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散文

戯れ言。

作者: 雪鰻

 それは白い空間だった。

 目の前に広がる白、それだけの空間。

 全部が全部白くてそれ以外何もない。

 遠くに目線を移すが、白だけがあった。

 自分の姿を確認するために、視線を動かす。

 傷だらけの手。

 いつもの学校指定の制服と靴。

 自分の存在を示すそれはあった。

 ここは何処だろう?

 思い出そうとする。

 紅。

 一瞬で目の前の空間が紅色に染まった。

 その色に吐き気を覚えた。

 自分が今、さっきの一瞬に見た自分の血の色だったからだ。

 鉄骨が落ちてきたのを見、そして目の前が真っ赤に染まった。

 ならば、この世界は死後なのではないかと薄ら寒いものを感じた。

 喪失感が自分を襲う。

 そしてもっと恐ろしい発想に辿り着く。

 死ぬことでここに来たのならば、ここからどうやって出ればいいのだろうか。

 もう一度、死ねばいいのか?

 自分の手を首に当てる。そして力を込めた。

 苦しい。だが、それだけで呼吸が止まる感じはしない。

 待て、そもそもに呼吸をしているのか自分は?

 疑問に答えを出すかのように、手を口元に当てる。

 息の感覚が無かった。

 待て、待て、ならば人の形をした、形だけなのではないか、自分は。

 自分の姿を確認するために、視線を動かす。

 白い物体となった、自分の手。

 白い物体となった学校指定の制服と靴。

 自分という存在を示すものがなくなっていた。

 喪失感が再び襲ってくる。

 手を動かそうとするが、その動かすという感覚がない。

 視覚からも白い塊がもぞもぞと動くのが見えるだけだ。

 さっきと同じように首に手を当て、絞める。

 首の付近から伝わる感触が無かった。

 手に伝わる感触も無かった。

 焦る。

 ――なんで焦る必要があるんだ?

 白くなって無くなり、この紅い世界に混じってしまえば、自分を完全に失う。それはこの喪失感も無くなるということで、それに対する焦りすらなくなるということだ。

 違和感。

 それは違和感だった。

 ――白くなって無くなり、この紅い世界に混じってしまえば――

 この自分の言葉にとてつもない違和感を覚えた。

 何故だ。

 その思いが考えを生み出し、思考になる。

 確かに認識していた自身が白く変わったのは何故か――自分が喪失感を覚えたからじゃないか?

 何でこの世界は白から紅に変わったんだ――それは自分が血を思い出したからじゃないか?

 違う、それらは違和感じゃない。ただの結果に対する過程だ。

 ――何でこの世界は白から――

 そこだ。

 ――最初、この世界が白かったのは何故だ?

 その答えが思いついた瞬間、自分の傷だらけの手を取り戻したことを認識した。

 そして一面に青空が浮かび、白の地面との地平線を作り出した。

「簡単なことじゃないか」

 喪失感を覚えた自分は白くなった。なら、世界が白かったのは喪失感からだ。死んだことで喪失感を覚えたから白かった、こういうことである。

 ならその喪失感を無くしてしまえばいい。

 その思いつきは希望となり、喪失感を埋め、結果、自分を取り戻し、この世界を変えた。

「なら」

 っと、出口になりそうなそれを思い浮かべる。

 扉が出てきた。それはどこぞのアニメのキャラクターがポケットから出すような秘密道具のピンク扉だった。

 自分の想像通りの形である。

 そして自分の想像通りなら、それは何処にでも繋がっている筈である。

「自分の望む場所にも繋がる筈」

 頭を横に数度振り、

「繋がっている」

 言い直し、そして開けた。

「――ただいま」


 神は言った――光あれ、さすれば光があった。闇に混ざった形で光が生まれた。

 ――光あれ。ではこの神は光というものを知っていたことになる。また、光というものの神自身に対する有用性を知っていたことになる。そして、神に光あれと言える意思があったという事と光を認識する術を持っていたことになる。

 そしてそれを良しと判断するも、逆に闇を良しとはしなかった。判断の基準は、光と闇を主観的に分けただけだ。

 そして分けて出来たのが昼と夜だ。

 それら全てに関わっているのは認識と判断、そしてこうであれという意思である。


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