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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第3章第三弾アップデート――『ギルド』実装
70/82

真相

久しぶりの投稿となります。お待たせいたしました。


 ――五月二十七日、現実世界の東京某所の料亭。

 ゲーム会社襲撃作戦より三日が経った。

 世間は深夜に起こったビル炎上事件で毎日報道が繰り返され、SGA社は衆人関心のど真ん中だ。

 そしてその炎上の犯人である個人依頼も請け負うテロ集団のリーダー、坂間さかまれんはクライアントとの待ち合わせに指定された料亭に来ていた。

 黒スーツに黒のパンツを着た彼を通り過ぎる人達は、テロリストだとは思わないだろう。

 ここの料亭は東京でも屈指の高級料亭だと聞き及んでいる。

 クライアントからは報酬を渡すついでに食事もどうだ、ということだったが彼自身としては報酬を貰えばそこで縁は切れると考えていた。後腐れの無い別れを彼は好む。

 そして今回彼は一人でやって来ていた。クライアントからは組織全員を呼んでも構わないと言われたが、USB一本渡すだけで全員で来るのは恥ずかしいと思ったからだ。

 指定された時間になり、坂間は料亭へ入った。

 玄関先では女将おかみと思しき女性が正座で待機していた。


「お待ちしておりました。藤堂様でございますね。藤原様がお待ちしております」


 丁寧な御辞儀で坂間を案内する。

 当然、藤堂というのは坂間の偽名だ。クライアントには藤堂という名で自己紹介している。

 相手の藤原というのも本名かは分からないが。

 精悍せいかんな顔付きの彼はここでもテロリストだということを女将に悟らせなかった。


「こちらです」


 そのまま女将に連れられ【梟】と書かれた部屋に通された。

 坂間はこういった料亭に普段足を運ぶことがないので分からないが、およそ二人の会合には不釣り合いな程に広い。畳で数えれば二十畳は優に超える。

 部屋の中央に長方形の机がある。その片側中央にその人はいた。

 今回の依頼主、藤原と名乗る者。


 すでに酒瓶を一本空けており、今は小さな御猪口で焼酎を飲んでいる。量からしてそれなりの酒豪のようだ。


「おお、君が藤堂君か!実際に見ると随分と若いな」


 確かに坂間は実年齢が三十二だが、よく二十代に見られる。

 しかし坂間はこんなことで照れたりせず、真面目な顔付きで挨拶する。


「初めまして。この度、ご依頼を下さった藤原殿ですね。ご依頼の通り、データをお持ちしました」


 そう言って胸ポケットから五センチほどのUSBを見せる。

 坂間の口調は堅く、事務的だった。

 対して藤原は酔いが回っているのか、常時へつらった笑みを浮かべている。


「まあまあ、そんな堅くならず。今日はどうぞ食べていってくれ!」


 机の上は溢れんばかりの刺身や海鮮料理、懐石料理が並んでいた。


「いえ、私はまだ任務中なので」


 USBを渡すまでが任務。そして任務が終われば報酬を貰ってすぐに帰る、それが今回の予定だった。


「まあまあ、これもアフターサービスだと思ってさ」


 そう言いながら藤原は、坂間の前にグラスを置き、新たに栓を開けたビール瓶から液体を注ぐ。

 この有無を言わせない強引さは坂間も苦手とするタイプだ。

 別に坂間自身は酒に弱いわけではない。瓶一本くらいはシラフでいられる。ただ、ここで相手に情を芽生えたくないのだ。

 次の仕事でこの人を殺さなければならない時、変な私情で任務に支障が出てはいけない。そんな腑抜けた奴がテロリストのリーダーが務まるはずがない。


「では、一杯だけ」


 ついには根負けした坂間は大人しく席に座る。


「よーしよし、いっぱい飲んでくれ!」


 気を良くした藤原は、坂間の前にコップを置き、新しく開けたビール瓶からビールを注いだ。


「では、いただきます」


 泡が溢れそうなほどまで注ぐと、坂間は手に取り一気に煽った。

 そして空になったコップをテーブルに戻す。


「おお、いい飲みっぷりだ!さあさあ、どんどん飲みたまえ」


 ビールから始まり、日本酒、芋焼酎。最終的にはテキーラ――これは藤原の持参のもの――のショット飲みするまでになっていた。


 かれこれ一時間は滞在していた。

 ここまでやればアフターサービスがなんだ、と言われないだろと思い立ち上がろうとしたところ、急にふらついた。


「くっ……最後のテキーラが効いたか?」


 自分では酔ってないつもりだったが、慣れないショット飲みが効いたのかもしれない。坂間は自分の状態をそう分析した。

 しかしいつもの酔いと違って手足に痺れを感じていた。それが次第に腕、脚と感覚が無くなるような感じがしてくる。

 ついには上手く立ち上がれず膝立ちが精一杯になる。


「おやおや、どうしたんだい?酔ったのか?それとも――もう毒が回ったのかな?」


「……は?」


 今回坂間はテーブルの料理に手を出していない。そして酒も新品のものばかりで毒を盛る仕草なんか――


「……っ!」


 坂間の視線が今まで自分が飲んできたコップに注がれる。酒を変える度、味を損なわないためにと変えてきた四つのコップ。もし、これに毒が塗られているとしたら。


「察しがついたようだね。無色透明の筋弛緩剤だ。コップの内側に少量だけ塗っていたんだよ。そのため効果が出るまで時間がかかったけれどね」


 藤原は悠然と立ち上がると、倒れている坂間の側まで近づく。

 坂間は視線だけで人を殺しそうなほどの殺気を放って藤原を睨む。既に両手両足が自分では動かせなくなっていた。

 心做しか呼吸も苦しくなってくる。


「肺、まで……」


「うんうん、そのうち君は呼吸困難で死ぬだろう。では、最後にデータを貰おうかね」


 藤原は坂間の身体を無理矢理仰向けにさせる。胸ポケットに手を差し伸べ、目的のUSBを抜き去る。


「どう、して……」


 浅く切れ切れの声で坂間は、藤原に問うた。


「どうして?……ああ、どうして単なるゲーム会社のデータ如きでここまでするのかってことかね?」


 概ね正解の回答を出した藤原は、坂間の隣にどっしりと座り込み、話す態勢を整えた。


「今回君の奪ったデータはVRゲームのソフトデータだ。昨日から稼働開始だったやつだ。これだけ聞けば明らかにコストを掛けすぎた馬鹿みたいな計画だ。くっくっく」


 藤原は手で口元を隠すが、端々から上がった口角が見えている。ここからが本題だ、というように語調が強くなる。


「しかし!これは画期的な発明だったんだ!巨大な筐体ハードで作動するVRソフトはこれまでなかった。これが完成に至ったのは霜月奈津美のおかげだ。感謝しているよ」


 霜月奈津美は、ゲーム会社ビル炎上事件の被害者名の中にあった。そして霜月柚季の実母でもあるが、坂間は知らない。この場でそのことを知っているのは藤原だけだ。


「このソフトは後でアメリカに売り込むんだ。今やVR技術はゲームのみにあらず、様々な分野で活躍している。アメリカ軍やNASAに売り込めば相当な金額が手に入るんだよ。軍に売れば実践に限りなく近い演習を実際に身体を使いながら訓練することができる。その他にも数多の企業から買収を受けている」


 話の熱が徐々に冷めてくると目の前の状況に理解が追いつく。


「おや、もう死んでしまったのか。まあ、いい。冥土の土産にもう一つ持っていくがいい。今現在発生している全国の誘拐事件についても話してやろう。君は興味無いだろうが聞きたまえ。今回の誘拐事件だって君の事件も無関係じゃないんだから」


 藤原の声音は目の前に死体があるにも関わらず冷静――むしろ死体にすら話しかけるくらいに自分に酔っていた。


「霜月の娘は別口だが、他の誘拐は全てゲームセンターからだ。今回の誘拐事件には大量の人員が配備されている。全国同時多発誘拐事件ってわけだ。これには秘密裏にアメリカから援助も受けている。失敗は許されないんだよ」


 もはや坂間は完全に五感を閉じ、永眠している。人間最期まで残るとされる聴覚も機能していない。

 今では藤原がただ独り言を呟いているだけだが、それは自分でも解っていた。

 ただ、このことを誰かに――死体でも聞いてもらいたかったという欲求から来るものであった。


「誘拐した奴らは日本本島から離れた孤島の研究施設に監禁してる。まあ、中にいる奴は誘拐せれたことなど気づいてないだろうがな。さて、誘拐の動機の話をしようか。今回のVRソフトには『完全自立型AI《切札ジョーカー》』が搭載されている。それは独立で内部環境を設定するシステムだが、このAIは自我を持っている。自我を持つということは、学習するということ。内部環境の変化に瞬時に順応し、また新しいシステムを作り出す。中に残っている人にはAIの学習のために連続ダイブしてもらっている。一時も外に出すことは無い」


 そのために研究施設では三千人の職員を雇い、プレイヤー本体の栄養管理を任せている。具体的には、植物状態の患者に行うようなチューブで栄養分を送るタイプだ。


「聞くところによると、今回のゲームはシューティングゲームだそうだ。私はあまりゲームに詳しくないが、銃を撃ち合うゲームなのだろう。これは軍の方に高く売れるデータに育つだろうね。システムにはいくつか細工をしたが、ゲーム内で死ぬと、自動的にログアウトする仕様は変えられなかった」


 それで、と藤原は瞳に昏く冷たい色を宿す。


「こちらの現状に干渉してもらいたくないので、ゲーム内で死んだ者にはこちらの世界でも死んでもらうことにした。AIを育てるために誘拐したのにそれで死んでしまってはもう役立たずだ」


 この場に誰かがいて藤原の言葉を聞けば、血の気も引く思いだっただろう。


「ああ、それと、言い忘れていたが君を殺したのは関係者を極力減らすためだ。恨んでくれても構わない。後に君の仲間もそちらに送ろう。地獄の居心地が良いことを願うよ」


 そうして、藤原は話はこれで終わり、とばかりに立ち上がり、襖を開けた。するとそこには夜に溶けたように全身黒の男が立っていた。


「片付けておけ」


「了解しました、綺堂きどう様」


 黒服は藤原の本名を口にしたが、特に咎めはしなかった。

 藤原――綺堂は黒服の男にそれだけ伝え、料亭を後にした。

今回は2章の時から続き、現実世界での話となります。外ではどのように黒幕が暗躍しているのかがこの話に詰まってます。

次話は今章のゲーム内に関わるプロローグになります。新たなアップデートで大きな組織ができ始めます。

あまりストックはできてませんが、大きな間隔が空かないよう努めますので、よろしくお願いします!

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