お目見え
集会場に集まったのは、ギルド本館に滞在している約五百人のギルドメンバーだ。
リベラシオン・エグリースのギルドメンバーは総数千人を超えるが、ここにいないメンバーは各地で布教活動という名のメンバー集めをやっているらしい。
なので、本当の意味での全体に向けた自己紹介というわけではない。
しかし本館にいるメンバーは、ギルド内で上位層の人たちばかりなので緊張感で言えばあまり変わらないところだ。
会場は前方に一段高い段があり、中央には玉座のようなものまで設置されている。そして低い方にほとんどのメンバーが立っている。おそらく壇上にギルドマスターが上るのだろう。そんなことを考えながら陸斗は、隊列の後方で緊張の面持ちで待機していた。
「ギルドマスター、エレアノール・ファラルド様のご入場!」
隊列の前方で男の野太い声が響く。
すると、会場全体の緊張感が一気に高まったのを肌で感じる。
カツ、カツ、とヒールの音が静まり返った会場に残響する。
現れたその人物は、真紅のドレスで身を包み、日本人にはないナチュラルブロンドの長髪を惜しげもなくさらしている。一目で外国人だと分かるほどだ。
そしてその後ろに付き従う人の服装にはまだ見覚えがあった。白と黒を基調としたクラシックドレスを身にまとったメイド。食堂で見かけた給仕係と同じ服装だ。
ギルドマスターが中央の玉座に座ると一言。
「楽にしろ」
ガタッと一斉に肩幅に足を開く。まるで軍隊の集団行動のように一糸乱れぬ完璧な動きだ。
「今日は新人が入ったと聞いた。前に出ろ」
その合図で陸斗、柚季、紗亜弥が隊列から外れ壇上の前まで出る。
「右の者から名乗りなさい」
メイドの人に言われ、陸斗が一歩前に出る。
「皐月 陸斗です。十七歳です。えっと……あと何を言えばいいんだろ」
□ ■ □
「この中にいるのかしら」
皐月陸斗とやらが自己紹介をした時、莉音がエレアノールに小声で尋ねる。
「さあ、どうかしら。名前までは聞いてないから」
エレアノールもまた小声で返す。あの夜にあったことはエレアノールと莉音しかしらない。あの場にいた者には箝口令を敷いたため、情報漏洩はしていないはずだ。
端的に言えばエレアノールは、あの夜発注されたクエストを承諾していた。
何もデメリットもなかったのでとりあえず受けておいたのだ。それにあの道化の予言には対象者は向こうからやってくるのだそうだ。それならこちらからは迎え撃つのみ。
攻城戦よりも防衛線の方が勝率は高い。
エレアノールがあれこれ考えていると、目の前で新人が何やら困っているようだった。
「えっと……あと何を言えばいいんだろ」
「所持独弾とスキルを紹介してください」
エレアノールが困っていると――顔には出していないが――莉音が新人に質問していた。
「はい。独弾は持っていませんが、スキルは[白兵戦術]を持ってます」
スキル名を聞くと場内は軽くざわめいた。
スキルが実装されたときギルド内――当時は複合パーティだった――でも話題が上がっていた。戦闘面に役立つスキルは貴重で、ぜひ手に入れたいと思っていた。しかしスキルを取得できる場所が遠すぎたために出遅れてしまったのだ。
こうなれば、この者がターゲットであろうとなかろうとほしい人材である。
なかなか優秀な新人が入ってきた、とご満悦なエレアノールの前で自己紹介はつつがなく進行していた。
□ ■ □
「これより、この者たちに任を与える」
自己紹介が終われば次は仕事を与えられる。陸斗は事前に泰樹から掃除係だろうと言われ、そこまで緊張せずにギルドマスターの言葉を待った。
「まず、そなた。紗亜弥には給仕係清掃班の任を与える。精進してまいれ」
「……はい、謹んでお受けいたします」
見た目とは相反するほどの丁寧さで返事をする。その仕草に場はまたざわめく。ギルドマスター・エレアノールも眉をピクリと反応するほどだ。
「では、次。柚季には、給仕係食事班の任を与える。皆の食事を頼むぞ」
「はい! しかと承りました!」
柚季は泰樹の予想通り給仕係だ。それに[料理人]スキルもあるので食事班に配属された。そして、次は陸斗だ。
「陸斗、君にはまず書庫の整理清掃を頼む。その後、別の所へ配属を言い渡す」
「はい! 了解しました!」
元気よく返事したところで陸斗はエレアノールの肩のあたりを凝視した。
すると、数字が見える。これはポイントだ。
陸斗の予想では赤色――つまり殺人で得たポイントだろうと思っていた。だが――
(六十三の緑色……だと?)
ポイント数にも驚きだが、緑色であることが予想外だった。
真瑠が言うには、彼氏は確かに目の前のエレアノールによって撃たれたらしい。ならば真瑠の彼氏とエレアノールには因果関係があるはずだ。
きっと『解放の儀』に何か秘密があるはずだ。
「これにより『お目見え』は終了です。各自持ち場につきなさい。それと誰か書庫の場所を教えてあげなさい。残りの二人は給仕係の者に仕事を教えてもらってください」
最後にエレアノールの傍にいたメイド服姿の莉音が指示を出して締めた。




