めたのだった。
△▼△▼
日が昇り、朝食に【料理:お茶漬け(鮭)】を食べてから予定どおりに冒険者ギルドへと向かう。
昨日に引き続きやって来た冒険者ギルドは、丁度冒険者が依頼を受けに来る時間と重なってしまったようでだいぶ混雑していた。
「うわ……。さすが二大ギルドの片割れだけあるね……」
入口から一歩入った状態で、思わず顔を引きつらせる。
それなりの広さがある筈の冒険者ギルド内だが、冒険者達の数が多すぎて手狭に感じてしまう。
冒険者の大半がしっかり武装した腕自慢の男性ばかりなので、尚のこと狭苦しい印象になってしまうのだ。
「こんにちは。昨日ギルド登録申請をした真奈です。ギルド証を受け取りに来ました」
昨日と同じ赤毛の女性が座っている受付の列に並んで、ようやく回ってきた順番に若干気疲れしつつも昨日渡された番号札を出す。
「はい、確かに。それでは……はい。こちらがマナ様のギルド証になります」
商業ギルドのギルド証と同じく、冒険者ギルドのギルド証は名刺ぐらいの大きさの金属板だ。
左側に大きく「E」と記されていて、右側には名前が「マナ」、所属支部が「ソムニウム支部」となっていた。
「ありがとうございます。えーと、確か血を垂らすんでしたよね?」
「はい。ナイフはこちらをお使いください。血止めのポーションも用意してありますのでご心配なく」
話だけは聞いていたとおり、準備万端用意されていたナイフと、小さなビンに入ったグリーンの液体。おそらくこの緑の液体がポーションなのだろう。
ビンのサイズが弁当に入れるソースボトル並みに小さいのは、あくまで指先の裂傷に使うだけだからか。
とにかく促されるままに左の人差し指の腹をナイフで軽く切って、ポタリと一滴、赤い血がギルド証の上に落ちる。
「っ!?」
途端にギルド証がうっすら光り、かと思ったらすぐに元通りの金属板に戻ってしまった。
「おそれいります。これで本登録が完了しました。続けて冒険者ギルドのもろもろについてご説明させていただきますね」
サッと渡された血止め用ポーションを指先の傷口に使って治療しながら、後回しになっていた説明に耳を傾ける。
「冒険者ギルドではランク制を採用しており、全部で六段階。登録者は全員、初めは初心者ランクであるEランクからスタートします。上のランクに上がる為には依頼を指定回数以上こなした上で昇格試験を受けて頂き、これに合格すると一つ上のランクであるDランクに昇格となります。Eランクは実質見習い期間のようなものなので、Dランクになって初めて一般の冒険者とも言えますね」
「なるほど」
EランクからDランクへの昇格試験はさほど難しい内容では無いらしいが、最低でも自衛出来る戦闘力と野宿が出来るだけの知識が求められるそうだ。
ランクが上がると日帰りでは処理出来ない依頼も増えてくるそうなので、夜中に凍死なんてくだらない理由で冒険者が死なないようにする為の配慮だろう。
「余談ですがSランク冒険者は現在国内に一人。Aランク冒険者は三人おります。この二階級は特級に分類され、それぞれ名誉爵位が国から与えられます。……といっても、彼らは別格ですので、上級のBランクを目指していただくのが賢明かと思います」
特級の冒険者は名誉とはいえ爵位を与えられるため、戦闘力の他に人柄や交渉能力など多くの基準があり、並みの人間では辿り着けないのだという。
まあそもそも冒険者になるということは基礎教養のある貴族階級ではないわけだし、単純な読み書きを身につけるだけで一苦労だろうから、それ以上を求められてもギブアップするに決まっている。
実際、現在特級の称号を手にしている四人の冒険者は全員人族ではなく、長命種のエルフ族と竜人族なのだそうだ。
「依頼は掲示板に張り出されている中から受けたいものを受付に持ってきてください。依頼自体にもランクが設定されており、冒険者ランクに応じて受けられる依頼ランクに制限がかかります。マナ様の場合はEランクですので、依頼もEランクかDランクのどちらかのみとなります」
「ちなみにその辺りだと、どんな内容になるんでしょうか?」
「Eランク依頼は採集系やお手伝い系がほとんどですね。一応、ザコモンスターの討伐も含まれます。Dランク依頼になると討伐系の他に捕獲系が加わるので難易度が上がる感じですね」
なるほど、だいたい予想したとおりだ。
「一度受けた依頼を失敗すると違約金をお支払いいただく事になりますので、受ける依頼は充分考えて選んでください。ただ一部例外がありまして、とにかく数の多い数種のザコモンスターは受付をしなくても討伐部位を持参していただければ、常時報酬を支払わせていただきます」
「なるほど……」
もっともらしく頷きながら、ザコモンスター討伐のシステムに、なんだか扱いがハブみたいだな、と思ったのは胸の内にしまっておく。言っても伝わらないだろうし。
「あと依頼はそれぞれ達成条件と期日がありますが、薬草採集などはいつまで、という決まりがないのものがほとんどです。他の依頼ついでにこなすことも出来ますし、こういったものは受けておくと良いですよ」
にこりと笑ってそう付け加えた彼女は、最後に「冒険者は基本的に自己責任なので、それだけは覚えておいてくださいね」と言って、説明を締めくくった。
冒険者ランク
【Sランク】
現在国内に一人しかいない。
実力、人柄、交渉能力など多くの基準がある。
名誉男爵位がセットでついてくる。
【Aランク】
現在国内に三人いる。
Sランクにはやや満たないが特級に分類される。
名誉騎士爵位がセットでついてくる。
【Bランク】
上級に分類される。
基準を満たした上で昇格試験に合格して名乗ることが出来るようになる。
全ての依頼ランクを受けられる。
【Cランク】
中級に分類される。
基準を満たした上で昇格試験に合格して名乗ることが出来るようになる。
依頼ランクB以下の依頼を受けられる。
【Dランク】
下級に分類される。
基準を満たした上で昇格試験に合格して名乗ることが出来るようになる。
依頼ランクC以下の依頼を受けられる。
【Eランク】
初心者ランク。
冒険者ギルドに登録した全ての冒険者がこのランクからスタートする。
依頼ランクD以下の依頼を受けられる。