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白の魔法少女  作者: 流瑠々


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第7話 光の粒子は盾となり

――翌朝。



まだ薄暗い時間に、しずくは《アークライト》の訓練場へ呼び出された。



広大な演習場の中央で待っていたのは、リサとエリナ。



リサはすでに黒い大剣を肩に担ぎ、鋭い目でしずくを睨んでいた。




「今日からお前は、俺の直下の部隊に入る。

 もう“特例”とか“新人”って枕詞は無しだ。

 お前は魔法少女――仲間と同じ責任を背負う一人だ。」



しずくは息を飲み、背筋を伸ばした。



リサは大剣を地面に突き立て、説明を続ける。



「魔法少女はそれぞれ、自分に適した“武器”を持つ。

 エリナは弓だ。遠距離から魔素を矢に変えて射抜く。

 俺は大剣だ。魔素を刃に通して近接で叩き斬る。

 ……で、お前はなんだ?」



唐突な問いに、しずくは言葉を失った。



「わ、わたし……?」



「そうだ。」



リサは鋭い瞳を細める。



「自分の魔素を感じてみろ。

 身体の奥底に流れてる熱を意識しろ。

 それが形を求めれば――武器は現れる。」



エリナが優しく補足する。



「焦らなくていいわ、しずく。

 魔素は心の形に応えるの。

 “何を守りたいか”を思い浮かべること……それが最初の鍵よ。」



しずくは深く息を吸い、瞼を閉じた。

胸の奥に、あの日の記憶が蘇る。



――アオイの笑顔。

――ナギの声。

――血に濡れた右目の痛み。


だが――何も起きない。

義眼がわずかに光を帯びるだけで、手の中には何も現れなかった。


「……っ!」



しずくは拳を握りしめ、肩を震わせた。



リサは鼻を鳴らし、大剣を担ぎ直した。



「やっぱり、そう簡単にはいかねえか……。」



リサは大剣を振り抜き、火花を散らしながら語った。



「魔素は、元は《マガツ》から漏れ出す災厄のエネルギーだ。

 本来なら人間なんざ一瞬で焼き尽くす毒。

 だが――ユナイトアークが改良して“利用できる形”にした。

 結界も兵器も、この要塞アークライトも……ぜんぶ魔素で動いてる。」



大剣の刃に赤い稲光が走り、空気が震えた。



「だがな……魔素を直接“体に流せる”奴はほとんどいねぇ。

 適応できなきゃ、血管が膨れ上がって真っ赤に裂け、臓器は内側から焼かれ、

 皮膚の下で魔素が暴れて膨張した挙げ句、肉ごと骨ごと――弾け飛ぶんだ。」



しずくの喉が詰まり、呼吸が浅くなる。



リサは目を細め、淡々と続けた。



「死体は残らねぇ。ただ血煙と肉片が飛び散るだけだ。

 ……それが“普通の白封筒”の末路だ。」



しずくは顔をこわばらせ、無意識に右目へ手を当てた。

リサは冷徹な目を向ける。




「だから適応できる連中だけが“魔法少女”だ。

 俺たちは魔素を武器や術に変換できる。だから戦場に立てる。」



「お前は本来“白封筒”――耐えられるはずがなかった。

 ……なのに、おまえは魔素を喰らって生き残った。ありえねぇ例外だ。」



そう言いながら、リサはふとしずくの顔に目をやった。



「――ちなみにだが、その右目。どう見えてる?」



「え……右目?」



しずくは無意識に義眼へ手を当てた。




「あの……普通に見えてます。

 でも……たまに、ちょっとだけ、変な風に映るときがあって……」



「変な風?」



リサの紅の瞳が細まる。



「は、はい……影が二重にぶれたり、赤く光った線みたいなのが見えたり……

 でも、すぐに消えちゃうんです。」



リサは短く鼻を鳴らした。



「……そうか。まあ“白封筒”から生き残った時点で、

どんな変異があっても不思議じゃねぇ。いずれわかるだろう。今は深く考えるな。」



そう言うと、彼女は短く指を鳴らした。



訓練場の床がゴウンと揺れ、鋼鉄のパネルが開く。



そこから姿を現したのは、黒い外殻を纏った機械仕掛けの巨影――《模擬マガツ》。




赤いセンサーが光り、金属の脚が地面を叩いた瞬間――




「――ッ!!」




しずくは思わず後ずさり、足をもつれさせて尻もちをついた。




機械の咆哮が訓練場に響く。




「な、なんでいきなり……!」




しずくの声は震えていた。




リサは大剣を肩に担ぎ、獣のように笑った。




「訓練は実戦形式が一番いい。

 頭で考えるより、死にかけて動いた方が早ぇんだよ。」




エリナが眉をひそめる。




「……リサ、やりすぎじゃない?

 彼女はまだ基礎もできてないのよ。」




「関係ねえ。」




リサは吐き捨てるように言った。




「今日からこいつは俺の部隊の一員だ。甘やかす暇はねぇ。

 ……それに――」




一瞬だけ、大剣を握るリサの指先が震えた。

低く絞り出すように続ける。




「……俺には、るりさんに借りがある。

 だから――絶対に、しずくを死なせるわけにはいかねぇんだ。」




エリナは目を伏せ、小さく頷いた。



「……そうね。その気持ちは、わかるわ。」




模擬マガツの鋭い腕刃が、風を切ってしずくの頭上をかすめる。




「きゃっ――!」




悲鳴を上げながら、しずくは必死に転がり、訓練場を逃げ回った。

涙で視界が滲み、心臓が喉から飛び出しそうに跳ねる。




「おらぁ! 逃げ回るだけじゃ勝てねぇぞ!」



「攻撃をイメージしろ! 武器を握る自分を思い描け!」




しずくは必死に両手を前に突き出す。




「で、でも……!」




頭の中で必死にイメージする。

剣、弓、銃……何でもいい。




――けれど、何も現れない。




模擬マガツの脚が地面を砕き、砂煙がしずくを飲み込む。



「っ……!」



再び転がり、ただ必死に逃げるしかなかった。




リサは舌打ちし、大剣を構えたまま低く唸る。




「おかしいな……」




鋭い瞳でしずくを追いながら、眉をひそめる。




「魔素の流れはできてる。体にも反応してる。……なのに、なぜ武器が出ねぇ?」




リサの瞳が一瞬、鋭く光った。




「……もしかして。」




低く呟くと、彼女は迷いなく訓練区域の線を越え、模擬マガツの正面へ歩み出た。




「ちょっと、あなた今丸腰じゃない!」




エリナが慌てて声を上げる。




だが、リサは振り返りもせず、鋭い声を放った。




「おい、しずく!

 俺は今から何もしない。

つまり――お前がこのマガツを止めなきゃ、俺は殺される。」



「そ、そんな……!」



しずくの顔が青ざめる。




リサはわざと肩を落とし、挑発するように吐き捨てた。




「言っとくが、これは訓練用だが人を殺すくらいの力はある。

……さぁ、どうする?」



その言葉を合図にしたかのように、模擬マガツが咆哮を上げた。

鋭い脚が地を蹴り、一直線にリサへ迫る。



腕から伸びた刃はまるでナイフのように光り、その切っ先がリサの目を狙った――



腕から伸びた刃は、まるでナイフのように光り、リサの目を狙った。



「リサ! 危ない!!」



エリナが叫ぶ。




だが、リサは一歩も動かない。

堂々と立ち尽くし、しずくを見据えていた。



「……また、わたしのせいで……」


しずくの視界が揺れた。

アオイの血まみれの笑顔。

ナギの絶命の声。

セレスの倒れる背中。




――もう嫌だ。

――これ以上、誰も失いたくない。




「やるんだ……!」



しずくは叫んだ。



次の瞬間、訓練場に轟音が鳴り響き、白い煙が爆ぜた。



「リサ!」



エリナが駆け出す。



煙の向こう――リサの目の前。

模擬マガツのナイフが、ギリギリのところで止まっていた。




その間に割り込むように立つ影。

震える両腕を前に突き出し、光の粒子で編まれた盾を構える少女――しずく。




エリナの瞳が大きく見開かれる。




「しずく……あなた、それは……!」




リサはゆっくりと息を吐き、口の端を吊り上げた。




「……やっぱりな。」



赤い瞳でしずくを射抜き、確信に満ちた声を放つ。




「しずく。お前の武器はマガツを攻撃する刃じゃねぇ。

 マガツから仲間を、人々を守る――盾だ。」




しずくは肩で荒い息を繰り返しながら、震える手に宿る光を見つめた。

盾は確かにそこにあった。彼女の“願い”に応えて――。




――こうして、しずくは初めて自分の武器を手に入れた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


流瑠々と申します。


しずくの武器が開花


私の筆の能力は一生開花しませんが。



もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、


ブックマークや評価で応援していただけると、いただけるんだ。


それではまた次回。


流瑠々でした。

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