8話 皓子の違和感
なかむらけ唯一のノーマルであり従姉妹の皓子。
彼女は時々思う。
「本当にウチはこの家族の一員なのか・・・・??」と。
無論あたりまえのように他のものは家族だと思っているし、悠生にいたっては誰より愛情を注いでいる。
しかし、他人がどう思おうが、彼女にとっては苦痛でしかない。
だって、彼女となかむらけには圧倒的な、絶望的なまでの歴然とした差がある
圧倒的な「力」の差が。
「静也~。工具セット投げて~」
「あいよ~」
楓と静也が屋根を修理している。というのも昨日彩花によって破壊されたのだ。
何故枕で屋根が破壊できるのかは甚だ不思議ではある。
「ウチもなんか手伝う。」
「ん??いや、こういうのは男子に任せときな」
静也に言うも断られてしまう。それがまた皓子には歯がゆい。
皓子は地元では屋根を直す仕事を請け負っていた。静也達ほどではないが身体能力は「人間としては」ずば抜けている。だから力になることだってできるのに。
「それにTASもかけ直してるから危ないぜ」
楓が屋根からぶら下がる。お前はホントに人間なのか??
「これは足の握力でブラ下がっているのさ」
人間じゃないな。
「そろそろお昼だね、なんか作ってくるよ」
皓子はそう言ってリビングへ
「皓子ちゃん、もう少しで出来るから待っててね」
・・・既に恵美がその腕を遺憾なく発揮していた。
どうやったらその細腕で大きな中華鍋を二つ同時に振るえるのか、聞いてみたいものである。
「屋根治してる二人に・・・」
「そこに差し入れが置いてあるから、持って行ってあげてくれる??」
「わかった。」
恵美の料理の腕前は知っての通りプロが泣きながら土下座しながらスカイツリーから落下するクラスの腕前だ。皓子の違和感はますます強くなる。勿論それはただの被害妄想であり、なんら気に病む必要は無いのだが、皓子にとっては、従姉妹という関係の人間にとっては中々に死活問題だった。
「恵美さんから差し入れ。」
「あれ、作ってくれなかったの??」
庭に戻った皓子を待っていたのは、その一言だった
「え??」
「いや、俺たち結構楽しみにしてたんだぜ??」
静也がそう言って屋根を見る。そこでは青白い光が時折走っていた。何やってんだ
「ほい終了。あれ、これ母さんのやないか。」
修理を終わらせて降りてきた楓も差し入れを見て目を丸くする。
「いや、中華鍋二つ振るってる人の近くには寄れないよ。」
「「あぁ・・・・なるほど」」
実際いたらものすごい怖いと思う。
「それはタイミングが悪かったな。」
「うむ、母さんが料理を始めると俺たちには手出しできないからなぁ」
遠い目をする二人、皓子は、皓子の心の中にある違和感が少しだけ解消されたような気がした。
他にも作業があると二人はまた修理に戻ってしまったため、皓子は一気にやることが無くなってしまう。
「これからどうしよう。」
声に出してみたものの、良いアイデアが浮かぶはずもない。
「うーん・・・とりあえず。」
とりあえず、リビングにでも行こう。そう思った皓子だった。
~数分後、リビングにて~
「・・・・・・」
「・・・・・・」
皓子はリビングの光景に絶句していた。
何が起きたのか。
目の前に変態がいる。
「もしもし警察ですかなぜか家に半裸の変態がいるんですが」
「まてまてまて!!俺だ!!徳光だ!!」
『それに俺の番号は警察にはつながんないぞ。落ち着け』
半裸の変態。というか水槽から出てきて服を着ている最中の徳光が居た。慌てて電話を掛けたせいか受話器から聞こえるのは楓の声だ
「徳光って金魚だったよね??」
『まぁそうなんだがなんか知らないが少しの間だけ人間になれるんだってさ』
「いや、だってさ。じゃないでしょ。それじゃただの化け物だよ」
『もともと俺たちも似たようなもんだからなぁ・・・』
「・・・・・・」
納得。
「それで、一体どうしたのさ。遊びにでも行ってきなよ」
「『黙れ化け物』」
「皓子はともかく楓には言われたくない!!」
ごもっともです。
「いや、特にやることがないから来たんだけど。徳光こそ何処に行くつもり???」
「え??新宿」
「え?何しに??」
「いや、特に当てもなくぶらつこうかなって」
「『ダメ人間め。いや、ダメ金魚か』」
「まだ電話切って無かったの!?」
「うん。面白そうだし」
『ちなみに俺は今研究室で・・・おっと、あぶねぇ』
どかーん
『悪い悪い、ちょっとミスった』
「「明らかに爆発音した!?」」
数分後
「なるほど、確かにウチは他と違って〔特殊〕な家族だからね・・・・・・」
皓子はなぜか徳光に違和感をぶちまけていた。
「気にすることは無い・・・って言いたいところなんだけど」
「??」
「そこは気にするべきだね。そしてどうすればここに溶け込めるか。」
「溶け込めるか??」
徳光はうなずく。
「そう。試しに、今日皓子は何をした??」
「えっと、楓と静也のしていた屋根直しを手伝おうとして、断られて・・・」
「どうしてそれをしようと思ったんだい??」
「それは・・・何か役に立たないと・「どうしてそんなこと考えたんだい??」・・それは」
「そう。まだ皓子が、皓子の中で自分の位置づけが〔従姉妹〕だからだね。」
徳光どうした。今日は妙に語るじゃないか
「やかましい。俺だって語る時は語るんだよ。・・・皓子が従姉妹だって思っているうちは、その違和感は消えないよ。だって自分から身を引いているんだから。」
「自分から・・・身を」
「そうだ。今日の行動の根底には、〔役に立たなきゃ〕という思いがあったはずだよ。」
「・・・うん」
確かに一連の行動を見る限り、家族のとる行動とは思えない。何か役に立っていないと、自分の意味を見失ってしまいそうだった。
「役に立たなきゃ認められない。そんなことを思っているうちは〔なかむらけ〕としてではなく〔従姉妹〕としてしかここにいられないよ。」
「でも、どうすればいいの??ウチはこの家族の中で一番弱い。肉体的にも、精神的にも。そんな私は、何もするなとでも言うの??」
「完璧な存在なんていないよ。いくら1500Mを2分で走りきれても。隕石にふつうに対応してても。みんな心のどっかでは不安を感じている。父さんも、母さんも、楓も、彩花だってそうだ。ただ、それを見せない術に長けているから気付くことはできないけどね。香織だって最初はみんなに隠してたんだよ。先天性精神不全症候群だってこと」
「・・・心配を掛けたくないから??」
あの長女のやりそうなことである。元から傷ついていてもあまり言い出さない子なのだ
「うん。結果ストレスがたまって病院へ搬送。そこで俺たちはその病気を知ったんだ。あの時の父さんは怖かったね。守ろうとした楓を半殺しにして、香織に向かってこうどなったんだ」
「なんて??」
「≪どうして黙っていた。俺たちはそんなに頼りないか。俺たちは他人じゃないだろう≫って」
「・・・??」
「俺なりにまとめると、≪家族なんだから弱みを見せたっていい。弱みを、痛みを分かち合えるから家族と言うんだろう。≫ってところかな」
「・・・つまり??」
「裏を返せば≪弱み、痛み、苦しみ、悲しみを見せることができて初めて家族は家族になる≫ってことだよ。」
皓子にはわからなかった。目の前の家族が何を言いたいのかと
「つまりだ、気を配る必要は無いんだ。皆助けられて、助けてる。事実俺たちも皓姉がいてくれて助かってるんだから、役に立とうとなんてしなくていいんだよ。って言いたいんだろ??」
いつの間にかリビングには静也が入ってきていた
「違和感はゆっくり消していけばいい。というか気にし過ぎるとかえって広がっちゃうんだから気にし過ぎちゃだめだよ」
ここまで来て皓子は気付く。自分はとっくに認められていたのだと。家族として。認めてもらえていたのだと
『そうだぞ皓子。妹は妹らしく、わがまま言えばいいんだ。俺もそれを望んでる。香織を見てみろ。≪甘いものが食べたい。けど太りたくないからカロリーほぼ零で≫とか言うんだぜ??無理だっつの。』
楓の声も皓子には届いた。声だけは。というか声の発信源は携帯だった
「良い雰囲気が台無しなんだけど」
静也の呟きは、誰にも聞こえなかった




