表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第1章 第一弾アップデート――《独弾》実装――
27/82

クエスト:息子の病気のために(3)

 ――五月二十九日、早朝。


 村に朝日が迎える頃、陸斗は柚季と美姫の寝ているベッドの布団を盛大に剥ぎ取った。

 その際、寝相の悪い柚季の浴衣姿は直視しないようすぐに目を逸らした。

 もうすぐ六月になるのだが、この地域での早朝はまだ肌寒く、布団が恋しくなる季節だ。

 それを無理矢理剥ぎ取られた二人は心底不機嫌そうに、まだ眠い眼まなこを陸斗に向ける。


「ったく、何よもう。まだ早い時間じゃない」


「ん〜、あ、陸斗いつの間に帰ってたの? 昨日はどこ行ってたのよ」


 それぞれが不平を言う中、陸斗は東側の窓のカーテンも開け放った。

 すると、今まで遮られていた朝日が直じかに柚季と美姫の瞼まぶたを襲う。


「うっ、眩しっ!」


「もう何なのよ!」


 二人の我慢も限界に達し、怒りの眼差しを陸斗に向けた。

 しかし陸斗は、そんなこと意に介さずあることを告げる。それは二人にとって衝撃的な言葉だった。


「さあ、クエストをクリアしに行くぞ!!」



□ ■ □



 三人は朝食もとらずに宿屋を出発した。

 もとより朝食となるパンは昨日の時点で無くなったため昨日の昼食から何も口にしていないことになる。

 宿屋を出るといつもの村――よりも人数が増えていた。それは村人が増えたというわけではなく、明らかに自分たちと同じような服を着ている人たちだ。


「もしかして、プレイヤー?」


 遠目に見てもあれは確かにプレイヤーだ。しかしそれは一人や二人の問題ではない。

 この小さな村を埋め尽くすような数だ。

 ざっと五十人くらいだろうか。誰もが知らない人かと思って見わたしてみると、あるところで目が止まった。


「あれって……」


 陸斗が声をかける前に向こうが気づいた。すると、その人物は隣の二人を引き連れ、笑顔でこちらに向かってきた。


「よう、陸斗! 久しいな! お前らもこの村に来とったんか」


 陽気な関西弁で話すこの人物は陸斗たち(美姫を除く)とフレンド登録をするほどの信頼関係を持った相手だ。おそらく、この場にいるプレイヤーのほとんどがノブによって来たメンバーなのだろう。

 自分で来たというより道化ジョーカーに何らかの力で飛ばされた、とは言えない。ノブたちに道化ジョーカーのことは伝えていない。

 まだどういう正体なのかさえ掴めていない情報を安易に流すものではないという判断だからだ。その為、この場に陸斗たち以外に道化ジョーカーの存在を知るものはいないだろう。


「う、うん。ちょっと前にね」


 だから、陸斗の答えには躊躇ためらいが混じっていた。そのことにノブは少し眉を顰ひそめたが、幸いなことにそれ以上追求はされなかった。

 ノブたちのパーティはあの時の三人のままで、服装などが変わっているくらいの変化だった。

 たった四日の別れだったのだが、すごく懐かしい気がするのは、きっとこの世界での生活がすごく濃く感じたからだろう。

 リアルよりも一日が早く過ぎるような感覚がここ一週間――正確には六日間だが――近くずっと感じていた。一日を全力で生き、いつ帰れるかもわからないこの世界で助け合い、時には傷つくそんな日常がすごく充実していると思えるようになった。これは人間の持つ環境順応力のせいだろうか。

 ふと、そんなことを考えていると、ノブの右手に光るものが視界に入った。


「ノブ、その右手のって……」


「ん? これか? これはな……《独弾(ユニークバレット)》や!!」


 思いっきりのドヤ顔で右手中指に嵌っているリングを見せつけてきた。リングの色はルビーレッド。


「どや、さぞ羨ましかろう」


 口角を上げて誇らしげに見せつけるノブに陸斗は苦笑するしかなかった。


「いや……羨ましいというか、俺も持ってますよ、《独弾ユニークバレット》」


「なん……やと……」


 ノブの表情はわかりやすいほどの驚愕の色に染めた。


「俺は、てっきり……俺だけが持っとるもんやと……」


 その場に膝をつくノブは本当に残念そうに呟いていた。

 そしてその後ろからそっと肩に手をかける二人。女性の方は以前陸斗の肩に銃弾を撃ち込んだ汐見しおみ遙はるかだ。


「ノブ、前から言ってたもんね。『次、陸斗に会った時はこの《独弾ユニークバレット》を自慢してやるんや!』って」


 もう一人の男性はひょろっとした姿で頼りなさそうに見える。実際に、あの時の戦闘では物陰に隠れて最終的に陸斗によって連れ出されたほどの臆病者おくびょうものだった。名前は、逢坂あいさか賢二けんじという。



「ノブ落ち込まないでください。百種類もあるんですから、陸斗さんが当たってても不思議じゃないですよ。……あ、ちなみに僕も《独弾ユニークバレット》当選しましたよ」


「だから、なんでアンタなんかに当たるのよ!!」


「遙やめてってば〜頭が揺れる〜」


 目の前では遙が賢二の肩を強く揺らし、賢二の頭が遅れて前後に揺さぶられている。見ていて酔いそうだ。

 そんなやりとりを陸斗の後ろから見ていた美姫は柚季に尋ねた。


「ねえ、あれがゆっきーの言ってたショッピングモールで逢ったっていうパーティ?」


 美姫は以前柚季が話したのを覚えていた。


「うん。あの人たちが私たちの初めて逢った他のプレイヤー。初めは互いを殺し合う関係だったけど、陸斗が、PK以外の方法を見つけるから協力してくれって言ったら本当に協力してくれたんだから……本当に優しい人たちなの」


「ふ〜ん。まだこの世界にそんな人たちがいるのね……」


 美姫はやはり不思議に思っていた。こんな世界に閉じ込められたら普通は、諦めて自分で命を絶つか、生きるために狂気の殺人鬼になるだろうに、陸斗は違った。

 陸斗はさらにもう一つの選択肢を選んだのだ。

 誰も死なずにみんなが脱出できる方法。


「やっぱり、りっくんについてきて正解だった」


 ポツリと美姫が呟く。

 その声は柚季にも陸斗にも届いていない。


「ほら、陸斗早く行くわよ」


「ん? お、おう。そうだったな。じゃ、ノブまた今度」


 陸斗はノブとの話を切り、柚季の元へと行った。


「なんや、またお前らクエストやっとんのか」


「はい、クリアしたらまた伝えます」


「おう、待っとるで」


 その言葉で会話を打ち切り、陸斗を先頭に三人はクエストに向かった。



□ ■ □



 陸斗たちは、昨日陸斗が見つけたアイテム屋へと足を運んだ。


「へ〜、こんなところにアイテム屋なんてあったんだ」


「俺も昨日知ったばかりだからな」


「だから、昨日は帰るのが遅かったのね」


「うん。まあ、そんなところ」


 森に行ってケルキを倒してきた、と言えば柚季が必ず怒るのはわかっているからそこまでは言わない。

 陸斗は店内をまっすぐ進み、奥の店長の所まで来た。


「ちょ、怖っ!」


「しー! ダメだよ、聞こえたらどうするの!」


 柚季が必死に美姫の口を塞いで言葉を遮らせた。

 もう出てしまった言葉は止められないよ、柚季……。

 それに、NPCである店長がそんなことで怒るわけ――。


(いや、怒ってるよ! これ絶対に怒ってるよ! 眉間にめっちゃ皺しわが寄ってるし! でも、これが素の顔であることも……。ありえるな。昨日もだいたいこんな感じの顔だったと思う)


 店長の強面はデフォルトなのだろうと決め、アイテム購入に移る。

 目の前に現れた半透明の青いウィンドウをスクロールしていく。

 横からは柚季と美姫がウィンドウを覗き見るように顔を出している。

 回復アイテムを越え、補助アイテムを越え、日用品アイテム欄まで来た。アイテムでは日用品がかなりの割合を占めている。その中で陸斗の目当ては日用品アイテム欄の真ん中あたりにあった。


「陸斗、何を買うの?」


 柚季がそう言うと、陸斗はウィンドウのアイテムの一つを指した。


「……『ロープ』?」


 そう。これがクエストクリアの要となりうるアイテムだ。

 陸斗は迷わず【購入】をタップする。

 その時、美姫が何かに気づいたように一瞬だけ目を見開いた。しかし、すぐに元通りになり、何か含んだ笑みを浮かべた。

 もしかして、と思う前に美姫が陸斗の耳元で囁いた。


「ねぇ、ホントは昨日、モンスター狩りしてたんでしょ?」


 ビクりと肩が一瞬固まったのを陸斗は自覚した。しかしそれを悟られまいと平然とした表情を保った。


「何の事かな。俺は昨日村を散歩してただけだよ」


 しかしそんなことも見透かしたかのように美姫は嫌な笑みを浮かべる。


「別に隠さなくてもいいわよ。ゆっきーに告げ口する気もないし。アンタの行動はアタシたちのことを思っての行動だったんでしょ?だったら何も悪いことなんてないじゃない」


 意外なほどに許しの言葉を述べる美姫に、ホッとするのもつかの間で――。


「でも、アタシに隠し事をしたことは許さないわよ。りっくんのくせにアタシに隠し事なんて百年早いわよ」


 柚季が近くにいなかったらデコピンされたであろう勢いは、陸斗の耳元に息を吹きかけることで収まった。

 その時背筋が氷を入れられたかとのようにブルッとしたが、柚季はそれに気づく様子はなかった。

 その後、陸斗は足早にアイテム屋を出た。



□ ■ □



 三人は再び森の中へと入って行った。

 見慣れたケルキ群を抜け、昨日モスビーと遭遇した地点まで来た。

 時刻は正午よりも少し早い時間帯。

 モスビーが必ずここに来る保証はないが、可能性はゼロじゃないという理由でこの場を選んだ。


「ねぇ、陸斗。ちよっと訊いていい?」


 訝しげな表情で尋ねてくる柚季に、なに? と応えると、


「一体どっやってロープなんかでモスビーたちを倒すのよ?」


「それはな……」


 そこで一旦言葉を切り、一つ深呼吸をする。

 美姫も陸斗の話に耳を傾け、この空間に緊張が張り詰めた。


「――2Dゲームではできなくて、VRMMOではできること!」


 陸斗の言葉が木霊(こだま)のように二度三度響き、やがて薄れていった。

 森に再び静寂が訪れる。

 その静寂を最初に破ったのは美姫だった。


「……なに、そのなぞなぞ。解決どころかむしろ新たな問題が生まれたんだけど」


「もうちょっと詳しく説明しなさいよ」


 それぞれが不満の表情で陸斗に詰め寄る。


「まあ、ちょっと待てって。ちゃんと説明するから」


 その後、陸斗は二人にロープの用途と作戦を伝えた。それでようやく二人は納得したようで陸斗との距離を戻す。


「最初からそう言いなさいよ」


「まどろっこしいことしないでよ」


「ご、ごめん……」


 今度からこの方法は使わないようにしよう、と陸斗は心に誓った。



 十数分後。

 森の中を漂う静寂が耳障りな音によって破られた。

 その音は確かに昨日も聞いたものだった。それも、こちらにやって来ているのがわかる。


「来たな」


 陸斗の合図で柚季と美姫は低い姿勢で作戦通り樹の影に走り出した。二人の手にはロープの端が持たれている。陸斗は音の正面に立つように構える。


「……《開弾(オープンバレット)》」


 陸斗の囁ささやき声に近い音量でリングが反応し、右手に光の粒が集まる。光の集合体は銃の体ていを成し、右手にすっぽりと収まった。

 モスビーの集団が密集するケルキ群を抜けてきて、ついに陸斗の視界に黄色の身体が現れた。数は昨日よりも少なく、十二体。


「こっちだモスビー!」


 陸斗の叫びとともに、拳銃から銃弾が発射された。

 その弾丸は虚空を貫き、モスビーには掠りもしなかった。でもこれでいいのだ。下手にモスビーに掠りでもしたら蜜袋が破れかねない。

 明らかな敵意を向けられたモスビーは陸斗に狙いを定めた。

 耳障りな羽音を響かせながら陸斗に接近する。対して陸斗は銃を構えるだけで、モスビーの接近を許していた。


「さあ、来い。もうすぐだ……」


 モスビーの作戦位置まで、七メートル……六メートル……五メートル……と、心の中でカウントダウンしていく度に徐々に恐怖心が湧き上がってきた。

 ……三メートル。

 …………二メートル。

 ………………一メートル。


「今だ!!」


 恐怖心を渾身の叫びで打ち消し、作戦を実行させた。

 陸斗の拳銃を正確にモスビーへ向けるのと、柚季たちが動き出すのはほぼ同時だった。

 樹の影から一斉に飛び出た二人はモスビーを挟むようにして位置し、手に持つロープをピンと張る。同時に二人は同じ方向に走り出し、ロープの一部がモスビー群の一匹に引っかかると、集団を囲むようにして二人の動きが弧を描くように変わる。

 柚季と美姫が半周ずつ走り、二人が交差すると、完全にモスビーをロープで囲んだ。その間モスビーは何も動くことができず、やられるがままとなっていた。

 胴体と蜜袋の間をロープが食い込み、モスビーの動きが完全に止まった。

 強過ぎず弱過ぎずの力加減で縛られたモスビーはロープから抜け出すことができずにただ空中に浮かぶだけの状態となった。

 その状態を確認すると、陸斗は小さくガッツポーズを取った。


「作戦成功だ!」


 この作戦はいかに空中を素早く動くモスビーを止めるかにある。

 その為に今回用いたロープは動きを止めるのに現時点では最適だと判断したのだ。

 いくら素早いモスビーでも背後からの奇襲には反応が遅れていた。

 そして、仕上げは――。


「陸斗早く撃って!」


 柚季は苦悶の表情で陸斗に訴える。

 そうだった、と思い直し、陸斗は拳銃をモスビーの頭部を狙って引き金を引いた。

 ブシュッ! と音を立てて破壊されたモスビーの頭部は風船のようにはじけた。

 そして、蜜袋からは透明な袋に入った黄色い液体がドロップした。すぐにそれが<モスビーの蜜>だとわかる。

 陸斗は続けてモスビーに向けて引き金を引き続けた。

 風船の射的の如くモスビーの頭部は陸斗の射撃によって破壊されていく。その際何体かに一つ<モスビーの蜜>をドロップしていた。

 モスビーを斃たおしていくうちにロープの輪も小さくなり、柚季と美姫の表情も柔らかくなっていった。



 最後の一体を撃つと、ロープはバサリと地面に落ち、役目を果たしたように光の粒となり、消滅した。


「はあ……やっと終わったー」


 美姫はずっとロープを握っていた手をぶらぶらとさせて痺れをとっていた。


「まずは蜜を回収しましょ」


 戦闘が終わった後だというのに柚季は自分の使命をはっきりとしていて地面に落ちている五つの<モスビーの蜜>を拾い始めた。

 陸斗も同じく蜜を取り始めた。これは陸斗もクエストをやっているため当然だ。

 その間美姫は地面に座り込み、しばしの休息をとっていた。



 蜜を集め終わり、村に帰って来たのは夕暮れ時だった。

 まだ広場にはNPCとプレイヤーが多勢いた。

 陸斗たちはまっすぐクエストを受けた家に向かった。

 病気の子供のいる部屋まで行き、柚季からクエスト終了の報酬を受け取りに行った。


「ありがとうございます。これで息子の病気は良くなると思います。これは、少ないですが、報酬のウェルです」


 柚季のログウォッチに二〇〇ウェルが送られ、クエスト終了のタグが表示された。

 その後、陸斗も同じ手順でクエストを終了させた。

 肩にはデジタル表示で二ポイントの数字が現れている。


「ふぅ……これでようやく終わったのね」


「そうね」


 柚季と美姫が笑いあっていると、グゥゥという音が二人の耳に届いた。二人はその音の鳴った方を見る。


「ごめん、腹が減って……」


 ははは、と薄い笑みを浮かべると、陸斗の隣から、キュゥとなんとも可愛らしい音が鳴った。


「――ッ!!」


 可愛らしい腹の音を奏でた柚季は思いっきり赤面し、お腹を押さえた。


「そんじゃ、クエスト終了祝いにどこか食べに行こうか」


「そうね〜、ここ最近食料がなくなって何も食べてなかったもんね」


 柚季は無言で頷き、満場一致で食事をしようという決断にいたった。

 そして、家から出ようと、ドアを開ける。

 すると。

 まだ幼い男の子と女の子が陸斗たちの元へ走り寄ってきた。

 そして、男の子は柚季に、女の子は陸斗に話しかける。


「ねえ、お兄さんはルルフおばさんのとこのイルル君を助けたんだよね。もし、良かったらわたしのお願いも聞いてほしいの」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ