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白の魔法少女 ―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―  作者: 流瑠々


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第58話 無慈悲な銃弾

「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」


カレンを先頭に、


白光隊ルミナスホワイトの残存メンバーが一塊となって廊下を駆ける。


背後からは絶え間なく怒号と足音が響いている。


「しずく、耳を貸せ」


走りながら、カレンが鋭く告げた。


「知っていると思うが、

エクリプスは我々ナンバーズに専属で所属している者たちだけではない」


「え……?」



「我々の部隊に所属されているエクリプスは、ごく一部の精鋭だ。

 今、施設内になだれ込んでいる中央軍は、

魔素の武器を扱えない男達、我々の事など知らない。

ただ反乱分子を殺せと命令されただけの、赤の他人だ」


カレンが横目でしずくを見る。


「奴らに情けをかけるな。仲間だと思うな。

 現状、奴らは我々の命を刈り取るただの敵だ」


「……わかりました」


しずくは喉の乾きを覚えながら頷いた。


頭では理解できる。だが、心はまだ追いついていない。


その時。


「――いたぞ! ターゲット、真壁しずくだ!」


正面の通路から、重装備の中央軍兵士の小隊が現れた。


彼らは一糸乱れぬ動きで隊列を組み、


アサルトライフルの照準を一斉にしずくたちへ向ける。


「ちっ……!」


カレンが剣に手をかける。


だが、それより早く動いた影があった。


「任せろ隊長!」


リリアだ。


彼女は音もなく前へ飛び出すと、印を結ぶように指を交差させた。


「幻影術・影分身!」


ブンッ!


リリアの体がブレたかと思うと、一瞬にして五人、十人と分裂した。


通路一杯に広がる緑髪の忍者の群れ。


「な、なんだこれは! どれを撃てばいい!」


兵士たちが狼狽し、照準が定まらない。


「フィオナ!!」


リリアの実体が叫ぶ。


「了解~、リリアちゃん!」


隊列の後ろから、ふわふわとしたピンク色の髪の少女、フィオナが飛び出した。


彼女は両手を口元に当て、ラッパのような形を作ると、大きく息を吸い込んだ。


「おやすみなさい……悪魔休息スリーピング・ブレス


ふぅー……。


吐き出されたのは、甘い香りのするピンク色の吐息。


それはリリアの分身たちをすり抜け、エクリプスたちの顔面へと直撃した。


「う、う……?」


「な、んだ……急に、眠気、が……」


ガシャン、ガシャン。


数秒もしないうちに、屈強な兵士たちが糸が切れたようにその場に崩れ落ち、

寝息を立て始めた。


「ナイスだ、フィオナ! 今のうちに行くぞ!」


カレンが指示し、眠る兵士たちの脇を駆け抜けようとした。


その時だった。


ガチャリ。


すぐ横にあった会議室の扉が、不意に開いた。


「……しずく隊長!?」


そこから出てきたのは、白光隊専属のエクリプス、わかなだった。


よく知る顔。いつもサポートしてくれていた、気弱だが優しい少女。


「わ、わかなちゃん!」


しずくの顔がほころぶ。無事だったんだ、と駆け寄ろうとした。


だが。


スッ……。


わかなの目が、爬虫類のように冷たく変わった。


彼女は無言のまま、隠し持っていた拳銃を抜き、しずくの眉間に狙いを定めた。


「――ッ!?」


あまりの殺気に、しずくが凍りつく。


ヒュンッ!!


風を裂く音。


「あがッ!?」


わかなの手首が、鮮血と共に宙を舞った。


拳銃が床に落ちる。


投げられたのは、鋭利な刃を持つ鉄扇。


「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」


わかなの前に立ちはだかったのは、白光隊の魔法少女、シリーだった。


彼女は戻ってきた鉄扇をキャッチし、

肩で息をしながら、殺意に満ちた目でわかなを見下ろした。


「殺す……殺す、殺す……!」


極限状態の恐怖が、シリーを支配していた。


やられる前にやる。そうでなければ殺される。


シリーは鉄扇を大きく振りかぶり、うずくまるわかなの首を狙った。


「シリーちゃん!!」


しずくが叫ぶ。


その声に、シリーの動きがピタリと止まった。


振り下ろされるはずだった鉄扇が、空中で震えている。


シリーは、腕を失って泣き叫ぶわかなを見た。


昨日まで、シリーさんと慕ってくれていた友人の顔を見た。


「……っ」


シリーがゆっくりとしずくの方を振り向く。


その目からは、大粒の涙が溢れ出していた。


彼女は、困ったように、寂しげに、にこりと笑った。


「ごめん、しずく隊長……。

 やっぱり私には殺せないよ……仲間、だもん……」


――タンッ。


乾いた音がした。


パァンッ。


シリーの笑顔が、弾け飛んだ。


「え……?」


しずくの視界が赤く染まる。


シリーの頭部が半分消失していた。


廊下のずっと奥、暗闇の中からライフルの硝煙が上がっている。


ダダダダダダダッ!!


さらに追撃のフルオート射撃。


すでに絶命して倒れゆくシリーの死体に、無慈悲な銃弾の雨が突き刺さる。


彼女の体は蜂の巣になり、ボロ雑巾のように床に転がった。


「シリー!!」


カレンが絶叫する。


「シリーちゃん!! いやぁぁぁッ!!」


しずくが駆け寄ろうとするが、リリアに羽交い締めにされる。


曲がり角から、新たな中央軍の増援部隊が姿を現した。


「魔法少女一人やったぞ!」


「攻撃を続けろ! 殲滅だ!」


彼らは、かつての仲間の無惨な死体を見ても、眉一つ動かさない。


「くそッ……!!」


リリアが腰のポーチから球体を取り出し、床に叩きつけた。


ボンッ!!


猛烈な白煙が廊下に充満し、視界を奪う。


「こっちだ!! 走れ!!」


カレンがしずくの腕を強引に引く。


「嫌だ! シリーちゃんが!!」


「死んでいる!! もう助からない!!」


カレンは鬼の形相で叫んだ。その目にも涙が滲んでいる。


「生きるんだ! 彼女の分まで!!」


しずくは泣き叫びながら、煙の中を走らされた。


背後には、動かなくなったシリーと、片腕を失ってうずくまるわかなが残された。


優しさが死を招く。


「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」


しずくは煙の充満する廊下を走りながら、胸が張り裂けそうだった。


さっきまで友達だったシリーが死に、わかなが腕を失い、殺し合う。


こんな地獄が、現実であってたまるか。


(……待って。友達?)


脳裏に、もう一人、大切な友人の顔が浮かんだ。


(そうだ、アンナちゃん!)


しずくの専属秘書であり、公私ともに支えてくれているアンナ。


彼女は魔法少女ではない。一般職員だ。だから戦闘にはならないはずだが――。


(この状況じゃ、一般職員だって巻き込まれるかもしれない! 心配すぎる!)


「しずく、こっちだ!」


「カレンさん! 私、アンナちゃんを助けに行かないと!」


しずくが足を止めようとする。


「アンナか……確かに彼女は危険かもしれん」


カレンは瞬時に判断した。


「リリア! お前はしずくについて行ってくれ! 

私は他の隊と合流してから脱出ルートを確保する!」


「了解。しずく隊長、お守りします」


リリアが即座にしずくの横につく。


「しずく、必ず生きて会うぞ! 死ぬなよ!」


「はい! カレンさんも!」


しずくとリリアは隊列を離れ、居住区画にあるしずくの部屋に向けて走り出した。


角を曲がり、直線に入ったその時。


「――そこ! どきなさいッ!!」


前方から、血濡れの女性が走ってきた。


豪奢な黒いドレスは、返り血でどす黒く染まり、まるで鮮血の薔薇のようになっている。


ミラだった。


「ミラさん!」


「あら、しずく……」


ミラは足を止めず、鋭い視線を向けてきた。


「ところでアンナは? あなたの秘書でしょう? 当然、無事でしょうね?」


その剣幕に、しずくは息を呑む。


「す、すいません! 今から助けにいくところなんです!」


「ったく! 妹に何かあったら許さないって言ったでしょ! 急ぐわよ!」


ミラが合流し、三人で廊下を疾走する。


「この角を曲がれば、私の部屋です!」


しずくが叫び、曲がり角へ飛び込む。


アンナちゃん、無事でいて――。


そんな願いは、最悪の形で裏切られた。


「……ひっ、うぅ……!」


廊下の向こう。


数人の中央軍兵士が、一人の少女を取り囲んでいた。


少女――アンナは、顔を赤く腫らし、口の端から血を流していた。


そして、兵士の一人に長い髪を乱暴に鷲掴みにされ、床を引きずられていた。


まるで、生ゴミの入った袋のように。


「痛い、痛いです……離して……」


「うるせぇ! 歩け!」


兵士がアンナの腹を蹴り上げる。


「アンナちゃん!!」


しずくの絶叫。


アンナが震えながら顔を上げ、涙で濡れた瞳でこちらを見た。


「しずく様……お姉、ちゃん……」


その声を聞いた中央軍兵士たちが、こちらに気づく。


「あ? なんだお前ら!」


アンナの髪を掴んだまま、銃を向ける。


「動くな! こいつも反乱分子の仲間だ! 処分す――」


その言葉は、最後まで続かなかった。


「きさまらぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」


空気が割れるほどの、ミラの絶叫。


「ひっ!?」


兵士たちが怯む。


そこに立っていたのは、冷静沈着な№8 ミラ・ヴェイルではない。


髪を振り乱し、瞳を憎悪で血走らせた、激昂する鬼神だった。


「私の妹を! ゴミのように扱うなぁぁぁッ!!」


ミラの足元の影が、爆発的に膨れ上がった。


「食らい尽くせ――影魚蝕シャドウ・ピラニアッ!!」


影の沼から飛び出したのは、黒い魔力で形成された無数の魚群。


それらはピラニアのように牙を剥き、弾丸のような速度でエクリプスたちに殺到した。


「うわっ、なんだこれ!?」


兵士が銃を撃つが、影の魚は弾丸をすり抜ける。


そして――兵士の皮膚に触れた瞬間、ぬるりと「体内」へと潜り込んだ。


「あ? ぐ、が……!?」


直後。


ボコッ、ボコボコボコッ!


兵士たちの皮膚の下を、何かが泳ぎ回る。


筋肉が食い荒らされ、内臓が食い破られる音が、体内から響く。


「ぎゃああああああああああ!!」


「い、痛い! 中が! 腹の中に何かがぁぁッ!!」


「助けてくれぇぇぇ! やめろ、食うな、中から食うなぁぁッ!!」


鼓膜をつんざく絶叫。


兵士たちは自分の体を掻きむしり、

のたうち回り、やがて目や口から黒い液体を吐き出して絶命した。


凄惨な処刑だった。


「はぁ、はぁ、はぁ……ッ!」


ミラは肩で息をしながら、まだ殺意の消えない目で死体を見下ろしている。


「アンナちゃん!!」


しずくが駆け寄る。


解放されたアンナは、震えながらうずくまっていた。


「大丈夫!? アンナちゃん!」


しずくが抱き起こすと、アンナは痛々しい顔で弱々しく微笑んだ。


「しずく様……だい、じょうぶです。ありがとうございます……」


「どうしてこんな……」


「私が……ミラお姉ちゃんの妹だってバレて……。

 見せしめに連れてかれそうに……なって……」


「……馬鹿な子ね」


いつの間にか、ミラがそばに立っていた。


その表情からは、先ほどの鬼のような形相は消え、不器用な優しさが滲んでいた。


「お姉、ちゃん……」


「アンナ、逃げるわよ。立てる?」


ミラが手を差し出す。


アンナはその手を握りしめ、涙を流した。


「うん……。ありがとう、お姉ちゃん……」


「アンナ。私が肩を貸そう」


リリアが静かに歩み寄り、アンナの反対側の腕を支える。


「さあ、行こう。ここもすぐに嗅ぎつけられる」


「ええ。行きましょう」


ミラが前を向く。


一行は血なまぐさい廊下を後にし、出口を求めて走り出した。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


流瑠々と申します。


もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、


ブックマークや評価で応援していただけると、がんばれます。



次回 再会の三光 お願いします。


流瑠々でした。

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