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白の魔法少女 ―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―  作者: 流瑠々


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第69話 その叫びは、未来を開く

その戦いは圧倒的だった。




その戦いは、見るも無惨なほどに一方的だった。




周囲の壁は空間ごと削り取られ、



天井は崩落し、床には底が見えないほどの亀裂が走っている。



嵐が通り過ぎた後のような惨状。




そこには、生物が生存できる余地などないように思えた。




土煙が舞う中、静寂が戻る。 勝敗は、誰の目にも明らかだった。




「……はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」





苦しげな呼吸音が響く。 肩で息をし、脂汗を流して立ち尽くす影。








エリス。






彼女の冷徹な仮面は剥がれ落ち、


その表情には焦燥と、信じがたいものを見る色が浮かんでいた。



「……嘘、でしょ……」



震える声で呟く。 彼女の視線の先。 硝煙がゆっくりと晴れていく。



そこには、傷一つない絶望が立っていた。



「……終わりか? エリス」



そこには無傷のガレス。


まるでなにも起こってなかったのように。



「馬鹿な……。たかが残党がこんな強さを……。」



「その程度で、私は崩せん」



ガレスが斧をドン、と地面に突き立てる。


それだけで、ビリビリと大気が震え、エリスの体がビクリと跳ねた。


「伊達に何年も、瑠璃るりさんの下にいたわけではない」



圧倒的な実力差。



小細工なしの正面衝突では最強こそがガレスだった。



「投降しろ、エリス。 お前の刃では一生かかってもここを通ることはできん」



「くそっ……。あれを使うしか……。」


エリスが懐へ手を伸ばそうとした、その時だった。



『――あら……苦戦しているみたいね、エリス』



どこからともなく、甘い声が響いた。



空間そのものから直接脳内に響くような、不気味な声。



エリスの顔色が変わり、慌ててその場に膝をついた。


「ッ……セラフィナ様! 申し訳ございません!  今すぐこいつを――」



『いいのよ』



セラフィナの声は、咎めるどころか、楽しげにガレスへと向けられた。



『さすがね、ガレス。

……腐っても、あの瑠璃るりの元にいただけはあるわ』



その名が出た瞬間、ガレスの眉がピクリと跳ねた。



「セラフィナ……ッ!!」



ガレスが虚空を睨みつける。


姿は見えずとも、その粘着質な視線が自分に張り付いているのが分かった。


『そう怖い顔をしないでちょうだい。

ご褒美に……あなたに面白いものを見せてあげるわ』



クスクス、という笑い声と共に、冷徹な宣告が下る。



『……楽しみなさい?』



ズズズズズ……ッ。



エリスの背後の空間が、どす黒く歪み始めた。


エリス自身も驚いて飛び退くほどの、禍々しい闇の渦。



「な、なんだ……?」



ガレスが斧を構え直す。


空間の裂け目から、ゆらりと一つの人影が這い出してきた。




その影がゆっくりと顔を上げ、ガレスが見つめた瞬間。



「あ……」



ガレスの思考が、真っ白に染まった。 構えていた斧が、ガクリと下がる。


呼吸すら忘れるほどの衝撃が、鉄の心を貫いた。


「ば、馬鹿な……」



ガレスの声が震える。 戦場では一度も見せたことのない、無防備な動揺。



「ありえない……なぜ、ここに……」



ガレスは亡霊を見るような目で、その人影を見つめ、呻いた。



「あなたは……まさか、そんな……ッ!!」






正面ゲート前、機関エリア。



「どけぇぇぇぇッ!!」



ミカの咆哮が響く。 地下牢から脱出したアヤメたちは、


ついにゲートのある大広間へと到達した。 だが、そこは地獄だった。



「グルルルル……!!」



数えきれないほどのマガツが、出口を塞ぐように群がっている。



「くっ……数が多すぎる!」



敵の波は止まらない。 解放された魔法少女たちも応戦するが、


武器も魔力も万全ではない。



「ぎゃああああッ!」



「助けて! いやぁぁぁ!」



悲鳴が上がる。 一人、また一人と、仲間がマガツの餌食になっていく。


アヤメが唇を噛み切りそうなほど強く拳を握る。



「くっ……あと少しなのに! ゲートは目の前なのに!」



その時、ミカが叫んだ。



「あそこ! ソラがいる!」



広間の奥。ガラス張りの機関室の陰に、小さく震える影があった。



ソラだ。 彼女はマガツに見つからないよう、必死に身を潜めていた。



「ソラ! 待ってろ! 今いくから!」



ミカが叫び、道をこじ開けようと突っ込む



だが、マガツが立ち塞がり、ミカを弾き飛ばした。



「がはっ……!」



「ミカ!」



アヤメが援護射撃をするが、弾切れだ。



「……ッ、ダメ……このままじゃ……」




戦線が崩壊していく。 目の前で、守りたかった仲間たちが殺されていく。



その光景を、ソラは見ていた。



(ミカが……アヤメちゃんが……)



みんな、ボロボロだ。 必死に戦っている。自分を、みんなを守るために。



(……私が隠れている間に、みんな死んじゃう)




ソラの視線が、目の前の通路に向けられる。


機関室のレバーまでは、あと数メートル。


だが、そこには飢えたマガツが徘徊している。 飛び出せば、確実に襲われる。


「……」


ソラの脳裏に、リサの言葉がよぎる。 『死ぬなよ』。



(うん、死にたくない。怖いよ)


でも。


(ここで私が動かなきゃ……みんな、死ぬ)



ソラは震える足を手で叩き、涙を拭った。 ヘルメットのバイザーを下ろす。



「……私が、開けないと……ッ!」



ソラは叫び、恐怖を振り払うように物陰から飛び出した。


「ッ!? ソラ!?」


ミカが目を見開く。


「ダメだ! 出るなソラァァァッ!!」


制止の声は届かない。 ソラは機関室へ向かって、一直線に駆け出した。


「グルッ!?」


マガツたちが反応する。 新鮮な肉が、自ら飛び込んできたのだ。


「ギャアアアアッ!」


マガツが、ソラへ殺到する。 速い。逃げきれない。


だが、ソラの目は機関室のレバーだけを見ていた。


「――どけぇぇぇッ!!」


ソラは、真正面から飛びかかってきたマガツの股下を、


スライディングで抜け出した。


頭上を爪が掠め、ヘルメットが吹き飛ぶ。



素顔が露わになり、栗色の髪が乱れる。


それでも彼女は止まらず、機関室へと転がり込んだ。



「はぁっ、はぁっ……!!」


目の前には、巨大な錆びついた緊急用レバー。


ソラは立ち上がり、その冷たい鉄に両手をかけた。


「動け……ッ!!」


渾身の力で引く。 だが、長年使われていなかったレバーは錆びつき、


びくともしない。


「ガアアアアアッ!!」



背後から、追いついたマガツが迫る。


避ける暇はない。 レバーから手を離せば、二度と掴めない。



ソラは逃げなかった。



「開けぇぇぇぇッ!!」



その瞬間。



嫌な音が響いた。


マガツの巨大な顎が、レバーを掴んでいたソラの左肩から二の腕ごと噛み砕いた。



「き、きやあああああああッ!!」




鮮血が噴き出し、操作盤を赤く染める。


骨がミシミシと軋み、肉が裂ける激痛が脳髄を走る。


マガツはそのまま首を振り、ソラの体を食いちぎろうと暴れる。



「ソラァァァァァッ!!」



遠くでミカの絶叫が聞こえる。



痛い。熱い。意識が飛びそうだ。 でも――手は離さない。



(……離さない……ッ!)



ソラは、噛みつかれている左腕の激痛を無視し、


右手を添えて、全体重をレバーに乗せた。



「……あ、あああああああッ!!!」



マガツに肉を食い荒らされながら。



ソラは泣き叫び、命を削って押し込んだ。




ガコンッ。




重たい金属音が響き、歯車が噛み合った。




ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!




地響きと共に、正面ゲートそのものが動き出す。 暗黒の広間に、





外の世界の眩しい光が差し込んだ。






ソラはその場に崩れ落ちた。 左腕は無惨に砕かれ、出血は止まらない。







だが、彼女の視線の先。





開きゆくゲートの向こうから、逆光の中を駆けてくる影があった。




「ソラちゃん!!」




しずくだ。




「……あ……」




ソラは血を吐きながら、薄れゆく意識の中で微笑んだ。




……きた




「総員、突撃ィィィッ!!」




ギルベルトの号令と共に、怒れる本隊が雪崩れ込んでくる。








もう、大丈夫だ。







私の役目は終わった。








ソラは満足げに瞳を閉じ、血だまりの中に静かに沈んでいった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


流瑠々と申します。


もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、


ブックマークや評価で応援していただけると、がんばれます。


次回 最終防衛戦 お願いします。


流瑠々でした。

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