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海を漂う  作者: tomo
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三年4

 午後の授業も終わり、みんなそれぞれに自分の勉強場所へと向かう。


 受験が近づくにつれ、一秒も無駄に出来ないというような気迫が漲っていた。


 佐々木たちもその中では例外ではなく、佐々木と由利は図書館に、高屋は親に無理矢理に入れられた予備校へ行く。


 高屋本人は佐々木たちと図書館で勉強したかったらしいが、あまりの成績の悪さに親が息子の将来を案じたらしい。


 今さらではもうすでに手遅れの気がするのだが何もしないよりはましだ。



 校門で高屋と佐々木たちは別れた。


 高屋はいつものように、「予備校って本当に面倒なんだよな。何で、学校で散々授業を受けたのにまた予備校で授業を受けないといけないんだ」というお決まりの台詞を残していった。



 佐々木は由利と図書館へ向かう。


 いつも利用している図書館の部屋に行き勉強を始めた。


 入学以来の日課としていたから特に受験勉強というような気持ちはない。


 ただ、あの当時と変わったことと言えば、夜八時まで勉強するようになったことと由利がいるということだ。


 だけど由利とは図書館に入ると一切口を利かない。


 もちろん、そこでいちゃいちゃと話をしていれば周りの迷惑であることを承知していたためでもあるが、何よりお互いがお互いにその時だけは踏み入れてはいけない領域を持っているように感じていた。


 今の二人にとって、勉強を邪魔するということはタブーなのだ。


 そして勉強が終わると由利を家まで送って行くことになっている。


 由利の家は図書館から一キロも離れていないため普通に歩けばすぐに着くのだが、暗黙の了解という感じで出来るだけゆっくりと歩いた。



「高屋君、大丈夫かな。昨日の今日だから、今日も探し回られてるかも」


 由利が心配そうな声を出した。


「大丈夫だろ。今日は違う道から帰るように言っているし、もし見つかってもまた、ピーター・パンが助けに来てくれるんじゃないの?」


「大祐君って、結構無責任なこと言うね」


「そうかな」


「でも、そのピーター・パンに私も会ってみたいな」


「そう言えば、高屋自身はたまたま通りかかった人って言っていたけど、本当にたまたまなのかな? もしそれがたまたまじゃなかったら、やっぱり高屋が襲われたこともたまたまじゃなかったんじゃないかな」


「どうして?」


「今時、喧嘩を見かけたからって、止めに入るような人って何人もいないと思うんだ。そんな人がたまたま、しかも夜中の公園に通りかかったなんて、偶然で片付くのかな。それが偶然じゃなかったら高屋が襲われたのも、偶然じゃなくて必然だったって考えた方が自然だろ」


 由利が佐々木の言葉を聞いて、うーんと唸って考えている。


「高屋君が襲われたのも助けられたのも何か同じ理由があるってこと?」


「そうじゃないかなって。上手く言えないけど何となくそんな気がする」


「やっぱり、私は偶然だと思うな。偶然だったほうが、何となくロマンチックな気がしない?」


「俺は逆だな。全ての事がつながっている方がロマンチックな気がするけど。と言うか、つながっていてほしいって思う」



 現実を考えてみるとつながっているとする方がスムーズに話が流れる。


 ただそれは願望に過ぎないのかもしれないとも思った。


 この世の中に起きたことが全て偶然の産物だったとしたら、あまりに世界が無機質なものに感じる。


 もちろん、偶然が重なることもあるだろうが、せめてこの件に関しては偶然なんかじゃなく、必然であってほしいと佐々木は思っていた。


「それはそうと、さっきピーター・パンの話が出てきたけど、あれの話の内容って覚えてる?」


 佐々木は子供のころに腑に落ちないでずっと心の中に引っかかっていたものを思い出した。


「読んだ覚えはあるけど、ほとんど覚えてないなあ。ティンカーベルとウェンディがピーター・パンを巡る恋のライバルだったっけ? ティンカーベルってあんなに可愛らしいのに性格が良くなかったんだよね」


「そうだよ。まあ、ライバルって言うよりかはティンカーベルが勝手にやきもちを妬いていただけだけどね。そのことより、ピーター・パンとフック船長の一騎打ちの場面は覚えてない?」


「最後は確かフック船長が海に落ちてワニに食べられちゃうんじゃなかったっけ?」


「そう。俺、子供の時さ、そのシーンが理解できなかったんだ。ピーター・パンとその仲間が次々に海賊を殺して、最後に仲間を全て殺されたフック船長にピーター・パンが一騎打ちを仕掛けるんだ。だけど、二人の実力差は歴然でフック船長の攻撃は全く当たらなかった。そうしているうちに負けを悟ったフック船長はピーター・パンに目で合図を送って、海に蹴り落とされるんだ。この時の二人は何を考えていたんだろうって子供ながらに不思議に思っていたんだ」



 一番不思議に感じたのはフック船長の目で送られた合図だった。


 フック船長が込めたメッセージとピーター・パンが受け取ったメッセージは一致していたのだろうか。


 そして圧倒的な実力差を見せつけて、かつてのライバルをあっさりと蹴り落としてしまうピーター・パンは何を思っていたのか。


 しばらく由利は考え込んでいた。


 しかしすぐに、顔が明るくなった。


 佐々木が何年も分からなかった答えをすぐに導き出してしまったみたいだ。


「それは多分、フック船長は自分の罪を心のどこかで自覚していたんじゃないかな。だから、本当は二人の実力差なんてなくて、わざとフック船長が負けたんだよ。素直に自分の罪を認めることはもう立場上、出来なくなったから、最後は自分のライバルのピーター・パンに自分の罪を裁いて欲しかったんだよ、きっと」


 由利は自分で言った見解に何度も頷いている。



「行くところまで行って引き返せなくなったってことか。そういう風に考えられないこともないかな。謝るタイミングを逃すと最後はワニに食べられちゃうってことだったのかな」


 佐々木は冗談交じりに言ってみた。


「そうだよ、きっと。間違いない」


 由利は自分の考えを言葉にして話すことで自信を深めているようだった。


「でも、それは深読みしすぎな気もするけど」


「物語の解釈なんて、読んだ人の数だけあるって言うじゃない。だから私の説も正解だよ」


 由利がそう言って悪戯っぽく笑ってみせた。


「そうだね。解釈は自由だ」



 この何気ない時間と会話をじっくり噛みしめるようにゆっくりと歩いて行く。


 こんな時間もあと僅かなのだ。

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