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海を漂う  作者: tomo
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13/28

三年10

 人間というのは、今ということに関して鈍感すぎるのではないか。


 失くして初めて分かる大切さ、とでも言うのだろうか。


 いつだって感情というのは過ぎ去ったことに沸き起こる。強姦だけじゃない。


 いじめにしても同じことが言える。


 いじめられた子が自殺して初めて罪を実感するのだ。


 しかし、それではもう遅い。


 この犯人もいつか自分の罪を悔いる時が来るのだろう。


 だけど、そんなことでは被害者たちの傷が消えることはない。



 その時、佐々木の頭の中で引っかかるものがあった。


 何かと思って探ってみると、掴んだのはいじめという言葉だ。


 なぜ今、いじめという言葉が頭の中に出てきたのだろう? 


 ふと一つのことが頭によぎった。


 もしかしたら、あの時のことが関係しているかもしれない。



 あの時のことというのは去年の出来事だ。


 昼休みには突破口は一つだと言った。


 正直、あれは嘘だった。


 突破口にはなりえないと思っていた。


 それはほとんど塞がってしまっている。


 だけど、もし犯人がわざわざ制服を着て坊主頭にしたというなら突破口はもう一つあることになる。


 つまり、高屋に罪を着せようとする可能性のある人物。


 むしろそちらこそ唯一の突破口になるかもしれない。


 だけど、そのことを高屋の前では口にしてはいけないと思った。


 なぜなら、高屋の心の深い傷に触れなければ話が出来なくなるからだ。


 あの時、佐々木は初めて高屋が落ち込んでいるところを見た。


 そして後にも先にも高屋のそんな姿を見たのはそれが最後だった。


 それは時間は流れているという当たり前で無慈悲なことを改めて思い知らされた出来事だった。


 佐々木は職員室に向かいながら色々と思い返していた。


 高屋が言っていた通り放課後に呼び出されることになった。


 由利には後から図書館に行くと言って別れた。


 代わりに高屋が図書館まで送ってくれたみたいだ。



 職員室のドアをノックして中に入ると、木島に職員室の奥にある来客用の部屋に連れて行かれた。


 そして豪華な革張りのソファーに座るように指示された。


 木島は佐々木の向かいのソファーに座った。


 こちらも佐々木が今座っているものに負けず劣らずの豪華なものだった。



 まだ生徒指導の先生が来ていないらしい。


 そう言えば、生徒指導の先生って誰だ、と佐々木は思った。


 会ったこともないし、名前すら覚えていなかった。



「最近、勉強の方はどうだ?」


 木島が訊いてきた。話す話題がないのだろう。


「まあまあじゃないですか」


 佐々木は面倒くさかったので木島の顔を見ることもなく適当に答えた。


「そうか」



 二人の間に沈黙が流れた。


 こういうのを気まずい沈黙と言うのだろうが、今の佐々木にとってはどうでもよかった。


 色々と思考を巡らせる。


 生徒指導の先生は何をどこまで知っているのか。


 それを確かめる必要がある。


 しばらくして、生徒指導の先生が来客用の部屋に入ってきた。


「すいません。遅くなりました」と木島に謝っている。



 佐々木は少し戸惑いを覚えた。


 こいつが生徒指導だったのかと思うほどに相応しくない外見だったからだ。


 実際、顔は見たことがあったが、まさか生徒指導を任されているだなんて思いもしなかった。


 普通、生徒指導と言えば、いざ生徒と殴り合いになっても蹴散らしてしまうほど体格が良く、生徒を睨みつけて射すくめさせるような鋭い目つきをしているものだろう。


 だけど、今、目の前にいるのはおそらく二十代後半と思われる佐々木よりも小柄な男だった。


 そしてしゃべり方も相応しくない。


 これでは生徒は好き放題じゃないかと思ったが、よくよく考えてみればこの学校にそんな存在は不要なのだろう。


 つまり若手が無理矢理押しつけられた役職ということだ。



「高屋君から聞いたかもしれないが、実は今朝早くに警察が来たんだ」


 生徒指導は木島の横に座りながら話しかけてきた。


「だいたいの話は聞きました」


 今度は相手の顔を見てはっきりと言った。


 何を知っているのか訊き出さないといけない。

 

「じゃあ、話は早いね。それで、君からも話を聞きたいと思ってね」


「訊かれたことについては答えますが、今言ったように僕はだいたいの話しか聞いていません。それでは、答えようがないし、今、僕がここにいること自体、納得がいきません。詳しい話を聞かせて下さい」


 佐々木は語調を強めて言った。


 こういうタイプはこちらが強気に出れば先に折れるのではないかと思った。


 もしかしたら、高屋に言わなかった大事なことを隠し持っているのではないかと期待していた。



 予想通り、生徒指導はこちらの迫力に気圧されたようだ。


 生徒相手に気圧されるような奴が生徒指導で大丈夫なのかともう一度心配になった。


「け、警察の人が言うには、昨日も例の事件が起きたんだ。被害者は、あそこの女子高の生徒で……」


 生徒指導は顔を伏せて喋っている。



 その喋り方には苛々させられた。


 しかも、ここで聞きたいのはそんなことじゃなかった。


 なので、それ以上無駄話をさせないために、佐々木は彼の言葉に割り込んだ。


「それは知っています。僕が聞きたいのは、なぜ急に犯人が僕らの高校の制服を着ているという話が出てきたのかということです。そのことがなければ、高屋が疑われるようなことはなかったはずです」



 これに答えたのは木島だった。


「被害者の証言に決まっているだろう」


 そんなことも分からないのかというような口調で言ってくるので腹が立った。


 ここで言う被害者というのは小林のことだろう。


「被害者の証言と言うのが納得できないことの一つです。彼女は被害に遭ってそのまま自殺したんじゃないんですか?」


 佐々木はあえて生徒指導の方を見て言った。


 こっちの方が情報を引き出しやすいと思ったのだ。


「ひ、被害者が自殺する前に友達にメールを送ったらしいんだ。その中にうちの学校の生徒だと書いてあったそうだ」


 生徒指導が言うにはそのメールにはこのようなこと書いてあった。


 強姦に遭ったこと。


 そして、捨てられるように見たこともないような場所で車から放り出されたこと。


 しかも、その犯人が佐々木たちの学校の生徒であること。



 最後に、もう生きていけないということ。



 話が具体的になるにつれ、佐々木も冷静さを失いつつあった。


 しかし、一度目を瞑り、なんとか気を持ち直した。


 今、出来ることをしなくてはいけない。


「じゃあ、この学校って特定されたのはたまたまこの学校の制服を知っていた被害者だったからってことですか? それまでは、高校生だってことは言われてなかったんですか?」


 閉じた目を見開き、まっすぐに生徒指導を見た。


「いや、高校生ってことは言われていたみたいなんだ。でも、はっきりとうちの高校と言われたのは今回が初めてなんだ」


「それで何で高屋だったんです? こういう話をしたのは高屋だけですか?」


「え、えっと、警察の人に坊主頭の生徒はいないかって言われたんだ。君も知ってると思うが、坊主頭は高屋君ぐらいしかいないだろ」


「自殺した生徒っていうのは本当に小林瑞穂だったんですか?」



 まだ高屋に聞いただけだったのでもしかしたら人違いかもしれないという淡い期待があった。


「そうだよ。それがどうかしたのか?」


 生徒指導はあっさりと認めてしまった。


「おい。もういいだろう。今日は鈴木先生が話を聞くためにお前を呼んだんだ。これじゃ、あべこべじゃないか」


 木島が口を挟んできた。



 こいつ、鈴木っていうのか、とこの時初めて知った。


 そして木島がなんでここにいるのかと疑問が湧いた。


 お前がいる意味はあるのか。


「そうでしたね。すいませんでした。高屋が疑われているって聞いて、少し気が立っていたみたいです」


 今回はこれだけの話が聞けただけでも上出来だった。


 これ以上食い下がるわけにはいかない。


「で、では、君はこの事件について、何か知っていることはないかい?」


 鈴木という名の生徒指導の先生が言ってきた。


「僕は何も知りません。それと、少なくとも、高屋は無関係だと思います」


「それはなぜだ?」


 またしても木島が口を挟んできた。


 本当になぜこいつがここにいるのだ。


 それを論理的に説明出来れば、今頃犯人は捕まっているだろうが。


「はっきりとした理由があるわけではありません。友達だから、希望的観測でそう思うだけです」


 佐々木は正直に答えた。


「そんなことでは、警察が納得してくれないことぐらい分かるだろう。うちとしては、警察に報告する義務があるんだから」


 木島が首を左右に振りながら、話にならないといった顔をしていた。


 こいつも佐々木のことが嫌いなのか。


 それとも嫌っていることがこいつに伝わったのか。



 わざわざここで説明するのも煩わしかったが、佐々木は一秒でも早くこの場を去りたかったので、一気にしゃべった。


「一つ目として、高屋の家の車はセダンです。犯人の車はワゴンだったはずです。まさか、高校生が親に内緒で車を持てるわけがないでしょう。二つ目に、うちの高校の制服を着ていたことです。犯人が自ら正体をばらすことをするはずがありません。三つ目に、彼の態度です。彼は今日の昼休み、職員室から帰ってきた時、怒りを露わにしていました。もし犯人だとしたら、あの態度はおかしい。おそらく先生たちも見てたでしょう。ざっと思いつくことだけでも、これだけの理由があります」


 ここで、一息入れて、二人の顔を交互に見た。


「もういいでしょう。僕らはこの事件には何にも関係がないし、ましてや犯人であることはありえません」


 今挙げた理由はそれぞれに穴があるし、どれも決定的なものではなかったことは自分でも分かっていた。


 一つ一つを吟味すればすぐに崩される。


 だが、最後まで強気を貫いた。


 そうすることで一気に洪水のように飲み込んでしまえるのではないかと思った。


 考察の時間を与えたくない。


「もうこれ以上話すことがないようなので、これで失礼します」



 佐々木は彼らが水面に浮上する前に逃げた。


 佐々木は職員室から逃げるように去り、そのまま図書館に向かった。


 外は何事もなかったかのように普段と変わらない雰囲気で満ちていた。


 空は夕焼けの赤みが滲んでいる曇り空だった。


 佐々木も、もし、被害者に知り合いが含まれていなかったら、高屋が犯人として疑われることがなかったら、気にも留めていなかっただろう。


 そして一か月もすれば思い出すことすらなくなってしまうのだろうと思った。



 図書館に着くといつものように勉強には向かわず、一週間分の新聞がまとめて置いてあるコーナーに行った。


 そこには誰もいなかった。


 最近は携帯やパソコンを使ってインターネットを通じて情報を得る人が多くなったからだろう。


 そのうち、紙の新聞はなくなってしまうのではないかと思ってしまう。


 それでもまず新聞を読もうと思った。


 今日の夕刊にはすでに昨日の事件が載っているのではないかと期待したからだ。


 予想通り、夕刊には朝刊には載っていなかった昨日の事件が記載されていた。


 被害者が自殺したというのは、なかなかセンセーショナルだったようで、各紙の全国面で扱われていた。



 それらに目を通していると心の中には怒りが湧き上がってきた。


 突沸ではなく、じわじわと温度が上がっていくのを感じるほどゆっくりに、だ。


 何に対して?


 佐々木は自問自答する。


 それは犯人に対して、また事実だけを伝える、まさに無関心の世間を象徴しているかのような記事に対して、そして何より自分自身に対してだ。


 新聞を読み終えると次にパソコンのコーナーに向かった。


 昨日の事件だけではなく、以前の事件についても知りたくなったのだ。


 新聞のコーナーとは対称的に十台ほどあるパソコンはほとんど使用中だった。


 一台だけ使われてないパソコンがあったので、佐々木はそこの前に座った。


 インターネットを立ち上げ、ネットニュースを引っ張り出してくる。



 そこで新たに分かったことは、事件は昨日を含めて六件起きていたこと、そのうち五件がこの近辺だったこということだ。


 あと一件は隣の市で起きていたが、被害者の証言から同一犯であるとされていた。



 また他にも同じような事件は全国で起きていた。


 ネットニュースはあらゆる記事をストックしているため検索するといくつもの記事が表示された。


 あまりの多さに、日本という国単位で見れば決して珍しいことではなく、風邪にかかったという程度のものに感じてしまう。



 そのニュースの中にコラムが掲載されているのを見つけた。


 性犯罪被害者の体験談だった。


 あの小林が被害に遭ったということでその体験談の輪郭がはっきりと見えてきた。


 同時に、もし小林が被害に遭ってなかったら、とも考えた。


 わざわざ自分の思い出すのもつらい出来事を文字にしたのに誰の目にも留められることはなく、そして誰にも伝わることはなかったのではないか。


 そのコラムには今回の事件と同じようなことが書かれていた。


 事件の場所は自宅で、振りかえると見知らぬ男が立っていた。


 そして抵抗する間もなく犯された。



 被害者は数年経った今でも当時のことがフラッシュバックし、社会復帰出来ないでいる。


 男の人を見ると痙攣を起こし意識を失ったことさえある。


 当然、男がいる職場では働けない。


 なのにその犯人は初犯で連続犯ではなかったということで刑期は比較的短く、模範的な態度からさらに短くされた。


 犯人は間もなく社会復帰を果たし何人もの人がそれを支える。



 出所者が社会復帰出来ないことが再犯を招くということで職業斡旋などをしてもらえるのだ。


 一方、被害者は世間の風は冷たく彼女の状況を理解しようとする人は少ない。


 わがままだ、自分が被害者であることに甘えているなどという言葉を浴びせられることさえある。



 犯人がこれほどまでに早く刑務所を出られるのは、逮捕後何度も彼女に謝罪の手紙を書き、そして出所後まずしたいことは被害者に直接謝りたいというほどの反省を見せたからだ。


 だけど、それは犯人の自己満足にしかなりえないのだ。


 犯人は被害者に手紙を書いているのではなく自分自身に書いているにすぎないのだ。


 そうすることで自責の念から逃れてきている。


 被害者にしてみれば事件のことを何度もほじくり返されたところで傷が深くなるだけだ。


 加害者と被害者を取り巻く環境は本来あるべき形からは逸脱している。


「ここにいたんだ」


 佐々木が振り向くとそこには由利がいた。


 壁にかかった時計を見ると夜の八時だった。


 と言うことは、もう二時間以上図書館にいたということになる。



 記事に没頭していて、時間を忘れていた。


「今日は一人で帰らないといけないかって、どうしようかって思ってたんだよ」


 由利が困ったような顔を向けてくる。


「ごめん。本当に後で行くつもりだったんだけど、気が付いたらこんな時間になってた」



 それを聞くと由利は温かい笑顔になり、「いいよ。来てくれたんだから。早く帰ろう」と言ってくれた。


 図書館を出ると辺りは真っ暗だった。


 曇り空のせいで空は黒一色でベタ塗りしたようになり、そんな空を見上げると真っ暗な深海のように思える。


 天と地が入れ替わってそのまま宇宙の遥か彼方まで落ちていきそうな気がした。



 佐々木と由利はしばらく黙って歩いていた。


 夕方とは打って変わって人はほとんどいなかった。


 真っ暗な中に二人だけの世界が広がっているようだった。


 だけど、佐々木は考え込んで言葉を発することはなかった。


 由利も佐々木に気を使ってか、自分からは何も言ってこなかった。



 そんな中で、やはり始めに口を開いたのは佐々木だった。


「色々考えたんだけどさ、俺、この事件のことを楽しんでいたんだと思うんだ」


「楽しんでいた?」


「始めは仕返しとか言って、むしろ高屋が襲われたこととこの事件が関係していてくれたらって思ってた。だけど、いざ被害者が知り合いだったってなると、これだけのショックを受けてる」


 佐々木はあの時の自分の胸が興奮で高鳴った感覚を思い出した。


 挙句、何かドラマチックなことが起きないかなんて考えていた。


 被害者にとっては辛いことでも、傍観者だった自分は無邪気に楽しんでいたのだ。


「最低だよ、俺」


 自分の中で黒々とした罪の意識が無限に広がっていくのを感じた。


 その重みで真っ暗な深海へ沈み込んでいくような気がした。


「でも、世の中のほとんどの人がそうじゃないかな。ニュースを見て、同情したような態度をしているけど、あくまでもそれは自分には決して関係がないことだって分かってるからそういう態度でいられるんだと思うよ。大祐君が特別なわけじゃないよ」


 由利はなんとか励まそうとしてくれているみたいだ。


 沈み込んでいく心をすくいあげてくれるような口調だった。


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり俺はみんながそうだからってことにしたくないんだ。他人の不幸なんかそっちのけで、自分が楽しむことしか考えてなかったことには変わりないから」


「言ってることは分からなくもないけどね。だからってそんなに自分を責めてどうするの? どんなに後悔しても、何も変わらないよ」


 少し口調が強くなった。


 すくいあげても効果がないと悟って、今度は蹴りあげるようだった。


「それはそうだよね。何も変わらない。後悔って自己満足以上のものにはなりえないから」


 感情というのはいつも過ぎ去ったことに沸き起こる。


 後悔というのは、それの代表的なものである。


 どんなに後悔しても何も変えられない。


 自分のやっていることはあのコラムの犯人と変わらないのだから。


「そうだよ。いつまでも落ち込んでいるのも見てられないよ。明日からはもう忘れて、自分とは関係のないことだったなんて暢気に生きるのはちょっと違うけど、大祐君が落ち込んだって誰も救われないって」



 佐々木は少しの間、目を閉じて考えに耽っていた。


「俺はどうしたらいいんだろう?」


 まさに自分の心の中からこぼれ落ちたように無意識に呟いた。


「自分が納得できないって思うんだったら、何か行動を起こすのが一番だよ。ほら、いつまでもくよくよ悩んでたって何もいいことなんてないよ。昼間言ってたじゃない。この土日で何とかするんでしょ?」


「俺が何かして、何か変わることってあるのかな?」


「え?」


「明日、ちょっと話を聞きに行こうと思ってるんだ。思い当たることがあるし。そのことで、何か変わることがあるのかなって。一般情報が事件を解決に導くこともあるらしいし、無駄にはならないんじゃないかなって思ってるんだけど」


「うん、きっと無駄にはならないよ。大祐君なら、あっさり事件を解決しちゃったりするかもね」


「いや、そんな大したことが出来るなんて思わないよ。でも、例えば今は一日を二十四時間で刻んでいるけど、俺が何かして、一分でも短く、二十三時間五十九分で刻ませることぐらいなら出来るんじゃないかなって思ってるんだ。それぐらいのことが出来なきゃ許されない」


「大祐君ならきっと出来るよ」


 由利は力強く言ってくれた。


「でも、一日が一分も短くなったら、大変なことになっちゃうね」


 次は一転しておどけた口調になった。


「例え話だって。最近、何となく高屋に似てきたんじゃないの」


 佐々木は思わず笑ってしまった。


 二人で声を出して笑った。


 決して大きな声ではない。


 僅かな時間だった。


 それでも暗闇の中で二人の笑い声がこだました。


 その笑い声が二人を包んでそのまま、見たこともない場所に連れて行ってくれる気がした。



「それで、明日にでもあの三人組を探しに行くの?」


 由利がふうと息を吐いてから言った。


「いや。あの三人組はとりあえず置いておく。もう一つ、思い当たることがあるんだ。去年の、たしか七月だったかな? あのこと覚えてない?」



 佐々木は高屋の前では口に出来ないと思ったことを話し始めた。

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