巨人VS陸斗・霧香~陸斗side~
迫るロックゴーレムの拳。
敵を排除し押し潰そうとする拳を陸斗は寸でのところで左に跳び退り避ける。
完全に意識する前にやってのけた動き。陸斗自身もこの変化に驚いていた。
「すごい、ここまで動けるなんて……」
仮免許状態のスキルというのは、いろいろと本スキルより制限されているものだ。現在[白兵]の仮免許が使える効果は、ステータスアップ、単純な徒手格闘技術くらいのものだ。
素直に感嘆を述べていた陸斗に霧香の叱責が飛んでくる。
「ボサッとするな! 次の攻撃が来るぞ!」
「おう!」
今度は巨人の腕が横から迫ってくる。
陸斗は敢えて前に突っ込み、巨人の腕が地面を抉る範囲を回避した。
そのまま突っ走り、巨人の懐に潜り込むと、腹部辺りまで跳躍し、思いっきりの力を込めて殴りつけた。
「お、らぁ!」
陸斗の拳に衝撃の反動が返ってくるが、そんななものはお構いなく、拳を振り抜く。
巨人の脚が一歩引き下がる。
「っしゃあ!」
自分の攻撃に手応えを感じた陸斗は思わず歓声を上げた。
だが、巨人のHPバーを見ると、その減少は微々たるもので、とてもダメージを与えたとは言い切れない。
「マジかよ……」
「やはり格闘のみのダメージはこんなものか……」
敵は岩石でできたモンスターだ。防御力にはかなりの自信があるだろう。
そんなものに拳一つで戦っていれば、先にこちらの体力が尽きるのは必定だ。
「じゃあ、どうするんだ? 回復アイテムにも限界があるぞ――ッ!」
陸斗が言い終わると同時に巨人の拳が降ってきた。
それをギリギリのところで躱し、距離を取るため後ろに跳び退る。
ドゴォォォォン、という轟音を肌で感じながら陸斗は霧香に対策を問う。
「待て! 今考えてるところだ!」
霧香はログウォッチで一つのタスクを開き、なにやら読んでいるようだ。
「なる早で頼むぞ! ゴーレムは俺が引き付けとくから!」
そう言っている間にその場から動いていなかった霧香に向かってゴーレムが腕を振り上げた。
(まずい……!)
霧香はその場を動こうとしない。
タスクの方に集中している。
陸斗は何かないか、と周囲を巡らす。
そしてある物を拾い上げ、ダメもとで巨人に向かって投げ飛ばした。
「こっち向け、おらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
陸斗の雄叫びと共に放たれたのは――――拳大の石だった。先ほど霧香が投げたのと同じくらいの大きさだ。
投擲された石は、まっすぐ巨人の顔面に向かった。今までの陸斗の膂力ならばそこまで飛ばないだろうが、[白兵]のステータスアップ効果もあるおかげで届く。
『グオォォォァァァァァァァァァ!!!』
投石に気づいたロックゴーレムは攻撃モーションを中断し、腕を石の方に向けた。
あっさりと受け止めた巨人はその石を握りつぶした。
ゆっくりと掌を広げると、握り潰した岩の破片すら落ちてこなかった。
「そういうことかよ……。さすが、岩で作られた巨人ってとこだな」
陸斗は巨人の謎について一つ気づいた。
「……触れた岩石類を吸収か……」
ということは、先ほど与えた微ダメージも回復されてしまっただろう。
陸斗は舌打ちし、次の攻撃に備えた。
『グオォォォォォァァァァァァァ!!』
巨人は雄叫びを上げると、握り締めた右拳を振り上げた。
瞬間、陸斗は弾けるように突貫して行った。
「ここなら腕も振れないだろ……ッ!」
巨大な敵ほど一撃が高攻撃力になるが、その分どこかに大きな隙が出来やすい。
陸斗が今いるところは巨人の足元。普通であれば振り上げた腕を落とすような場所ではない。
そしてあわよくばダメージを与えようと考えている。
だが。
「な……ッ!」
襲ってきたのは巨人の左腕。
完全に不意打ちだ。
地面を抉りながら、土ごと陸斗を捉えた。
「こいつ……! 賢すぎるだろ……!!」
陸斗を捕まえた左手には少しの隙間もない。土を同時に取り込むことで身動きができる隙間を埋めているのだ。
ゆっくりと左手が持ち上げられ、巨人の胸あたりまで来る。その上空には振り上げたままの右腕。
ここからの展開は容易に想像することができた。
次の瞬間、鉄鎚の如き一撃が振り下ろされ――。
耳を劈くような銃声が六発。
陸斗は恐る恐る目を開けてみた。
ちょうど、頭上に巨人の握り込まれた拳があった。
あと、数センチ下ろされれば確実に陸斗の頭をトマトのように潰していただろう、その拳はピタリと静止していた。
「な、何が……?」
陸斗の一瞬の疑問の内に突如、浮遊感というか落下感のようなものに襲われた。
だが、実際に陸斗は落ちていた。巨人の左腕と共に。
「…………ッ!?」
事象の理解が追い付かない。そんな感覚に見舞われ、陸斗はそのまま地面に落下した。
幸い、陸斗を包む土が緩衝材となり、ダメージは少なかった。
「けほっ……けほっ……」
口の中に入った土を吐き出しながら、強制力を無くした巨人の腕から脱出する。
「大丈夫かい、陸斗。救世主の登場だよ」
霧香は陸斗に手を差し伸べながらおどけてみせる。
「おせーんだよ。助けるならもっと早く来てくれ」
「ヒーローは遅れて登場するもんだろ?」
「その理屈ってぜってーおかしいと思うんだがな」
これまで軽口が叩けるのなら大丈夫だろう、と霧香は陸斗を引っ張り立たせる。
「そういえば、銃なんて使って良かったのか? クエスト内容では、[白兵]スキルで倒さなきゃいけないんだろ?」
陸斗は先ほどの霧香の行動に疑問を覚え、霧香に問うた。
「大丈夫さ。クエスト内容には、『[白兵]スキルで打倒せよ』って書いてあっただろ?」
曖昧な記憶から、確かそんな内容だったな、と頷いて見せる。
「ってことは、その過程は指示されてないわけだ。ラストアタックを[白兵]で仕留めれば内容はクリアできるはず」
「それでいいのか……」
内心、不安なこともある。もし、これがクリア条件に当てはまらなかったら……。
だが、もう銃を使って攻撃をしてしまっている、と観念して銃を使うことを覚悟した。
「《開弾》」
右手のリングが光り出す。
手の中に確かな感触が伝わり、ぎゅっと握りしめる。
顕現した拳銃を巨人に向ける。
「さっきの攻撃でどれくらい減ったんだ?」
陸斗は巨人を見据えながら、霧香に訊いた。
「そうだな、三割といったところか」
「そんなに減ったのか!?」
拳銃の銃弾六発でそれほど減るということは、HP的にはそれほど問題にはならないかもしれない。
だが、霧香は難しい顔をしてこう告げた。
「でもさっきのは弱点攻撃のクリティカルといったところだ。ロックゴーレムの肩の関節にあれだけ撃って崩したのは、やはり防御力、HPは問題がありそうだ」
「だけど、見たところあいつの関節部分ってかなり隙間がありそうだし、しっかりと狙えばクリティカルは狙えるんじゃないか?」
「そうだといいが……」
最後に霧香が眉をひそめながら言うと。
『グォォォォォォォァァァァァァァ!!!』
突然、巨人はひと際大きな雄叫びを上げた。
何事か、と巨人に目を向けると、左腕を無くしたまま壁の方に歩いていく。
陸斗からしてみれば、逃げるように見えていたかもしれない。
だが、霧香は嫌な予感がしてならなかった。
巨人が岩壁の前に着く。
敵を前にして背を向けるのは、単なる余裕か。それとも……。
『グォォォッ!!』
短い咆哮と共に巨人の頭部を岩壁に打ちつけた。
ドゴォォォン、と地鳴りかと思うほどの轟音が周囲に響いた。
「なんだ、自棄になったか……?」
何度も、何度も、何度も壁に打ちつける。
飛び散る石片。空中を舞う粉塵。
一見して、自棄になったように思えるが、霧香はそこまで楽観視することはできなかった。
この行動には何か裏があるように思えてならない。
そうやって思考を重ねていくうちに霧香は巨人の変化に違和感を覚えた。
「――陸斗ッ! 今すぐ攻撃だッ! これ以上奴にあれを続けさせるなッ!」
「ん? なんでだ? あれって自棄になってるだけじゃないのか……?」
まだ気づいていない陸斗に霧香は少々語気が強くなる。
「あれは、『強化』してるんだ! 崩した岩を自分に取り入れて防御力を上げてるんだ! このままだと銃じゃ太刀打ちできなくなる。そうなる前にあれを止めるんだよ!!」
霧香の説明でようやく事態の重要さを理解した陸斗は、慌てて銃を構えた。
巨人の弱点は先ほどの霧香の攻撃で関節だとわかった。
だが……。
「おい……隙間が、消えてるぞ……」
肩、肘、手首、股関節、膝、首元にそれぞれ関節をガードする「岩の当て」が完成している。
「なんでもいい! 奴の注意をこっちにずらすんだ!!」
そう言うと、霧香は銃を構えたまま突貫していった。陸斗もまだ攻略法が分からないが、霧香に続いて突貫する。
巨人の足元まで来たが、まだ巨人は壁を崩しながら自身を強化し続けている。
陸斗と霧香はほかに弱点がないかいろんなところに向けて発砲した。頭部、岩の当て、足元を撃つがどれも弱点と呼べる所は見つからなかった。
「このまま撃ち続けても弾の無駄か……」
陸斗は今までに三発、霧香は十発は撃っている。
「そういえば、残弾数は大丈夫なのか? 俺より結構撃ってると思うんだが」
《通常弾》ならば装填弾数は十五発。残り五発ではとてもじゃないが心許ない。
「それについては大丈夫だ。町で予備マガジンを二つ購入しているから、実質残りは三十五発ある」
「そんなのが売ってたのか!?」
「ああ、最近になって売られるようになった代物でね。少し値は張るが持っておいて損はないと思うぞ」
近頃、アイテム屋の方に足を運んでいなかったが、まさか弾倉が売ってあるとは思ってなかった。
「今度、アイテム屋の方で見てくるとしよう。……ま、先にこいつをどうにかしないといけないんだがな」
「そうだな。どう攻略しようか……」
霧香が思案している間に陸斗は、先に動いていた。
「おい、待て! どうする気だ!?」
陸斗は助走をつけて壁の方に斜めの角度で駆ける登る。
落ちる前に次の足を。もっと速く脚を回転させて。
常人ならば絶対に不可能な行動。手を使わず壁を疾走の速度だけで登る。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」
巨人の頭と同じ高さまで登ると、陸斗は力強く壁を蹴り、巨人に向かって大きく跳躍した。
「届けぇぇぇぇぇ!!!」
右拳を限界まで引き絞り、力を蓄える。
狙うは岩の当てに守られていない上半分。
彼我の距離が縮まる。
空中のため踏ん張りが効かない上に体勢も変えづらい。単なる膂力だけのパンチ。
「――――ッ!」
ゴゥン、と鐘を殴ったような音が響く。
巨人の側頭部を捉えた陸斗のパンチは確かに巨人の注意を引くことができた。
突然の衝撃で巨人の『強化』作業が中止に終わる。
倒れそうになるところをギリギリで踏み堪える巨人。
『グォォォォ……』
巨人の声に先程までの威圧感はなかった。それほどダメージが効いたのだろうか。
「ちっ……減ったのはほんのちょっとじゃねぇか……」
減少具合は一割にも満たなかった。
[白兵]スキルの攻撃力は銃には及ばないが、衝撃という観点で言えばかなりの効果が期待できる。
そういうことでは陸斗の判断は正しかった。
必死に腕を振り抜いた陸斗は、派手に背中から着地することになった。
「くはっ……!」
陸斗の着地に霧香が慌てて近寄る。
「おい、大丈夫か!? 受け身くらいとれ!」
「注意は引いたぞ……!」
近寄った霧香に陸斗は親指を突き立てた。
「ああ、十分だ。しばらく休んでろ」
見れば、陸斗は着地失敗の衝撃で二割ほど体力を減らしている。
ここからは自分の番だ。
「さあて、どうやってあれを破るかね……」
現在のマガジンは残り五発。予備マガジンの交換は最短で一秒とかからない。
弱点以外の攻撃は微々たるもので弾の無駄使いになる。
体勢を崩していた巨人がこちらを向いた。
粉塵の中から怪しく光る赤い目。
『グォォォォォォォァァァァァ!!!』
巨人の雄叫びで周囲の粉塵が一斉に散った。
そこから現れる巨人の新たな姿。
左腕の修復に間に合わなかったのか、左肩から少しだけ再生された跡がある。
あとは要所毎の関節に岩の当てが形成され、弱点を補強している。
一見すると、それは鎧を身につけた騎士のようだった。
「また弱点発見から探るのか……いい加減萎えるぞ……」
霧香の口元には苦笑が浮かんでいた。
だが、その瞳に諦観なるものは微塵も感じられない。
まだ霧香はこの戦闘を諦めていないのだ。
「陸斗があれほど頑張ったんだ、私もそれなりに頑張らないとな……!」
霧香は右足を後ろに引き、腰を低く構える。
深呼吸を一つ吐くと、右足に込めた力を一気に解放する。
弾かれたよう疾駆する霧香は正面からではなく、巨人の左腕側に向かう。
こちらならば右腕の攻撃に幾ばくかの時間がかかる。
そう判断した霧香は壁際まで近づくと、銃を構えて全弾発射した。
『グォォォォォォッ!!』
霧香の弾を身体の側面部に受けた巨人は再び雄叫びを上げた。
右腕を堅く握り締め、巨人は腕を高い位置のまま大きく横に振り回した。
霧香はマガジンボタンを押し、マガジンを取り出しながら、後ろに大きく飛び退った。
だが、それは霧香に対しての攻撃ではないのに気づいたのは霧香が巨人の腕の高さに違和感を持ってからだった。
明らかに霧香に当てるつもりのない腕の高さ。
「――――ッ!?」
次の瞬間、霧香の頭上で破砕音が鳴り響いた。
巨人の腕は岩壁にめり込むほど打ちつけ、岩壁の一部を複数の岩塊に変えた。
大小さまざまな岩塊が霧香の頭上から降り注ぐ。
その中でも霧香に迫るのは一際大きい岩塊だった。
(これは一足飛びで避けられない……!)
霧香は覚悟を決めたかのように目を瞑った。
視界が真っ暗になる――が、直後目蓋越しまで白く染めるほどの発光が起きた。
その光が収まったのを確認すると、ゆっくり目蓋を開けた。
「えっ……?」
自分の周囲には落ちてきた岩石が転がっていたが、あの一際大きな岩塊はどこにも見当たらなかった。
それにあの突然の発光は……。
「大丈夫かい、突貫女」
遠いところからの声だったが、はっきりと聞き取れる。
その声の主を振り返ると、身体は満身創痍と言った感じで拳銃を真っ直ぐに構えていた。
傍から見れば格好もつかない台詞だが、この時ばかりは……格好良かった。
「今のは……陸斗のなのか?」
「ああ、そうだ。俺の《独弾》――《権破》の効果で岩を消した」
陸斗はマガジンを取り出し、《通弾》のマガジンを挿入した。
まだ体力が完全に戻ったわけではないが、これくらいならば参戦できる。
「こっからは俺も参戦するぞ」
「側面部を狙え」
「え……?」
突然の霧香の言葉に陸斗は一瞬首を傾げる。
「奴の外部装甲は鎧と同じだ。構造上、正面と要所の保護はできるが、動きやすくするために側面部には隙間があるんだ。そこが奴の弱点だ」
「そこまで調べがついてたのか。案外早かったな」
「まあ、見た目が鎧っぽかったからとりあえず鎧の弱点に攻撃してみたところ、ビンゴだったってだけさ」
霧香は何でもないように言うが、これはかなり重要なことだ。残弾数が限られている今の状況で下策は打ちたくない。
それを一回で当たりを引いたというのは霧香の豊富な戦闘経験が為せる業だろう。
霧香は岩石地帯から脱出し、陸斗の所まで戻る。
「弱点は見つかったが、さっきみたいに回避不可能な攻撃され続けられたら、俺の《独弾》の方が先に切れちまう」
「ならば、先ほどみたいに陸斗が壁を登り、上空から狙うというのはどうだ? 空中であれば範囲攻撃は受けないだろう」
「いや、それはもう無理だ。さっきあいつが壁を粉々砕いたせいで足場が無くなっている」
「そ、そうか、すまない」
足場が無くなったのは自分のせいだと思った霧香は少し肩を縮こませた。
「大丈夫だ。まだ作戦はある」
「なんだ?」
陸斗は少し得意気にその作戦を説明した。
説明が終わると、陸斗は巨人に向かい合った。
巨人は依然として岩壁の前に陣取っている。恐らく背後を取られないためと先ほどの範囲攻撃のためだろう。
「本当にこれで大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫だ、たぶん。ちゃんとサングラス着けとけよ」
霧香は言われた通りにサングラスを着用する。
視界が真っ黒に染まるが、ある程度は景色が透けて見える。
これは陸斗の所持アイテムから貸してもらった物だ。
当然、陸斗もサングラスを着用している。
「じゃ、指示通り動いてくれよ。お前のタイミングがかなり重要だからな」
「わかってるッ! だが、お前もあまり無茶をするなよ」
「うーん、それは無理かな。たぶん、無茶してようやく勝てるかも、って勝率だし」
「……じゃあ、一つだけ」
「なんだ?」
霧香は一呼吸置いて、言った。
「生きて帰って来い!」
陸斗は、口角を少し上げて。
「おう!」
二人は巨人に向き合う。
巨人は二人に対して警戒しているが、攻撃はしてこない。ずっと低く唸るばかりだ。
「あちらさんもそろそろ待ち侘びてるだろうし、行きますか!」
陸斗は軽口を叩いているが、実際のところ身体が恐怖に支配されないように強がっているだけだ。銃を持つ逆の手、左手が細かく震えているのはそのためだ。
「大丈夫だ、勝てる!」
パン、と陸斗の背中を叩く霧香。
「痛っ! 何すんだよ!」
「ふん、こんだけやりゃあ恐怖も消えただろう?」
「あ……」
いつの間にか左手の震えが止まっていた。
陸斗は一つ深呼吸をする。
「よし、大丈夫だ」
両足を肩幅まで広げ、右足を引き、また疾駆の体勢をとる。
そして、右足に込めた力を爆発的な瞬発力に変換。
発破を掛けたように突貫する。
『グォォォォォォォォォァァァァァァッッ!!!』
巨人もこれが最後の激突だと悟り、今まで以上の雄叫びで陸斗を迎える。
そして正面から突貫してくる陸斗に巨人は渾身の一撃を右拳に乗せ、陸斗に振りかぶる。
「――――ッ!」
陸斗は巨人の攻撃を予感し、ダッシュに急ブレーキを掛けた。大きく飛び退る。
先ほどまで陸斗がいた所に巨人の拳が地面にめり込む。
「うおらぁぁぁぁぁ!!」
陸斗は再びダッシュし、今度は巨人の拳の上に飛び乗る。そして腕を伝いながら駆け上って行く。
その挙動に巨人が腕を引き抜こうした時――。
「ここかぁぁぁぁぁ!!」
背後から霧香の声が響いた。
その掛け声で霧香は手に持っていた拳大の石を大きく振りかぶった。
霧香の投石は速度が衰えることなく巨人の顔面まで接近した。だが、これだけの攻撃なら巨人は避けることもなく、逆に吸収してしまうだろう。
「ジャストタイミングだッ!」
陸斗は駆ける速度を緩めることもなく、銃を構える。
引き金を引くと、銃口から青白い一条の光が射出される。
《権破》。
対象を過程を経ずに光の粒子へと変える、陸斗の《独弾》。
陸斗が狙ったのは霧香が投げた石。巨人の目前に迫った石は、ぶつかることもなく突然の極光を放った。
周囲を白く染める。
目を開くことさえ許されない刹那の世界で陸斗たちは駆け出す。陸斗は腕を、霧香は巨人の側面部へ。
サングラスが《権破》の光を遮り、視界はクリアなままだ。
『グォォォォォォァァァァ――――!!!』
野生による感か、巨人――ロックゴーレムはまだ諦めていないように叫ぶ。
その雄叫びとほぼ同時に陸斗は巨人の肩から再び跳躍した。最後の難関、巨人の顔下半分を覆う『岩の当て』を飛び越えなければならない。
だが、その時。
その『岩の当て』にヒビが入った。
その当てが細かく振動で揺れているのだ。
「これは――――ッ!」
陸斗の直感が一瞬先読みした。しかしここからの回避は不可能だ。
そして遂に『岩の当て』が決壊した。放射状に飛散する石片。
速度は銃弾に迫るほどだ。これはもとより回避不可能。
その石片が陸斗を容赦なく襲う。
左大腿を抉り、腹部も数箇所貫通する。――最後に右腕を肩口から吹き飛ばした。
「陸斗――――ッ!!」
霧香の悲痛な叫びが木霊する。サングラスのせいで良く見えていた霧香は、その光景の全てを見てしまった。
喉奥から何かが込み上げてくるような感覚が霧香の速度を一瞬緩めさせた。
「まだだぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!!」
陸斗の瞳にはまだ勝利への執着が残っていた。必死に歯を食いしばって痛みを堪えながら、右腕が吹き飛ばされる寸前に持ち替えていた銃を構える。
最近の発見で左手で銃が撃てない理由は、リングを嵌めていないからだと分かった。そのため、陸斗は銃を持ち替えるのと同時にリングも嵌め変えていた。
既に巨人の首元の当てが消え去り、弱点が丸見えとなっていた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
なりふり構わず、弱点に向けて全弾発射。
下からは霧香が側面部の隙間に全弾発射していた。
見る見るうちに巨人のHPがガリガリと削られる。
二人の攻撃は巨人の体力を一割未満まで減らした。
『グォォォォォォォォォァァァァァァァ!!!』
巨人の威圧が陸斗を押し返そうとする。
今からでは腕を引き戻しても陸斗をどうにかすることは出来ない。
そこまで接敵して巨人は最後の行動に出た。
陸斗は残りの巨人の体力を[白兵]スキルで倒そうと、左手に持っていた銃を放り投げた。空中で光の粒子となった拳銃は、リングの方へ戻っていく。
陸斗は左拳を堅く握り締め、最後の一発に備える。
空中での体重移動は難しいが、この際全てを出すしかない。
『グォォォォォォォォァァァァァァ!!!』
「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぉぁぁぁぁ!!!」
巨人の額と陸斗の拳が激突する。
しかしおかしい。
陸斗の腕が上手く振り切れていない。激突のタイミングが全力を乗せるよりも早いのだ。
「――――ッ! こいつ……!」
巨人の首が少し前に傾いている。
「俺のパンチに合わせて頭突きしてきやがった……!」
ダメージ覚悟の頭突きで陸斗の全力を阻止したのだ。
「このままじゃ、押し切られる……!」
巨人の頭突きが陸斗の拳に勝れば、陸斗は吹き飛ばされるだろう。しかしその場合、陸斗の死を意味する。
先ほどのダメージで陸斗の体力は風前の灯だ。次の着地失敗は死に直結する。
途端にまたしても恐怖が背筋を這い上ってきた。
一歩間違えば、死。
この恐怖に勝つには陸斗の精神はあまりにも脆かった。
陸斗の力が弱まりそうになった、その時。
「陸斗ぉぉぉぉぉ!!」
背後から声がしたかと思えば、足元に確かな感触が伝わった。
「私を土台にしろッ! 押し返せッ!」
陸斗が足を乗せているのは霧香の腕の部分だ。
しかし今、陸斗の足に力を入れれば、霧香はその反動で地面に落ちてしまう。
「大丈夫」
「――――ッ! はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
気づいた時には陸斗は霧香を土台に巨人を押し返していた。
『グォォォォォォ………』
陸斗が腕を振り抜くと、巨人の額にヒビが入る。
そのヒビは徐々に拡大し、巨人全体に広がった。
ガシャァァァン、と崩落の音をたてながら巨人は遂に岩の塊と化した。
全力を出し切った陸斗は力尽き、そのまま重力に任せて落下する――。
「……っと。危ない」
しかし下で霧香が陸斗をキャッチする体勢で構えていたため、ダメージを負うことは無かった。
気を失いかけた陸斗だが、霧香に気づき、問うた。
「お前、大丈夫、だったのか……?」
「ああ、私はどんな高さからでもちゃんと着地できるからな」
「ははっ……そうだったな……」
今更ながらに気づいた陸斗は今度こそ力尽き、気を失った。
今回、意外にも長くなってしまいました。
バトルシーンって書いてると時間を忘れるほど楽しいもので文字数も考えなしで書いてました。
途中分割しようかな、なんて思いましたが、バトルシーンのスピード感とかが損なわれるんじゃないかなと思って思いっきり長くなってしまいました。
次回で一つの節目を迎えますのでしばらく休載しようと考えてます。
前々から言ってますが、受験です。つらいです。頑張ります。
感想・アドバイス・誤字脱字があれば感想欄やメッセージやtwitterで募集してます。
これからもよろしくお願いします。




