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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第2章 第二弾アップデート――[スキル]実装――
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私の名前を呼んで

 レストラン『スクエア』にて。

 現在、柚季、美姫、啓太はクエスト最終段階であるヤスハの料理チェックを行ってもらっている。

 このレストラン『スクエア』の料理人にしてクエスト依頼者のヤスハはまだ料理に口を付けず、見た目を吟味している状態だ。


「見た目は、良し、か」


 小さく、近くにいないと聞き取れない音量で呟くヤスハ。

 柚季の喉奥が微かに鳴る。

 今までにない緊張から柚季は、直ぐにでも倒れてしまいそうだった。

 その時、右手がぎゅっと握られる感覚に気づいた。

 ハッとして振り返ると、美姫が柚季の手を握っていたのだ。そして柚季もしっかりと握り返す。

 ヤスハがスプーンを取り出し、柚季の料理『キノコとベーコン入りオムレツ』に手をつけ始めた。

 ヤスハの一挙手が永遠にも感じられるほど時間が引き伸ばされた感覚だ。


「…………」


 ヤスハは何も言わない。

 二口目を口にする。

 そしてゆっくりと咀嚼してから、柚季のオムレツを台に置いた。

 もう食べる必要は無いということだろうか。

 緊張の面持ちで柚季はヤスハが発する言葉に注目する。


「……はあ」


 ため息一つ。

 それだけでも柚季はいろんな思考が巡ってしまう。

 もしかしたら美味しくなかったのだろうか?料理が冷めていた?クエスト対象外の料理だった?


「卵が柔らかすぎる」


「え?」


 突然のヤスハの台詞に柚季は戸惑った。


「それに肉もパサパサ。あと全体的に辛い。もっとマイルドな味付けにしろ。そしてなんだ、このキノコは……」


 次々と繰り出されるダメ出しに柚季はもう卒倒しそうな心理状態だった。

 自信を持っていた作品にここまでダメ出しを受ければ誰でも傷つくだろう。

 膝の力が抜けていく。

 もう全てを捨て去り倒れてしまいたい、そんな考えが脳裏を過ぎる。

 だが、それを美姫が許さなかった。

 固く握り締めた右手からは、まだ諦めるな、と伝わってくる。

 ほんの少し、膝に力を入れ直す。まだ倒れてはならないと、泣いてはならないと、折れかかった心を持ち直す。

 まだ続いていたヤスハのダメ出しが途中で切れる。

 ゴツン、と鈍い音を立てた。


「いってぇな! 何すんだよ!」


 突然のヤスハのダメ出しが途切れたのを気にして柚季が顔を上げると、そこにはハスヤがいた。

 ヤスハが頭を押さえて痛がっているのを見ると、ハスヤがヤスハを殴ったのだろうか。


「てめぇが味見なんかしてたらマトモな料理人にならねぇだろうが!! ただでさえ偏食で味覚音痴のお前が好む料理なんざゲテモノしかないくせにそれを新人に強要してどうする!!」


「ゲテモノとはなんだ!! この前の『レモントマトの生クリーム揚げ』は美味いって食ってたじゃねーか!!」


「美味いとは言ってない!! 食えないこともないって言ったんだ!! ……ったく、まあ、いい。とりあえずその新人の料理を寄越せ。俺が味見をする」


 そう言ってハスヤはヤスハが食べていた残りの柚季の料理を味見しだした。

 一口食べて長く咀嚼する。

 やがてハスヤの喉を柚季の料理が通過した。


「うん、少なくとも不味くはない」


「ガビーン!!」


 あまりの衝撃に柚季の口で擬音語を発していた。

 やはり評価はあまり変わっていなかった。


「だが、まだ見込みはある。卵の焼き加減とかは少し早めに仕上げればいいし、味付けはヤスハが言うほど酷くはない。ほかにもいろいろあるが.まあ、…………及第点ってところか」


「え?」


 柚季は自分の耳を疑うように聞き返した。


「え? ……及第点ってことは……」


「ギリギリ合格ってことだよ。おめでとさん」


 ハスヤの言葉が何度も柚季の耳の中で響く。

 しばらくの間、柚季はフリーズしたかのように呆然とした。

 隣にいた美姫が飛びつき、首元に腕を回して飛び跳ねながら喜ぶ。


「やったじゃん、ゆっきー! 初スキルゲットだよっ!!」


 美姫はまるで自分のことのように喜んでいる。

 そしてじわじわと実感が柚季の中で湧き起こってきた。


「合格…………~~~~っやったぁぁぁぁ!!! やったよ、美姫ちゃん!! 私、ついに料理人になれたよ!!!」


 柚季は喜びのあまり美姫の身体をぎゅっと抱きしめた。

 ほとんど空気となっていた啓太は後ろで祝福の拍手を送っている。


「んじゃ、これは俺たちからの餞別だ。大事に使ってくれよ」


 そう言ってヤスハは<簡易調理セット>を柚季に手渡した。それを柚季は丁寧にポーチに収める。


「ありがとうございます。大事に使わせていただきますね」


 丁寧に一礼。

 短い間だったが、ヤスハとハスヤからはいろんなことを学ぶことができた。

 そして柚季はあることに気づく。

 右腕の上腕二頭筋に浮かぶ赤い紋章。


「これは……」


「それがスキルですよ、柚季さん。その赤い紋章がスキル獲得の証です」


 優しい声音で啓太は説明する。


「これがあればどこでもすぐにスキルが行使することができます。《独弾ユニークバレット》と違ってスキル名を唱える必要もありません」


 スキル獲得の先輩として啓太が柚季に軽くレクチャーをする。

 ある程度話が終わると、もう午後三時を迎えていた。


「じゃあそろそろ陸斗のところに行こっか」


「そうね。いつまでもここにお邪魔してるのも悪いし」


「霧香からさっき連絡があったのでもうすぐ町に着くそうです」


「それなら家の方で待ってた方がいいわね」


 そう話し合って柚季はヤスハとハスヤに向き直る。


「本当にいろいろとありがとうございました」


「おう! 立派な料理人になれよ!」


「たまにはウチの厨房にでも遊びに来い!料理手伝わせてやる!」


 二人から心強い激励を頂いた柚季は満面の笑みを浮かべて一礼する。

 そして三人はお世話になったレストラン『スクエア』を出立した。



□ ■ □



 陸斗と霧香が町に到着したのは既に夕方になってからだった。想定していたよりも遅くなってしまった。

 陸斗は先ほどの戦いで右腕やその他諸々を損傷しており、自分で歩くことが少し困難な状況になっている。そのため、霧香に肩を担がれて歩くことになる。

 体力的には霧香から体力ポーションを飲ませてもらい、今は安定している。


 この角を曲がればあとはスラウの家まで直線だ。

 半身に受けていた夕陽が背中で受けるようになる。

 前方に細く長い自分のの影が伸びる。


「あっ、あれって陸斗たちじゃない?」


 遠くから声がした。

 それはいつか聞いたことのある声だった。

 霧香は顔を上げ、その声の主を見やる。

 声の主は一人だったが、他にも二人いた。その中には知った人影も混じっている。おそらく陸斗の仲間と啓太なのだろう、と霧香は推測した。

 しばらく歩くと、ただの人影から鮮明な人物になっていく。


「霧香さーーん! おかえりなさーーい!」


 この声は啓太だ。大きく手を振って出迎えてくれる。

 久しぶりに聞くパートナーの声に安堵を覚えた。


「啓太ーー。ただいまーー!」


 霧香も大きく手を振り返す、

 陸斗まだ手を振るまでの元気はないようだ。

 やがて家の前に着くと、啓太と一緒にいた陸斗のパーティの二人が陸斗の許へ駆け寄る。


「陸斗、おかえり――ってどうしたの!? その身体!!」


「霧香さん、だっけ。りっくんに何があったの? 教えて」


 やはりその質問をされるのか、と心の中で霧香はため息をついた。


「まあ、これは私が話さなくちゃいけないことだろうしな。陸斗のこの状態はクエストのモンスターにやられたものだ。陸斗のおかげでモンスターを倒すことができたし、陸斗がいなければ私が死んでいたかもしれない。彼にはすごく感謝しているよ」


 霧香が話し終えて、二人は少し安堵したように顔が緩んでいた。


「やっぱり陸斗って無茶をするのね……」


 だが、やはりその表情の裏には悲しいや心配といった感情も見え隠れしているのも事実だ。


「とりあえず体力な問題は無い。すぐに死ぬなんてことはないから」


「ありがとう。りっくんを助けてくれて。こう見えてりっくんってたまに無茶して自分だけ大怪我することがあるから、貴女がそばにいてくれて助かったわ」


 見た目は小学生か中学生くらいの子が頭を下げながら、すごく大人びた口調でそんなことを言ったことに霧香は内心かなり驚いていた。


「あ、ああ。それは今回で私も理解できたよ。陸斗にはやはり支えてくれる仲間が必要だ」


「うん。今回は私たちが傍に居れなかったけど、これからはアタシたちが支えるわ」


 やはり美姫からは身長に見合わない雰囲気が漂っているのがわかる。

 霧香は同時に安心感を覚え、美姫に優しく微笑んだ。


「…………うう。ここは……」


 すると、意識を取り戻した陸斗は周囲をキョロキョロと見渡した。


「スラウの家まで来てたのか……」


「陸斗――ッ!」


 ガッと勢いで陸斗に抱きつく柚季。

 これならもう大丈夫だろう、と霧香は陸斗から離れた。


「陸斗、すごく心配したんだからね!! なんで帰ってきてこんな格好なのよッ!!」


「いや……すまん。心配かけた」


 言い訳をすることを諦めた陸斗は素直に柚季に謝罪した。


「それはそうと。早く中に入ろうぜ。もう夕方じゃねぇか」


「そうだな。できるだけ明るい内に済ませよう」


 陸斗と霧香の意見が合致したのでスラウの家の中へ入ることにした。それに続いて柚季たちも入る。


「いない……?」


 入ると、もぬけの殻だった。

 いつもなら中央の丸椅子に座っているが、それが今は空席となっている。

 時間帯によって居ない時があるのだろうか、と思案する陸斗。


「とりあえず探してみよう。ダメなら明日にでも持ち越すこともできるから」


「そうね。ならアタシは寝室の方を探してみる」


「だったら私は奥の部屋を探すわ」


 それぞれがスラウの家の中を大捜索し始める。

 だが、五人で探しているにも関わらず、発見できなかった。

 陸斗がリビングを搜索している最中、あるものを見つけた。

 壁際の棚に伏せてある写真立て。

 クエストを受ける時、幾度もスラウがこの写真を見ていたのを思い出す。


「そういえば、この写真には何が写って……」


 陸斗が写真を手に取り、持ち上げると、そこには仲睦まじい二人の男女が写っていた。

 背の高い男性が胸あたりまでの身長の女性を抱き寄せているような構図だ。


「でも、なんでこんな写真をスラウさんが持ってるんだ……?」


 途方もない思考に入りかけたところで陸斗は気づいた。

 これは、スラウさんの写真なのか?

 でも、それなら隣のこの女性は……。

 何か他の情報はないか、と写真を裏にしてみる。

 すると、この写真を撮った日付と名前が彫られている。


「スラウとチヨ……」


 無意識で名前を呟いていた。

 そんなことをしていると、突然家中に声が響き渡った。


「ここに扉があります!!」


 それはリビングの奥、壁際の直線上の角からした。

 その声で散り散りになっていたみんなが集まり出す。

 発見者は啓太だった。

 みんなが集まり、啓太は緊張の面持ちで扉を押し開いた。


「うわぁ……」


 扉を開くと、視界が茜色に染まる。

 次第に視界が回復すると、そこはちょっとした庭だと気づく。

 広さは十五平方メートルくらいだろうか。

 目立つ物といえば、名も知らぬ木が二本と、一つ大きな石碑がある。


「こんなところに石碑……?」


 陸斗が小さく呟く。

 扉を開いて庭があるあたり、ここはスラウが所有する庭ということになる。

 そして石碑は不恰好ではあるが、きちんと整備されているのが見て取れる。これはスラウがやっていたのだろうか。


「ついにここにもいなかったな」


 陸斗が思案していると、霧香が早々に庭を立ち去ろうとしていた。

 これほど探して見つからなかったとなると、あとは外出しているという可能性もある。それならば、今日はもう諦めて出直す、というのも考えなければならない。


「ふぅ……。今日はもう諦めて明日にするか、陸斗?」


 霧香も同じ考えに至ったようで、出直すことを検討する。


「いや、ダメだ。今日中に終わらせないと……」


 そこでふと、朧気ながらクエスト概要を思い出す。


「なんでだ? どうして今日じゃないといけないんだ?」


 霧香は不思議そうに陸斗を見やり、詳細を促した。


「クエストタスクを開いてみろ。確かそこにクエスト期間があったはずだ……」


 そう言われて霧香は自分のログウォッチを操作してクエストタスクを開いた。


「本当だ。一日って書いてあるな。ってことはもうすぐじゃないか!! 昨日はもう暗くなってたし……あと二時間ってところじゃないか!?」


「そうなんだ、だけどスラウさんが見つからない……」


「どうするんだ!! 今から外を探しても見つかるとは限らんぞ!!」


 霧香に急かされるが陸斗はその場で考える。

 確かにここでいいはずなんだ。

 よく思い出せ。スラウはどこに行くんだ?


「――ッ! ちょっとクエストタスクを見せてくれ!」


「あ、ああ」


 突然陸斗が何かに気づいたように霧香に詰め寄った。

 開いていたクエストタスクを見やすく大きく広げる。


「やっぱり……。これは誤字じゃなかったんだ……!」


「どういうことだよ。ちゃんと説明しろ!」


 先ほどから陸斗ばかりが謎を解決していっているようで霧香はなんとなく腑に落ちない心持ちだった。


「『最期』だよ! 俺はずっと『最後』と思って解釈してたが、これはちゃんと意味を成してたんだ!」


「つまり、これによると、『最期』の意味は……ッ!」


 遅れて霧香も気づいたようだ。他の三人はもう何が何だか分からずただ二人のやっていることを眺めていた。


「もう、スラウさんは……亡くなってる」


「だから、スキル習得は一人だけなのか……」


 次々と謎が解明されていく。だが、真実はかなり酷いものとなってしまった、と二人は悟った。

 いくらゲームのシステムだから、という理由でもあまり受け入れられない内容だった。


「だったら、この『最期を飾れ』っていう文言は……」


「ああ。恐らく手向けをしろってことだろう」


 陸斗たちは再度庭へ向かった。

 やはり予想通り、石碑の隣には妙に整地された跡がある。


「じゃあ私のこのアイテムを使えばいいのか」


 霧香はその整地された土地の前に立って、ログウォッチのアイテムリストから今回のクエストでドロップした<黒色岩石>を顕現させる。

 よく見ると、元からあった石碑と今回の石碑が同じだということが分かった。


「だから、スラウさんはこれをクエストの条件にしたのか……」


 せめて、同じ墓で眠りたい、という遺言にも似た願望があったのだろう。

 だが、霧香が石碑を建てたにも関わらず、クエスト終了のタスクが開かれない。


「これだけじゃ足りない、ということか……」


 再び陸斗が思考モードに入る。

 石碑は確かにクエスト条件を満たしたはずだ。だけどそれでも足りないとなると……。

 手向けに必要な物、石碑、そして……。


「そうか!」


 何かに気づいた陸斗は急いで家の中に戻って行った。

 そして写真立てのある棚に手を伸ばす。すると、中には丁寧に束ねられた<煙香草>があった。

 それを手に取り、再び庭へ。


「たぶん、これが最後のキーアイテムだ」


 みんなは石碑の前で佇み、陸斗を迎えた。

 霧香が「ああ」と口にしたのはこれの意味が分かったからだろう。


「これを千切ってくれないか?」


「わかってる」


 そう言って陸斗は霧香に<煙香草>を手渡した。

 霧香は葉の中程からぶちりと千切りると、次第に切れ目から煙が湧き出てきた。

 それを石碑の前に置く。


「…………」


 陸斗と霧香が石碑の前で跪き、共に合掌する。陸斗は合掌の真似だけをしている。

 それを見て陸斗の隣に柚季と美姫が跪き、霧香の隣に啓太が跪き、皆で合掌する。

 すると、石碑が淡い青白の光が灯る。

 そしてその光の中からある物が現れ、そっと地面に落ちた。


「これは……」


「スキルの、巻物、なのか……?」


 陸斗と霧香は二人して首を傾げた。

 しかし、これがまたしても問題を呼び込んだ。

 二人のうちどちらがこのスキルを手にするのか。


「……はぁ。陸斗、お前がスキルを受け取れ」


「え? あれ? これってスキルを賭けてのラストバトルみたいな流れじゃないの?」


「お前なぁ……いくらなんでも腕を無くした相手に勝負なんて挑むわけないだろ! ……それに、これは本当に陸斗に受け取って欲しい。私は陸斗に言いきれないほどの感謝をしている。だが、一つだけ条件がある」


「な、なんだ……?」


 陸斗は無粋にも金か、アイテムか、《独弾ユニークバレット》かと勘ぐってしまう。


「私の名前を呼んでくれないか……?」


「え……?」


 これにはその場にいた全員が等しく頭の上に疑問符を浮かべたことだろう。


「陸斗、私はちゃんと名前を教えたにも関わらず一度も呼んでくれなかったじゃないか! 私だってお前のことを名前で呼んでるのに、不公平だぞ!」


「…………」


 これは陸斗自身、無意識で避けていた問題でもあった。

 これまでだって何回も霧香の名前を呼ぶ機会はあった。だが、それでも「お前」や「おい」などで済ませてきたのだ。

 それは、恥ずかしいなどの理由もあるが、やはり一番は苦手意識なのだろう。

 陸斗は元より年上というのが苦手なのである。昔から年上には苦手意識があり、あまり自分からは近づかないようにしてたし、克服しようとも思わなかった。

 しかし、それは現実だけの話だ、と自分で割り切り、こっちの世界ではあまり苦手意識を持たないようにしていた。だから霧香の前では強気な姿勢で接していた。

 美姫に関しては元から年上と意識していなかったため、そんな苦悩はなかった。


「……りか……」


「聞こえんな。早くしないと私がスキルを貰うぞ」


「霧香! 霧香! 霧香! 霧香!」


「…………」


「はぁ、はぁ、……これでどうだ!」


「…………」


 なんだがおかしい。陸斗が霧香の名前を読んでから、霧香は妙にモジモジとし始めた。


「霧香。霧香。霧香。霧香」


「あーもういい! そんなに呼ぶな! 私がからかって悪かったよ! これでいいだろ! さっさとスキルを受け取れ!」


 もう一度陸斗が名前を呼ぶと霧香は顔を赤らめてそっぽを向いた。


「茶番はいいから、早くその巻物を取りなさいよ」


 しびれを切らした美姫が少し怒り口調で言った。

 陸斗も少し反省して、その巻物を手に取る。

 すると、巻物は一瞬にして消えた。

 何も起こったようには見えなかった。


「あ、そうだ、陸斗は今右腕が無いからスキルを確認できないんだ!」


 突然気づいたように柚季が声を上げた。


「スキルは右腕に紋章が浮かぶから、りっくんは今見ることができないってことね。でも、スキルは習得できたんだし、明日には確認できるんじゃない?」


 美姫も便乗し、陸斗を慰めるように言う。

 こうして、[白兵]スキルは陸斗が習得することになった。

 五人はもう一度、感謝の意を込めてスラウの墓の前で合掌し、スラウ邸を後にした。


「じゃあ、私たちはここでお別れだな」


「なんだ、もう行くのか」


 霧香たちと陸斗たちはここでお別れ。

 短期間だったが、それぞれ思い出のようなものもできていた。だがいつかは来る別れ。それは受け入れなければならない。


「今生の別れじゃないんだから、また会えるさ。何か要請があればログウォッチで連絡してくれ」


「わかったよ。達者でな」


 二人の間に多くの言葉はいらない。

 この世界で生きている限り、どこかで会えるのだからそれまで言葉は取っておこう。


「柚季さん、美姫さん、ありがとうございました」


「うん、啓太君も元気でね。一緒にいれて楽しかったよ!」


「またどこかで会おうね!!」


 啓太が大きく手を振り、柚季たちもそれに返す。

 その流れで霧香と陸斗も手を振る。


 道は違えど、必ず再会しようと、心に決めたそれぞれは、互いに背を向け合い、己の道を歩んで行く。

これにて一つの節目となります。

次の章も「第二弾アップデート」のタイトルで始めます。

そしてこの話でしばらく休載したいと思います。

再開は順調にいけば来年の四月辺りに更新したいと思います。

その間でも感想などを下されば返事は返せると思いうのでどしどしよろしくお願いします。

では、次の更新までさようならです!

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