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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第1章 第一弾アップデート――《独弾》実装――
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再びの疑惑

最近pcの調子が悪く、ついに起動さえしなくなってしまいました。

なので、しばらくは携帯投稿をします。

pcが直り次第マス空けなどの修正をします。ご了承ください<(_ _)>

 酒場を出る時には外は既に暗くなっていた。

 時刻は、午後二十時十分。

 勘定は注文時にされているので改めて会計に向かう必要はなかった。

 結局美姫はテルクを五杯、陸斗と柚季はドリンクを一杯ずつ飲んだだけになった。

 本来の目的は、食糧が無くなり、空腹を凌ぐためにこの酒場にやってきたわけだが。

 これでは、ファミレスにドリンクだけ注文して長時間居座る厄介な客ではないか。

 陸斗たちが居た時間はざっと三時間程だ。その間、陸斗と柚季は美姫が起きるのを待つ時間を使ってクエストの対策を練っていた。

 それでも結局はあまり対策と呼べるほどのものは思いついていない。

 何せ、まだ見ぬアイテムを探すクエストは作戦を立てようもなかった。

 結論では、村の住人に<ドクマリー>の生息を訊き出すということに落ち着いた。

 それからも美姫が目を覚ますのを待ちながら二人は雑談しながら時間を潰していたのだが、美姫はいつまで経っても起きる気配はなく、二十時を迎えた。

 さすがに長居し過ぎと考え始めると、陸斗が美姫をおぶって酒場を出た。




 昨日と比べて夜の広場には声の数が増えていた。

 NPCはいつもと同じように数人がいて、広場を埋め尽くさんとするのはプレイヤーたちだ。

 その声の大きさは騒がしいと言えるほどいろいろな声が上がっていた。ある集団は旅の話で爆笑したり、ある集団は自身のアイテムをトレードしあったりしている。

 ――しかしここにPKをする者は一人もいなかった。

 数日前の都市でこんな空間にいたら銃声が鳴り止まぬ激戦地帯となっていただろう。

 ふとそんなことを考えながら広場の噴水を通過する時、柚季が口を開いた。


「やっぱりみんな、本当は優しい人たちなんだね」


 それは小さな呟きにも聞き取れた。陸斗は体勢がズレてきた美姫をひょいっと持ち直し、そうだね、と呟き返した。


「心のどこかでは『誰も殺したくない』『みんなで仲良くクリアしたい』って気持ちがあったんだろ。それが今、クエストという存在が成し遂げようとしている。そう考えると、俺たちのやってることは正しかったんだなって思えるんだ」


 見上げれば、空には星々が煌めいている。

 星の数は人々の想いの数だけあると聞いたことがあるが、それら全てを叶えたい、なんて傲慢なことは考えていない。その中のたった一つでもいい。その誰かのためにできることを精一杯叶えてあげたい、と最近そう思い始めた。

 その為にもこの一連のクエストをさっさとクリアしてノブに伝えなければならない。

 新たに想いを奮い立たせると、足取りが軽くなったような気がした。




 一昨日、昨日に続いて同じ宿屋に辿り着くと、代金を支払う。

 操作をするため、一度背中におぶっている美姫を下ろそうとした時、柚季は陸斗を制止した。


「陸斗は美姫ちゃんを部屋まで運んでやって。代金は私が払っておくから」


 でも、と言いかけたがそれは口に出さず飲み下した。

 美姫はまだ陸斗の背中で寝息を立てている。

 こんなところで起こしたら悪いだろうから、という柚季の配慮なのだろう。

 こんな時に思うことは美姫に大きな胸がなくて良かったことだ。

 もし当たっていることがわかるほどの胸があったならば陸斗はここまで来ることすらできなかっただろう。

 そこは美姫のまな板に感謝する。……本人としては不本意だろうが。

 陸斗は美姫を背負ったまま二階へと向かった。

 プレイヤーの泊まる部屋は全て二階であることがわかっているため、柚季が支払いを終わらせるまでに上がっておこうということだ。

 木目の階段を登り終えると、左右に長く続く廊下が広がる。

 すると、左側から声が聞こえた。どこかで聞いたことのある関西弁で話す声と、標準語の男女が一人ずつ。


「おっ、ここか。【203】であっとるんよな」


「合ってるわよ。だから、さっさと開けてちょうだい」


「わかっとるわい。そう急かすな」


 カチカチカチ。


「……それ、鍵反対だから」


「わ、わかっとるわい、それくらい」


「ノブって、意外と、天然、だよね」


「賢二まで言うか!?」


 そんな会話を耳にした陸斗は、少しばかり逡巡した後、声をかけることにした。


「あの、ノブ!」


 陸斗とノブは部屋二つ分先の距離で、そこまで声を上げる必要はなかった。


「ん? おっ、陸斗やんけ。――って、その女の子は……すまんかった、俺、気ィ利かなくて」


 何かに気づいたノブは微妙に目を伏せてすまなそうに言った。


「ちょっとノブ!? なんか勘違いしてませんか!?」


「いや、俺はええと思うよ? 趣味嗜好は人それぞれやと思うし」


「だ、だから違いますってば!!」


 明らかに美姫を幼い女の子と間違えている。なんとか、弁解――言い訳とも言う――しなければ、と思ったところに。


「ん〜お兄ちゃんダメだよぉ」


 何か不穏な意味を含んだ言葉が陸斗の後方から紡がれた。

 同時に背筋に悪寒が走った。


「陸斗君って、ロリコンなんだ……」


 部屋のドアに半身を寄せて言うはるか


「だから、違いますってば!! 美姫も本当は起きてるんだろ! お願いだから起きてくれ!!」


「もう……ええんやで。たとえ、陸斗がロリコンでお兄ちゃんプレイが好きな奴であろうとも…………ともだちだ」


 妙に間があったことで、この人絶対に引いてる、と確信してしまった。


「陸斗、階段の上で何騒いでるのよ?」


 すると、下の方から救世主の声がした。

 柚季はゆっくりと階段を登り、陸斗と同じ所まで着いた。


「柚季ちゃんもおったんか」


「お久しぶりです、ノブさん。……って朝も会ってますね」


 微笑を浮かべながらノブと軽く挨拶を交わす。


「ノブさんもこの宿屋に泊まるんですね」


「おう。……それより、柚季はもう知っとったんか? ……その、陸斗がああいう性癖持っとること」


 ノブは口元に手を当てて柚季に小声で話しかけた。柚季もそれに(なら)い口元に手を当てて答える。


「ええ。陸斗はそれはもう、小さい女の子にはところ構わず」


 当然この会話は陸斗の耳にもしっかりと届いている。


「ちょっと二人とも! そろそろいいですかね!?」


 二人はやれやれと言った感じに両手を軽く上げて、茶番は終了した。

 ようやく、からかいが終わったことに陸斗は少しの安堵を覚えた。


「わかっとるで。そん子、朝もお前らと一緒おった子やろ?」


「はい。ノブたちと分かれてから都市の方で会いました。ついでに言うと、美姫はもう成人済みです」


 陸斗の追加情報にノブパーティは全員が目を丸くした。


「えっ……てことは俺らとあんまり変わらんってことか!?」


「そうです」


「こんなに小さいのに?」


「本人はこの身長を活かしてこれまで生きてきたそうです」


「す、すごい。たまに身長は小さいが、中身は大人の人いるけど、こんなに小さいのは、初めてだ」


三人がそれぞれ驚きの声とともに興味の視線をこちらに向けていた。




 その後、陸斗たちはノブに誘われ、自分たちの荷物――大してないが――を部屋に置き、ノブの部屋へと向かった。


「ノブのところもあんまり変わりませんね」


 部屋の真ん中あたりに一人用ソファがあり、二台のベッドがある。

 ここで一つ疑問があるのだが――誰がベッドで寝るのか。

 陸斗には関係のないことだが、同じくパーティであるノブたちはどのようにしているのか興味として知りたかった。

 陸斗たちの場合、女性(?)が二人いるため、男は譲るという手段がすぐに出た。しかしノブのパーティは女一人男二人である。当然ここでもレディーファーストはあるだろうから、残りのベッドはあと一台。普通ならリーダーであるノブが使用するはずだ。だが、あのノブが仲間を一人硬いソファに寝かしたりするだろうか。

 彼の性格上それはありえないとすぐに否定できた。

 ノブなら自分がソファに寝ると言い張るだろう。そして賢二が残りのベッドに。

 すると、次は遥が問題として浮上してくる。見たところ遥と賢二は仲が悪いわけではないようだ。しかし隣のベッドで寝ることを許すような関係でもないように見える。

考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ、そう思い答えを考えるのを諦めた。

 陸斗がそんなことを考えている間に柚季たちとノブたちの会話は弾んでいた。


「……それで、賢二がやらかしてよう!」


「もう、いいだろ、その話は」


「賢二さんって意外と抜けてるところあるのね」


「柚季さんまで……陸斗君の次は、僕をからかうのかい……」


どうやら、森でやったクエストの失敗談をしていたようだ。

そして今は賢二をからかう時間らしい。

柚季の隣には美姫がこじんまりと座っている。話の相槌や時折見せる微笑で既にこの空間に馴染んでいるようにも見える。


「そんで、美姫さん、でいいのかな」


「呼び方は好きにしてください。ゆっきーだってアタシのことちゃん付けで呼んでますので」


実質初対面の二人はいつもの口調とは打って変わって礼儀正しいものとなっていた。

美姫も先程まで場に合わせて笑みを浮かべていたが、キリッと引き締まった顔つきに変わっている。


「じゃあ、今のところは美姫さんと呼ばせてもらおう」


「いいですよ」


二人の真剣な眼差しがこれから語られる話がどのようなものなのか予想がつかない。陸斗は黙って二人の行く先を見守ることにした。


「美姫さん、陸斗はやっぱりロリコンなんやな」


「そうなんです!」


「――ってまだ続いてたんですか!?」


その後、陸斗をからかう会はもう少し続き、陸斗のツッコミが連発していたのは言うまでもない。

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