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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第2章 第二弾アップデート――[スキル]実装――
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妨害工作

 突如開いた深淵の穴にほとんどの走者が呑み込まれる。

 幸いなことに最前列の走者は、合図と同時に走り出していたため、落とし穴に引っかかることはなかった。


「りっくん!」


 全身の浮遊感を現実に結びつける声。

 それに気づくと陸斗は、何倍にも伸ばされた時の感覚の中で思考した。


人伝ひとづたいに渡ればまだ登れる――ッ!)


 そしてどの順序で渡るかまで計算した陸斗は、一段目にする手近な人を捕まえる。

 通常ではありえない思考スピードに内心驚愕だが、今は不要な思考だと切り捨てる。


「すまん!」


 そう言い捨てて、捕まえた人の背中を踏み場にして跳躍する。

 その後も心の中で謝罪しながら人の頭や肩を跳躍台として使い、計七回の跳躍の果てに地上に戻ることができた。

 ――その間、約十秒。

 普通の人間には不可能の領域であるはずの技を瞬間的に感覚でやってのけた自分に軽く驚嘆した。


「りっくん! 大丈夫だったの!? ……さっきすごいジャンプしてたけど……」


 地上に着くと目の前に美姫がいた。おそらく陸斗が穴に落ちたのを心配して待っていたのだろう。

 陸斗は未だ何が起きたのか分からず、現状確認を行った。


「大丈夫。それよりもどれくらいが落ちたんだ?」


「結構、ほとんどのプレイヤーが落ちたと思う。でも陸斗みたいに這い上がった人もいるから……」


 ほとんどのプレイヤーが落ちた穴はおそらくそれほど深くない。もしもこの穴が道化ジョーカーによって開けられた穴ならば、ここで大量に殺すのはGMとして許されない。

 あと可能性としては、プレイヤーの独弾ユニークバレットの効果だろう。

 有力な説としては後者だろうか。

 "穴を開ける"独弾ユニークバレットを予め装填しておき、スタートと同時に地面に穴を開け、他のプレイヤーを道連れにする。

 この作戦ならば最前列で効果範囲外、または自力で這い上がることができる仲間がいるというはずだ。

 何にせよ、その作戦は成功し、多くのプレイヤーは穴に落ちた。


 周りを見渡すが、這い上がったというプレイヤーも既にマラソンを続行し、どこかへ行ってしまっている。

 そして先頭を行ったはずの超跳躍のプレイヤーも見当たらず、それぞれゴールを目指しているのだろう。


「俺たちも急ごう! 既に先頭から離されている」


「そうね! ってことは"あの"道を使わないともう間に合わないよ」


「ああ。そのつもりだ」


 二人は南へ走り出す。

 頭の中では前日に通った道を思い描きながら、どのかどで曲がるべきか見極め――


 ――ズンッ!


 突如走る左肩の痛みに思考が途切れる。

 ――撃たれた。

 そう悟った陸斗はさっと振り返る。

 大通りに観客以外に人影はない。観客の方に目を配るも、銃弾を発射したざわめきは見られない。


「りっくん大丈夫!?」


「美姫は先に行け! 狙われてるのは俺だ!」


「でも――」


 美姫の言葉を視線だけで遮り、必死に目で訴える。


「……わかった。でも、絶対追いつくのよ!」


 そう言い残し、美姫は防弾膜をすり抜けて路地裏へと入り込む。


 残った陸斗は、『狙撃者』の位置を探るため、建物の屋上を見渡していた。

 肩の傷は貫通していたため、拳銃系統でないと分かる。(もしかしたら独弾ユニークバレットの可能性もあったが、そんな都合良くいるわけがないと、最初から候補から外していた。)


 陸斗は《通弾ノーマルバレット》から《権破アカウントブレイク》までを唱え、臨戦態勢に入る。

 そして幾ばくかして。


 ――プシュッ。


 限りなく無音に近い音を陸斗の耳は拾い上げ、その方向に銃身を構え、一瞬も待たず引き金を引いた。


 突如、大通りに光の爆発が起き、影さえも消し去るほどの極光が閃く。

 観客、敵も含めて視界が、輪郭も存在しない真っ白に染められる。

 ――ただその中で陸斗は、光に背を向け、《権破アカウントブレイク》から《通弾ノーマルバレット》に装填し直す。

 それを回転際に為し、再度敵の方向を向く。

 光は残滓を残し、色彩を取り戻そうとしていた。

 陸斗は先ほどの弾丸の射出方向から敵の位置を割り出し、銃身を向けて射撃する。

 その正確無比な弾道は狙撃手のライフルに直撃し、いとも容易く破壊した。

 見違えるような腕前に自分でも驚愕しながら、またマラソンのルートへと戻って行った。


□ ■ □


 これほどの能力の向上は、陸斗が手に入れたスキル――[白兵]の副効果である総ステータス上昇によるものだ。

 このようにスキルには副効果というものが付いていることがある。それもそれぞれで、スキルを手に入れるまで、どんな副効果があるのか分からないものになっている。

 そしてその副効果を自覚できる者は少ない。陸斗のように大幅とも思える上昇ならば気づくことも――。


□ ■ □


 陸斗たちが見つけた"裏道"は、正規ルートなら町の中央で曲がるものを直線距離で縮めようとするものだ。

 路地裏を通るショートカットで他のプレイヤーと差をつける――今では差を埋めることにないっているが。

 しかし路地裏は複雑に入り乱れた道で、容易に踏破することはできない。

 だから前日は、何度もルートを確認しながら入念に調べたのだ。


 陸斗が路地裏に突入すると、景色はガラリと変わる。

 先程まで昼間の道だったのに対し、路地裏はまるで夜道のよう。それは周りの建物が太陽さえも隠すほど高いからだ。

 記憶を頼りにゴールまでの抜け道を踏み抜く陸斗。

 ――しかし意外にもその道は阻まれることになる。


「ちょ〜いと待ちな、そこの人〜」


 ゆったりとした口調の低音ボイス。男だと思われるその人物は、この路地裏の暗さと相まって顔までは確認できない。

 だが、声やこの手を使う奴の顔はイメージとしてチャラチャラとした風貌を思い浮かべる。


「まず〜アンタはマラソンランナーだよな〜?」


 徐々にこの喋り方に怒りを覚えるが、陸斗は努めて冷静に答えた。


「ああ、そうだ。お前は何者だ」


「答えましぇ~~ん」


 ムカムカっと今自分の額に血管が浮かんだような気がした。実際、陸斗の怒りは怒髪天を衝いている。

 カチャリ、と何かが擦れる音がした。


「俺〜ちょうど、ジャストにアンタをぶっ殺せって依頼受けてるんよ〜。悪いけど〜ちゃっちゃと終わらすわ〜」


 雰囲気からして相手は既に拳銃を顕現し、こちらに向けている。

 今から陸斗が拳銃を展開しても、その隙に殺られてしまう。

 彼我の距離、約五メートル。


(これなら、銃は要らないな)


 不思議と湧く自信に、思考は一つにまとまった。

 敵は闇の中でも銃身をずらすことなく、陸斗の眉間を狙っている。それだけを見れば凄腕のプレイヤーだと賞賛されるだろう。

 しかし、陸斗はその上を行った。


 陸斗は一歩目で、闇に溶けるように深く腰を落とす。ほぼ同時に頭上を敵の弾丸が掠める。


「なにっ!?」


 敵の驚嘆の声が闇に響く。

 そこに追い打ちをかけるように、陸斗は前へ飛び出した。

 片足をバネのように跳ねさせ、敵との距離を急速に縮める。

 一瞬で消えた彼我の距離に相手は追いつけずにいた。――というより、認識すらできなかった。

 次に相手が気づいたのは、銃を持つ右手を手ごと掴まれ、陸斗の顔が目の前にいたことだ。

 ここまで近づけば、互いの顔がはっきりと分かる。陸斗は予想通り、相手側は信じられない、といった感想を抱いた。

 この時、相手は胸の内で声を大にして叫んだ。


(こんなに強ぇなんて聞いてねぇぇぇ――!!)


 しかし陸斗はそんな事つゆ知らず、相手が伸ばした腕に次の攻撃の狙いをつけていた。

 左手で掴んだ相手の右手を引き、ピンと伸ばされた肘に陸斗は、右膝蹴りを打ちつける。


 すると、ゴキッという音とともに相手の腕が通常では有り得ない方向へと折れ曲がる。


「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 敵の断末魔が路地裏で無限に反響する。

 相手はその場で膝をつき、折れた腕をなんとかして戻そうとしていた。


「そのくらいじゃ死ぬダメージは入らない。これに懲りてもう俺たちに近づくな。もし、また俺たちの前に現れたら、次は確実に殺すからな」


 陸斗の精一杯の脅しは、相手に最大の恐怖を与えるに足りた。


「ひゃぁぁぁぁぁ」


 顔を真っ青にした名も知らぬ敵は、折れたはずの腕も使って立ち上がり、千鳥足で逃げ去った。


「……ふぅ」


 一戦を終えた陸斗は、深いため息をついてまたマラソンの裏ルートへと走り始めた。


□ ■ □


『うんうん、順調に強くなってるネ〜』


 熟れる果実を見つめるように、仮面をつけた"男"は屋上から一部始終を見て、そう感慨深く呟いた。

今回は俺TUEEE成分を多分に含んだ内容となりました。

久しぶりのアクションシーンについ筆が進み、もしかしたらわかりづらい内容になっているかもしれません。すみません。

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