第99話 逆襲のとき
「もうあなただけよ……! セラフィナ!!」
しずくの声が、玉座の間に凛と響き渡る。
姉を見送った涙はもう乾いていた。
今、彼女の瞳にあるのは、悲劇の元凶を断つという揺るぎない決意だけ。
「……チッ」
セラフィナが不快そうに舌打ちをする。
その美しい顔が、初めて苛立ちで歪んでいた。
「なぜ……。なぜなのよ」
彼女の周囲に漂う闇のオーラが、不安定に揺らめいている。
「エリスも、セレスも瑠璃も……私が手塩にかけて作り上げた最高傑作たちだったのに。 なぜ、こんな虫けらごときに後れを取るの!?」
セラフィナが苛立ちまぎれに手を振るう。
漆黒の衝撃波が放たれるが、その軌道はどこか雑で、精彩を欠いていた。
「おらよっと!」
リサが大剣を無造作に振り回し、衝撃波を打ち消す。
「どうした神さんよぉ!
さっきまでの威勢はどうした?なんだか動きが鈍いんじゃねぇのか!?」
「……なめるな、下等生物がッ!!」
リサの挑発に、セラフィナが激昂する。
彼女が両手を掲げると、天井の空間が歪み、巨大な重力球が生成された。
「消えなさい! 塵一つ残さず!!」
ドゴォォォォォォォォォン!!!!!
重力球が炸裂する。 玉座の間全体が押し潰されるような圧力。
床が抜け、柱がへし折れる。
「くっ……!」
しずくは盾を構え、耐える。 腐っても神を名乗るだけのことはある。
その出力は依然として桁違いだ。
「バカ! あまり煽るなリサ!」
クラウディアが氷の障壁を展開し、余波を防ぎながら怒鳴る。
「怒りで冷静さを欠かせるのは定石だが……コイツの場合、
単純に出力が馬鹿高いんだ! 藪蛇になりかねんぞ!」
「へへっ、わりぃわりぃ! でもよぉクラウディア、お前も気づいてんだろ?」
リサが口元の血を拭い、ニヤリと笑う。
「コイツの攻撃……軽いぜ」
「……なに?」
セラフィナの手が止まる。
軽いだと? この私が?
神の力を手に入れた、この私の攻撃が?
「ありえない……。私の力は無限のはず……」
セラフィナが自分の手を見つめる。
違和感。
先ほどからずっと感じていた、体の芯が冷えるような感覚。
魔力が思うように練り上げられない。
それどころか、体内の魔力が、
どこか別の場所へ向かって吸い出されているような……。
「……まさか」
セラフィナの顔色が蒼白になる。
彼女は慌てて、魔力の接続先――「生命の間」へと意識を向けた。
そこにあるはずの「空っぽの器」。
彼女がエネルギーを搾り取った後の、抜け殻の核。
だが今、その核は赤く脈打ち、猛烈な勢いで回転していた。
逆回転で。
「魔素が……吸われている……!?」
セラフィナが愕然とする。
核が再起動し、システムの主導権を奪い返しているのだ。
そして、未だ核とリンクしていたセラフィナの体から、
奪った魔力を回収し始めている。
「ようやく効いてきたか!」
リサが得意げに大剣を肩に担ぎ直す。
「リサさん……いったい何を……?」
しずくが驚いて問う。 リサは鼻の下を擦り、親指で床下を指差した。
「核の再起動だよ!アヤメたちに手伝ってもらってな。
空っぽの核を無理やり叩き起こしてやったんだ!」
「叩き起こしたって……」
「お前と核のリンクが切れてないのは誤算だっただろうがな、セラフィナ!
お前がユナイトアークを食い物にしたように、
今度はユナイトアークがお前を食ってるんだよ!」
「……ふざけるな」
セラフィナの全身がわななく。 プライドが、計画が、音を立てて崩れていく。
「ふざけるなぁぁぁぁぁッ!!!」
ドオォォォォォォォン!!
セラフィナの絶叫と共に、周囲の瓦礫が弾け飛ぶ。
それは神の威厳などかなぐり捨てた、ただの癇癪だった。
セラフィナが髪を振り乱し、血走った目で三人を睨みつける。
「神の邪魔をするな! 私が……私がこの世界のルールになるのよ!
誰にも私の輝きは止めさせない!!」
セラフィナの背中から、どす黒い翼のような闇が噴出する。
魔力の流出を止めるため、彼女はなりふり構わず、
自身の生命力すら魔力に変換し始めたのだ。
「貴様らを殺し……もう一度生命の間に向かう!
そして核を破壊し、全ての魔力を私が喰らい尽くしてやるわ!!」
セラフィナが地を蹴る。 標的は、道を塞ぐ三人。
「来るぞ!!」
クラウディアが氷剣を構え、冷気を纏う。
その瞳は、絶対零度の冷徹さで敵を見据えている。
「やれるもんならやってみろ!! テメェの野望は、ここで終わりだ!!」
リサが炎を燃え上がらせ、一歩前に出る。
その背中は、頼れる先輩の背中だ。
そして、中央。 しずくが、姉から託された力と共に、盾を構える。
「絶対……ここは通さないッ!!」
三人の魔力が重なり合い、巨大な防壁となって立ちはだかる。
最終決戦。 神を騙る怪物と、人の意志を継ぐ魔法少女たち。
ユナイトアークの頂上で、最後の戦いの火蓋が切って落とされた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
流瑠々と申します。
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次回 №4氷の騎士 お願いします。
流瑠々でした。




