第93話 暴かれた真実
セラフィナが指を鳴らすと、玉座の間の空間が歪み、
過去の映像が――セラフィナの記憶が、しずくの脳裏へと流れ込んできた。
ザザッ……。
映像が鮮明になる。 場所は、旧人類領地の原子力施設。
そこには、巨大なマガツの死骸が転がっていた。
「対象の沈黙を確認。……さすがです、瑠璃隊長」
落ち着いた声で報告したのは、同行していた部下の魔法少女だった。
彼女は周囲を警戒しながら、手際よくデータ収集を行っている。
「油断しないで。こいつは以前、私が倒した個体のはず。
傷を癒やして休眠していたようね」
瑠璃が武器を下ろし、鋭い視線で周囲を巡らせる。
「すぐに本部に連絡し、封印班を要請します。
通信が繋がるエリアまで移動しますので、隊長はこの場の確保を」
「ええ、頼むわ」
部下の少女が一礼し、迅速に走り去る。
その場には、瑠璃とセラフィナの二人だけが残された。
静寂が戻る。 瑠璃が背を向けたその隙に、セラフィナが動いた。
彼女はマガツの死骸からこぼれ落ちた、
ドス黒く脈動する核を拾い上げ、手早くポケットに隠そうとした。
(これさえあれば……!)
セラフィナの指が震える。
この凝縮された魔力。これを取り込めば、私はもっと強くなれる。
「……なにをしているの? セラフィナ」
冷ややかな声が背後から刺さる。
「ッ!?」
セラフィナの手が止まる。 振り返ると、瑠璃が静かにこちらを見つめていた。
「え? な、なにもしてないわよ、瑠璃」
セラフィナは引きつった笑みで誤魔化そうとする。
だが、長年の付き合いである瑠璃の目は誤魔化せない。
「……嘘ね。それを渡しなさい」
瑠璃が静かに手を差し出す。
その清廉潔白な態度が、セラフィナの心の奥底にある劣等感に火をつけた。
「……気づいていたの?」
セラフィナが、スゥッと表情を消して問いかける。
「薄々はね。……あなたの最近の急な成長、
そして以前とは違う、少しゆらぎのある魔素」
瑠璃の指摘は的確だった。
友として、ずっと近くで見ていたからこその違和感。
「フフッ……」
セラフィナが肩を震わせ、そして歪んだ笑みを浮かべた。
「そうよ。……私は人類の禁忌に手を出している」
悪びれる様子もなく、セラフィナはポケットに入れた核を強く握りしめる。
「これがあれば、私は壁を越えられる」
「壁?」
「才能という名の理不尽な壁よ!」
セラフィナが激昂し、叫ぶ。
その声には、長年溜め込んでいたドス黒い感情が滲み出ていた。
「私は誰よりも努力した! 誰よりも成果を上げた!
なのに、周囲が評価するのはいつもあなた!
天才の瑠璃! №1の瑠璃!……あぁ、忌々しいッ!!」
「……間違っているわ」
瑠璃は悲しげに首を振った。
「力に溺れれば、それはもう魔法少女じゃない。
ただの怪物よ。……セラフィナ、その核を渡しなさい」
瑠璃が手を差し出す。
だが、セラフィナはその手を払いのけるように、核を強く胸に抱いた。
「渡さないわ……」
セラフィナの瞳から、理性の光が消え、黒い欲望だけがギラギラと輝く。
「これを使って、私はあなたを超える。……いいえ、あなただけじゃない」
全身から不穏な魔力が溢れ出す。
「力も、名声も、実績も。私は全てにおいて……ナンバー1になるのよッ!!」
セラフィナが叫ぶと同時に、解放された核のエネルギーが爆発した。
施設を揺るがすほどの衝撃波。
セラフィナは人間を辞める覚悟で、その禁断の力を行使した。
だが――。
「が、は……ッ!?」
セラフィナは、無残にもコンクリートの壁にめり込んでいた。
「嘘、でしょ……」
口から大量の血を吐き出し、地面に崩れ落ちる。
全身の骨が悲鳴を上げている。
魔法障壁は紙のように引き裂かれ、自慢の攻撃魔法は掠りもしていない。
視線の先には、瑠璃が立っていた。
息一つ乱さず、白銀の鎧に傷一つ負わず。ただ冷徹に。
(な、なんだこの強さは……ッ!)
(この私が、なにもできないなんて……)
セラフィナの背筋が凍りつく。
核の力を使い、人間の限界を超えたはず。
なのに、指一本触れることすらできなかった。
次元が違う。
その残酷な現実だけが、痛烈な痛みと共にセラフィナの全身を支配していた。
セラフィナの背筋が凍る。 正面からやり合えば、100回戦っても100回負ける。
「無駄よ、セラフィナ。投降しなさい」
「くっ、うぅ……ッ!」
勝てない。このままでは全てが終わる。
追い詰められたセラフィナの視界の端に、人影が映った。
「通信繋がりました! ……え? 瑠璃隊長、セラフィナ様? 何事ですか!」
先ほどの部下の少女が戻ってきたのだ。 異様な殺気を感じ取り、少女が立ち尽くす。
その瞬間、セラフィナの顔に、卑劣極まりない笑みが浮かんだ。
「……動かないで」
セラフィナが跳んだ。
満身創痍の体を無理やり動かし、瑠璃ではなく、部下の少女へ向かって。
「しまッ――」
瑠璃が反応するよりも早く、
セラフィナの手は、少女の首を背後からガッチリと掴んでいた。
「なっ!? せ、セラフィナ様……!?」
「動けば、この子の首をへし折るわ」
セラフィナが少女を盾にし、狂ったように叫ぶ。
「セラフィナ……ッ!」
瑠璃の動きが止まる。 怒りで手が震える。
「仲間を巻き込むなんて、それでも魔法少女なの!?」
「だまれ!! さあ、武器を捨てなさい! 瑠璃!」
「……瑠璃隊長、私に構わず!! 撃ってください!!」
部下の少女が気丈に叫ぶ。 瑠璃は歯を食いしばる。
瑠璃にはセラフィナごと空間を穿つだけの力がまだある。
勝てる。
だが、その一撃は確実に部下の命も奪う。
瑠璃の脳裏に、妹の顔が浮かぶ。
もし、あの子が同じ目に遭ったら。 そう考えた瞬間、彼女の殺意が鈍った。
「……くっ」
カラン……。
瑠璃の手から、武器が滑り落ちた。 彼女は両手を挙げ、無防備な姿を晒す。
「その子を離して。……私の負けよ」
「隊長!!!」
少女が泣き叫ぶ。瑠璃は静かに、けれど強い意志を込めてセラフィナを睨みつけた。
「……セラフィナ。私はあなたを許さない」
その言葉が、セラフィナの逆鱗に触れた。
「あはははは! 甘い! 甘いわねぇ瑠璃! その甘さが、あなたの死因よ!!」
セラフィナは腕を振り回し、人質の少女を瑠璃へ向かって力任せに放り投げた。
「きゃああああッ!?」
宙を舞う少女。 それと同時に、
「くっ――!」
瑠璃は咄嗟に動いた。 避けるのではない。
放り投げられた部下を受け止め、自分の体で庇ったのだ。
ドスッ。
生々しい音が響いた。 セラフィナの魔法刃が、瑠璃の心臓を、深々と貫いた。
「ガ、ハッ……」
瑠璃の口から、鮮血が溢れる。
瑠璃は少女を抱きしめたまま膝から崩れ落ち、
冷たいコンクリートの床に倒れ込んだ。
「る、瑠璃隊長……!? いやぁぁぁぁッ!!」
少女の絶叫。 瑠璃の視界が霞む。命が流出していく。
その薄れゆく意識の中で、彼女は最期に、
遠く離れた場所に住む妹のいる方角へと手を伸ばした。
「……ごめん……ね……」
涙が、瑠璃の頬を伝う。
「……しず、く……」
ごめんね。
一人残して、ごめんね。どうか、生きて。
あなただけは……幸せに……。
「……愛し、てる……」
ガクリ。 瑠璃の手が落ちた。
稀代の天才魔法少女、瑠璃。
その命は、卑劣な裏切りによって、あまりにも呆気なく散った。
「アーハハハハハハハ!! 勝った!私が勝った!
これで邪魔者はいなくなった!私が№1よ!!」
狂喜乱舞するセラフィナの高笑いが、響く。
彼女は瑠璃の亡骸を見下ろし、ゴミのように蹴り飛ばした。
そこで映像が途切れた――。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
流瑠々と申します。
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次回 断ち切られた言葉 お願いします。
流瑠々でした。




