摂政殿下の家庭教師編――その一
〈摂政殿下の家庭教師編――ファリエルお姉さんの場合〉
「勉強って、何歳までやれば終わるんですかね」
「人生終わったら終わるでしょ」
「つまりは一生ということで……」
「特にあんたはね」
「――――」
「しかも美人の女教師付き、嬉しさのあまり咽び泣くといいわ」
「そうですねー」
「……やる気のない肯定よりも、やる気のある否定の方がマシね」
「そうですねー」
「……姉さんって、凶科学者よね」
「そう、ですねー」
「リリシアって、ぺったいわよね」
「そ、そうですねー」
「皇府って、すんごいお婆さんよね」
「そうで……すね……」
「あんたって馬鹿よね」
「そうですねー」
「ついでに優柔不断」
「そうですねー」
「もう少し頑張りましょう?」
「そうですねー」
「って、分かってるなら直しなさいよ」
「そんな簡単に性格を直せたら、苦労はないと思いませんか」
「威張るなッ!」
〈摂政殿下の家庭教師編――カールの場合〉
「何故でしょう」
「――は?」
「最近、メリアの機嫌が良くないのですが」
「それを、何故私に……」
「いや、父親なら何か知っているかと思ったのですが」
「―――父親が娘を理解するなど、殿下が女心を理解するくらい困難なことです」
「なるほど、それは無理だ」
「――出来るなら否定して欲しかったのですが」
「カールがメリアを理解出来る頃までには、何とかしてみましょう」
「つまり……」
「理解できたら嬉しいな、出来なかったら謝り方の種類を増やそう、と思っております」
「全力で後ろ向きですな」
「消極的であるよりはマシでしょう」
「まあ、メリアにそれが通用するかどうかは別ですが」
「――防御系魔法も覚えようと思います」
「はぁ――その努力、正しい方向に向けば、と惜しむばかりです……」
〈摂政殿下の家庭教師編――アナスターシャの場合〉
「――――」
「――これを読めと?」
「ん」
「『女性の誉め方大全集――これであなたも女誑し』……あなたは私をどうしたいのですか。」
「せめて人並み」
「大全集読んでようやく人並みと、そう言いたいのですね」
「そう」
「――これは姑の婿いぢめですか」
「いじめ、じゃない、親心――半分は」
「半分……残りは?」
「好奇心」
「いじめよりタチ悪っ!」
「あ……違う」
「――何でしょう」
「祖母心」
「あれですか、早よ作れと、さっさと作れと?」
「――うむ!」
「うわぁ、すごく良い笑顔……」
「――何なら、龍もイチコロの、秘薬を……」
「あなたは娘に何をしろと」