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第二話 ソムニウムの街

 気が付いたとき真奈がいたのは、例の女神様が言った通りの小屋の中だった。


 とりあえずその場でアイテムボックスから取り出した冒険者風の装備に着替え、旅人が手ぶらだと怪しまれるだろうから、それっぽい布鞄を肩にかけておくことも忘れない。

 上から下まできっちりこちらに馴染めそうな格好になったことを確認してから小屋を出る。


 鬱蒼とした森の中、小屋から続く一本道を、辿って歩くことしばらく。

 何とか森を抜けた先で行き当たった街道を前に、真奈はきょろきょろ周囲に視線を走らせた。


「……どっちが王都だ」


 右を見て、左を見て。暫く考えた末、少し遠いが街の影が見える左手側に進むことにする。

 女神様によれば小屋から王都までは馬車で十日。だとしたら徒歩で今日中に辿りつけるわけがないから、ほぼ確実に野宿する必要がある。


 さすがに異世界転移直後に野宿はごめんこうむりたかったので、真奈はひとまずの宿を見つける為に速足で左手に見えた街を目指したのだった。



 △▼△▼



 地道に歩いて辿りついた街・ソムニウムは、高い壁に囲まれつつも大きく開け放たれた門と行きかう人の多さから威圧感のようなものはあまり感じられなかった。


 入街手続き待ちの行列には老いも若きも男も女も、様々な人族がいる。

 おまけに結構な数の、人ではない種族の姿が目に入った。

 あるものは獣系の耳と尻尾。あるものは笹穂型の耳。あるものは体の一部に浮き出た鱗。あるものは小柄な髭面。

 どう見ても獣人とエルフと竜人とドワーフである。

 まさにファンタジーだ。転移して良かった。


 しかし前から不思議だったのだが、ドワーフの女性は髭面なんだろうか。もしドワーフと仲良くなる機会があったら聞いてみたい。

 いや、そんな話は置いておいて。


 周囲の話にこっそり聞き耳を立ててみたところ、どうにもこの街は交易の要所らしく、国でも王都に次ぐ規模を誇るのだそうだ。

 トリフォリウム王国は大陸の西一帯に広がる大国で、南北の真ん中辺りの西海側には未だ未開拓状態の自然が広がっている。

 ソムニウムは未開拓地の端にあるため、地図上で見るとちょうど王国領土のど真ん中に存在しているのだ。

 わかりづらいだろうから更に簡単に説明するなら次のような感じになる。


 まず名刺を横向にして置いてほしい。これが大陸だと仮定する。

 そうしたら名刺を左・真ん中・右の三等分にする。この一番左側がトリフォリウム王国だ。

 更にトリフォリウム王国を上・真ん中・下の三等分にして、この内の真ん中にあたる部分を左・右の二等分する。この左側部分が未開拓地となる。ソムニウムは左右の中心に位置していて、王都は未開拓地とは反対の右側部分に存在する。


 何となくわかってもらえただろうか。


「よおし次だ。お嬢ちゃんはこの街に何しに?」


 街へと入る為におとなしく行列に並び、ようやく回ってきた順番にほっとしつつ衛兵の男性に笑顔を向ける。


「冒険者ギルドと商業ギルドに登録をしに来ました。あとは観光です」


「よしよし。未登録ってことは身分証は無いんだな? なら入街税として大銅貨一枚だ」


「はーい」


 衛兵の男性に言われたとおり、入街税としてレジ係らしい文官風の男性に銀貨を一枚差し出して、大銅貨九枚をお釣りとして受け取る。

 そのまま人波に流されるように歩いていけば、案の定街の中心地近くにある宿屋街まで移動できたので、行商人風の旅人達が入っていく中でも比較的清潔そうな外観の宿屋を選んで中へと入る。


 入ってすぐは食堂兼酒場らしく、日が暮れかけている現在は既に何人もの客が食事や酒を楽しんでいた。


「いらっしゃい! お嬢ちゃん、食事かい? それとも宿泊かい?」


「あ、宿泊でお願いします。あと食事も」


 物珍しさから入口付近できょろきょろしていた真奈に気づいたおかみさんに声を掛けられて、慌てて答えれば、景気の良い返事とともに空いている席へと案内された。


「ウチは一泊二食付きで大銅貨六枚だよ。酒が飲みたいなら追加で払ってもらうけど、どうする?」


「いや、いらないです。えーと、はいこれ。大銅貨六枚で」


 鞄から出すふりをしてアイテムボックスから出した大銅貨を六枚をおかみさんにわたす。


 お酒に関しては、一応成人はしているものの、子供舌のせいでいまいち美味しさがわからないのだ。父いわく、飲んでいれば飲めるようになるらしいが、飲めるようになってもお金がかかるだけなので別に飲めないままでも良いと思っていたりする。


 まあ、あっちこっちで楽しそうに木のコップに入ったお酒を飲んでいる他のお客さんを見ていると、ちょっとばかり興味がわくのは事実だが。

 飲めないものは飲めないのだ。仕方あるまい。


「はいよ、お待たせ。おかわりもあるからね」


「ありがとうございます」


 しばらくたって、おかみさんが持ってきてくれたのは、硬めのパンと木の器に入ったポトフのような料理だ。


 ちなみに硬めとはいっても常識的な硬さだった。イメージは買ってから少し日にちが過ぎたフランスパンといったところだろうか。

 そのままでも食べれないことはないが硬いことには違いない。ちぎることは出来たので、おとなしくポトフ風の薄味料理につけて食べてみた。


 やはり調味料が高価なのか薄味過ぎて若干物足りなくもあったが、しっかり煮込まれた料理は素材の味が染み出していて普通に美味しかった。


「ごちそうさま。えーと、食器はどこに片付ければ良いんだ?」


 食べ終わった食器を持って立ち上がるも、ファーストフード店やフードコートでお馴染みの使用済み食器の引き渡し口が見当たらない。これはあれか。ファミレスタイプだったか。


「ん? どうしたんだい、おかわりかい?」


「いえ、美味しくいただいました。食器はどこに片付ければ?」


「そんなもんお客にさせるわけないだろ。そのままにしといてくれ。お嬢ちゃんの部屋は二階の奥から二番目だよ。内鍵が付いてるから寝る時はちゃんと鍵をかけとくれよ?」


「はい。わかりました」


 やっぱりファミレスタイプだったね。そりゃそうか。

 手にしていた食器をテーブルに置き直し、宿泊予定の客室に移動しておかみさんに言われたとおり、しっかり内側から鍵をかける。


 とは言ってもトイレに付いている用な単純な鍵だし、ここは用心して生活系スキルの【施錠】をかけておく。こうしておけば、もはや真奈以外誰も扉を開けられまい。


「さて。明日は一日使ってこの街についてと王都への行き方を調べないと」


 あとやることと言えば冒険者ギルドと商業ギルドへの登録だ。

 国というものに属しない二大ギルド。このどちらか一方でも良いからギルド証を所持していれば、それは大陸中で通用する身分証となる。

 ついでに入街税も免除されるので、何が何でも手に入れておかないと。


「あー。歩いたから疲れたわ。寝よう」


 生活系スキルの【洗浄】を服と体と髪に使用してから、真奈は予想よりも寝心地の良いベッドの中に潜り込んだのだった。



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