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第十六話 目標

二十話にも満たない状態で非常に申し訳ないのですが、以降、不定期更新とさせてください。

あまりに遅筆すぎて、週一更新が思った以上に私には難しかったです。

 ファングドックは、大きな二本の牙を持ったドーベルマンのような姿をしている。

 特殊な能力などは持たないものの動きが素早く、噛み付きや引っ掻き、体当たりと攻撃手段も豊富なため、本来であるなら中級冒険者が受けるべき依頼なのだという。


 後に分かったことだが、Eランクである真奈がそんな依頼を受注出来てしまったのは、冒険者ギルドが未だゾンビ云々の警戒態勢を解除したばかりで業務が立て込んでいたために起きた手違いだったらしい。


 そういうミスは本気でやめてほしい。

 確かに依頼を選んで受付に持って行ったのは真奈だが、普通はそこで気付いて止めるべきだろう。

 下手しなくてもテオドールが助けてくれなければ死んでいたところだった。


「繰り返しになるけど、ホントに助けてくれてありがとう」


 ソムニウムの街にある酒場の一つ。

 ジュースの入ったコップを手に、同じテーブルに座るテオドールに何度目かのお礼を言うと、テオドールは苦笑しながらヒラヒラと軽く手を振って見せた。


「気にするなって。新人冒険者のフォローをするのも先輩冒険者の役目だからな」


 それにこうして酒を奢ってもらってるしな。と、テオドールはジョッキの中身を一気にあおる。

 彼が飲んでいるのはこの酒場でも少しお高い部類の酒なのだが、ここぞとばかりに大量摂取したり、ちまちま飲んだりしない様子からして、普段からこのランクの酒を飲んでいるのかもしれない。


 考えて、それもそうだろうと一人で納得する。

 森でファングドックの群れを撃退したテオドールに連れられて冒険者ギルドに帰還した際に知ったのだが、なんとこのテオドールという男性は、冒険者の中でも上級に分類されるBランク冒険者だったのだ。

 どうりで質の良い武器防具を使っているわけだし、中級冒険者向きの獲物を難なく討伐出来るわけである。


「でもお礼しか出ないんだって。だって私が出した依頼を受けてくれたのもテオドールだったんでしょ?」


 そう。

 これもまた冒険者ギルドで分かったことだが、なんとテオドールは私が先日出した依頼を受注して、指定した宝飾品の材料を少し遠目の発掘場から調達してきてくれたというのだ。


「受けたって言ってもなあ……。あの依頼、規定数が貯まるまでは継続的に買い取りますーってタイプじゃねえか。俺以外にもやってるやつは結構いると思うぞ」


「それでも有難いもんは有難い」


 確かに彼以外にも私が出した依頼に取り組んでくれている冒険者はいるのだろうが、彼が持ち込んでくれたのは希少価値の高い宝石類とミスリルだ。


 ミスリル鉱山は国や貴族が徹底的に管理しているというのは依頼を出す際に受付嬢から説明されている。

 にもかかわらず彼がミスリルを持ってこれたということは、ミスリル鉱山の周辺に生息するメタル系の魔物の変異種であるミスリル系の魔物を討伐したと考えるのが普通だ。


 ミスリル系の魔物は、その名の通りミスリルの恩恵をしっかりと受けていて、魔法攻撃は効きづらいし、無駄に硬くて物理で挑むのも一苦労なのだという。

 これがお礼を言わずにいられようか。


 子爵家へと提出したデザイン案からアントン様に選ばれたのは真奈一押しの象嵌技術を使ったもので、変更点はシルバーを使う予定だった場所にミスリルを使うようにと指示が来たことくらいだろうか。


 そんな経緯もあり材料調達に失敗したらどうしようかと内心兢々としていたのだが、テオドールのおかげで安心してブローチの試作に取り組むことが出来る。


「それにしても、この街に来てそんなに経ってないってのに、もうアントン様の目に留まったってことは、アンタ結構良い腕してるんだな。何で冒険者なんてやってるんだ?」


「へ?」


 ジョッキに口をつけながら心底不思議そうに言うテオドールの言葉の意味が分からず、パチパチと目を瞬かせる。

 そんな真奈に、テオドールは再び苦笑を浮かべてみせた。


「その顔は意味わかってないな?」


「え、うん」


「即答かよ。いいか? 冒険者ってのは命がけの職業だ。ある程度実力がありゃあそれなりに稼げるが、それだっていつ死んでもおかしくない。でも商人ってーかアンタの場合は職人でもあるのか? その腕があればわざわざ危険なことしなくても稼げるだろ? 材料が必要なら今回見たく冒険者ギルドに依頼を出せば言いわけだしな」


「あー。なるほどね」


 確かに、言われてみればその通りだ。

 それに真奈自身、別に強いこだわりがあって冒険者を志したわけではない。


 強いて言うなら「トリップしたなら冒険者として稼ぐのがテッパンだろう」という思い込みによるところが非常に大きい。

 何といっても、真奈が此方の世界に飛ばされたのは、あの残念女神様の「スキルでチートを現実で見たい」という欲望まみれの理由である。


 一応スキルと各種道具や素材を大量に初期装備として用意してくれたという恩があるので恨んではいないし、多少なりともサービスしてやろうという意思はあるのだが、だからといって積極的にスキルを使ってヒャッハーしようというつもりはない。


 元が平凡な社会人であった真奈からすれば、平凡とは言わないまでも、ある程度平和な日常を求めてしまう。

 そりゃあ多少なりとも刺激はあった方が良いし、せっかく戦える力があるなら使ってみたいと思う程度にはこの世界に染まっているが、だからと言って自分の命を懸けるほどの無謀はしたくないのが本音である。


「言われてみれば何で冒険者やってんだろうね?」


 何と説明して良いかわからず質問に質問で返せば、呆れたように「俺に聞かれても話からねーよ」と言われてしまった。

 まあ、真奈自身が説明出来ない事柄を聞かれてもテオドールだって困るだろう。


「何でっていうか、まあ自衛目的かな? それに、将来的には行商とかやってみたいんだよね」


「は? いや普通は逆だろ」


「あはは。まあ、そう言われるとは思ってたけどね」


 商人の最終目標と言えば、大抵は「自分の店を持つ」ことになるだろう。

 だが真奈としてはせっかくの異世界なのだから、いろんな場所を自分の目で見てみたい。

 その為には、行商人になるか冒険者になるのが一番効率的だと思うのだ。


 生産系スキルを上手く使えば、街から街へと移動する道すがら、野営地で簡易テントでも張って料理を提供することも出来る。

 この世界の文明度から考えて、旅の途中で温かい、かつ美味しい食べ物が食べられるとなれば、多少値段が高くても売れる筈だ。


 そう考えると、やはり行商人というのは中々魅力的な職業ではないだろうか。


「まあ、行商やるってんなら、ある程度の戦闘力が無いと困るってのはわかるけどな」


 とりあえず頑張れな。と励ますように肩を叩かれて、勿論だと頷いて見せる。


 まずはアントン様の依頼を終わらせて、その後にDランクへの昇格試験を受ける。

 これに合格したら、本格的に行商の準備に取り組むことにしようと、真奈は決意を胸にコップの中身を一気に飲み干した。



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