足手まといにはなりたくない
柚希と美姫によって木材から救出された陸斗は、肩を担がれながら宿屋の外に出た。
建物の中は既に無人。元から無人宿だったわけだが、ここ最近では少なくとも五人が生活の拠点、または誘拐犯としての監禁場所になっていた。
しかしそれももうなくなった。
ここにいた誘拐犯は全員道化によって殺され、光粒となって消えた。
「あ……」
気づくと街中でベルの音が響き渡っていた。
微かだが西門の方角から人々の歓声が聞こえる。マラソンの優勝者が決まったのだろう。
ここからだと表彰式には間に合わない。
だから陸斗たちはゆっくりと西門へと歩き出した。しばらくの平穏を噛みしめながら。
□ ■ □
結果だけを言うなら、優勝者は超跳躍のプレイヤーだった。
道化が陸斗たちの前から消えた直後、プレイヤー全員のループが解除され、マラソンが再開されたようだ。
陸斗と美姫以外に自力でループから脱出した者はいなかったらしい。
まずループの中にいることに気づいたプレイヤーが半数もいなかった。理由は体力の消費が無く、疲労を感じない身体であるからだろう。疲れとは、身体全体で時間経過を感じ取れる一つの指標となりえるのだ。
その点では陸斗たちは運が良かった。他のプレイヤーがループにハマっているおかげで柚希を救出することが出来たとも言える。
ちなみに優勝景品は、クエストポイントが五ポイントと回復アイテムだったようだ。
こうして道化が主催するマラソンイベントは幕を下ろした。
□ ■ □
イベントが終わって一週間後――。
「あー疲れたー ……」
クエストを終わらせて陸斗が疲労を感じさせる声で宿屋のベッドに倒れ込んだ。
「この世界じゃ疲れないんじゃなかったっけー」
後から入ってきた美姫が、いつか言った陸斗のセリフを嫌味ったらしく呟く。
その後ろからは柚希も部屋に入り、最後はちゃんとドアまで閉めた。
「心が疲れたんだよぉ」
確かに肉体的な疲れは無い。しかし精神的な疲労までは無くならないようだ。
「ここ最近クエストばっかりこなしてたからねぇ」
直近の記憶を探りながら柚希がそっと呟く。
イベントが終わった陸斗たちは、優勝景品を取り戻すかの如くクエストに没頭した。
そのおかげで陸斗は三十三ポイント、柚希は二十九ポイント、美姫は三十二ポイントまで獲得した。
「次は柚希のポイントを稼ぎに行くか?」
「私はいいよ。みんなでできるイベントに行きましょ」
この三人の中で一番ポイントが少ない柚希に声を掛けたのは、みんなの足並みを揃えようという陸斗の気遣いだった。しかし柚希は笑顔でそれを断る。
陸斗の思惑としては、チーム内でポイントに差があると後々仲間割れしないだろうか、という危惧もあった。このメンバーでそんなことはないと思うが。
「それで大丈夫なのか?」
確認の意味を込めてもう一度訊いてみる。
「うん。今はみんなでクエストを楽しもう!」
「そうね。まだそんなに差があるってわけでもないし。今はみんながポイント貰えるクエストでもいいんじゃないかしら?」
「そ、そうなのか……」
二人がそう言うなら、と陸斗は引き下がった。
「さ、今日はもう疲れたことだし寝ましょう」
「あ〜、横になったら途端に疲れが出てきたかも」
美姫が陸斗のシングルベッドの隣にあるツインベッドに倒れ込んだ。
柚希もツインベッドに腰掛け、みんなで寝る準備を整える。
宿屋はイベントの時と同じところだが、部屋を変えてもらい、三人がちゃんと寝られるようにベッドを増やしてもらったのだ。
それでなぜ女子陣のベッドがツインなのかは分からないが。
まあ、男女別れているだけでもマシとしよう。
「じゃ、電気消すわよ」
「うん、おやすみ〜」
「おやすみ」
カチッとスイッチの音がして部屋の明かりが消えた。
それからすぐに寝息が立ったのは美姫のものだろう。
□ ■ □
柚希は電気が消えた後も眠れず何かと思い悩んでいた。
(私がこのチームで足を引っ張っているのは分かってる)
ポイントに差が出たのは二人がMVPを獲得してポイントが振り分けられたからだ。
陸斗は<白兵戦>スキルがあって、美姫は精密な射撃で前線に出る陸斗のサポート。
私といえば――。
(……雑魚処理、かな?)
こんな風に自分の活躍さえも分からない私にMVPなんて取れないのだ。
それが重なって今の差になっている。
たぶんこれからも二人の足でまといでになるってしまうのだろう。
(足でまといにならないようにはどうすれば……)
みんなの役に立つように、とスキルを身につけたものの戦闘では全く役に立たない。
少しこのスキルを取ったことを後悔する。
宿屋にいてお金を払えば食事まで摂れるのだから<料理>スキルなんてものは役に立たない。
(ああ、どうして私ってどこまでも足でまといなのかしら!)
もうほとんど自己嫌悪状態だ。
こういった思考はマイナスに行けば行くほど陥っていくものだ。今柚希は自分を否定ばかりして自分を見失っている。
こういう時は誰かが柚希を肯定してあげなければならない。
「ん〜ゆっき〜はアタシたちの大事な仲間なんだ〜」
おそらく美姫の寝言だろう。
でも柚希にとってはすごく嬉しかった。寝言だからこそ、無意識の本音が聞くことができる。
寝言でこんなことを言うのは、美姫が日頃から柚希のことを本気で仲間だと思っているからだ。
柚希は美姫を背中からぎゅっと抱きしめた。美姫の背中に柚希の頭をあてがってボソリと一言呟く。
「ありがと、美姫ちゃん」
これからは自分にできる役の立ち方を考えよう、と結論に至り少しだけ気が軽くなったように思えた。
そうしてようやく柚希は眠りについた。
この話で第二章は完結となります。
次話以降は第三章として投稿していくつもりです。
ここからは二章を書いた感想などを。
一章に比べて幾分か完結するのが早いような気もしますが、当初の予定ではもっと長くなると思ってたんです。それはもう、第二章で百話までいくんじゃないか、ってほど。
でもいざ書いてみると、私が密かに決めている「一話三千文字以上」のノルマを達成するのも難しかったりしてたんですよ。ノルマを達成したと思ったら、ここまで進めるつもりはなかったんだけどな~なんてのがいっぱいあったりして。
まだ言いたいこととかあったりするのであとは活動報告の方で書きましょう。
次は次章の告知です。
早速ですが、少し間が空きます。
というのも、これまでとは執筆を変えようと思ったからです。
今までは結構行き当たりばったりで書いてたんで、次はプロットを作ってから書こうと思ってます。
そろそろキャラの情報を整理しなきゃ……(遠い目)
今度からはあまり間をあけないよう努めます。
これからも「アカウントブレイク」をよろしくお願いします。




