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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第1章 第一弾アップデート――《独弾》実装――
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オンリークエスト:巨大蜘蛛退治(5)

 陸斗が一歩踏み出す。

 瞬間、周囲の緊迫感が一気に増したように感じられた。


「――――ッ!?」


 無意識で陸斗はバックステップしながら右手の拳銃を前方――グランドタランチュラに向け、発砲した。

 それと同時に巨大蜘蛛はあるはずのない声帯から雄叫びを放つ。


『ギィィィィィィィィィィィ!!!』


 陸斗の放った銃弾は巨大蜘蛛の上背に命中し、キンッと硬い音を鳴らす。

 巨大蜘蛛の横に三本の緑色のラインが引かれる。

 それは、「HPバー」だった。

 さっきの攻撃がダメージに入っていたのか確かめるため、陸斗は目を細めて巨大蜘蛛のHPバーを見つめる。


「たったあれだけか……」


 減少したHPは微々たるものでダメージとは言えない。

 もう一発放とうと銃を構えた時――。


「な、何これ!?」


 声を上げたのは美姫だ。

 足元に微かな振動が伝わる。それは徐々に大きくなり、明確な揺れとなって陸斗たちを襲う。


「あれ見て! 何か来る!」


 柚季の指さす方向に目をやる。

 すると、洞窟の入口の方から何かがやって来る気配が伝わる。

 暗闇の中に光る紅い点の集団。


「くっ! やっぱり参戦するのかよ!」


 悪態をつきながら陸斗はそのやって来る正体を悟った。

 ――タランチュラ。

 小型の蜘蛛は、蜘蛛の子を散らすとは逆方向に向かっていた。まるで、親蜘蛛に集まってくるようだ。


「美姫! 作戦通り頼む!」


「はいよー!」


 しかし想定外というわけではない。これも予想の範疇だ。

 美姫は腰のポーチに手を突っ込む。

 このポーチは村で陸斗が<火炎玉>を買う際、一緒に買ったものだ。質量に関係なくアイテムを収納できる小型のポーチは大量の<火炎玉>を保管するのに適していた。

 一応、<火炎玉>は全員に配ってあるが、割合的に言えば、美姫が一番多い。

 陸斗と柚季は最低限の所持として五つずつ持っている。残りの<火炎玉>は美姫に渡しておいた。今回美姫には<火炎玉>を中心に扱うサポート役として配置させている。

 これはテクニックやクエストの関係を考えて陸斗が決めたことだ。

 ちなみに陸斗と柚季はグランドタランチュラを専門に攻撃する配置となっている。


「燃えろー!」


 美姫の言葉とともに左手に握られた五つの<火炎玉>が洞窟の床に撒かれる。

 瞬間、ボウッ! と音を立てて洞窟内を照らすようにオレンジ色の炎が巻き起こる。<火炎玉>の持続時間は一分。

 炎の奥では小型の蜘蛛が断末魔――声ではなく、タランチュラの甲殻が焼け砕ける音――を上げながら無慈悲な焼失を繰り返している。

 美姫がタランチュラを引き止めたのを確認すると、陸斗たちは前方の巨大蜘蛛に向き直る。


「さあ、俺たちもやるぞ!」


「うん!」


 陸斗が駆け出す。

 右手の拳銃を天井にいる巨大蜘蛛に固定したまま、駆け抜ける。

 そして、二人の発砲が始まる。

 連続して起こるマズルフラッシュが洞窟内を炎とは別に明るく照らした。

 出し惜しみなんてしていられない。全弾を使うつもりでトリガーを引く。



 拳銃の装填弾数は全部で十五発。そして一発あたりの自然回復は一分。普通に全弾使えば三十秒と保たないだろう。

 その為に、陸斗はノブたちから《通弾ノーマルバレット》を借りたのだ。自分たちだけの《通弾ノーマルバレット》だったならば、おそらく一日くらい掛かるだろう。



 ある時、洞窟内の銃声が止んだ。

 この時点で巨大蜘蛛のHPバーは一割ほどしか減っていない。


「柚季、次の《通弾ノーマルバレット》に変えるんだ!」


「わかった!」


 二人の呼応が交わされた後、人差し指に嵌っている《通弾ノーマルバレット》のリングを取り外す。そしてリングをポケットに捩じ込み、新しいリングを取り出す。



 リングを別々にしていたのは二つのリングの誤作動を防ぐ為だ。本来、一人が同じリングを持つことはない。

 音声認識のアイテムは個数に関係なく、認識されればそれらは全て反応し、能力を発揮する。

 これは陸斗自身が試したことだが、利き手以外でトリガーを引くことは出来なかった。例外として、両手銃(狙撃銃、アサルトライフル、ショットガンなど)は左手の使用も許されている。



 ――《開弾オープンバレット》。

 本日二度目となる音声認証。リングが光を放ち、形を成していく。

 陸斗の手にはアサルトライフル。柚季の手には黒い拳銃。

 陸斗の持つアサルトライフルは賢二から借りたものだ。この三人の中で両手銃を扱えるのは陸斗しかおらず、そのまま所持することになった。

 柚季の拳銃はノブの持っていたダブルアクション式の拳銃だ。そして、美姫は遙からシングルアクション式の拳銃を借りている。

 初期装備のアサルトライフルは装填弾数七十五発。銃身は短く、コンパクトサイズだ。

 陸斗は両手銃を右手がトリガーにくるようにして持つ。



 そしてその銃口を天井の巨大蜘蛛に向ける。

 人差し指に力を込めた。

 直後、闇を切り裂く光が巨大蜘蛛を襲う。

 陸斗の拳銃と賢二のアサルトライフルは同じく初期装備の為、威力は変わらないが、弾数と連射速度は拳銃の比ではない。

 柚季も遅れて発砲に取り掛かる。

 相変わらず、ダメージ量は少なく、効率は最悪だ。


(何処か、弱点になる所はないのか……!)


 陸斗は射撃を一点に絞らず、少しずつ的をずらしながら撃っていた。 グランドシリーズには巨大な身体と低級モンスターの従属というチートじみた能力を持っている。しかしその反面、受ければ確実に大きなダメージを与えられるウィークポイントが設定されている。

 『撃退モード』の時に戦ったグランドケルキのウィークポイントは百本ある枝の根本に設定されていた。

 しかしその弱点を狙おうとしても、ほとんどの銃弾は羽虫の如く、グランドケルキの枝攻撃によって薙ぎ払われた。

その時と同じように、このグランドタランチュラにも大ダメージを狙えるであろう弱点があるはずなのだ。



 しかし、陸斗の持つアサルトライフルではそれを見つけるのに弾数が少なかった。

 銃声が止む。


「くっ! もう弾切れか……」


 陸斗と柚季の弾切れはほぼ同時だった。

 二人にこれ以上の攻撃手段は持ち合わせていない。

 サッと陸斗は美姫に視線をやる。

 美姫は自分の拳銃で炎の隙間からやって来る小型蜘蛛の対処をしていた。


「美姫! 一時退避するぞ!」


「オッケー! すぐに行く!」


 美姫もすぐに陸斗の指示に気づき、最後の小型蜘蛛を撃ち抜く。

 小型蜘蛛の足止めとなっていた炎は徐々に勢いが落ち着き、今にも消えそうになっていた。


「二人は先に奥の方に行ってくれ! 俺も後から来るから!」


 死亡フラグにも聞こえそうな陸斗のセリフに二人は指摘する間もなく、闇の向こうに駆けて行った。

 しかし陸斗のこの発言はフラグには繋がらずに終わる。


「《権破アカウントブレイク》」


 静かに唱えられる独弾名。

 右手中指に嵌められている白銀のリングが光り輝く。

 それと同時にタランチュラを止めていた炎がパッと消える。<火炎玉>の持続時間が過ぎたのだろう。

 しかしそれでも陸斗の表情に焦りの色は見えない。

 再度呼び出した拳銃に《権破アカウントブレイク》のマガジンを押し込む。

 陸斗が準備をしている間に、タランチュラの群れは小さな脚を這わせてこちらに近づく。

 スッと前方に銃を構える陸斗。

 その先はタランチュラでもなく、グランドタランチュラでもなく――壁から突き出た岩に向けられていた。

 軽く引き金を引く。

 銃口から青白い閃光がほとばしった。

 閃光の銃弾はタランチュラの上空を通過し、コンマ一秒にも満たない時間で岩石に着弾する。

 直後、激しい爆発のような閃光が周囲を白く染め上げた。

 瞼の裏まで焼くような光を腕で庇う。

 五秒ほどして、視界が白からカラーに戻り始める。

 押し当てていた腕を外すと、まだ視界には残光がチカチカと残っていた。その隙間を目を細めることでどうにか見えるようにして、状況を把握する。

 壁から突出していた岩は綺麗に無くなり、そこにはタランチュラが群がっていた。


「よし、成功か」


 心の中で小さくガッツポーズをとる。

 タランチュラの習性が光に集まることだというのを先日知ってから、この秘策を考えていた。

 秘策が成功したならばあとは柚季たちと合流するだけだ。

 そう判断し、振り返った時――、


「……おい、なんで……」


 回れ右した足は次の一歩を踏めずにいた。

 陸斗の視線は天井の方に注がれている。


「……なんで、お前はそこにいる――!!」


 掠れた声をぶつけた先は、天井に張り付いているグランドタランチュラだった。

 針のように鋭い脚は天井の壁に突き刺さったまま動こうとしていない。

 このグランドタランチュラは普通のタランチュラとは違う習性を持っているというのか。しかし、巨大蜘蛛の紅い単眼は光があった方向に向けられている。

 そういえば、こいつは戦闘が始まってから一度でも動いたところを見ていない。銃弾を撃ち込んでも身動みじろぎ一つしなかった。


「もしかしたら、こいつは――」


「陸斗!! 何やってるの、早く来て!!」


 陸斗の思考を遮ったのは明瞭な高音域の声だった。

 声に釣られて陸斗はグランドタランチュラを無視して柚季たちの走った方向に駆け出した。

 その際、巨大蜘蛛は陸斗を見ることも追うこともしなかった。


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