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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第3章第三弾アップデート――『ギルド』実装
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凍傷の女

――時期は十月。

メダリオンから北東に向かった所にセーフティシティがある。

この街に着いたのは二週間前。マラソンイベントを終えた後もメダリオンに滞在し、そこでクエストをこなしていた。あらかたメダリオンで受けられるクエストが無くなったところで次の街へと移動したのだ。


ここでセーフティシティについて説明すると、大まかに言えば名が体を表していると表現して差し支えない街だ。

街の内と外は高い壁と関門所に仕切られている。そのおかげでモンスターによる襲撃を受けなくて済む上、街中のPKも不可能な安全地帯となっている。

最初の街であるローグリップシティよりも安全だとプレイヤー間では囁かれているほどだ。


その街で陸斗たちはクエストのことも忘れて紅葉観光をしていた。

街路樹が紅や黄に色づき、冬に向けた最後の彩りを魅せている。今日の気候は観光に適した暖かな気温だ。時折吹く風は少し肌寒く、女性陣は上からカーディガンを羽織る格好になっている。

陸斗は元から厚手の冬服でいるため、寒いのは顔と手だけだ。


「私、秋って好き」


柚季が紅葉を眺めながらそっと呟いた。


「そう?私は春の方が好きかな〜」


柚季の言葉に反応して美姫が返した。


「俺は春も秋も好きだけどな〜」


陸斗は中立の立場を築いた。


「夏は暑いし、冬は寒いけど、秋はその丁度いい位置にあるの!」


「秋って夏の暑さにやられてやってしまった若気の至りに後悔するカップルが続出する季節よね〜。その点、春は気温的にも丁度良くて、何よりも出会いの季節よ!」


「春だって仲の良かった先輩との別れの季節で悲しいじゃない!秋は紅葉もあって綺麗な季節よ!」


となりで繰り広げられる春秋戦国時代――元の意味とは異なる――を紅葉観光のBGMにしながら街の中央広場まで来た。


「なあ、あれおかしくないか?」


中央広場の人通りが多い中、陸斗はある人物

焦点が行った。

陸斗の言葉に二人は言い合い(じゃれあい?)を辞め、陸斗の視線の先を追う。


「なんだかフラフラして危ないわね」


「もしかして具合悪いんじゃない?」


「え?でも、ゲームの中よ?デバフ食らってるだけじゃないの?」


確かに、この世界じゃ風邪なんてひかないし、具合が悪いと言えば、プレイヤーまたはモンスターによるデバフを食らった時くらいだ。

その人物は濃緑色のフードコートを羽織っており、後ろからでは男女の区別がつかない。

そのままその人は脇道のに逸れるように路地裏へ曲がった。


「後を追おう」


「あれで死んだりしたら目覚めが悪いものね」


一度気になってしまった陸斗たちはその人の後を追った。


□■□


陸斗たちが路地裏まで向かうと、曲がってすぐのところにそのフードの人は腰を下ろしていた。


「大丈夫ですか!?」


陸斗たちはすぐにその人の許へ駆けつける。


「あ……あなたたちは……?」


擦れた声で陸斗たちを見上げると、そのフードの下の顔が露になる。


「えっ……?」


陸斗の後ろで柚季が小さく声を上げる。

柚季ほどではないが陸斗も美姫も驚いた。

フードの人物は女性だったのだ。


「私たちは通りすがりのプレイヤーよ。安心して、貴女を殺したりはしない」


美姫が女性の警戒を解くように優しく語りかける。

しかし警戒心どころか生への執着も見られないほど彼女は衰弱していた。いったい何が彼女をここまで弱らせているのか、陸斗はそれを調べようと彼女の肩に触れた。


「つめたっ」


反射的に彼女の肩から手が離れる。

手には氷でも触ったかのように冷たい感触が伝わってきた。


「冷たい……?もしかして外の雪原をこの装備で歩いてきたんじゃ……!」


陸斗の反応を見て柚季がそう推測する。

この街の北側には常時吹雪状態の雪原がある。そこでは常にプレイヤーはダメージを受け続け、【凍傷】のデバフがつく。

この女性プレイヤーの症状はその【凍傷】のデバフを受けたのと同じものだ。


「いったいどうしてそんな危険な行為をしたんだ……!」


この街にいるものなら誰もが知っていること、雪原を渡るには専用の装備が必要であること。それ無しで雪原を行くことは自殺志願者かよっぽどのバカだと吹聴されるほどだ。

陸斗たちはそれを知らずに雪原に入り込み、後者の称号を得たのだった。


「……に、げる、ため……」


掠れた声で女性はそう言った。あやうく聴き逃しそうになったが、きちんと陸斗は聞き取れた。


「分かった。詳しくは俺たちの宿屋に行ってから聞こう。柚季は何か温かい飲み物を買ってきてくれ」


「分かったわ!」


まだ意識があることを確認すると、陸斗は彼女を宿屋に連れて行こうと提案した。この意見にはみんな同意してくれた。

柚季に飲み物を買うように言ったのは、【凍傷】は温かい飲み物又はお風呂に入ったり、自分を暖かい状態にすることで治すことができる。


「よし、じゃあ俺が背負って行こう。その方が早いだろうし」


そう言って陸斗は屈み、背負う体勢を取る。美姫は女性に肩を貸しながら陸斗まで誘導する役割を引き受けた。

女性は何の抵抗もなく、陸斗の背中におぶさった。


「あっ――つめたっ!」


女性を背負った瞬間に二つの感情が同時に押し寄せた。前半は女性の膨らみを感じ、後半では【凍傷】のダメージが伝播したものだ。

複雑な気持ちのまま陸斗は、女性を背負ったまま宿屋を目指し駆け出した。

柔らかい!冷たい!


□■□


無事、宿屋に着くと女性をベッドに座らせ、毛布を巻かせた。すると、そのすぐあとに柚季が帰って来て温かいスープを渡す。柚季の気遣いによりみんなの分が配られた。


「ねぇ、聞かせてもらってもいいかしら。貴女がどうして雪原を越えてきたのか」


一通り落ち着くと美姫が口火を切った。

女性も落ち着いたようで、すっかり【凍傷】も治っている。


「はい。私は、『リベラシオン・エグリース』から逃げてきました」

新キャラ紹介(現在公開可能な範囲で)

エレアノール・ファラルド

外国からの留学生で日本の語学大学の学籍を持っている。

フレンドの名瀬莉音とは親友で同じ大学に通っている。彼女の勧めでこのゲームを始めた。

外見に似合わずコミュニケーションは苦手。いつもは女王様を気取って高圧的な態度で接することでコミュニケーションをとっている。

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