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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第2章 第二弾アップデート――[スキル]実装――
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限定イベント:七夕に願いを

 ――七月七日、未明。


 この日、生存する全プレイヤーが驚愕の表情でログウォッチを食い入るように見つめることになった。

 そこには、本日更新されたアップデート内容が表記されていた。

 内容は以下の通りだ。


【第二弾アップデート内容

 本日、新システム導入アップデートが完了しました。

 ・新システム[スキル]の実装

 ・それに伴って『スキル専用クエスト』の実装

 ・ビークルショップ、ベッセルショップの開設

 ・ショップアイテムの追加

 ・一部のモンスターの上方修正


 [スキル]の説明

 [スキル]とは《独弾ユニークバレット》に次ぐ新しいシステムです。《独弾ユニークバレット》と違い、常時発動状態になるので銃とは関係ないものが多いです。

 今回実装される[スキル]には約二千種類あり、全ての[スキル]には、習得可能人数が設定されています。一人だけだったり全員習得可能だったり様々です。

 種類も戦闘系、サポート系、日常系など様々なので"こちら"から確認ください。

 [スキル]習得には今までのようにNPCからクエストを受注します。そしてクリアすることで習得完了となります。クエストが一つか複数かは習得する[スキル]によって変わります。

 他には[スキル]所持プレイヤーをキルすることで、その中から一つランダムで習得することも出来ます。

 自分が習得できる[スキル]には上限があり、五つまでとなっています。

 そして習得した[スキル]は、削除または譲渡などは出来ないのでよく考えて選んでください。

 自分が習得している[スキル]は、利き腕の肩にシンボルマークとして記されます。

 説明は以上となります。

 それでは、これからも良いバレットライフを。】



□ ■ □



 ――七月七日、午後一時過ぎ。


 陸斗、柚希、美姫はフロントグリップに来ている。ここは商業として栄えている町として有名だそうだ。先日陸斗たちがお世話になっていた村――ハンセルに定期商人を送っていた町でもある。


 陸斗の洞窟修復作業は十日ほどで完了し、『東の洞窟』は開通した。それからは陸斗も柚希たちと一緒に資金集めに参加することになった。

 それによって、陸斗は一〇五〇〇いちまんごひゃくウェル、柚希が一二七〇〇いちまんにせんななひゃくウェル、美姫が一三〇〇〇いちまんさんぜんウェル分貯まった。


 対象は換金率の高いモスビーにしていた。ドロップする<モスビーの蜜>がアイテム屋で売却するとかなりの金額になるからだ。

 ほぼ一日中森にこもってモスビー狩りをしていると、いつの間にかこんな金額になっていたのだ。

 これだけの金持ちになったのにも関わらず宿泊はずっと三人同室だった。そこには美姫が「一人ずつ宿泊するのはもったいない!」という意見があったからだ。

 最初の頃の金無しの期間が嘘のように裕福な懐となった。それは確実に三人の実力が上がっていることも示していた。


 そして予め決めていた、ある程度の資金が確保できたら次の町に行こうということで今に至る。

 この町にやって来たのはつい最近で六日前だ。

 だいたいこの町については知り尽くしたので、ここを拠点に活動している。


 商業の特色があるだけあって、露天商が多い。アイテム屋だけでなく、その他の細々としたアイテムも露天商で売り出している。

 何もアイテムだけではない。占い、マッサージ、理容などもたくさんある。

 そういった店も見るとなると、到底一日では回りきれない。

 今まで通った街や村と違い、活気があり、NPCの数も多く、これぞゲームといった感じの町として陸斗の認識に刻まれている。


 そして、現在このフロントグリップではプレイヤーたちが忙しなく右往左往している状態にある。

 それは本日このフロントグリップ限定のイベントに関係する。

 【限定イベント:七夕に願いを】

 これはイベント期間にだけ出現する、ヒコボシ人形・オリヒメ人形がドロップする<短冊>を町の西端にある<星海の笹>に運ぶのが一連の流れだ。


 それで現在プレイヤーが忙しなくイベント周回をしているのかは、このイベントの報酬と難易度の高さから由来する。

 まず、報酬はそのドロップした<短冊>に書かれている願い事となっている。そしてその願い事というのがランダムで種類も多用である。アイテム、お金、確定占い、そしてポイントなど。


 これならプレイヤーたちも血眼になってイベント周回するのも納得できる。

 ヒコボシ人形、オリヒメ人形自体は弱く、攻撃してくることはない。それ故に<短冊>をドロップさせるのは難しくはない。


 次に手に入れた<短冊>を町の西端の<星海の笹>に持っていく。

 遊歩道沿いに海が臨む高台があり、そこにその笹は存在する。――しかし、笹は地面から生えているわけではない。

 海中から生えている笹は高台よりも低く、到底人間の手では届かない。


 そこでこのイベントの最難関のゲームが始まる。

 届かないのなら投げて付ければ良い、という発想は早々にプレイヤーたちに伝わり、『輪投げゲーム』が開催されている。


 <短冊>の上部はこのゲームに誘導するためなのか、輪っか状になっている。

 これを遥か下の笹に引っ掛けるというのだ。

 海風が吹き抜ける高台で素直に引っ掛かるわけもなく、みんな悪戦苦闘しているのだ。

 そしてついでに言うと、<短冊>は一度に一つしか所持することは出来ず、ドロップして高台まで行った 後、失敗すればまた<短冊>を取りにいかなければならないというなんとも面倒臭い仕様である。



□ ■ □



 陸斗たちが高台に着くと、そこには大勢のプレイヤーが輪投げに熱中している。

 外れた者は泣き叫びながら町の方に戻っていく姿が見える。

 人が少なって空いた場所に陸斗が割り込む。

 今朝の九時から始まったこのクエスト。陸斗たちはこの高台と森を往復すること十三回を経てここにいる。その間に成功した回数は三人ともゼロだ。

 陸斗は今どれくらい成功した者がいるのか確認すべく高台より身を乗り出す。


「あー、まだ五人か……」


 これは前回より変わっていない。

 <星海の笹>は枝の一本一本が上を向くようになっており、そこに赤い短冊が三つ、青い短冊が二つ掛かっている。願い事の内容は判別出来ないが、成功した者はさぞかし嬉しかったことだろう。


「どうだった、陸斗?」


 また人が少なってきた所にもう一人の仲間が陸斗に声を掛ける。


「ああ、まだ五人しか成功してなかった。やっぱり難易度たけーよな」


「うーん、輪投げったって、これ、夏祭りのそれとは違うわ。こんな崖からほぼ垂直に約十メートル下の枝に引っ掛けるなんて天才か豪運持ちしかいないわ」


 そうだな、と陸斗は柚希の言葉に頷き、苦笑いを浮かべる。

 そこにまた一人人が空き、入れ替わりに人が入ってくる。


「んじゃ、アタシも挑戦しようかな――ッ!」


 突然現れた美姫が豪快に腕を振り上げ、手に持つ<短冊>を思いっきり振り切った。

 初速の乗った<短冊>は海風に吹かれようともあまり影響を受けず垂直に下降していく。

 これは行ったか、と思ったが、途中から減速し、海風をまともに受けて狙いとはかなり離れ海に沈んでいった。


「あちゃー、やっぱり無理かー」


「まあ、そう気を落とさずまた頑張ろうぜ」


 陸斗は美姫にそう言って、自分も<短冊>を構える。先程の美姫と同じように腕を振り上げ、振り下ろすタイミングを見計らう。

 海風が陸斗の頬の横を吹き抜け、一瞬の無風状態が訪れる。


「――今だッ!!」


 力を溜め込んだ右腕を勢いよく振り下ろし、<短冊>を真下の笹に投げつける。

 先程よりも大きな初速が乗り、それに加えて今はめったに来ない無風状態で、減速させる要因は無い。


「これは――」


 やったか!? などというフラグじみた言葉は発さない。それほど念入りに準備を重ねているのは<短冊>の願い事に関係している。

 <短冊>が笹まで三メートルの距離に迫る。


 そしてそれは起きた。

 風はない。ましてや銃で短冊を撃ち抜くなどという厄介者もいない。

 しかし陸斗の考えが一歩及ばなかった。

 高台の崖に打ち寄せる波がちょうど勢いが強い時、打ち上がった飛沫が<短冊>に掛かり、僅かに<短冊>の速度を減速させた。

 <短冊>に先程の鋭さはなく、ヒラヒラと一枚の紙切れのように次に来た海風に流され、何も無い水面に着水し沈没した。


「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! 俺のアサルトライフルのリングがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 陸斗の悲痛な叫びは波が岸に打ちつける音に掻き消えた。


「……ま、まあ、ランダムにやって来る波が相手だと仕方ないよ」


 柚希が慰めの言葉を掛けるが、両手を地につけ打ちひしがれる陸斗に届いたかは分からない。

 それほど陸斗にとって欲しい報酬だったのだろう。

 陸斗が先程言っていたが、リングも報酬に入っていたのだ。そしてそのリングが弾数が多く、あの洞窟の時にかなり役に立ったアサルトライフルなら陸斗が欲しがるのも無理はない。

 柚希も<短冊>を投げたが美姫と同様、速度が足りず海風に流され海に落ちた。

 柚希の方は特に欲しい報酬でもなかった為、悔しがることはなかった。



□ ■ □



 陸斗たちは再び森へ行き、ヒコボシ人形とオリヒメ人形を探しに来た。

 あれから二十五回試したがやはり成功せず、三人の間に諦めの雰囲気が漂っていた。


「もうやめなーい? このイベントさ、成功者はまだ六人しかいないんだよ?」


 陸斗たちが二十回目の時に六人目の輪投げ成功者が現れたのだ。

 確かにこのイベントは達成者の少ない非常に難易度が高いものである。いくら報酬が良いものだってこれではプレイヤーの意欲も削がれてしまう。

 

「それよりさ、[スキル]について考えた方がいいんじゃなーい?」


「そうよね……。[スキル]ってたくさん種類があるけど、習得人数が設定されてあるんでしょ? それなら早目に決めた方がいいと思う」


 美姫の不平についに柚季も乗っかってきた。これでは陸斗が異端者のようだ。

 仕方ない、と頭をがりがり掻きながら二人の意見に応えることにした。


「[スキル]には……まあ、ある程度の目処は立ってるんだ」


「なら、早く取りに行った方が……」


「人数とかに関しては大丈夫なんだ。設定人数が多かったり、誰も選ばないだろうってものにしたから」


「誰も選ばない……? まあ、いいわ。なんでそこまでこのイベントに執着するのかしら?」


 陸斗にとって一番訊かれたくない質問を突きつけられて、一瞬表情が引き攣った。

 しかしそれも含めて覚悟をしたことだから、ということで陸斗はやや頬を赤らめて言った。


「じょ、女子と七夕っぽいことをしてみたっかたんです……」


「は?」


「はい?」


 美姫と柚季が見事にハモった。予想外の返答に二人は唖然としたのだ。

 若干もじもじとしながら言う陸斗の姿はまるで恋する乙女の仕草のように見える。

 早くも理解に達した美姫はニヤニヤと悪い顔をして陸斗に近づいた。


「ふーん。りっくんはアタシら女子と七夕っぽいことしたいんだ~?」


「うっ……」


 何故か復唱されると途轍もなく恥ずかしい。

 そんな様子で身悶える陸斗を見て楽しむ美姫はまるで玩具を与えられた子供のようだった。


「りっくんは今まで『女子』と七夕したことないの~?」


「……は、はい」


 そしてタチの悪いことに美姫は徐々に声を大きくしているのだ。陸斗からしてみれば、もう止めてくれ、と言いたいだろうが、上手く的を射過ぎているので反論の余地もない。


「み、美姫ちゃん……そろそろ……」


 事態を察した柚希はなんとか仲裁に入ろうとする。そこにまた一つ美姫の言葉が投下される。


「まっ、それもいいんじゃない?普通の男子高校生らしくて!」


 陸斗の顔がリンゴになりかけていた時、美姫の嫌味な煽りのトーンが下がった。


「まあ、そりゃあね。こ~んな可愛い美少女を二人も侍らせておいて下心なんてありません、なんて言い出したらぶん殴っていたわね」


「あ、あはは……」


 背筋にゾクリと悪寒が走った。どうやら本音を暴露して正解だったらしい。


「だったら、どこへでも連れて行きなさいよ。アンタの望む七夕ってのをアタシたちが叶えてあげるわ。ね?」


 誇らしげに胸を張り――起伏はなかったが――言うと、柚希にも視線を送った。

 突然注目を集めた柚希はあたふたしながら応える。


「え、ええ。いいわよ? 私もその陸斗の下心に付き合ってあげるわよ!?」


 微妙にニュアンスが違うようにも感じるが、柚希も賛成らしい。


「ありがとう……ありがとう……」


「な、泣かなくてもいいじゃない!」


「泣いてねーよ! ……これは、疲れの汗だ!」


 見苦しい言い訳もなんとか通り、陸斗の涙は流された。



□ ■ □



「急げ――――ッ!!」


「ちょっ、待って、待ってってば!」


「もう! なんでこんな時間までのんびりしてたのよ!!」


 三人は森を駆け抜け、町中を走破し、高台を目指していた。

 時刻は午後八時五十分。

 イベント終了まで残り十分しかない。

 陸斗たちはついさっきまでヒコボシ人形・オリヒメ人形を探していたのだ。


「なんで、あんなに人形がいなかったんだよ!!」


「そりゃあ、皆が人形狩りしてたからでしょ!!」


「きっとリポップする時間よりも皆が狩る方が早かったのよ!!」


 叫びながらも三人は速度を落とさず、<星海の笹>を目指す。

 やがて高台にいるプレイヤーたちが視界に入る。


「見えた! あと少しだ!」


「これ間に合うのかな~?」


 美姫の心配も無理はない。高台には溢れんばかりのプレイヤーが群がっていた。

 皆もイベントのラストスパートを掛けているのだ。

 人混みを掻き分けてでも行くしかないと覚悟した、その時――、


「――痛っ!」


 背後から短い悲鳴が上がり、振り向くと柚希が転がっていた姿があった。近くに太い根があるのを見てそれでコケたのだろう。

 手に握っていた<短冊>もコケた時に風に流され、陸斗たちの上を通り過ぎた。


「行って! 早くしないと時間切れになっちゃう!!」


 柚希の言う通り、残り時間は既に五分を切っている。今から走って人混みを分け入る時間があるかも怪しい。


「……ごめん!」


 それでも柚希が先に行けと言うから時間を無駄にすまいと陸斗は踵を返した。人混みに突入。

 掻き分けても掻き分けても前に進んだ気がしない。あちこちで輪投げゲームの失敗で嘆く声が響く。

 状況から察してまだ新規の成功者はいないようだ。


「くそっ……これじゃ輪投げゲーム参加もできないぞ……!」


 気が滅入りそうになるほどの人数に足が止まりかけた時、突如として風が吹いた。

 背後から吹きすさぶ風に一瞬皆が固まる。


「……あれは」


 そして皆の視線が一点に集中する。

 プレイヤーの頭上に一枚の紙切れが風に乗って漂っていた。

ユラユラと揺れる赤い紙切れ――柚希の<短冊>が空中に漂うのを皆が言葉を失いながら見つめている。


「…………」


 沈黙。

 誰一人として声を出さず、その<短冊>の行く末を見送る。

 やがて風が一瞬止むと、<短冊>は次に下降し始めた。

 地に落ちるでもなく高台より海に流されていった。

 するとやはり、このゲーム最難関である海風がやって来た。

 下降しながら海風に揉まれる。右へ左へ。

 ヒラヒラと流れ流され。

 皆が崖下にある<星海の笹>に注目を寄せる。

 そして誰もが予想だにしない出来事が起こる。

 風に揉まれながら下降する<短冊>が<星海の笹>の天辺の枝にストンと綺麗に引っ掛かった。

 あまりに自然な動きで引っ掛かった<短冊>を目にして周囲のプレイヤーは唖然とする。

 そして、何処からともなくアラームが鳴った。

 それが何のアラームなのか分からないが、何かの合図だと判断する。となると、何の時間が一番当てはまりやすいかと言うと――。


「……イベントが、終わった……」


 誰かがそう呟き、途端に皆の思考が再開される。


「うおぉぉぉぉぉぉぉ!! 終わったぁぁぁぁぁ!!」


「なんじゃありゃぁぁぁぁぁ!!」


「誰が飛ばしたんだ!?」


「新しい[スキル]の効果かしら!?」


 周囲から感動の声と達成感に満ちた声などが混じった叫びが辺りに響き渡る。

 残念ながら最後に陸斗と美姫が輪投げすることは出来なかったが、先程の奇跡を見れば何故か知らないが達成感にも似た感動が押し寄せてくる。


「おい! 笹が、<星海の笹>が!」


 そんな中、崖を見下ろす誰が叫んだ。

 数人が惹かれ、同じく崖下を覗く。

 すると、崖下からグングン伸びてくる<星海の笹>が見えた。それはすぐに高台の高さを超え、天空に突き抜けるかのように伸びていった。

 感動の叫びを上げていたプレイヤーもその異様を目にし、思わず沈黙してその笹を見つめる。


「これが、<星海の笹>の本当の姿ってことか」


 陸斗と美姫は今回の奇跡の成功者――柚希を起こしに人混みから少し外れた所まで下がっていた。

 柚希の肩を担ぎながら三人はその夜空に広がる天の川と重なるように聳える笹を見つめ、そう言った。



□ ■ □



 コケた柚希の傷は浅く、すぐに自分で歩けるようになった。

 それから三人は海岸沿いの遊歩道まで移動。

 あまり人がおらず、静寂な空間が出来上がっていた。

 三人は遊歩道に設置されてある手すりに寄りかかり、天の川を眺めている。


「綺麗ね」


 柚希が天の川を眺めながらそう呟いた。


「そうね。リアルの時よりも綺麗」


「リアルだと街の明かりとかで星が見えなかったりするからな」


「もう! 急に現実的なこと言わないでよ! もうちょっと幻想的とか感想はないの!?」


 陸斗の発言に柚希が食ってかかる。


「そうだな、確かに幻想的で綺麗だ」


「でも、天の川ってギリシャ神話辺りでは乳って見るらしいわよ」


「ぶふっ! ちょっといきなり変な事言わないでよ! 普通に日本的な意味で見てください!」


「柚希ってば顔真っ赤~」


 むきー、と柚希は怒る。そしてそれを美姫がからかう。

 いつもの風景。

 退屈しない毎日が続き、毎日が新しいことの発見の連続。

 現実では体験できない事ばかりが日常を彩る。

 心のどこかで、この世界にやって来れて良かったと思っている自分がいる。


「どうしたの、陸斗?」


「にゃ~んで笑ってんにょよ」


 見れば柚希が美姫の頬を引っ張っている状態だった。

 突然そんなことを言われてそっと口元を触れてみる。

 すると、僅かに口角が上がっている口があったのだ。


「陸斗はこれで良かったの?」


「え、何が?」


 また突然違う質問をされてやや戸惑う陸斗。


「りっくんの言ってた『女子と七夕っぽいことがしてみたい』のやつよ」


 地味に途中のセリフを陸斗風に言っているのがムカつく。後で俺も美姫の頬をつねっておこう、と陸斗が密かに思っていると、柚希が重ねて言った。


「私たちみたいなので良かったのかな~と思って」


 柚希はやや自嘲的な笑みを浮かべている。

 陸斗は慌ててブンブンと首を振った。


「いやいや、柚希と美姫だったから良かったんだよ。ほかの女子とかだったらこんなに楽しくなかったと思うし……」


 即興の言い訳は考えてみたらかなり恥ずかしいことだった。それに後で気づいて陸斗は少し頬を赤らめる。


「まず、陸斗にほかの女子が寄り付くのか~?」


「美姫、後でほっぺつねりの刑だから覚悟しとけよ」


「は? ちょ、なんでそんな笑顔で言ってんのよ! いや、待ってホント待ってぇぇぇぇ!!」


 陸斗が美姫を追いかける。

 これを傍目から見れば幼い子を追いかける危険人物だ。これもいつもの風景。

 何も変わらない。それが一番安心できる。


「この関係がずっと続きますように」


 あの赤い<短冊>に書いてあった願いをもう一度口ずさみながら、再び柚希は天の川を眺めるのであった。




今回は季節外れなネタですみません。

作者もいつかこんな甘い七夕を過ごしてみたいものですw

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