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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第3章第三弾アップデート――『ギルド』実装
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報告会

「じゃあ、とりあえず報告しようか」


 柚希は先程まで紗亜弥が座っていた席――陸斗の正面――に座った。周りに誰も座っていないから話を聞かれる心配はないだろう。


「具体的に何を報告するの?」


 柚希は自分の昼食であるパスタを啜りながら陸斗に尋ねた。


「そうだな、まずは柚希の職場の人柄を教えてもらえるか。俺のところは他に誰もいなかったからここの人たちのことが分からないんだ」


「そうねぇ……。ならまずは厨房の料理長から――」


 柚希から淡々と人物像が語られる。

 大雑把に言えば、男性の料理長で日々の料理メニューを考えているのはこの人だそうだ。料理スキルはすでにマスターレベルまで達しており、柚希よりも料理のバリエーションは多い。

 柚希がスキルで作ることが出来るものは和食洋食が中心だが、料理長はそれに加えフランス、中華、イタリア、タイなどジャンルだけでも相当な数だ。

 ギルド内での地位は、長クラスの一人ということもあって権力もある。しかし戦闘面においてはからっきしなので専ら厨房にいることがほとんどの模様。

 ほかの厨房のメンバーも聞いたが特筆すべきものはなかった。部署を転々としている人が多いようだ。


「あとは遠征班の情報が欲しいんだが……マサルに聞くか」


「陸斗の方でちゃんと友達ができたみたいね。そういえば陸斗もいずれは遠征班に所属するんでしょ?それなら妙に詮索しない方がいいんじゃない?」


「……そうだな、途中でスパイだとバレたらクエストは続行できないだろうし」


 攻略の鍵は、エレオノーラの周囲と衛兵隊、遠征班あたりの戦力情報だろう。

 遠征班に関しては遠征時に襲撃をかけるべきかと思ったが、これから遠征班に配属されるなら自然と遠征が無い時になる。そうなると城内の戦力は格段に上がるため、情報をより多く持っておいた方が良い。

 希望は衛兵隊の所属だが新人の要望が通るとは思えない。

 ここは今ある環境で挑むしかあるまい。


「これからもまだ情報収集は続けていこう。襲撃は準備が十分以上に整ってからだ」


「今回は結構慎重にいくんだね。いつもの陸斗なら行き当たりばったりで行動するかと思ってた」


「確かに普通のクエストなら行き当たりばったりでもなんとかなると思ってるけど、今回は相手が『人』だ。コンピュータで動くNPCとは違う。予測不能な場面が多い。だから少しでも予測のパターンは増やしておきたい」


「ふーん、そこまで考えてたんだ。なら陸斗の指示に従うよ。期待してるわよ、リーダー」


「うん、わかった」


 陸斗の返事に柚希は少し驚いたように目を見開いた。

 肩透かしを喰らったような感じだ。


「…………」


「なんだよ、俺なんか変なこと言ったか?」


「……いーや、頼もしいな、って」


「ちゃんと柚希を護るから。こんなところで死なせたりしない」


 誓うように、言い聞かせるように、呟く。

 たとえギルド全員を敵に回しても柚希だけは護りきる。

 もう一度心の中で自分に誓いを立てると、拳に力を入れた。

 目の前の柚希を正視するとなんだか机に突っ伏してブツブツ呟いているようだった。何を呟いているかは分からないが。


「柚希ー!戻ってきなさーい!夕食の準備をしますよー!」


「あ、呼ばれたみたい!報告はまた次にね」


「あ、ああ、頑張れよ」


「うん!」


 頬が紅潮した表情で、そそくさとトレーを持って去っていく柚希。去り際に向けられた笑顔に陸斗は微かな安堵感を感じた。


「さて、俺も仕事に戻るか」


 陸斗の場合上司や同僚、監督官がいないため、自分の裁量で仕事ができる。休憩も仕事時間も自分次第。

 その分、責任も全て自分に掛かるわけだけども。


「特にノルマとかは課されてないから気楽にやるか〜」


 呑気にそんなことを考えながら書庫へと戻った。



 □■□



 ――夕飯時。

 食堂には昼間の倍以上の人で溢れかえっていた。

 遠征班が帰ってきたのだ。

 陸斗は昼食を食べ終わってから五時間ほど書庫掃除を行い、全体の約半分以上を終えた。

 外を見ればすっかり夜の帳が降りている。

 時間も忘れて取り掛かっていたことを思い返すと、案外向いている仕事なのかもしれない。


「ってダメだろ!ここじゃ何の情報も入りやしない」


 なんとしても遠征班と衛兵隊の情報を仕入れなければ計画が進行しない。

 陸斗と柚希はスパイとして素人だ。潜入はできたが、いつまで嘘をつき続けられるか自信が無い。何かの拍子にボロが出てしまいかねない。


 陸斗が焦燥に駆られているところに、突然声がかけられた。


「よっ、何唸ってんだ?」


「あ、マサル。帰ってたのか」


「まあな。遠征班だって夕食時には帰れるようにスケジュール組んでるしな」


「そうなんだ……」


 思いがけないところで情報をゲットできた。

 すると、マサルが手招きで陸斗に耳を貸すように促す。


「これはまだオフレコなんだけどよ、近いうちに長期的な遠征があるんだ」


「それは隠すことなのか?」


「まだマスターには報告してないからな。班内でそういう話が出てるってだけだ。そこで、次は陸斗が駆り出されるかもしれないからさ。まあ、本人には言ってもいいかなってな」


「そ、そうなのか……。で、どんな遠征なんだ?」


 マサルの話では具体的にどこまで行くという情報が入ってない。ここで多くの情報を仕入れておけば柚希と共有できるから、今後の予定も立てやすいのだ。


「ん〜、まだどこに行くって話は聞かないけど、長期的ってことは何かのイベントに参加するんだろうな」


「イベント?」


「いつもはクエストや採取を目的に遠征を行ってるんだが、たまに『イベント』っていっていくつかのクエストを連続でこなすことがあるんだ。それでだいたいは一週間から長くて一ヶ月ほどギルドには帰らないことがある」


 一ヶ月と聞いて陸斗は額に汗をにじませる。

 それはさすがに長すぎる。ログウォッチで連絡をとることは出来るが、潜入が長引けばいつかバレてしまう。

 これは柚希と相談しなければ。


「まだいつやるのか分からんが、心の準備だけでもしとけとよ、という話」


「……おう。分かったよ」


 それだけ言うとマサルは夕食――今夜はビュッフェ形式――を取りに待機列へと向かった。

 陸斗は今後の作戦を考えながら既に取っておいた――いや、渡された柚希セレクトに手をつけた。

 美味い。

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