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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第2章 第二弾アップデート――[スキル]実装――
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初めての料理~柚季side~

お久しぶりです。少しの間更新ができずすみませんでした。

遅れた理由は活動報告の方に書いてあります。言い訳程度に読んでみてください。

 結局、美姫はクエストを受けないまま、食材探しに森へと入っていった。

 もう何度も訪れた森。ある程度の地形は頭に入っているほどに通いなれている。

 しかし、それでも食材として挙げられたモンスターや採取アイテムは聞いたこともなかった。

 そのため、今回は既に[料理人]スキルを取得している啓太を先頭に歩いている。

 今回、食材として挙がったものはなんとなく名前でわかるが、現実世界にもあった食材等の名前が絡んでいる。ほとんどが聞いたことのある名前ですぐにピンと来たのだ。

 柚季が食材のイメージをしていると、途端に啓太が声を上げた。


「あっ、見てください。あれがオリーブキャベツです」


 そう言って啓太はほとんど草木に紛れ込んでいる球状に近い物体を指さす。

 緑色のそれは、明らかにキャベツだ。


「じゃあ、あれを採って来ればいいのね?」


 そう言ってオリーブキャベツを採りに行こうとする美姫を啓太が慌てて止める。


「ちょっと待ってください。オリーブキャベツは後にしましょう」


「どうして?」


 啓太の言葉に疑問を持った柚季が訊ねた。


「この世界でも食材には"鮮度"があって、時間が経つと腐ったり質が下がったりするんです。特にオリーブキャベツのような野菜としての食材は採取してからの鮮度が落ちやすいので、最後に採った方がいいんです」


「へぇ、詳しいのね。まだ料理人になってからそんなに時間経ってないんでしょ?」


「はい……。この鮮度の問題で何度も失敗したので、町のNPCから聞きました」


 啓太の料理人としての知識は、現実で培われたものでない。現実とは勝手が違う部分もあるため、知らないことばかりだ。しかしそれでも啓太は、自分なりに聞き込みをしたり自分で工夫したりして知識を得てきた。それを惜しげも無く他人に話すのだから啓太の心の器はかなり広い。


「ってことは、先に他の食材を探した方がいいのね。それじゃ、まずはマッシュピッグあたりから探してみましょうか」


「そうですね。マッシュピッグなら鮮度も落ちにくいので、早めに採っておいても大丈夫です」


 すっかり啓太は、このパーティに馴染み、今まで感じていた隔たりは少しずつ消えていくようだった。

 今では、啓太が柚季たちの先生役のような立場になっているのもそういった壁を感じなくなっていっているからだろう。

 それを微笑ましく思った柚季は、啓太と美姫が次の食材を探しに行こうと歩み出したのに合わせて、柚季もまた一歩を踏み出した。



□ ■ □



 それから歩くこと一時間ほど。三人はようやく目的のモンスターを見つけた。

 いきなり逃げられないように茂みに隠れて様子見をしている状態だ。


「ねぇ、あれがマッシュピッグなの?」


 声量を抑えた声で柚季が啓太に尋ねる。


「はい。あの小さいフォルムはマッシュピッグに違いありません」


 返ってきたのは断定だった。


「でも、あれって子どもとかじゃないの? あんなに小さいし」


 美姫は訝しげな表情で啓太に確認をとる。


「いいえ。あれでも立派な成体ですよ。その証拠に頭に生えてるキノコを見てください。ちゃんと傘を開いた状態です」


 そう言われて注視してみると、淡いピンク色の小さな身体があり、そしてまた小さな頭部には顔と同じくらいのキノコが付いている。

 傘部分は見慣れたあの茶色で、白い茎部分と、本当にピッグの上にマッシュが付いているモンスターだ。

 それが五体集まっている。あのような小動物は集団行動で身の危険を減らそうとする。柚季もできれば害を与えず伸び伸びと暮らしてほしいと思うが、こちらとしても譲れないところがある。

 弱肉強食。食物連鎖。避けられない関係が今、柚季たちとマッシュピッグの間にある。

 意を決した三人は、食材に感謝の気持ちを忘れないよう、必要な分だけ狩ることにした。


「そろそろ行きましょう」


 声を潜めた啓太が二人に告げる。右手の銃を握る力が少し強くなる。


「……三体だけでいいんだよね」


「そうです。無駄な狩りはやめましょう」


「それを聞けて良かった」


 最後に確認をとると、柚季は少し安堵した。五体の内三体だけでいいのだ。

 柚季だけでなく美姫も啓太も現実で生きた動物を食材に加工したことはない。


「一人一体。いいですね?」


「わかった」


「うん。いいよ」


 静かに深呼吸をして、意識を集中させる。

 できれば一発で終わらせたい。

 普通のケルキなどのモンスターならここまで気を遣わないだろうに、なんだか妙だ。

 柚季は迷いを振り払うように軽く頭を振った。


「僕が合図したら行きますよ」


 二人は静かに頷く。


「――――ゴーッ!」


 三人は一斉に茂みから飛び出した。

 突然の物音にマッシュピッグは慌てふためいた様子で散開し始める。

 だが、柚季、美姫、啓太はその退路を塞ぐようにしてマッシュピッグ三体の前に出た。


「……ごめんね」


 そう呟いて柚季は、引き金を引いた。



□ ■ □



 そうして、狩りと採取を繰り返し、全ての食材が集まったのは、日が暮れ始めた頃だった。


「かなり遅くなってしまいましたね」


 狩りや採取は終わったが、今日はこれで終われないのだ。

 普通のクエストだったならば、キリのいいところで終わっても問題ないのだが、今回はそうもいかない。

 食材が関係している今クエスト。続きを明日にすればいくつかの食材の鮮度が落ち、料理に使えない状態になるらしい。

 これは啓太からの情報で、採取と料理はなるべく同日に行う方が良いということらしい。


 柚季たちは、比較的平坦な岩を探し、そこを緊急用台所とした。当然、岩には布を掛け、食材には触れないようにしている。

 

「じ、じゃあ、料理、始めるわよ」


 緊張気味な柚季は震える手でまずは、[料理人]スキルの仮免許をセットする。そして同時に簡易調理セットも出して着々と準備を進める。

 目の前に調理器具と食材が並ぶと、不思議と柚季の脳内にレシピが思い浮かんだ」


「キノコとベーコン入りオムレツ」


 料理名を呟くと、柚季は即座に行動に移った。


「え、何、どうしたの?」


「料理人スキルが発動したんです」


 美姫の疑問に啓太が答えた。啓太も同じスキルを持っているので、柚季の手捌きに見覚えがあったのだ。


「スキルが発動すると、無意識でもそのスキルの動きをするんです。だから、料理をやったこともない人や下手な人が作っても同じような料理ができるんです」


「へぇ〜そうなんだ。便利なものね。……そんなことならアタシもやっぱり料理人スキル取っておいた方が良かったかもな〜」


 ここから先は柚季が頑張る番で二人は見守ることになる。啓太と美姫は、柚季の綺麗な手捌きで料理するのを少し離れたところから見た。


 柚季はまず、簡易コンロの上に乗せたフライパンに細かく刻んだオリーブキャベツを半分投入する。

 すると、キャベツから肉汁のようにオリーブオイルが流れ出した。これはキャベツが含む水分の代わりにオリーブオイルが入っているからだ。

 キャベツから十分にオリーブオイルが出たところで、キャベツをフライパンから取り出す。


 次に薄くスライスしたマッシュピッグの頭部のキノコとベリーベーコンをフライパンに投入。見た目はそのままキノコだが、オリーブオイルの敷かれたフライパンの上で立てる音は、豚肉を焼く時と変わらない。これがマッシュピッグたる所以なのだろう。

 ベリーベーコンは、少し甘みを含んだ肉、という印象だ。この、ベリー、というのは、ブルーベリーやストロベリーなどから来る言葉だが、それほど甘い訳ではない。肉の甘みというのを強めたような食材だ。

 キノコとベーコンによく火が通ったら、塩コショウで味を整える。

 それからまた軽く火を通したところで、キノコとベーコンを皿の方に移す。


 空になったフライパンにあと半分のオリーブキャベツを投入し、オリーブオイルを流し出す。

 そして、キャベツを取り出し、ボウルにダブルエッグチキンの卵を割り、中から二つの黄身が零れ落ちる。これで溶き卵を作るのだ。

 このダブルエッグチキンは中の黄身が必ず二個入りになっている珍しい卵なのだ。

 その為、狩りで一番探すのに時間が掛かった食材でもある。別のドロップでチキンの肉の部分もあるのだが、今回はそれは使わない。


 フライパン全体に溶き卵を流し込み、オムレツの生地を作っていく。溶き卵にはあまり調味料などをいれてないが、甘い匂いが漂ってくる。片面を焼いたら、先ほどの炒め物を卵の上半分に乗せる。

 そしてフライパン返しで卵を半分に折り、キノコとベーコンを卵生地で包み込む。

 それから少し火を通してから、皿に移して、完成。


「出来た!」


 柚季の手には、純白の皿の上に映える、夕日を孕んだかのようなキノコとベーコン入りオムレツ。

 素人が作ったようには見えないその出来栄えに美姫は絶句した。


「…………」


 作った本人である柚季でさえこの出来栄えには驚いている。

 二人が初めての料理に目を奪われていたところに啓太が水を差した。


「それでは、早く町に戻りましょう。出来上がった料理は、食材よりも早く悪くなるので」


「料理は出来立てがおいしいものね」


 クエストはまだ続く。依頼主のヤスハにこの料理を審査してもらわなければならないのだ。

 出来はいいはず。そう自分でも思える自信作だ。

 これなら、きっと合格できるはずだ。


 

お読みくださりありがとうございます。

今回は初めての料理シーンでした。むずかしいです。

作者自身はあまり積極的に料理をするほうではないですが、作品内に誰かひとり料理ができる人が欲しい! ということでこの話を作ることになりました。

料理シーンについてのアドバイスやこの作品を参考にするといいよ、というのを感想欄やtwitterでも募集してます。

ぜひ次話も読んでくださるとうれしいです。



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