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アカウントブレイク  作者: 雨音鏡
第1章 第一弾アップデート――《独弾》実装――
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シルバー・グレー(1)

 ヤジマが死に、路地に静寂が訪れた。

 美姫はマガジンが空になった拳銃を持つ手の力が抜け、拳銃を地面に落とす。

 カツン、と乾いた音が響き、落ちた拳銃は光粒となる。それが霧散し、無数の光粒が美姫の人差し指の《通弾(ノーマルバレット)》のリングに吸い込まれるように収縮した。


「ハハッ、腕が痺れた」


 美姫は自嘲的な笑みを浮かべ、自分の腕を見つめる。痺れはおそらく、射撃の時の反動を上手く逃がしきれなかったからだろう。しかし原因はそれだけではないように思えた。

 それは美姫の瞳に憂いを帯びていることからも理解できる。

 陸斗は無言でそっと美姫の肩に手を掛けた。肩も微かに震えていたが、すぐに治まった。


「もう、大丈夫よ」


 美姫がそう言い、陸斗は肩から手を離した。

 すると、隣に柚季が並んだ。


「この子、どうするの?」


 ぼそりと陸斗に聞こえる音量で囁いた。

 陸斗も答える時、柚季に聞こえる音量で呟く。


「どうするって……このままここに置いていくのも危ないだろ。また、さっきみたいに襲いに来る奴らがいるかもしれない」


「じゃあ、連れていくの?」


 陸斗は少し躊躇いがちに頷いた。


「わかったわ。私はリーダーに従うだけよ」


「リ、リーダー!?」


 いつの間に、といった表情で柚季に説明を促す。


「当然じゃない。今までだって貴方が先頭を行ってたんだから。誰がどう見ても貴方がリーダーだわ」


 確かに、最初の日から陸斗は柚季の前を歩いていた。その時は自分でも柚季を護らなきゃという意思で動いていたとこがある。


「リーダーはわかったよ。だけどホントに大丈夫なのか?」


 セリフの後半から半ば自分に問いかけているようだった。

 こういうゲームでは、パーティを組むのは生存率を高くする最も大きな要因となる。しかしその反面、そのパーティのリーダーには大きな責任が積み重なるのだ。

 それは絶対にパーティを守り抜くこと。

 二人だった時は陸斗が前衛、柚季が援護に回っていた。

 それが三人に増えたとなると、陣形もよりバリエーションが豊富になるのだ。その反面、リスクも増える可能性がある。

 三人がバラバラに行動した場合、他の二人を同時に視界に入れるのが難しくなるのだ。その為サポートにも回りにくくなる。

 パーティ人数が増えるということはそういうことも含まれているのだ。


「何ブツブツ言ってんのよ」


 陸斗は突然後ろから声を掛けられ、声のした方に振り向く。

 そこにはさっきまで腕が痺れていた美姫が腕を組んだ姿があった。


「腕はもう大丈夫なのか?」


 独り言を隠すために話を振ったのだが、美姫からの返答は素っ気ないものだった。


「そんなのもうとっくに治ってるっての。それより、早く移動した方がいいんじゃない?」


 美姫は顎で路地の入り口を指す。そこには美姫を撃とうとした男が地面に突っ伏していた。その男が呻きを上げながら身体を起こそうとしていた。


「やばっ! 早く逃げよう!」


 陸斗は美姫の腕を掴み、路地の奥の方向に走り出した。一歩遅れて柚季も後ろからついて来る。


「ちょっ、いきなり何すんのよ!?」


「やっぱりまだ震えてるじゃねぇか」


 陸斗に嘘を見抜く力なんてものはない。しかし美姫が強がっているのはなんとなくだが、分かっていた。


「……隠せてなかったのね」


 強がりを見抜かれた美姫は一言呟き、顔を俯かせ黙って陸斗について行った。その時、微妙な加減で美姫が微笑んだのは陸斗は気づいていない。



「……行き止まり」


 路地を奥に走り込んで来たものの、この路地がどこに繋がっているか分からなかった為、本能のままにやって来た。この四角い路地の果ての敷地は陽の光が届かないほど高いビルによって囲まれている。目の前には高さ二十メートルはあろうか、ビルが立ち塞がっていた。両側の建物もそれに負けないぐらい高さを誇っている。

 美姫は知っていたが、途中から今更だ、と思い陸斗に伝えるのを断念していた。その為、美姫はばつの悪そうに陸斗と視線を合わせようとしない。


「もう、戻れないよ。陸斗どうするの?」


 隣に並び、目の前の建物を見つめるのは柚季。陸斗は建物を見つめながらそっと右手の中指に嵌っている白銀の珠に触れた。

 無意識に行った動作だったが、直後、脳にそのリングの情報が流れ込んできた。


「……あと、二発」


「え?」


 隣で聞いた柚季はその言葉の意味を理解できずに陸斗に聞き返す。しかし陸斗から答えが返ってくることはなかった。その代わり忠告が返ってくる。


「みんな目を伏せて!」


 陸斗が言うが速いか、《開弾オープンバレット》を唱える。そして、腕を肩の高さまで上げ、拳銃の照準を目の前のビルに定める。次の瞬間、陸斗は無造作に引き金を引いた。

 直後、路地を青白い閃光が白く染める。

 一呼吸遅れて目を閉じた後ろの二人は直接光を浴びたところがあった。暗闇の路地を照らす閃光は瞼を貫通して眼球にまで届いた。

 やがて閃光が収縮し、世界に色が戻る。

 瞼を開くがまだ眩暈のようなものが残っているようにちかちかと視界が歪んでいた。

 そして、先程の光とは違い、弱いが温もりのある光が三人の身体を包んだ。

 目の前にはビルが――なくなっていた。

 空高く聳えるビルが跡形もなく消え失せ、その先の景色がはっきりと眼に映る。

 元ビルがあった先には横に一本通る道路が姿を見せていた。


「な、何これ……」


 そう発したのは異常な事態に何度も目を擦る美姫だった。

 柚季は既に何度か見た現象でそれほど驚きはなかった。

 《閉弾(クローズバレット)》を唱え、銃をリングに収納した陸斗は美姫の疑問に答えた。


「これが、俺の《独弾(ユニークバレット)》――《権破(アカウントブレイク)》だ」


 本当は自分の切り札とも言える《独弾(ユニークバレット)》を教えてもいいのだろうか、と迷ったがこれから行動を共にする仲間であれば、大丈夫だろうと思い話したのだ。

 美姫は最初のような驚きは表情から消えていた。そして自分も、という風に左手中指を二人に見せた。


「じゃあ、アタシも教えなきゃね。これは《査弾(サーチ・バレット)》。最初にあなた達を路地に引き入れる為に使ったの。効果は周囲のプレイヤー数と性別を感知するサポート的なやつよ」


 物珍しそうに見つめる二人を顎を上げて上から目線で見下ろしていた。

 しばらくして一時のお嬢様気分も終わり、三人は目の前の道路へと足を踏み込んだ。

 そして三人の姿に本来の色が戻った。

 陸斗の右側に立つ柚季の漆黒にも似た長い黒髪を靡かせ、陽の光が当たり、より美麗さが際立っていた。

 そして左側に立つ美姫の髪は、路地の中では分からなかったが、腰まで伸びる亜麻色の髪、両側頭部には二本の青いリボンが結ばれていた。

 両手に花とはきっとこのことだろう、としみじみと思う陸斗をよそに、柚季は歩き出した。


「柚季どこに行くんだ」


 呼びかけられた柚季は立ち止まり、陸斗たちに振り向いた。


「ん?ちょっとそこで休まない? 話したいこともあるし……」


 柚季が指す方向へ視線を移す。そこは道路沿いに店を構えるカフェだった。

 外装は荒れ果て、店名さえも分からなくなっていた。ただ一つわかるのは濃いめの茶色の壁というだけだ。外装がボロボロなだけに不安を抱きながら陸斗たちは店内へと足を踏み入れた。


 内装は外装より酷くなく、綺麗に整っていた。

 柚季を先頭に陸斗、美姫と並んで店内の奥の席に移動する。

 丸いテーブルに四脚の椅子が並ぶ席に、三人は座った。

 陸斗は背もたれに深く座り、脱力しきった。

 朝からずっと歩いたり、戦闘したり、といろいろなことがありすぎたのだ。

 ほっ、とため息を吐くのとほぼ同時に柚季が口を開いた。


「話っていうのは陸斗のことよ」


 突然、自分の名前が話題に上がったことに目を丸くして驚いた。


「え?俺?」


 隣の美姫も陸斗を見つめて驚いていた。


「話してほしいの。貴方がなぜ、『誰も殺さない』やり方を選ぶのか。ポイントを集めるのであれば、美姫みたいに人を殺す方法が早いし、それが今のこのゲームでのただ一つ明確化されてるポイント回収方法なのよ」


 美姫が「人を殺す」という所で肩をビクッと震わせたのは陸斗の気の所為ではない。


「なのにどうして陸斗は本当にあるかどうかも分からないポイント回収方法を探すの? 初めからそうだった。ノブ達の時もあの場面であれば三人を殺すことができたはずよ。それに殺し合った後でなんであんなに笑顔を出せるの? 私には分からない!……教えて。どうして貴方はそんな生き方をするの?」


 柚季はそこで言葉を切り、憂いを帯びた瞳で陸斗を見つめる。

 美姫は二人の柚季の言う「初めから」を知らない。しかし、美姫も見ていた。陸斗が殺すべきタイミングであえて外し、無力化で止めた行動を。

 陸斗がその話をするには過去の辛い記憶をまた呼び起こさなければならない。陸斗にとってその記憶は忘れたくても忘れられないものである。


「ちょっと! それって陸斗の過去を聞くって事じゃないの?」


 発言主はテーブルに肘を着く美姫だった。


「そうよ」


 柚季の返答は簡潔に返ってきた。


「待って! ネットのマナーとかでリアルのことは話しちゃいけないんじゃないの?」


 美姫はオンラインゲーム歴はそれほど長くないが、最低限のマナーは知っているつもりだ。

 しかし返ってきたのは冷たい視線と冷たい言葉だった。


「まだ、普通のゲームだと思ってるの? もうそんなマナーだとかルールなんて守ってる時代は過ぎたのよ。このゲームが本当の死に繋がってしまった時点で……。それで、今の状況で陸斗の行動ははっきり言って『異常』よ」


 続いて陸斗にも冷たい視線を送った柚季は言葉を続けた。


「これから三人でパーティを組む上で陸斗は危険要素なのよ。だから話してほしい。――どうして、誰も殺さないのかを」


  陸斗はしばらく目を閉じて考える素振りを取った。そして――


「わかった。話すよ」


 陸斗の瞳は今まで見てきた中でも一番沈んだ色をしている、と柚季は思った。それが陸斗にとって話したくなかったことでも全力で受け止めようと、考えている。

 陸斗はふっ、と遠い眼差しを向けて話し出した。


「あれは小学校四年生ぐらいだったかな――」


今話で陸斗の過去を登場させる予定でしたが、意外と長くなりそうなのであと1,2話続きます。すみません。予定通り話が進まないのは自分の文章力と計画力がないからです。

これからもよろしくお願いします。

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