第十一話 呼び出し
間に合わなかったので書けたところまで投稿します!
事前に用意していた分の商品が売り切れたので、昼食ついでに追加分を作成した真奈が使用しているブースに戻って来たのは、今から十分ほど前のことだ。
「……で、あなた方はいったい?」
戻って来てそうそうにブース前で待ち構えていた騎士と思われる鎧姿の女性二人に「ご同行願います」と言って拉致されれば、誰だって驚くだろう。
もちろん真奈も驚いた。
驚きすぎて思わず「何処に行くのか」も確認せずに言われるままに馬車に乗ってしまったが、このままではよろしくない。
揺れる馬車の中でそれぞれ左隣と向かいに座る女騎士に問いかければ、彼女たちは一瞬、視線で何かを確認してから、小さく頷き合う。
真奈の問いに答えたのは、向かい側に座る女騎士だった。
「我々は、このソムニウムの街を国王陛下より任されしアウラ子爵家にお仕えする者です」
「はあ……」
だからどうした。とは、思っても言ってはいけないのだろう。
何せこの世界では、貴族の権力はとても強い。
平民でしかない真奈が下手な対応をすれば、斬り捨てられても文句は言えないからだ。
「アウラ子爵家ご当主であるアントン様はまだお若くありながらも街の統治に積極的なお方です。故にお忍びで出歩くことも多い。昨日は丁度、その忍び歩きの日でした。視察の場所は、ギルドマーケットです」
「もしかして」
「はい。たいそうな人気の店にご興味を持たれたようで、是非ともどのような品があるのか見てみたい、とのことです」
急なことで、あなたには申し訳ないですが。と眉尻を下げた彼女に続いて、左隣の女性も苦笑する。
成程、確かに昨日の繁盛っぷりを見ていたのなら興味を持ってもしかたないが、だからといって、もう少し方法は無かったのだろうか。
一応どれくらい時間がかかるかわからないので、展示してあったネックレスはアイテムボックスに仕舞ってあるから見せる物には困らないし、ブースの使用更新料はギルドの受付で支払ってきたので利用時間に関しても心配ないのがせめてもの救いだろうか。
「ご興味を持っていただけたことは光栄ですけど……。お二人も見たと思いますが、私の店は女性向けのアクセサリーを取り扱っています。いくらお若いとはいえ、ご当主様が見て面白いかどうか……」
まあ実際はアイテムボックスの中にはあの残念な女神様から初期ボーナスでもらった大量の武器類も入っているので見せる物はあるにはあるのだが、あれは別に売り物じゃない。
いや、売ってくれと言われれば別に売っても構わないのだけど。
内心は別として、外面は困ったように言った真奈の言葉を、しかし女騎士二人はくすりと小さく笑って否定する。
「ご安心ください。さすがに何を取り扱う店かもわからないままに屋敷に招くようなことは致しません。アントン様はあなたが扱う品をしかとご存じですよ」
「はあ……。まあ、ご存じなら良いんですけどね」
アクセサリー店だと知った上で招くということは、誰ぞに贈り物でも考えているのか。
もしくは商品の質を見て、満足出来るものならオーダーメイドを依頼するつもりなのかもしれない。
実は商売一本でいくなら平民から貴族まで、誰でも利用できる宝石店みたいな店をするのも面白いんじゃないかと考えていたところではあったので、その予行練習になりそうな予感にうんざり気味だった気分がほんの少し浮上する。
確かアイテムボックスの中には筆記用具も入っていたから、相手方が出して来たオーダーメイドのデザイン案をメモすることも出来る。
よっぽど変なものでなければ、スキルで作成出来る筈だと、真奈はようやく窓の向こうに見えてきた大きな屋敷を眺めながらひとりごちた。




