シルバー・グレー(5)
更新遅れてすみません。
最近病気で寝込んでいた時期があったので作品に手をつけられていませんでした。
今話で「シルバー・グレー」シリーズ最終回です。
長い間お付き合いありがとうございました。
では、どうぞ!
陸斗と真樹がいつも一緒にいるようになって一ヶ月が経ち、六月の梅雨のある日。
いつものように下校のチャイムが学校に響きわたる。
クラスメイトもそれを合図に各々帰り始める。
陸斗と真樹も同じように帰り始めていた。
二人の帰る方向は真逆のため、昇降口まで一緒だ。
下駄箱から靴を取り出し、昇降口を出ると、
「うわぁ……」
と陸斗が呻くように呟いた。
ザァザァと降りしきる雨が陸斗の帰路を塞いだのだ。隣では傘を開き始める生徒がちらほらと。
「陸斗、まさか傘忘れた?」
遅れてやってきた真樹の声に振り向く。
真樹は右手に黄色の傘を持ち、バサァと開き始めた。
「確か、今日夕方から降るって言ってたな」
「そうだよ。だから朝は晴れてても傘は持ってこなくちゃいけなかったんだよ?」
真樹の言葉に陸斗の肩が竦む。
今日の天気は昼から大降りの雨とテレビで言っていたが、ここまでジャストなタイミングで降るとは陸斗も予想できなかった。
こうなれば最終手段を使うしかない、と腹をくくって陸斗は背負っているランドセルを頭上を持ち上げる。
「まさか、それで帰るの!?」
真樹が驚くのも無理はない。
はっきり言ってこの方法で雨を防ぐことができるのか、と言われてあまり肯定する気にはなれない。
「先に帰るよ。また明日な、真樹」
言うな否や、陸斗はランドセルを頭上に持ち上げたまま、降りしきる雨の中駆け出した。
それを呆然と見守っていた真樹はため息を吐き、黄色の傘をクルクルと回しながら、帰路に着く。
最初の信号でやっと陸斗は走るのを止めた。
信号は赤を示し、他に生徒も車もいなかった。
陸斗が肩で息をしているのは、慣れない運動をしたからであり、余計な荷物に余計な体勢だからでもある。
いつもは陸斗が下校の時に走ることはない。
それは急ぎの用事があるわけではないというのもあるし、一番の理由は疲れたくないというのが本音だ。
いつも本ばかりを読んでいる陸斗に体力がついているわけがないのは明白である。
この信号までは学校から約五〇〇メートル程度なのだが、陸斗にとってその距離を走ることはとても苦になることだ。
それでも今はその苦も受け入れなければならない。
このままじっとしていても濡れるばかりでは、いづれ風邪をひいてしまいかねない。
まあ、今の時点で既に服は身体に張り付くまで濡れ、靴の中も水だらけでびちゃびちゃだ。
陸斗の目の前には赤信号が行く手を塞ぐ。
陸斗は車が来てないことをいいことに、まず左右を確認する。
「右良し、左良し、そしてもう一度右よーし」
この信号は右の方が危険だ。すぐそこでカーブがあり、急な角度のため信号の位置からはそのカーブの向 こう側を見ることはできない。
陸斗は左右の確認を行った後、信号が赤のまま横断歩道に駆け出した。
突然動いたせいか、陸斗は横断歩道の真ん中で頭上に持ち上げているランドセルの留め具がカチャッと音を立てて外れた。
直後、その音と同時に目の前が黒くなった。
バサバサッと崩れるような音と共に地面にいくつもの教科書が散乱した。
「あちゃあ……」
どうやら留め具が外れ、中の教科書が飛び出たようだ。
仕方なく、ランドセルを正常の位置に戻し、地面に散乱した教科書を拾い始める。
中身が全部出てしまったようで教科書の数が多い。
その時、雨音に紛れて響くエンジン音が近づきつつあった。
陸斗が教科書を半分ほど拾い終わった時、右側のカーブの急な道路の奥から一台の軽自動車がやって来た。
陸斗もそれに気づき、残りの教科書を急いでかき集めた。
しかし、おかしい。
ここを通る車であればスピードを落としながら走行するはずだ。それに、この雨の中であれば、尚更スピードを落とさざるを得ない。
しかし、こちらの方に来る車は普通のスピード以上の速さだ。
そして咄嗟に陸斗は悟った。
まさか――
しかしその思考はすぐに中断された。
気づいたのは宙を舞う小さな身体と、全身に奔る激痛だけだった。
短い時間の閒、宙を舞った陸斗の身体は硬いアスファルトに叩きつけられ、陸斗の飛んだ軌跡を描くようにランドセルに入れ直した教科書が再度散乱される。
陸斗は軽自動車が動き去るのをどうにか視認し、気を失った。
陸斗はその後、近くの病院に救急車で搬送され、昏睡状態として二ヶ月間目を覚まさなかった。
目を覚ました陸斗は全身に包帯が巻かれ、いたる所に激痛が奔るのを感じた。
お見舞いに来た母から聞く限りでは、道路で倒れていた陸斗をたまたま通りすがった人が病院に通報し、それから救急車に運ばれたらしい。
二ヶ月間のベッド上の生活も終わり、次はリハビリをしなければならなかった。
全身を強く打ち、四ヶ月間動かしていなかった身体はとても重く、思うように動かなかった。歩くことさえもままならないほどに。
元から運動をあまり好まなかった陸斗はリハビリを大変苦痛に感じられた。普通の人でも苦痛なのだろうが。
そのリハビリ生活も慣れ、五ヶ月が経った。
奇跡的に脳に異常は見られず、リハビリが終わると無事退院することができた。
約九ヶ月ぶりの学校は既に三学期も終わりかけだった。
しかし、そこに真樹の姿はなかった。
後から聞いた話では、ちょうど陸斗が復帰する一週間前に突然父親の仕事の都合で引っ越したらしいのだ。
陸斗と真樹は入れ違いになったようだった。
加えて、真樹は陸斗が事故に遭ってからいじめを受けていたらしい。おそらくそのせいで学校を辞めてし まったのではないか、とその生徒は言った。
「あと、真樹君から伝言を受けてるよ。皐月君が来たら伝えて欲しいんだって」
「なんだ?」
「――『嘘つき』」
その言葉を聞いて、陸斗は全身が震え、恐怖と後悔の思いがごちゃごちゃになってどうすればいいのか分からなくなった。
「皐月君、真樹君に何か嘘ついたの?」
「…………」
真樹のその言葉が意味することはすぐにわかった。五月の学校案内の時だ。
図書室の前で陸斗が半ば勢いで言ったセリフ。
『これからはずっと、僕がいるから』
そう言ったのを陸斗は覚えている。
つい口を滑らせて言ってしまった言葉だったが、それが真樹にとって支えであり、立ち直る魔法のような言葉だったのかもしれない。
――それを僕は、守れなかった。
自分で言った言葉のくせに何一つとして守れなかった。
真樹へのいじめも、真樹の居場所でさえも。
心に突き刺さるように、『嘘つき』の言葉が脳から離れない。もしかしたら心に焼き付いたのかもしれない。一生忘れられない言葉として。
三月も終わり、四月へと季節は移り変わる。
陸斗は小学五年生へと進級した。
その際、クラス替えも行われる。
陸斗のクラスは三組。
同じクラスになったのは――古賀甲斐も一緒だった。
陸斗は真樹のいじめについてあまり詳しいことを聞いていない。
教科書を捨てられたり、仲間はずれ、無視。
だいたい、それらが主ないじめらしかった。
その首謀者の名は聞いていないが、初めから陸斗は古賀甲斐だと思っている。いや、確信している。
その古賀が元はクラスの人気者であったが、真樹の転校して来たことをきっかけにいじめっ子へと変貌した。
その原因は陸斗には推測しえない。
真樹が転校して来て注目が真樹に集まるのは自然だ。みんなも新しいものに興味が湧くのも当然といえる。
しかし、それは甲斐にとっておもしろいことではなかったのかもしれない。
いつも注目は自分に注がれ、話の中心は自分が作り、みんなから求められている存在。
そう信じていた甲斐だからこそ、この当然の現実を受け止められなかったのかもしれない。
やがて、その感情が憎しみへと変わると、甲斐の口は勝手に動いていた。
――"混血児"
確かにその言葉はテレビの影響で知った単語だった。記憶の奥底に一生使うことはないと思っていたのに、唇はその単語をしっかりと発音したのだ。
その時、まずい、と思った。
すぐに撤回しようと、口を開きかけた時、真樹が突然叫び教室から飛び出たのだ。
甲斐は思った、『勝った』と。何か勝負を仕掛けていたわけではないが、内心で勝利を意識していた。
それは甲斐が真樹より優位に立っていると錯覚させるものとなった。この内から込み上げてくる優越感は甲斐の脳内麻薬のように作用し始めていた。
本人はそれがいじめであると意識することはない。
誰もがいじめは悪と答えるだろう。しかしその中にいじめっ子がいないと言えるだろうか。いじめっ子の本性はただ気の向くままがほとんどのはずだ。そこに確固とした意志があるわけでもない。
そんな気まぐれで弄ばれる被害者はいじめられっ子の烙印を押され、その影響は波紋のように広がる。
この学校の小学五年生に真樹はいない。
真樹にとっても良い選択だったはずだ。
しかし、いじめっ子というものは対象者がいなくなったからといって消えるわけではない。
対象が変わるだけで何の解決もしない。
その次の対象者というのが――陸斗だ。
いつも真樹と一緒にいたことで真樹に手を出すことごできなかったのだから、甲斐にとって陸斗は憎らしい相手だったはずだ。
陸斗は相も変わらず、休み時間は小説を読むようになった。
その冴えない奴にいじめっ子の魔の手が伸びる。
小学生のできるいじめは今思えば単純なものばかりだった。
教科書をゴミ箱に捨てる、ちょっかいを出してくる、仲間はずれなど。
しかし、それが中学生となるとグレードアップしてくる。
この地域の小学生はだいたいみんな同じ中学校へと進学する。
小学校の時のいじめが進学と共に消えるとは考えてはならない。いじめとは学校、年齢関係なく存在する。
小学校のいじめが中学校に上がればどうなるか。その被害者はこれまでの人生で最も過酷ないじめを受けることとなるだろう。
中学校は小学校と違い、一学年の人数が大幅に増える。それは、いじめをする人が増えるということと同義である。
全ての人がいじめをするわけではない。どこの学校にでも小さなものから大きなものまでいじめは存在すると思われる。それが一箇所に集まれば規模の大きないじめへと発展してしまいかねない。
陸斗はまさにその規模のいじめに遭ってしまう。
精神的にも考え方も大人に近づく中学生のいじめは直接的になってくる。
暴力、噂など被害者の肉体的にも精神的にもダメージを与えるものになる。
陸斗は考えた。
中学までは義務教育であるが、高校からは義務ではなくなるのだ。それが意味するのは行きたい奴だけ高校に行くことだ。
高校は地域を問わず、どこからでも進学することができる。
陸斗はいじめから回避する方法を思いついた。
いじめっ子が来れない所の高校に受かればいいのだ、と。
狙いは隣町の進学校だ。
そこは偏差値も高く、あまりこの学校から行った人は少ない。
陸斗はいじめから逃げる為にその偏差値の高い高校を受験することとなった。
動機は不純だが、陸斗にとってこれほど大事な動機はないと思っている。
学生時代を平和に安全に普通に過ごす為にはこの高校を受けねばならないと思うほどに。
しかし陸斗は一つ失念していることがあった。
"どこの"学校でもいじめは存在している、ということを。
三年後、陸斗は無事その高校にギリギリのラインで合格することができた。
陸斗は目立たないようにと、地味に過ごそうと決めていた。
しかしこれまでの経験上、変に地味すぎるとそれは返って目立つこととなってしまうことはわかっている。
だから最低限周りの人達とは仲良くしようと声をかけた。
すると、あっさりと友達になってくれた。
中学校ではいじめもあったため、それほど――というか、全く――友達はできなかった。
それが入学早々に友達が一人できた。
陸斗にとってこれほど嬉しいことはない。今までいじめの被害者になりたくないからという理由でまともに友達ができなかったのだ。
友達が一人できると、それが芋づるのように友達が増えることがある。いわゆる、友達の友達だ。
陸斗はそれでも嬉しかった。どんな形でも味方になってくれる人がいるのがとても嬉しかったのだ。
しかしまたしても陸斗の生活に影が落ち始めていた。
なぜなら、"どこの"学校でもいじめは存在するのだから。
クラスでも浮いているというか、カーストが高い彼女らが陸斗に近づいた。
その時、陸斗は小説を読んでいた。友達になってくれた彼らだが、いつも喋っているわけではない。会話に入れる時だけ入るというスタンスをとっているため、仲良しこよしという関係ではなかった。
彼女らは二人。一人は金髪に染めた髪と濃すぎると思えるメイクをした『ザ・ギャル』のような風貌だ。もう一人はこちらも髪を染めている。茶髪の髪を長く伸ばし、蟀谷こめかみから垂れる細髪をクルクルと弄んでいる。
そして、金髪も女子が口を開いた。
「ねえ、皐月君。今日ちょっとお金貸してくれない? ウチら電車で行かなくちゃいけない所があってさー」
金髪は後ろの茶髪に目配せすると、茶髪はコクンコクンと首を縦に首肯した。
「えっ、でも……僕今、お金あんまりなくて……」
「いいのいいの! ある分だけでいいから!」
そう言って無造作に机の横に掛けてあった陸斗のバッグを引っ掴み、中の財布を取り出した。
陸斗はそれを取り返そうと机越しに手を伸ばす。
「ほいっ!」
「はいよっ!」
財布は金髪から茶髪に投げ渡り、陸斗の手は虚空を掴むだけだった。
茶髪は陸斗から少し距離を取りながら、財布の中を強引に掴み出す。茶髪の手の中には陸斗の財布のほぼ全財産といえる三千円が握り締められていた。
茶髪は残りは要らないとでも言うように陸斗にその財布を投げ捨てた。
財布はジャストに開いたバッグへと入った。しかし金髪が突然バッグを手放したことで床にドスンと音を立てて落ちた。
そのまま金髪は茶髪の所に駆け寄る。
「ねーねー、どんくらい入ってた?」
「ん? 三枚だけ」
「えー! ケッチーな」
「まあ、今日遊ぶ分には足るだろ」
金髪と茶髪は笑い混じりの話をしながら教室を出て行った。
陸斗は床に落ちたバッグを拾い、机の横に掛け直す。
そしてこの騒ぎの間静寂を守っていたクラスのみんなに目を向けた。
しかし誰一人として視線を合わせようとしない。そして中には感じたことのある視線もあった。悲哀、同情、忌避の眼差しが陸斗に感じ取られた。どれも小学校からの周りの目と同じだ。
――所詮、人間なんて自分に利益のある奴としか関わろうとしないんだ!
心の底からそう叫びたかった。
喉の奥までその言葉が出かけた時、
「なあ、陸斗。大丈夫か?」
肩を叩く誰か。
陸斗は後ろに振り返った。
そこには、アイツがいた。名前もまだ覚えていない最初の友達が。
「陸斗、アイツらに逆らわない方がいい」
「わかってるさ」
「そうじゃない。陸斗はあの二人を知らないんだろ?」
「ああ、知らないし、 知りたくもないね」
「まあ、聞けって。アイツらはな、バックに親の権力があるから逆らっちゃダメなんだ」
「親の……権力……?」
友達は頷く。
「アイツの親はな、いろんな意味で危険なんだよ。あの金髪いただろ」
「ああ、僕のバッグを取り上げた奴か」
「そうだ。愛村あいむら 京香きょうか。愛村財閥の御令嬢だ。アイツはボディーガードを三十人従えさせている。だから、アイツに逆らえばそのボディーガードが……って言わなくてもわかるよな」
「うん、誰でも痛いのは嫌だよな」
「痛いで済めばいいけど……。で、もう一人の茶髪の子は、桐原きりはら 真奈まな。コイツも結構なお嬢様なんだが、親が教育委員会に強い影響与えるような存在らしい。その為教師もあまり強く出れないんだ」
「じゃあ、さっきの強盗紛いの行為もその桐原の親がいるから学校でもあまり大事にできない……と」
「そうなるな。だから陸斗、明日から午前中だけで使い切れるくらいのお金を持って来い。そうすれば、放課後にアイツらからお金を奪われずに済む」
「どうして、僕にそこまでしてくれるんだ?」
「ここにいるほとんどのやつが既に被害者だ。お前と一緒のな」
そう言ってクラスのみんなを見渡す。
「ありがと」
陸斗は友達に向けてそう言った。
「ふん、俺たちは友達だろ!」
ピンっと親指を突き出して叫んだ。
少年マンガじみたセリフに少し笑ってしまう。
でも、嫌いじゃなかった。
陸斗はあの翌日から小銭しか持ち歩かなくなった。友達に言われた通りに最低限のお金だけを持参して。
しかしその日は少し多めに小銭を持ってきていた。
それは放課後の為である。
その日最後の授業終了チャイムが響きわたり陸斗は風のように教室から出て行った。
なぜ、こんなに早く教室出たのか。
それはあの二人に捕まらないようにするためだ。愛村と桐原。この二人に捕まってしまったらお金を要求され、今日のスケジュールが台無しになってしまう。
陸斗は小学生から高校生までに変わったことと変わっていないことがある。
まず、変わっていないこと。今も尚、いじめの被害者であることである。こればかりは五年かかっても改善される見込みはなかった。
そして、変わったこと。趣味にゲームが加わったことである。小学生の時であれば、小説さえあればいい、と思っていたが、高校生になり、それなりの交友を深めていくうちにゲームに興味が惹かれたのだ。
しかし陸斗のするゲームは家庭用ゲームではなく、ゲームセンターにあるアーケード型のゲームである。
SGA社の新作ゲームが近くのゲームセンターでも稼働するらしいのだ。
陸斗はその稼働日に合わせて今日お金を準備してきた。
自転車で数分漕げば着くゲームセンターで稼働する新作ゲームを陸斗は心躍らせて辿り着いた――。
「――というわけで、『マジック・オブ・バレット』を始めたんだ」
「いやいや、長すぎでしょ」
すかさず美姫がツッコミに入る。
「で、それがどうして人を殺したくない理由になるの?」
柚季はあまりノリには乗らず陸斗に問うた。
「だから、俺はいじめを受けてる時に分かったんだよ。殴られるのってこんなに痛いんだなーとか、こんなことされたら嫌だなーって。だから、銃で撃たれた人が本当に死ぬこの世界ゲームで俺は人を殺したくないんだ」
(まあ、他にも理由あるんだけど)
ふーん、とあまり納得のいってない顔をする柚季の隣でニヤニヤと陸斗を見つめる美姫がいた。
「でも、意外だな〜。りっくんがリアルでは一人称が『僕』って」
「り、りっくん!? ってか、よくいるだろ! リアルでは弱気だけどネットでは強気になってる奴!」
「あーいるいる。ネット弁慶でしょ! あれ、はっきり言ってウザいのよねぇ。リアルでは何もできないへなちょこのくせしてネットでは威張りちらかす野郎共め!」
美姫の目には何やら不穏なオーラが満ちていた、ような気がした。
「……弁慶……? 美姫ちゃんは前にネットで何かされたの……?」
少し会話についてきていない柚季がやっと口を開けた。
「まあ、りっくんがリアルのこと話してくれたから、アタシも少し秘密を教えてあげるわ」
そう言いながらイスの上に立つ美姫。
陸斗と柚季は少し見上げるような姿勢で美姫の話すことを静かに待った。
「アタシ、こう見えて、二十三歳よ!!」
「「…………」」
二人のしばらくの沈黙の間。
「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????」」
読んでくださりありがとうございました。
読んでいただいた通り、今話は文量は多いくせに会話文が少ない読み手には疲れるような話ですみません。
いじめの意見は個人的な考えによるものです。
次話から物語が動き出しますのでよろしくお願いします。