新イベント開催
お久しぶりです。長らく更新停止していましたが、今日から再開します。
大学も合格したので、これからは更新を少しずつ増やしていきたいと思います。
これからもアカウントブレイクをよろしくお願いします。
新たなスキルを身に付けた陸斗たちは、次なる町へと赴いていた。
「へ~、ここがメダリオンか」
美姫は町の入り口に設置してある門を眺めてそう呟いた。
メダリオン――ここは西エリアでも最も商業が栄えた町の一つである。そのため、商人の交行が盛んで、陸斗たちの横を何台もの荷車が過ぎ去っていく。
「しっかし、なんだか人が多すぎるような気もするな。何かイベントでもあんのか?」
商業で栄えた町というのはここだけではなく、陸斗たちが居た前の町フロントグリップもそこそこ栄えていたのだ。
だが、この町の人口はフロントグリップと比べものにならないくらい多い。
――特にプレイヤーを多く見かける。
「とにかく中に入ってみましょう。何か新規のイベントが発生しているのかもしれない」
「そうだな。誰かに訊けば教えてくれるかもしれないしな」
陸斗たちが町に一歩踏み入れると、突然大音量のスピーカー音が鳴り響いた。
『さて、ようこそプレイヤー諸君! よくぞこのメダリオンにお越しなさった。これより、新イベント「メダリオン内障害物マラソン」を開催する!』
突如、町内全体に響き渡る気持ちが高揚したような声。
町内にいるプレイヤーたちがオオオオオオオ、と雄叫びを上げる。
どうやら煽りに乗った人は多く、主催者の意図は成功したようだ。
『参加するプレイヤーは受付を済まし、明日、北門に集合せよ! 優勝者には豪華賞品を与えよう! プレイヤー諸君よ、奮って参加してくれたまえ! ではまた明日会おう!』
その短い説明を最後に、スピーカ音はプツンと切れた。
そして、その場にいたプレイヤーたちは一斉に動き出す。受付に向かっているのだろう。
しかし、陸斗たちは立ち止ったまま動けずにいた。
「……お、おい。さっきの声って……」
「うん。聞いたことのある声だった。アイツに間違いないわ」
口調はだいぶ変わっていたが、あの妙に異質な声音は道化のものだとわかる。
陸斗と柚季は揃って肩を震わせていた。だが、美姫は――
「いいじゃない。誰だって。確かにあの”ピエロ”はいけ好かない奴だけど、あっちはゲームマスターなんだから、これが本来の仕事なのよ。陸斗も仕返しがしたいのなら、プレイヤーらしく『イベント』を攻略して相手をぎゃふんと言わせなさい!」
美姫の言葉で陸斗はハッとした。
深呼吸をして高まった気概をなだめる。
「……全く美姫にはかなわないな」
「へへん、無駄にアンタたちよりも歳は食ってないんだからね」
「身長の割にね」
うがー、と怒り出す美姫。どーどー、となだめようとする陸斗。背後でクスクスと笑う柚季。
いつの間にかこんな風に美姫が二人――ほとんど陸斗――を正しい方向に導く役のようなものを担っていた。
間違いを犯さないように、これが美姫の思うこのパーティでの立場だと無意識的に感じとっていたのだ。
「んじゃ、イベントをさくっとクリアしてあのふざけたピエロ野郎をぎゃふんと言わせますか!」
おおー! と柚季と美姫が続いて拳を空に突き上げた。
□ ■ □
イベント参加受付を済ませた後、三人は町宿に足を運んだ。
だが、イベント期間中のせいか、いくつもの宿屋が満員でなかなか泊まれる所がない。
ようやく泊まれる宿屋が見つかった時には既に日暮れ時で、他を探すことは無理だと判断し、止む無く町の外縁部に位置する宿屋に宿泊する運びとなった。
それほど悪くない部屋に案内された後、陸斗と美姫は改めて準備を始めた。
「あれ? 二人とも出掛けるの?」
ベッドの上で休憩をしていた柚季が二人にそう訊ねた。
「ああ、明日の会場の下見に行こうと思ってな」
今回、イベントに参加するのは陸斗と美姫だけだ。柚季は観客として応援する形をとった。
本当は、司会者である道化の監視を兼ねたものである。奴が何かおかしな動きをした場合に備えた采配ということだ。
「ついでに晩ご飯も買ってくるからゆっきーはここで待っててよ」
「うん、わかった。気をつけてね」
そして二人は部屋を出て行った。
二人が出発してしばらく経った頃、柚季が一人でいる部屋に一人の来客が訪れた。
□ ■ □
外はすっかり暗くなり、建物の中から漏れる明かりが目立つ。
夏が近いからか、気温の方は暖かい。これが熱帯夜になれば鬱陶しいかもしれないが、この程度なら出歩くのに充分だった。
陸斗たちの他にもプレイヤーはいた。おそらく徘徊ではないだろうから陸斗たちと同様に会場の下見なのだろう。
始めに向かったのは、スタート地点に指定された街の北門だ。
「ここからスタートするのか」
主要出入口なのか、陸斗たちが入って来た東門より幅が広い。
ここならば大勢のプレイヤーが同時に集まっても混雑することもないだろう。
「陸斗、今回のイベントをどう思う?」
美姫が『りっくん』ではなく『陸斗』と呼んだ。美姫が真面目な話をする時は、あだ名ではなくちゃんと名前で呼ぶのだ。
陸斗もそれを理解し、真面目に返答する。
「おかしな点はいくつかある」
陸斗の言葉に美姫は頷く。考えていたことは同じだったらしい。
「どうして今、ここでイベントを開いたのか」
「そして何故マラソンなのか、だな」
陸斗と美姫は散歩も兼ねて歩きながら話し出した。
「このイベントを開いたのはあの道化で間違いない。だとしたらその狙いは……?」
「偶然かもしれないけど、アタシたちを狙ってのことかも。GM権限を使えばプレイヤーの位置は把握できるんじゃない?」
どうして俺たちを狙うんだ、と訊こうとした時、思い当たる節があった。
道化は過去に陸斗の事を特別と言った。特別な『弾』を持つ者だと。
「俺たちがこの町に来るのを見越して、このイベントを発生させたのか……何か仕掛けがあるのか?」
陸斗が無限思考に陥りそうになったところを美姫が次の話題を振り止めさせた。
「どうしてマラソンが気になるの? 普通なんじゃないかしら」
「ん? ああ、マラソンのことか。このゲームにおいて、HPといったステータスはあるが、体力――つまり疲労というものがない。精神的な疲労を除けばどんなに長距離走ろうとも息切れ一つしないわけだ」
先日のグランドタランチュラの時を思い出す。あの時は確かに肉体的な疲労は感じられなかった。どちらかと言うと、恐怖心で精神的なダメージの方が大きかったように思う。
「そして走る速さも基本的にどのプレイヤーも変わらないはずだ。スキルによってステータスアップの効果もあるかもしれないが、この短い期間でそのスキルを習得したプレイヤーも僅かしかいないだろう」
故に運営側であるあいつがそんな不平等なイベントを作るわけがない、と。
何か仕掛けがあると考えていい。そう思った陸斗は、本来スタートからゴールまでの大通りに違和感を覚えるようになった。
「大通りだけじゃなく、ほかの道も探そう。何かあった時にその道を使うんだ」
「う、うん、わかった。……結構頼りになるじゃない」
「ん? なんか言ったか?」
「なんでもなーい」
そう言うと美姫は、はにかんで先を行ってしまう。
陸斗には何がなんだかわからず、美姫の後を追った。
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