01.おはよう
01.おはよう
まだ鳥の声が聞こえる朝の時間。
「おはよう」
真っ暗の世界から、俺を明るい世界へ戻してくれる魔法の言葉。
「……うん、おはよう」
そして、その言葉は俺を人間として目覚めさせくれる一言。
――――――――――――――
「オハヨウゴザイマス」
メカメカしいその声で俺は今日も目覚める。
「おはよう、066」
窓のない、太陽がなく電気しかない暗い部屋で身支度をする。
この世界には太陽がないからだ。
「ホンジツノメニューデゴザイマス」
「066、もっと流暢に話してくれ」
066とは、俺の部屋の専属ロボットというか未完成生命体だ。
見た目は箱型の鉄、異世界だしもっと技術が進んでて人型のロボットとかなのかなと思ってたが全然違かった。
「こんな風でよろしいでしょうか?」
「それでいい、これからはそれで頼む」
「了解しました」
ただ機能は万能で、料理やら掃除やら、予定管理まで完璧だ。
「改めまして、本日のメニューでございます」
066が表示してきたメニューは日本で言うパン、こっちだとレイマンと呼ばれる粉を丸くして焼いたもの。
正直まずい、だけど俺は金を持ってないから今はこれを食うしかない。
「それで」
金がないのに何故万能ロボットを持ってるかだって?
「調理開始します」
このロボットは無償で提供されるもの、どんな貧乏人でも貰えるが1度故障すれば貧乏人はもう使えない、修理代が高いからな。
「調理完了しました」
066の側面から丸いレイマンが出てきた、それを掴み食う。
「無味無臭……」
レイマンを食べていると腕に着けていた時計のようなものが振動する。
異世界転生した時、案内人のようなやつが手渡してきたものだ。
俺は、突然死だった。急に目の前が真っ暗になったと思ったらこの世界の青年として生まれ変わっていた。
ここの事はまだよく知らない、知っているのはここの世界は太陽が無くて、弱肉強食の世界だと言うこと。
「ご主人様、まもなく時間です」
「わかった」
俺は玄関のドアを開けて階段を下る。
今日は転生して2日目。外に何があるのか俺も知らないが、案内人が言っていた。
「2日目の朝、このアラームが鳴ったら急いでお前の居住地から東にあるロビーへ来い」
だから俺は今急いでる。朝から、走っている……。
「この世界には……時計が……無いのか……?!」
元々体力には自信がある方ではあったがそれは仕事などの脳や基礎体力が人より少しだけ優れていたからと痛感する。
「あと……どれくらいだ……」
走るというのは全くしていなかった為、走り方も変だしそのせいかすぐ疲れて息切れが激しい。
「あと少しだ……」
俺は全力を振り絞り案内人の言っていたロビーへ向かう、日本人成人男性には辛すぎる運動量だ。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
それから体感17分程走り遂に目的地であるロビーについた。
そこは見渡す限り人で溢れていて、みんな武器や装備を身につけている。
建物は近未来的で電光掲示板があちこちに貼られていて、大きな塔のような形状をしている。
にしても俺は何をすればいいんだ……。
「おーい!転生者!」
遠くから可愛らしい声が聞こえてくる、声のする方向に目をやるとあの案内人がいた。
金髪で綺麗な紫色の瞳が印象的な姿をしている、身長は160cmくらいで体は細めだな。
「来たか、まずは自己紹介をしようじゃないか」
彼女は笑顔で小さな手を差し出してきた、その手は確かに細くて小さな手だがどこか力強い。
俺はその手に手を重ねた。
「私はグランベール・ライルズだ、長いからライルズで結構だ」
「俺は森田健介だ、よろしく」
握手を交わし、自己紹介を終えたところでライルズが歩き出す。
「さぁこっちだケンスケ、今からお前を戦士にする」
「あぁ、よろしく頼む」
そう、この世界は自分で戦って勝ち、勝ち続けなければならない世界だ。
このロビーはその会場で入口、国内で戦いロボットが戦力評価で数値を出し、国内外でランキングが作られそれによってどれだけの権力が得られるかが変わってくるらしい。
「まずは武器からだな! ケンスケはどんな武器が良いんだ?」
棚には様々な武器が並んでいる。剣や盾、弓や銃なんかもあって木の枝?のようなものもある。
「無難に剣かな、定番っぽいし」
そう言うとライルズは不思議そうにこちらを見てきた。
「なんだ、スキルで決めないのか?」
「スキルって何だ?」
数秒、両者ともに沈黙に。
「……え? お前自分のスキルを見てないのか?」
「あぁ……」
ライルズは呆れたような眼差しでこちらを見てくる、確かに他の転生者は見るかもしれないが見ないやつだっているだろうに。
「ケンスケ、いいか?この世界で1番重要なのはスキルと言って良いんだ」
ライルズが真剣な眼差しになった、ここからはちゃんと聞いておかねば。
「確かに戦略とかも大切だけどスキルは強さに直結するんだ、この個人戦システムはスキル1個でかなりの差が出てくる」
確かに、団体戦とかならお互いの苦手な所をカバーしながら戦うことも可能だ。
それが、個人戦になると出来なくなる。自分の苦手な所をカバーしてくれる味方なんていなくて、苦手でできない所は克服していけないとここでは生きていけないか。
「スキルは手を5本の指を指先だけくっつけてから広げると出てくる、やってみて」
言われた通りやると、本当にゲームのようなスキル表示が出てきた。
森田健介
・スキル 身体強化I 天の声
「……これだけ?……」
自分でもため息が出そうなスキル欄だ、身体強化とかはよくあるやつだがそれ以外は天の声というよくわからんスキル以外無し。
「これは……天の声というのが気になるがあとは身体強化Iだけ……」
ライルズも知らないのか、天の声というスキル次第ではあるが現状は雑魚以外の何物でもないな。
「ま、まぁ気を落とすなケンスケ。スキルは成長と共にレベルも上がるし新スキルも獲得できるんだ」
「本当か?!」
なんと、生まれつきで決まっていて成長も無いとかそういうのでは無いのか。
「この世界のスキルは成長するし新スキルも獲得できるんだよ。例えばケンスケが持ってた身体強化Iもレベルアップして身体強化IIになるし、ケンスケ自身が成長していけば新スキルだって貰える」
「良かった……てっきりもう俺はこのスキルだけで生き残らなければならないのかと」
ライルズは腹を抱えて笑った。大きな声で涙を出しながら身がよじれるほどの大爆笑。
「ケンスケ、本当に面白いぞ! あははは!」
「笑い事じゃないぞライルズ……はぁ」
まぁ、とりあえずスキルについてはある程度理解できたから良いとしよう。
「ライルズ、それで俺はどんな武器が良いと思う?」
ライルズは俺のスキル画面を凝視して、身体強化Iに指を指す。
「身体強化があるって事は近距離が良いだろうね。天の声がイマイチよく分からないけど、さっき言ってた剣とかでいいと思うよ」
「じゃあ剣にする。何かおすすめの剣とかあるか?」
そう聞くとライルズは即答で「ない」と答えた。
ライルズは不満気に棚に陳列してある剣達を見回す。
「ここにある剣は全部同じような性能しかないし、品質は低い。武器が無いよりかはマシくらいだよ」
ライルズが言うなら、多分そうなんだろうがそしたら値段が高くないか……?
「なぁライルズ、それなのに何でこんな値段が高いんだ?」
ライルズはより怪訝な顔をして俺の目をじっと睨む。
「いい? この世界は弱肉強食、それは売買契約の方でも同じなの。武器のない初心者に品質の低い武器を買わせて儲けようって訳」
ライルズはロビーから見えるひとつの高いビルわ指さした。
「あれは?」
「あれはファイトソウル社の本社。ここにある初心者用武器を大量生産してる言わば金儲け会社」
あれがか……だが本社のデカさは凄いな、日本で言う東京庁舎くらいか。
「あいつらはお金のことしか考えていないクズだよ、初心者がうまく戦えるよう工夫するんじゃなくていかにバレずに壊れやすくして買い替え直させるかしか考えていない」
「リピート回数を増やして売上を増やしてるってことか……」
それならファイトソウル社以外の武器を買えばいいのではとも思ったが商品を見るとほぼ全てファイトソウル社の商品のみが売られている。他社の武器がたまにあったが値段は二倍以上する。
「独占的だな、ライルズからあの話をしてもらったあとでは買いたくないが本心だが値段的にはこれを買うしかないか」
俺はこの世界の紙幣を6枚出して武器を購入した、日本で言う6万円くらいだと思う。
「毎度あり!」
俺らは武器ショップを出て本題のロビー広場に向かう。
「本当にここはあの大人気会場か? 人っ子1人居ないじゃないか」
「仕方ないよ、今はバトルフェーズだからもうみんな広場にいるんだ」
俺らが歩きながら話してると前から女性が歩いてくる。
装備ガチッガチの鎧だが、その華奢な身体と歩き方からすぐにわかる。ライルズが俺の肩を叩き耳を貸せと言わんばかりのサインを出してきた。
「おいケンスケ、目を合わせるなよ」
俺は言われた通り真っ直ぐ前を向いて歩き続けた、鎧の女性とすれ違って俺はライルズに聞いてみた。
「なんで目を合わせたらダメなんだ?」
「少し考えればわかるだろう、お前は初心者のルーキーだ。逆に相手はあんな高価な鎧を身につけられる程の高ランクプレイヤー、子猫が大人のライオンのような違いだよ」
確かに今の俺はスキルも弱い子猫同然だ、この説明にとても納得できる。悔しいが。
「さぁ着いたよ、ケンスケ。ここがロビー広場だ」
そこにはたくさんの人で溢れていた。その中で、俺の初心者さも露呈する。
俺が立ち尽くしていると後ろから肩を叩かれた、振り向くとニヤニヤしたおっさんが立っていた。
「よぉ兄ちゃん、もしかして初めてかい?」
「そうですけど……」
おっさんは人差し指を曲げて、俺に着いてくるように促す。正直怪しさ満点だが、ライルズも何も言ってないし行ってみるとしよう。
「初めてのやつは久しぶりだよ、前はいつだったかも忘れちまったくらいだ。お前に着いてきてもらってるのは他でもない申請をしにな」
「申請と言うと、俺を戦士として登録する為のとかですか?」
おっさんは何度も頷いた、歩きながら語っていく。
「俺は案内人の1人だ、常用のな。兄ちゃんの案内人の姉ちゃんは非常用の案内人なんだぜ」
案内人にも種類があるのか、確かにライルズだってかなりの実力者のはずなのに初心者で雑魚の俺にこんなに付き添ってくれるのには任務とかだからだろうか。
「でも、なんでライルズが非常用だとわかるんですか?」
おっさんはライルズの装備を指さして自信満々に語る。
「いいか?案内人っつうのは基本的に非戦闘員だ。だから俺みたいに装備も武器も持たない衣服だけのやつなんだよ。だけど姉ちゃんはこんな立派なレイピアをお持ちだ」
「てことはライルズも俺の敵ということか?」
ライルズの方を見るとなぜか頬を膨らませて不満気な顔をしていた。そして大きく顔を横に振る。
「私はケンスケの味方。そもそもランク帯が違いすぎてまだ当たるなんてことも無いし、でも、当たったなら全力で戦うけどね」
「かっこいいな」
ライルズは「でしょ?」とでも言いたげな顔をして俺にアピールしている、まぁ満面の笑みだしいいか。
「さぁ、着いたぞ。申請所だ」
多くの受付がずらりと並んでいる、これも大人数を捌き切れるように設計されたのだろう。
「兄ちゃんは新規登録申請だからこっちだ」
新規戦士登録申請書、名前と年齢と、自分の使う武器とかを書くのか。
俺は受付で書き上げてそのまま投入口に入れた。ここの受付は全て機械で行っているらしい、確かに人を使うよりこっちの方が金もかからないだろうな。
「とりあえず申請書を出したが俺はこれから何をしたらいいんだ?」
「そうだね〜、とりあえず初心者は模擬戦で戦いに慣れるといいよ」
ライルズはまた別の受付を指差す。そこには模擬申請所と書いてある。
「なるほど、そこから申請するんだな」
俺は初めて手にする武器を持って、申請所へと向かっていく。まずは、戦いに慣れていかないとな。




