岩の巨人~陸斗side~
目が、覚める。
陸斗は寝起きがいい方だ。
自分で起きる分には素直に起きる性格で、二度寝に入ることは無い。
しかし、今朝ばかりはそんなの関係なく、二度寝に入ってはいけないシチュエーションだった。
「――ッ!?」
陸斗は口を両手で抑え、声を出さないように驚いた。
陸斗の視線の先には、だらしなく布団を半分捨てた黒髪の女性――霧香が寝ていた。
「ん……」
そして霧香はまだすやすやと寝息を立てながら夢の中にいる。
と、こんなことを考えている場合ではない。
何故、霧香が陸斗のベッドで寝ているのか。
陸斗は昨日、疲労によりベッドに倒れ込むように眠りについた。なので霧香が就寝したのを確認していない。
「……んあ……」
また寝息を立てる霧香。
外側を向いていた霧香の身体がゴロンと寝返りを打つ。仰向けになった霧香はタンクトップがめくり上がり、大きく腹部が露出していた。
陸斗は一瞬にして赤面し、顔を逸らした。
それでも霧香が起きる気配は全くない。この豪快な寝相にもう一人のパーティメンバーは悩まされているんだろうか、と少し可哀想に思った。
しかし、このままというわけにもいかない。試しに霧香の肩を優しく揺さぶってみた。
「おい、起きろ」
「…………」
無言。寝息ですら返事しない有り様である。
少し揺らす力が足りなかったのかもしれない、と思い次はもう少し強めに揺らしてみた。
「おい、起きろって」
肩を揺らすと、双丘が左右に揺れ動き、まともに見続けることができなくなってしまう。
早く起きろ、早く起きろ、と次第に揺れ幅が大きくなっていく。
そして、ついに肩とベッドの角度がほぼ垂直に傾いた時、一瞬霧香が顔を顰めた。
起きるのか、と淡い期待を抱いたが、返ってきたのは霧香の手の甲だった。
ペチン、と陸斗の顔面を捉えた霧香の手は、揺れの反動を活かして打たれたものだったのでそれなりに痛かった。
鼻をもろに喰らい、陸斗はついに、キレた。
「起きろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
もう手加減はしない、と言わんばかりに強引にシーツを引き剥がす。
霧香はシーツに弾かれ、ベッドの外に放り出された。
すると、高さ四十センチの落下の内に霧香は覚醒し、くるりと素早く体勢を立て直し、スタっと着地して見せた。
その動きはまさに忍者のようだ。
床で静止した霧香は平然と――
「おはよう」
――爽やかな笑顔でそう言った。
対して陸斗は、半口開けて唖然とした。
――一体何なんだ、この反射神経は……!
霧香は今までにも陸斗にこの並外れた反射神経を披露したことがある。あの時は六メートルほどの高さの木の上だったが、今回は高さ四十センチのベッドである。如何なる高さでもしっかりと着地する様は猫も呆けるほどだろう。
この反射神経はどうやって身につけてるんだ、と訊きたかったが、今はそれをしてる暇はない。
「朝の挨拶はいいから、なんで、お前が俺のベッドに潜り込んでいるのかを言えよ」
既に陸斗にとって霧香が隣で寝ていたことはどうでもいいことになっている。ただ、理由もなく無理矢理たたき起したのでは、理不尽だと怒られると思いこのようなことになってしまった。
「なんだ、そんなことか」
霧香の方はそう大した怒りもなく、事もなげに淡々と言葉を紡いだ。
「君が死ぬように寝てから陸斗の仲間たちが帰ってきたんだ。この部屋にはベッドが三つしかないだろ?だからニ人がベッドで寝れるように私が身を引いたってわけさ。どうやらとても疲れていたようだからね。というわけで私は陸斗のベッドで寝ざるを得なかった」
パン、と手を叩き説明の終了を告げた。
そして理由を聞いた陸斗はどこか神妙な面持ちで考え込んでいた。
「うーん……それなら、仕方ない、のか……?」
「ま、私は最初から君の布団に潜り込んでいたがね。二人がやって来たのそれからしばらく経った頃だ。君の寝顔はしっかりと見させてもらったよ」
くすくす、と含み笑いを浮かべる霧香に陸斗の怒りが込み上がり。
「こらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
朝から陸斗の声が宿屋に響いたのだった。
□ ■ □
陸斗と霧香は、朝食を食べた後、昨日受諾したクエストを遂行するため、森に入った。次のクエストの内容の一つは、『ロックゴーレムを仮免許[白兵]を用いて倒せ』というものがある。このロックゴーレムの居場所は霧香が知っているようで、霧香が先頭を歩くようになっている。
森の中を歩き続けて数時間。
二人は目の前が岩壁で塞がれた少し開けた場所にたどり着いた。
「ここに、いるのか……?」
陸斗の声に緊張が籠る。
「よし、まずはその茂みに隠れるんだ」
「は? え、どうして?」
霧香は陸斗をそのまま茂みの所に押し込んだ。陸斗は何が何だか分からず、されるがままに茂みに連れてこられた。
「おい、どういうことだよ。なんで隠れる必要がある?」
霧香は、陸斗の質問に言葉でなく行動で示そうと、近くの少し大きめな石を手に取る。ちょうど手のひらサイズと言った感じで普通なら両手で持つような石だ。
それを易々と片手で挟み込み、持ち上げ、砲丸投げのように構える。
陸斗がそれを不思議に眺めていたが、この後に起こったのは何の不思議でもなかった。
霧香は、腕を大きく引き絞り、勢いよく――投げ飛ばした。
宙を舞う石は、大きく弧を描き、岩壁の前にボト、と音を立てて落ちた。
漂う静寂。
小鳥のさえずりさえ聞こえない時間が過ぎていく中、陸斗は先の行動の真意を問おうと霧香に声を掛けようとした時――。
ゴゴゴゴゴ、と地を揺るがすような轟音が響き渡った。
「な、なんだ!? 何が起きてるんだ!?」
陸斗は音の所在を確かめようと、周囲を見渡す。
それに対して霧香は、視線を一点に集中させる。その視線先は行き止まりとなった岩壁だった。
「……来る」
陸斗がその発言に気づいたのは、ちょうど岩壁から巨大な腕が飛び出してきた時だった。
「な、な、なんだありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
陸斗の目は眼前の光景にくぎ付けになっている。
壁から岩の腕のようなものが伸びる光景。
それは決して小さな腕ではなく、人間サイズではありえない巨腕だ。
その腕が伸びた先は、先ほど霧香が投げ飛ばした石。
巨腕がそれを掴むと――握りつぶすようにも見える――またしても轟音が鳴り響く。
「ようやく、本体のお出ましか」
待ってました、とばかりに霧香は薄い笑みを浮かべる。
「もしかして、あれが……」
ようやく事態を察してきた陸斗が霧香を見る。
「そう、あれが――――」
ドゴォォォォン、と岩壁から岩の巨人が現れた。
「――――ロックゴーレムだ!!」
全長五メートル強、容姿は人型で、手足があり、その構成は全て岩石から成っている。
頭部と思われる岩石には紅い怪しく光る瞳が灯っている。
『グォォォォォァァァァァァァァ』
岩巨人の咆哮が辺りに轟く。
ロックゴーレムの背後の岩壁からはごっそりと削られたように窪みができている。本当に岩壁で作られた巨人のようだ。
「さあ、クエスト始めましょうかね」
茂みから立ち上がった霧香は、クエスト達成条件である、[白兵]の仮免許をセットし戦闘準備を整える。
陸斗も意を決して戦うことにした。まだ、ロックゴーレムがどれくらいの強さなのかわからないが、これは腹を括って挑むしかない。
戦闘準備が整った二人は、霧香の合図で茂みから出ることに決めた。
「三……二……一……」
次第に緊張が高まる。
このゲームになって初めての素手による戦闘が今始まろうとしている。
「――――ゼロッ!!」
合図とともに二人は地を蹴って巨人の前に立ちはだかった。
本当はこの話の中で戦闘まで終わらせようと思ったんですが、結構長くなりそうだったので分割することにしました。次回の投稿はなるべく早くします。




