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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第2章 第二弾アップデート――[スキル]実装――
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見えない恐怖

「…………」


 冷たい感覚が頬を刺激し、柚希は目を覚ました。

 朧気おぼろげな視界の半分がコンクリで、自分が今寝転がっていることを自覚した。

 起きようと、腕に力を入れるが、手首に違和感を覚える。


(え……? 縛られてる?)


 後ろ手で縛られていた柚希は次いで足にも同じような感覚があることを知った。

 今、柚希の状況は両手両足を紐のようなもので結ばれ、コンクリの上で寝転がされている状態だ。


(なんで、どうして!?)


 起きたら自分がこんな状況だったならば混乱するのも無理はないだろう。

 柚希は急いで陸斗に助けを呼ぼうと声を上げようとした――が、すんでのところで止めた。


「俺たちゃこれからどうすんだ?」


「リーダーが帰ってこねぇと分かんねぇよ。この依頼だってリーダーが持ち込んだんだから」


「はぁ、うちのリーダーはなんにも教えてくれやしねぇからなぁ」


「まあ、下っ端は下っ端らしく上の指示を聞いてりゃいいんだよ」


 この一連の会話は当然柚希の知らない男の声だった。

 そこでようやく自分がどういった経緯でここに連れてこられたのかを思い出した。


(そうだ、私が部屋で陸斗たちを待っていて、情報屋の人が訪ねてきて、それから……)


 今になって思えばあの情報屋というのも嘘だったのだろう。

 それから、の先は記憶がぼんやりとしていてはっきりと思い出せない。しかし自分が倒れたような感覚だけは残っている――。


(――っ!!)


 男の人に押し倒された、という記憶は柚希を恐怖のどん底に突き落とすのに十分過ぎるほどだった。

 突如全身に震えが走る。


(こわい……こわいよ、陸斗。……助けて)


 柚希がそうせつに願っていると、唐突にドアが開いた。

 柚希は陸斗が来た、と思った。いや、そう思いたかった。

 しかし無情なことに現れたのは見知らぬ男だった。そしてその人が救世主なわけでもなく新たな恐怖でしかなかった。


「あの女はどうしてる」


 入ってきた男は二人の男にそう訊ねた。女というのは自分のことだろう、と思い柚希は必死に目を瞑り、起きていないアピールをする。

 もし起きていたことがバレたら何をされるか分からない。

 柚希はまた願う。どうかバレませんように、と。


「ええ、あそこで大人しく寝てますよ」


「こんな世界じゃなきゃそっこーヤれたのにな」


「ふん、無駄口もそこまでにしとけ。睡眠薬の効果もそろそろ切れる頃だ。女が変なことしないように見張っとけよ」


「「いえっさー!」」


 会話の内容的に柚希が起きていたことは男たちにバレていないようだった。

 内心ホッとした柚希は、次第に頭が冴えるようになった。


(バレていないなら今のうちに助けを呼ばなくちゃ)


 そう考えるも、今の状態では何ができるとも分からない。両手両足を結ばれ、声を出せば男たちに気づかれる。

 そしていつの間にか腰のポーチも取り上げられ、連絡手段がかなり限られる。

 しかし幸いなことに腕のログウォッチとリングは無事だった。

 ログウォッチに手を伸ばそうとするが、手首の紐で思うように手が回らない。


(あともうちょっとなのに……!)


 必死に指を伸ばすがそれでも届かない。

 内心苦悶くもんの表情だ。

 柚希が必死に脱出の手立てを企ててる間に男たちが声を上げた。


「そういや、あの女って本当に眠ってんのか?」


「あん? そりゃあ眠ってるに決まってんだろ。睡眠薬が効いてるんだから」


「でもよ、もし起きてて眠ってるフリとかしてたら?」


 ドキッと柚希の心臓が跳ねる。


(もしかして気づかれた!?)


 柚希は無理に目を瞑らず、自然な表情で寝たフリに努めた。

 心の中で何度も「気づくな、気づくな、気づくな」と祈る。

 すると、足音が耳に届いた。だんだん近づいてくる足音だ。


「んじゃ、本当に寝てるのか確かめりゃいいだろ」


「そうだな。もし起きてたらどうする?」


「そりゃあ、当初の通り――殺すしかないだろ」


 今度は心臓が止まりそうになった。

 背中が冷や汗でびっしょりになりながら、柚希はどうにかして助かる方法を探る。

 決して表情には出ないように、と心がける。

 少しでも表情を変えれば疑いは増してしまう。

 あくまでも寝たフリ、いや死んだフリだ。

 柚希の前で足音は止まり、男たちの声がする。


「どうやって確かめようか」


「う〜ん、服を脱がして反応を見るのが簡単なんだが……他人が服に触っても脱がすことはできないからな」


 内心ホッとする。見知らぬ男から服を脱がされでもされたらさすがに平静を保てない。


「何か恥ずかしいポーズをさせて反応を見るのはどうだ?」


「それいいな。もし起きてなくても損はない」


(えぇぇぇぇぇぇぇ!?)


 柚希の心臓が激しく鼓動を打つ。


「おい、そっちの足を持て。……んで、両手を上げて……」


 見えなくても自分がどんな格好なのかは分かる。羞恥で身が燃えそうな思いだった。


「あひゃひゃひゃひゃひゃ!! M字開脚のダブルピース〜!」


「あははは!! おい、今度そっち持てって。……んでこうして……」


 それかも柚希は男たちに弄ばれ、意識は底に沈んだままになった。


 いったいどれくらいの時間が経っただろうか。

 男たちは飽きたのか、柚希は羞恥の地獄から解放された。


「起こすのは簡単だが、起きてるのか判断するのは難しいな」


「結局いろんなポーズ取らせたがなんにも反応しなかったしな。こりゃ本当に寝てるのかもな」


 柚希自身どんなポーズを取ったのかはもう記憶にも留めていない。一刻も早く忘れるように祈るのみだった。

 ――しかし、地獄はこれからだった。


「もうさ、リーダーには『女は起きてました』ってことで殺していいんじゃね?」


「そうだな。最近ポイント入ってないし」


 本日何度目であろう心臓停止を体験した柚希は実質死刑宣告をされたのだ。


(え……私、殺されるの……? あんな恥ずかしいことされて、こんな無様な格好で、死ぬの……?)


 恐怖で身がすくんだ柚希は、もう寝たフリなど忘れて強く目を瞑り、これが夢であってくれ、と祈る。


(陸斗ぉ、助けて……!)


 ――その時、強くドアが開け放たれた。


「柚希、助けに来たぜ」


 ドアには陸斗が立っていた。

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