強面の男達
一週間ほど更新が止まってしまいすみませんでした。何かお詫びをしようと思ったのですが何も思いつかなかったのでこのままで行きます。あまり更新スピードを落とさないようにがんばりますのでこれからもよろしくお願いします。
少年少女のセリフは同時に終わった。
陸斗と柚季に伝えられたメッセージは少年と少女で言葉遣いなどに違いがあったが、内容は全く同じものだった。
「どうする、陸斗?」
どうする、と訊くが断る気はさらさらないのは柚季の表情を見ればわかる。陸斗にしてもクエストならば受けないわけにはいかない。
「とりあえず、クエストの受諾だけ済ませよう」
「そうだね」
二人が頷くと、再び少年少女に向き直る。先のセリフの答えとして、わかった、と返事すると、ログウォッチにクエストのタスクが開かれた。
【クエスト:ミールのお願い
依頼者:少女ミール
内容:<ドクマリーの葉>の採取
報酬:50ウェル・<毒消し瓶>1つ
備考:報酬は1人1度きりのみ
受諾or拒否】
二人はクエスト文面を読み終わると【受諾】をタップした。
クエスト受諾が確認されると、少年少女のセリフが続いた。
「お願い聞いてくれてありがとう! <ドクマリーの葉>を採ってきたら村長の家に来てね」
そう言って二人は村の反対方向の民家に走り去って行った。
それを見送ると、一度クエストタスクを閉じる。
「一応、クエストは受けたから、これから食事に――っとその前に」
出しかけた右足を踏みとどめ、ちらりと左手に持つ三つの袋に目を向ける。
「そう言えば、クエストでは一つずつしか使ってなかったもんね」
「でも、それどうするのよ?」
柚季と美姫がそれぞれ蜜袋を見つめて言う。
「これは、アイテム屋で売却してお金にしよう。なんたって、俺たちはほとんど金欠状態なんだからな」
どこか誇らしげにも見えるそのセリフには他の二人も嘆息せざるを得なかった。
現在のこのパーティの残金は陸斗がクエストの報酬とモスビー討伐のドロップウェルで三三五ウェル。柚季はクエスト報酬しかないので二〇〇ウェルのみ。美姫に関してはクエストも受けず、モンスター討伐も無いためゼロである。
合計五三五ウェル。
本当にこんな金額で食事なんてできるのだろうか、と悩ましいものだが一度決めてしまったものは仕方がない。
なんとか一泊分は残しておきたいものだ。
頭の中で複雑な計算をしている内に、柚季と美姫が既にアイテム屋の方に歩き出していた。
「ちょ、置いてくなって」
陸斗の静止の言葉は二人に聞き入れられず、アイテム屋まで走って追いかけた。
民家の間に挟まるようにして構えるアイテム屋。先日のモスビー討伐のキーとなったロープを購入した以来だ。
店の中に入ると、いつものように照明が隅々まで行き届き、両側は商品棚が陳列している。
「相変わらず、あの店長って怖いよね」
美姫は少し引き気味に、店の奥にいる店長を睨む。本当にあの店長のことが苦手らしい。
「私も、あの人はちょっと……」
腰あたりに抱きつく美姫に苦笑しながら、柚季も店の入口から動こうとはしない。
「……わかったよ。俺が売却してくるから二人はそこで待っててくれ」
仕方なく、陸斗が蜜袋の売却をする人柱となってしまった。
陸斗本人もあの店長をあまり好印象として捉えていない。はっきり言って苦手と変わらない。
それでも、女子を無理矢理連れてくるわけにもいかないわけで。
変なところでヘタレなのがこの皐月陸斗なのである。
重い足取りで店長の前まで行くと、いつもの店長の顔が見えてくる。
彫りの深い目鼻立ちで、鋭い目つきをしているせいで威嚇とも取れる強面がこの店長のデフォルトである。
(ホントこの人ってアイテム屋店長じゃなくて戦士とかの職業が合ってるんじゃないの!?)
店長に剣を装備させた姿がすぐに浮かんでしまった。
陸斗はなるべく店長の顔を見ないようにして売却へと移る。
購入の時と同じ半透明の薄い青のウィンドウが目の前に開く。
欄には<モスビーの蜜>だけが表示され、横の数字が三を示している。それらを全て選び、売却決定をタップ。
所持アイテム欄から<モスビーの蜜>消えた。そして、金額欄に一五〇ウェルが追加される。
ウィンドウの右上をタップして閉じる。
「まいどありー」
店長の低い声に見送られ出口まで歩く。
二人は終始固まったままで出入り口に突っ立っていた。
依然美姫は柚季に抱きついたままで遠くにいる店長を睨んでいる。
「だ、大丈夫だった、陸斗? どこも傷は無い? 腕や脚を斬り下ろされたりしてない?」
柚季がなぜか心配そうに陸斗の身体を見渡す。
「大丈夫だって。ここはアイテム屋であそこにいるのはアイテム屋の店長なんだから。殺されたりすることはないよ……たぶん」
大丈夫と言いきれないのは店長に戦士のイメージが焼き付いたからだろうか。
これからも長く付き合っていく間柄になるだろうに、と考えると早々にこのイメージを払拭しなくてはならない。
それにはかなりの努力が必要になりそうだが。
□ ■ □
昼間なのに賑わいが絶えないこの酒場では半分が村のNPCであり、残りの半分はプレイヤーであった。
NPCだろうとプレイヤーだろうと酒場の光景は変わらない。ある者は酒と思われる液体の入ったジョッキを飲み干し酔ったり、出された料理を貪る者も。ここでは等しく皆人間に思えてくる。
そして、ここにも人間らしく酒に溺れかけているパーティメンバーがいる。
「マスター、テルクおかわり〜」
この世界ゲームでは酒の総称をテルクと言うらしい。
陸斗の目の前にはメニュー表があるが、その中にテルクという飲み物は入っていない。
もしかしたら、アバターの年齢が関係していて、二十歳以上のアバターには追加メニューがあるのかもしれない。
ゲーマーであればメニューであってもコンプリートしたい気持ちが湧き起こるが、こればかりは時間の問題だ、と諦めた。
既に美姫の前には四つのジョッキが並んでいる。美姫が頼むたびに陸斗のウェルが四〇ずつ減っていく。
今回のおかわりで合計二〇〇ウェルが陸斗の所持額から引かれている。
ここまでの金額になるとは思わなかった陸斗は自分で自重してドリンク一杯に控えている。
残り三割程になった赤い液体のドリンクを一気に呷あおる。
飲み干したグラスをテーブルに置くとほぼ同時にドスン、と木製テーブルを揺らす音が響く。
「はいよ、テルクだ」
アイテム屋の店長に負けず劣らずの強面がジョッキをテーブルに叩きつけると、美姫は喜んでそのジョッキを受け取る。
――このおっさんはいいのか。アイテム屋の店長とそんなに変わらんぞ。
当然美姫はそんな陸斗の心情は知るよしもない。
美姫は既にベロンベロンに酔っていると言ってもいい状態で目線が虚ろになっている。
少しため息を吐いて、右側に目を向ける。
柚季も当然未成年であるためテルクは口にしていない。
陸斗と同じくドリンクだが、中に入っている液体は薄い紫色をしている。
それをちょびちょびと飲みながら何か考え事をしているようだった。
「どうかしたのか、柚季? 何か食べたいのがあったら言っていいんだぞ?」
心配そうに尋ねた陸斗の声に柚季はハッとなって顔を上げる。
「いいわよ。陸斗もあまり所持金ないだろうし。私はこのドリンクだけでいいわ」
「そうか? それなら、いいけど……」
柚季はうんと頷くが、まだ顔は晴れない様子だった。
陸斗がそれに気づいのが柚季にもわかった。
「……実はね。今回のクエストについてなんだけど」
ようやく話す気になった柚季は手に持つグラスをテーブルに置いた。ちょうどその隣に美姫の飲み干したジョッキが並び、そのジョッキに囲まれるようにして美姫はテーブルに突っ伏して寝息を立てていた。
今度こそ諦めて柚季に視線を戻す。
「今回のクエストか……」
内容的には採取に類するもののはずだ。そのため今回はモンスターとの戦闘はなくてもいいわけだ。
「おかしいと思わない? 私たちがモスビーのクエストを終えた途端、NPCから近寄ってきてクエストを依頼するなんて……」
NPCは基本的にはプレイヤーから話しかけない限り自発的にはプレイヤーとコミュニケーションを取らないはずだ。
それが今回はNPC自らプレイヤーの所に来てクエストを依頼するのがおかしい、と柚季は考えているわけだ。
「何か、NPCを動かすイベントをやっていたのか……」
そこまで考えると二人が同時に閃いた。
「「病気の子供のクエスト!!」」
綺麗にハモった二つの声に、んあ、と顔を上げた美姫は何が起きているのかさっぱりわからず、またテーブルに突っ伏した。




