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白の魔法少女 ―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―  作者: 流瑠々


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第76話 血路の果てに



「グルルルル……ッ!!」



「ギャアアアアアッ!!」


倒れ伏した影の巨人に、無数のマガツが蟻のように群がっていた。


彼らは貪る。影を、魔力を、そしてその奥にある肉を。


バリバリと音を立てて影の装甲が食い破られ、


ミラの本体が露わになるまでのカウントダウンが始まった。



「お姉ちゃん!!」



アンナの絶叫が響く。


城壁の上では、魔法少女たちが杖を構え、エクリプスたちが銃口を向けていた。



「撃て! あいつらを剥がせ!」



「待てッ!!」



ギルベルトの隊の魔法少女が血相を変えて制止した。



「今撃てばミラ様ごと吹き飛ばすことになる!攻撃中止だ!」



「じゃあどうするんですか! 見殺しにする気ですか!」



「くっ……!」



ギルベルトは歯噛みした。 打つ手がない。 距離がある。数が多すぎる。


地上部隊を送っても、


あの黒い津波を突破してミラのもとへ辿り着くには時間がかかりすぎる。



(どうする……どうすれば……!)



その一瞬の迷いすら、今は致命的だった。



その時。



「――ミラ様ァァァァァァァァァァッ!!!!」



烈火の気合いと共に、黒い疾風が城壁を蹴った。


シズだ。



彼女は迷いなく、数十メートルの高さがある城壁から虚空へ身を投げ出した。



「続くぞッ!!」



アメリーも続く。


そして、それに呼応するように、


影に潜んでいた夜幻楼ナイトベールのメイド服を着た暗殺者たちが、


一斉に城壁を飛び降りた。



「アメリー! ミラ様を救出するぞ!!」



空中でシズが叫ぶ。



「もちろんだ!!」




「総員、命を捨てろっ!!  我らの存在意義は、

ミラ様のために死ぬこと!  駆け抜けろォッ!!」



「「「了解ッ!!!」」」



彼女たちは着地と同時に、死の海へと突っ込んだ。



そこは物理法則を無視した突撃だった。


密集するマガツの頭や肩を足場にし、


光を避ける闇のように跳躍して渡っていく。


彼女たちは暗殺部隊。


正面からの火力勝負ではなく、回避と急所攻撃のエキスパートだ。



「どけぇぇぇぇぇぇぇッ!!」



シズが剣を振るい、道を塞ぐマガツの目を斬り裂く。


だが、敵の密度が違いすぎた。



ガッ……!!



足場にしたマガツに足を掴まれ、



一人のメイドが引きずり込まれる。


「イドナっ!」



「……っ行ってくださいッ!!」



彼女は自らマガツの口に手榴弾を突っ込み、爆死した。


肉片と化してもなお、仲間の道を切り開く道となる。



「ぐああああッ!」



「ミラ様……ッ!」



一人、また一人。 波に飲まれ、食われ、姿を消していく。



それでも彼女たちは止まらない。



死体を踏み越え、血の道を切り開き、ついに――。



「――到着ッ!!」



シズが、ボロボロになった影の巨人の胸元へと滑り込んだ。



続いてアメリー。 そして、生き残った数名の部下たち。



「何人だッ!?」



「……5人だ!」



出発した時の3割以下。 だが、感傷に浸る暇はない。



シズは影を引き裂き、中からぐったりとしたミラを引きずり出した。



「ミラ様っ! ミラ様っ!」



「……ぅ……」




息はある。 だが、意識がない。




「よかった、まだご無事だ……!」



「シズ様! 囲まれています!」



周囲では、残った3人の部下が円陣を組み、


殺到するマガツを必死に食い止めていた。 だが、多勢に無勢。




「ぎやああああああ!」



一人が首を噛み切られ、絶命する。 円陣が崩れる。



シズは決断した。



「アメリー、皆! ミラ様を脱出させるぞ!」




シズはミラをアメリ―に託そうとする。



だが、アメリーが動かない。



「アメリー!? 何をしている!!早く――」




「シズ。……お前がミラ様を守れ」



アメリーはマガツの方を向いたまま、静かに告げた。




「何を言っている! 私が殿しんがりを務める!

お前の方が足が速い、お前がミラ様を……」



「無理だ」




アメリーが、ふらりと体を傾けた。 シズの視線が、彼女の足元へ落ちる。



「……ッ!?」



そこにあるはずの、右足がなかった。


膝から下が、ボロ雑巾のように食いちぎられ、失われていた。



ここに来るまでの道中で、すでに彼女は致命傷を負っていたのだ。



「すまない……。もう私は、立っているのが精一杯だ」



アメリーは苦痛を押し殺し、震える剣先を敵に向けたまま笑った。



「ここからミラ様を連れ出せるのはお前だけだ。シズ」




「……っ!!ならば私もここでっ!!」




「……ミラ様が目を覚ました時、誰も周りにいなかったらどうする」





「アメリー……」





「お着替えは誰が手伝う? 紅茶は誰が淹れる?  

 寂しがり屋のあの方を……誰が支えるんだ」



アメリーはシズの方を向き、血涙を流しながら訴えた。



「自分だけが生き残ってしまったと知ったら、

ミラ様はご自分を責めるだろう。

その心を支えられるのは……一番近くにいた、お前しかいないんだよ、シズ。」




生き残った他の二人のメイドも、無言で頷き、アメリーの前に立った。

彼女たちの背中が語っていた。 『ここは私たちが食い止める』と。



「どのみち、私はここから逃げることはできない」




アメリーが覚悟の笑みを浮かべる。



「悔しいが、ここまでだ。最後まで主人に付き従えないのはメイド失格だが……」




彼女は、シズの腕の中で眠る主人の顔を、愛おしそうに一瞥した。



「ミラ様は、ここで死なせて良いお方ではない。

この人の為にかける命ならば……喜んで差し出そう!!」



「……ッ、アメリー、みんな……ッ!」



シズは唇を噛み切り、涙を飲み込んだ。

迷っている時間はない。彼女たちの命を、無駄にするわけにはいかない。



「……みな! 準備はいいか!」



アメリーたちが叫ぶ。



「いくぞおおおおッ!!!」



シズが駆け出すのと同時に、アメリーたちが特攻を仕掛けた。



「どけぇぇぇぇぇぇッ!!」



片足のアメリーが、鬼神のごとき強さで剣を振るう。

肉を斬り、骨を断ち、自らの肉を盾にしてマガツの牙を受け止める。



「行けェッ! シズゥッ!!」



背後で、肉が裂ける音がする。


断末魔が聞こえる。



それでもシズは振り返らなかった。 ただひたすらに、城壁へ向かって走る。



一人



「ミラ様……申し訳ござい……」



また一人。 気配が消えていく。





最期に残ったアメリーの声。



それは、マガツの声ががかき消されるほどの咆哮。



「があああああああああああああッ!!!」



ドォォォォォン!!



正面で、自爆にも似た巨大な魔力爆発が起きた。



アメリーが最期の力で放った大技だ。



マガツの波が一瞬だけ割れ、光の道ができる。



「ここだ!!」



シズはアメリ―を追い抜き、全速力でその光の中へ飛び込んだ。



あと少し。あと数メートルで、援護射撃が届く距離だ。



だが。



ガシッ!!



「……ッ!?」




光の道を抜ける寸前、横合いから飛び出したマガツが、シズの左腕に食らいついた。



「ん、ぐああああああああッ!!」



激痛。 骨が砕かれる感触。


ミラを抱えているのは右手だ。


左腕は空いている。 だが、捕まれば終わる。



シズは躊躇わなかった。 さらに加速する。



ブチブチブチッ……!!


「ぎぃ、ああああああッ!!」



肉が千切れ、筋が伸びる音。


シズは自らの腕を代償に、強引に体をひねり、闇を抜け出した。



失われた左肩から鮮血を噴き出しながら、シズは転がり出る。



「ハァッ、ハァッ……アメリー!!手を伸ばせっ!!」



シズはない腕をアメリ―に向ける



その時、シズは初めて振り返った。 閉じていくマガツの波の隙間。



そこに見えたのは、全身を食い荒らされながらも、



こちらを見て笑っているアメリーの顔だった。



「あとは、頼んだ」



口元がそう動いた気がした。



次の瞬間、彼女の姿は黒い波に飲み込まれ、二度と見えなくなった。



「アメリーッ!!!」



「シズ! こっちだ!!」



頭上から声が降ってくる。


フレデリカ率いる氷冠騎士団フロストクラウンが、


城壁から救助に降りてきていた。



「早くしろっ!!」



「まだ……もう少しだ……ッ」



シズはよろめきながら、ミラを運ぼうとする。


だが、限界だった。 出血多量で視界が霞む。足がもつれる。



「グルアアアアアアッ!!」



アメリーたちを食い尽くしたマガツの群れが、


新たな獲物を求めて殺到してくる。 速い。


氷冠騎士団フロストクラウンの先頭にはまだ遠い。


先頭のマガツが跳躍し、シズの喉元へと牙を剥いた。




「させるかっ!!」



城壁の上。 ギルベルトが拳銃を構え、躊躇なく引き金を引いた。



ドォォン!!



「ギャッ!?」



空中でシズに飛びかかろうとしていたマガツの頭蓋が、


正確無比な一撃で粉砕され、弾き飛ばされる。


距離数百メートル。強風と砂塵の中での精密射撃。


だが、ギルベルトの腕は微動だにしない。



「援護する! 走れシズッ!!」



ドォン! ドォン! 



ギルベルトは次々とトリガーを引く。


放たれた魔弾は吸い込まれるようにマガツの眉間を貫き、


シズに迫る刃を一つ、また一つとへし折っていく。


その姿は指揮官でありながら、歴戦の狙撃手そのものだった。



「す、すごい……」


「あの距離で、百発百中だなんて……!」


息を呑む。 だが、ギルベルトの表情は険しいままだ。



「くそっ……数が多すぎる!!」



カチッ。


スライドが後退し、弾切れを告げる乾いた音が響く。


彼女がマガジンを交換するその一瞬の隙。


その空白を埋めるように、黒い津波がシズとミラを飲み込もうと押し寄せた。



「ミラ!! シズ!!!」



ギルベルトの声が響く。



無数の牙が、シズとミラの目前に迫る。



もう、避ける力も、守る弾丸もない。






シズはミラを抱きしめたまま、うずくまり、目を閉じた。




せめて、自分の背中で、一秒でも痛みを先延ばしにできるように。






「ミラ様……アメリ―、みんな……。申し訳ございません……」








その時。






「――氷結奥義・絶対零度ニブルヘイム・ゼロ






パキィィィィィィィィン…………!!






戦場の空気が、凍りついた。



音が、消えた。 襲いかかろうとしていたマガツの群れが、空中で静止した。


いや、止められたのではない。


一瞬にして、冷却され、氷の彫像へと変えられたのだ。




マガツだけではない。


舞い上がる砂塵、飛び散る血飛沫、そして時間さえも。



白銀の世界へと塗り替えられていた。





シズがおそるおそる目を開ける。



目の前には、牙を剥いたまま凍りついたマガツの群れ。



「こ、これは……」



ギルベルトが城壁から身を乗り出す。



「間に合ったか……」



カツ、カツ、カツ……。



静寂に包まれた氷の世界を、一つの影が歩いてくる。



氷で作られた義手を装着し、冷気を纏った蒼き剣士。



「あ、あなたはっ……!!」



シズが声を絞り出す。



そこには、以前の虚ろな姿は微塵もなかった。



№4クラウディア・フォン・ノルデン




「……遅れてすまない。」




冷たく、鋭く、そして誰よりも美しい。




氷の女帝が帰還した。




ここまで読んでいただきありがとうございます。


流瑠々と申します。


もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、


ブックマークや評価で応援していただけると、がんばれます。


次回 蒼き刃の誓い お願いします。


流瑠々でした。

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