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白の魔法少女 ―届いたのは「白い封筒(不合格)」。それでも私は、血塗られた戦場に立つ―  作者: 流瑠々


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第49話 エンドゼロ

静かに歩を進め、



ガラスカプセルの列を抜けたその瞬間――



重い金属の扉が軋む音とともに閉じた。



振り返る間もなく、



足元に響いたのは、硬質な踵の音。




暗闇の奥から、


白銀の髪と紺灰の礼装軍服が浮かび上がる。


それが――


ユナイトアーク総統ゼノン・レイブンだった。


腰に下げた銀の飾り剣が、


淡く照明を反射している。


彼は静かに数歩前へ進み、


肩幅を広げて立ち止まった。



「……見つかってしまったようだね」


声は低く、しかしその一語に、


周囲の冷気が震えた。



「君たちの歩みが、想定よりも速かったようだ。


 だが、それ自体が――素晴らしいことでもある」


ゼノンがゆっくりと腕を開き、片手だけを掲げた。



「君たちは、我が計画の一部にすぎなかった。


 しかし今、君たちの存在が示されたということは――もう後戻りはない」



ゼノンの拍手が響く。


その音が、研究施設の静寂に深く刺さった。



ゼノンの表情は変わらず、


しかし目の奥に確かな鋭さが宿る。



「おい、これは一体どういうことだ!」



リサが声を荒げた。


「貴様が研究所にいる録画データも存在する。もう逃げられんぞ」



ギルベルトも続く。



その言葉に、ゼノン・レイブンは肩をかすかに揺らして、静かに笑った。




「ふふ……もう隠しても仕方ないね。

 良いだろう――聞いてもらおう。

 この世界の、裏側を。」



――ゆっくりと一歩、また一歩。



ゼノンは重厚な足取りで歩を進めながら、


語り始めた。




「――昔、ある計画が始まった。

 兵器開発のための、実験だよ。

 それも、生身の人間を使った――ね」



その一言に、場の空気がわずかに揺れる。




「そして生まれたのが、マガツだった。マガツは周辺のエネルギーを吸収すると増殖していき、暴れる獣だ。当時は失敗作とされたが……我々は気づいたんだ。

あれは、可能性の塊だと。」


ゼノンの目が薄く細められる。



「我々は魔素の適性を持つ少女たちを集め、戦わせた。

人類の希望なんて旗を掲げてね。 実際は、データが欲しかっただけだ」



ギルベルトが目を伏せる。ミラの眉がぴくりと動いた。


「死ねば――その肉体は素材となり、研究材料になった。

 死体は丁寧に解体され、魔素の構造が解析された」



「我々は、魔素の構造と魂の残滓を利用し、

魔法少女たちの死体をマガツへと変換したのだ。

すべては――理想のマガツを生み出すために。

だが、思うようにはいかなかった。

知性も制御もなく、命令をまるで聞かない失敗作ばかりだった。

我々はそれらを――すべて、障壁の外へと解き放った。

あとは自然に暴れてくれればいい。

そうして世間には、天災という名の実験データが溢れたのさ」



「……やめろ」


ライラのかすれた声が、微かに漏れた。



ゼノンは続ける。



「ヘーゲル卿にも研究に協力してもらったよ。

 まさか、人間を食らうと強化されるなんてね……

 あんな良いデータを残してくれるなんて、

 いやぁ、素晴らしい」


声が次第に昂る。



「そして、私たちの実験は成功へと近づいていった。そして、最終実験を行った。

 君たちの掃討戦に、我々が研究したマガツをぶつけたんだ。

 そう、君たちが涯骸ガカイと呼んでいるものだよ。

 いやぁ、素晴らしかった。あんなに強く、そして、こちらの指示も、

おおむね理解してくれた。嬉しかったよ」


その口調は次第に狂気を帯び、空気を震わせる。



「そして! とうとう完成した――

 これまでのすべてのマガツを支配できる、究極のマガツが!」


ゆっくりと、彼が手元の装置のボタンを押す。


ゴゴゴゴ――


重い金属の音とともに、奥の隔壁が開いていく。

そこに現れたのは――巨大な異形の影。



黒く澱んだ魔素の霧を纏い、全身は硬質な外殻に覆われている。

その装甲はまるで、複数の死体を圧縮して成形されたかのように歪で不均衡。

血管のように赤黒い管が脈打ち、脊椎のような突起が背中から伸び、地面に触れるたびに黒い魔素が染み出していく。



顔はもはや「顔」の形をしていなかった。

仮面のような仮初めの装甲に、光のない眼孔――しかしその奥で、魔素の核が脈動している。


「コードネーム――マガツ・エンドゼロ。

 我々の英知と君たちの犠牲の結晶にして、魔法少女を超える存在だ」



「こいつがいれば、世界中のマガツは完全に支配下に置ける。

 もう、君たち魔法少女は必要ない」


「こいつがいる世界では君たちはもはや反乱分子だ。」



ナンバーズたちの間に、緊張が走る。



「さあ――お手並み拝見といこうか」



ゼノンの声と同時に、マガツ・エンドゼロが動いた。



重く鈍い音とともに、四肢が地を砕き、巨大な爪が闇を裂く。



「……来るぞッ!」



リサが鋭く叫んだ。目を見開き、身構える。



「全員、構えろ!」



ギルベルトの号令が響く。瞬間、


ナンバーズが四方へと素早く散開した。


その巨体――マガツ・エンドゼロが、


まるで地を這う獣のように、低く唸りながら前進する。


咆哮が空気を裂き、黒い魔素が渦を巻く。


ただそこに存在しているだけで、地面の金属が腐食していく。



「ちっ……! 魔素が強すぎる!とんでもない威力だ!気をつけろ!」



「了解!! ぶっ潰す!!」



ライラ・ブレイズが吠えた。



その声が引き金となるように、彼女の身体が爆ぜるような勢いで前方へと跳ねる。



足元の床を蹴る音が鳴ると同時に、炎をまとった疾風が戦場を駆けた。



「ちょっと、ライラ! 待ちなさい!」



ミラが眉をひそめ、焦りを込めて声を上げる。



「エレナ!」



リサの短い呼びかけ。


「了解!」



即座に応じたエレナが詠唱を開始。



その詠唱に応じるように、空間が淡く歪み――



ライラの身体を包むように、薄紅色の光盾が発現する。



「サンキュー、エレナ!」



振り返りざまに笑ったライラの声は、どこか嬉しそうだった。




その直後、マガツの巨大な拳が正面から叩きつけるように迫る。



「っらぁ!!」



ライラは回避するように跳躍。



わずかな足場を利用して宙を舞い、そのまま伸びたマガツの腕の表面に着地。




あたかも滑走路のようにして――駆け上がる。



だがその瞬間、周囲の兵士たちが彼女の軌道を捉え、



複数の銃口が一斉にその背へと向けられる。



発砲。



その時、しずくが、銃撃の雨の中へ飛び込み、盾で弾丸を受け止める。



重い盾が火花を散らし、何発もの弾丸が盾の表面を叩いた。


彼女は一歩も引かない。前線に立ち、仲間を守る。



前線に立ち、仲間たちを守るという役割を、一歩も引かずに果たしている。



無数の銃声が反響し、火花が金属を叩く。



その後ろ――



ギルベルト無言のまま、しずくの背中越しに敵を見据えていた。


「……任せろ。」



低く短い一言と共に、ギルベルトの右手が静かに動く。


腰のホルスターから抜き放たれたのは、


黒曜石のような艶を放つ異形の銃――


銃身には精巧な魔術刻印が施され、僅かに魔素が脈打っていた。



引き金に触れると同時に、空気がわずかに震える。



発砲音は、研ぎ澄まされた音の刃のように鋭く短い。


放たれた魔導弾は、軌道を曲げることなく一直線に飛び――


三人の敵兵の額へ、寸分の狂いもなく命中した。



敵は声もあげる暇なく崩れ落ち、そこに血の飛沫も散らなかった。



銃声と同時に、敵の身体が崩れ落ちる音だけが残った。


その一瞬に、しずくの肩が跳ねた。


「っ……す、すごい……」


呆然と呟く彼女に、ギルベルトは何も言わない。


だが、まだ敵がいる。


物陰に逃れた一人の兵士――。



ギルベルトは静かに息を吸うと、わずかに銃口を傾けた。


そして、無言のまま引き金を引く。



銃声。



放たれた弾丸は空中でふわりと軌道を逸れ――


まるで意志を持つように曲がり、


遮蔽物の背後にいた敵兵の頭部を正確に貫いた。


音もなく倒れる兵士。


わずかな沈黙の後、ギルベルトが静かに口を開いた。


「……こちらは終わったぞ」



「よっし、まかせろおお!!」


マガツ・エンドゼロの巨体を前に、ライラが跳躍する。



その高々と掲げた拳に、そっと唇を寄せた。



「終わらせてやるよ!……あたしの拳で!」



拳にそっとキスを落とす――



瞬間、青白い炎が拳を包むように燃え上がる。



紅ではない、蒼炎。殺意だけが燃えていた。



「――鉄拳制裁バーニング・ジャッジ!!」



ライラが咆哮とともに拳を振り下ろす。



マガツ・エンドゼロの顔面へ、一直線。



その一撃は、まるで空間そのものを割るかのように直進し――



ドッゴォォォォン!!!



爆発的な衝撃が空間を飲み込んだ。



巨大な異形が、顔面から床に沈む。



地面が悲鳴をあげ、金属が波打ち、爆風が渦を巻く。



あたり一帯に砂煙が立ちこめ、視界が消えた。



そして――その中心に、



まだ拳を構えたままのライラが立っていた。



――その瞬間だった。



漆黒の煙を裂き、巨大な腕。



エンドゼロの一撃は、まるで巨大な山のように、



一直線にライラへと突き刺さらんとしていた。



「っ!」


ライラが、気配を察知し、かすかに身体を動かす。


だが、間に合わない、咄嗟に腕を交差させるも、


次の瞬間。


轟音とともに、衝撃が爆ぜる。



ライラの身体が宙を舞い、



鈍い音を立てて後方の壁に叩きつけられた。


砕けた壁の破片が舞い、土煙が上がる。



「ライラさん!!」



しずくの叫びがこだまする。



その声をかき消すように、冷たく歪んだ笑い声が空間を満たした。



「くっくっくっ……その程度で、やられるわけがないだろう?」



ゼノン・レイブン。



まるで舞台の幕が開くように姿を現したその男が、


勝者の余裕を湛えた声で告げる。


「無駄だよ、無駄ッ!」


鋭く、狂気を孕んだ高笑いが響く。



この戦場に、絶望の空気が落ち始めていた――。



ここまで読んでいただきありがとうございます


流瑠々と申します。


もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、


ブックマークや評価で応援していただけると、投稿頻度が上がります。


次回 人類最後の希望 お願いします

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