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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第3章第三弾アップデート――『ギルド』実装
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隣人

 部屋の主の声に驚き、陸斗は慌ててドアを閉め部屋の明かりを消した。


「んあ、いいよいいよ。電気付けて」


 言われた通りにスイッチを押す。部屋に明かりが戻り改めて先住民の姿がはっきりになる。


「すまない、俺は今日入ってきた新人の皐月陸斗だ。寝ていたところを起こしてしまって本当にすまない」


 陸斗は真っ先に謝罪を述べた。知らなかったとはいえ、これから共に過ごす相手を不快にしてしまったのだ。できることなら早めに溝は取り除いていきたい。

 そういう気持ちで陸斗は臨んでいた。


「ま、素直に謝れてるから今回は許しちゃる」


 相手は二段ベッドの上の段から見下ろし陸斗のことを見やる。

 ひとしきり見ると、彼の方から下に降り立った。


「新人ってんならまあ、センパイとして接しなきゃな」


「えと、よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる――


「ははは、そんな固くなんなって」


 下げた頭をそのままガシガシと撫でられる。


「オレはさかきまさる。マサルって呼んでくれ!」


「よろしく、マサル」


 自己紹介が終わると、互いにどちらからともなく握手を交わした。

 どうやらこの部屋は陸斗とマサルの二人だけのようだ。


「今日来たってことは、明日『お目見え』なんだな」


「そういや、全体の自己紹介があるって……」


 陸斗はロビーで見かけた女性に言われたことを思い出した。


「それそれ、新人が入ったらギルド全体でその新人の自己紹介を聞くんだよ」


「え、みんなの前で自己紹介するんですか……」


 急に冷や汗がにじみ出る陸斗。人見知りほどではないが、大衆の面前で平静を保てるほどのメンタルは持ち合わせていない。


「ほかのみんなの前でならまだいいんだが、ギルドマスターの前ってのがな……」


 ギルドマスターの名が出た途端、マサルの表情が曇った。


「……そんなに緊張するんですか……」


 マサルの表情を見ると陸斗まで緊張が伝播するようだった。


「だって、あの現代の現人神あらひとがみとまで言われるお方だぜ。緊張するなって方が無理だっつの……」


「俺、まだギルドマスターを見たことないんですけど、どんな人なんですか?」


「うーん、そうだな……まあ、明日の楽しみってことで。先に知ったら緊張が薄れるかもしれないだろ」


「その緊張を無くすために訊いたんですけど」


「ま、明日になれば分かることなんだから。今日はもう寝ようぜ。オレは上だから、陸斗は下な」


 そう言ってマサルははしごを登って上のベッドに行ってしまった。するとすぐに寝息が聞こえてきた。


「え、もう寝たの?」


 仕方ないので陸斗ももう寝ようとベッドに入った。

 布団がふかふかですごく寝心地が良かった。


□ ■ □


 ――翌日。

 リベラシオン・エグリースの朝は早い。ギルドメンバーはみな朝六時に起床。

 それから洗顔から着替えまで済ませ、七時から食堂で食事だ。しかしメンバー全員が一度に食事できるほど広くないので二つに分かれて食事が始まる。食堂に入れるまではそれぞれ与えられた習慣業務をこなしていくのだ。

 陸斗とマサルは後半のグループなので、八時から食堂に入ることができる。


「ん~、陸斗はまだ仕事がないから、俺の仕事を手伝えや」


 マサルの習慣業務はロビーの清掃。普段は給仕係がやるのだが、朝は食堂に集中するので他のメンバーが仕事を代わりに行うのだ。

 広大なロビーを六人で清掃しているとたちまち時間は過ぎ、陸斗たちの食事の時間となった。

 食堂に戻ると、ほとんど人は出ていき自由に座ることができた。


「ここはビュッフェ形式だから好きなもん取りな。……ほう、今日は洋食スタイルか」


 そう言うとマサルは皿を持ち、片っ端から料理を取り始めた。陸斗も自分の分を取り皿に乗せていき席に着く。


「そういや、柚季たちはどこいるんだろ」


「ん? 誰かと来たのか?」


 陸斗が周りをキョロキョロしていると、パスタをすすりながらマサルが問う。


「ああ、女性プレイヤーなんだが……」


「か~~! リア充パーティですか! あ~やだやだ」


 女性プレイヤーと聞いてマサルの態度が急変した。嫉妬に満ちた目で陸斗を睨み付ける。


「ちげーよ。俺たちはそういう関係じゃねー!」


「”たち”? オメー何人パーティだ?」


 そこで陸斗は脂汗をかくほどの墓穴を掘ったことに気づいた。

 マサルは猜疑心さいぎしんの塊を宿したような瞳でじっと陸斗を見つめる。

 その視線に堪えられず嘘もつけずに話した。


「……ここに来たのは三人だが、一人は街で遇って一緒に来たんだ」


「ほーう、ご立派なハーレムを築いた、と」


「ハーレムじゃねぇ! 一人は十三歳の女の子なんだぞ!」


「ただのハーレムに飽き足らず、ロリコン性癖までお持ちとは恐れ入ったね」


「んな……!?」


 話せば話すほど陸斗の評価が地に落ちていくような気がした。

 

「まぁ、こんだけ大きなギルドじゃいろんな奴がいる。何が好きかなんて人それぞれだ。どっかに同士がいるだろうさ」


 そこそこ良いことを言っているはずなのだが、自分を『ロリコン』だとして言ってると考えると腹立たしい思いの方が勝る。やはり前後の文脈というのは大事だと感じた瞬間だった。


 食事が終わると、ギルドメンバー全員が二階の集会場に集合というメッセージが届いた。

 陸斗は近くにいたマサルから伝えられ、集会場へと向かった。

 ついに全体の自己紹介の時が来た。


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