第四話 生産系スキル
トリフォリウム王国交易の要所・ソムニウムの街。
露店や屋台の立ち並ぶ中央区広場。
香ばしい匂いがする屋台の一つに近寄ってみると、日に焼けた男性が串に刺した塊肉を手際よく焼いているところだった。
「こんにちは。これって何の肉ですかね」
「おう! いらっしゃい。こいつは牛の肉さ。俺の実家が酪農をやってるからな、そこで育てた牛だ。味は保証するぞ。一本銅貨一枚。どうだい?」
「おいしそうですね。買った!」
「まいどあり!」
代金を払い、屋台で買った肉の串焼きを頬張りながら広場に並ぶ露店を冷やかす。
こっちはギルドマーケットとは違い、地面に敷いたゴザの上に座って商品を並べて販売している。
品物の種類はギルドマーケットとほぼ変わらないが、質はこちらの方がやや下だろうか。
「商店ブースの貸出料を払えないひとがメインだから、それも当然か」
その分、値段も安くなっているのだが。
日用品はともかく、食料品をこっちで買うのは真奈としては少し勇気が必要かもしれない。
「冒険者ギルドは宿屋街、商業ギルドは商業区で、中央区が街のメイン。工業区には工房があって、裏通りは危ないから入っちゃだめ、と」
食べ終わった串焼きの串をアイテムボックスに放り入れ、体を大きく伸ばして笑う。
最初はギルドの登録が終わり次第、王都に向かう馬車か何かに乗って移動しようと思っていたのだが、どうやらわざわざ王都に向かわずとも、この街で充分に異世界ライフを満喫できそうだ。
いずれ王都に行くこともあるかもしれないが、ある程度この世界の生活に慣れるまでは、ソムニウムをホームタウンにしておく方が賢明だろう。
「拠点はしばらく今の宿屋で良いしね」
ただ食事については、量はともかく味付けが物足りないので、少しおかみさんに相談してみることにしよう。
△▼△▼
相談した結果、素泊まりで大銅貨五枚にまでまけてもらえた。
何でもお金のない冒険者なんかだと、狩りで捕った獲物をその場で焼いて食べたりして食事代を浮かすことも珍しくないそうで、交渉するまでもなくすんなり話がまとまった。
ついでに銀貨数枚を渡して数日分の宿を確保しておいた。
「さて、と。二日目にしてようやく生産系スキルの出番ですよっと」
生活スキルなら昨日の内から使っていたが、生産スキルはノータッチだったので、少しワクワクしながら全種類スキル管理用スキル【スキル一覧】を起動する。
総スキル数がえらい数なので、こういった検索用のスキルまで存在するのだ。
本気でやりたい放題したんだなあ、あの女神様。
夕飯の為に生産系スキル【料理】を選択すると、スキルが更に細分化されて表示される。
「えーと。【料理:親子丼】っと」
数ある品目の中から食べたいものを選択すると、スキル名の横に必要な材料が【使用数/所持数】で表示される。
転移の際に生産材料としてアイテムボックスにあらかじめ入っていた食材から必要分の材料と、出来た料理を入れる器をアイテムボックスから部屋に備え付けの小さな机の上に出して、用意を整えてからスキルを行使する。
手と材料が薄く光り、器を飲み込んだかと思えば、次の瞬間に光が弾けて、出来立ての親子丼が出来上がった。
「うわあ……」
出来上がった親子丼に、思わずヒクリと口元が引きつる。
調理過程をすっ飛ばして料理が完成する様は、何とも非現実的な光景だった。
ワンタッチ調理にもほどがあると思うんだ。
「ま、美味しければ別に気にしないけどね。いただきます。……うん、おいしい!」
とろりとした半熟卵と、柔らかい鶏肉。その二つの汁を吸った炊き立てご飯が、また美味しい。
スキルで生産したにも関わらず、味も見た目も売り物並みだ。
この分だと他の生産系スキルも、かなりのクオリティの物が出来るのではないだろうか。だとしたら商品として売り出すものには困らなくてすみそうだ。
明日は冒険者ギルドにギルドカードを受け取りに行くので、たぶん商人としての仕事が出来るのは明後日以降になるだろう。
「でも、ある程度の売り物は用意しておいた方が良いよね」
食べ終わった器を【洗浄】で綺麗にしてから、改めて【スキル一覧】を起動して目ぼしいアイテムを見繕う。
「えーと……。女の私が売るんだから装飾品とかの方が悪目立ちしないかな?」
だとしたら指輪……はサイズの問題があるからやめておいて。
ネックレスとブレスレット、ブローチにバレッタあたりがちょうど良さそうだ。
とりあえず生産系スキル【細工】から【細工:装飾品】を選択して、更に数ある項目の中から【細工:装飾品:首】を選ぶ。
「うん? これどういうことだ?」
新しく開いたページには【生産する装飾品のデザインを作成するか、または作成保存済みのデザインを選択してください】と表示されていた。
試しに【作成保存済み】の項目を選択すると、【保存されたデザインがありません】と表示される。
ならばと【新しいデザインを作成する】の項目を選択してみると、【デザインページ】なるものがあらわれた。
「あー。なるほどね。これで順番にパーツを選んでいくのか」
ページ上部には【パーツ連結式】と表示され、その下には空白の文字列ボックス続いている。
この文字列ボックスに、【シルバー】【プラチナ】【ダイヤ】【ガラス】【プラスチック】などの材質名と、【花】【星】【球体】などの形状名を連結して入力することで、一つのパーツデザインが出来る。
例えばダイヤのネックレスを作るなら、【チェーン(細):シルバー】と【ネックレストップ:ダイヤ:ハート】の二つのパーツデザインを作り、この二つを連結して【ハートのネックレス(ダイヤ)】というデザインが完成する。
完成したデザインは保存しておけば、次に同じものを作るときにデザイン作成の手間が無くなる。というわけだ。
「お試しで用意するんだから、宝石系を使うのはマズいよね……。シンプルなのにしとこうっと」
すいっ、と指を動かして【チェーン(細):フェイクシルバー】と【ネックレストップ:フェイクシルバー:薔薇】のパーツを作る。
完成したデザインは【薔薇のネックレス(フェイクシルバー)】と表示された。
デザインを保存して、生産デザインとして選択する。
表示された必要な生産材料をアイテムボックスから取り出し、間違いがないか確認してからスキルを行使した。
「おお!」
親子丼を作ったときと同じように、真奈の手と材料が光に包まれる。
光が弾けた後には、先ほど真奈がデザインした装飾品【薔薇のネックレス(フェイクシルバー)】が出現していた。
「うわー! 凄い! ちゃんとデザインと同じに出来てる!」
スキルで作成したネックレスを手に取って、その完成度に目を丸くする。
これなら元の世界でも普通に売れるだろうレベルの品だ。
「今回は練習の意味も含めて、トップだけ変えていろんな種類を作ってみるか」
種類が豊富だとお客の目に止まりやすいし、ペンダントトップが違うだけでも選びがいがあって良さそうだ。
薔薇の他に、ユリ、桜、ダリア、向日葵、ハートを二種類、星を三種類、月を三種類、太陽を二種類。薔薇も含めて合計十五種類のネックレスを作り、机の上に並べておく。
「さーて! この調子で他のも作っちゃおう」
意気込む真奈の向かう机の上。
綺麗に並んだフェイクシルバーは、鈍く光を反射してなかなか良い味を出していた。