第48話 真実
暗闇の中、
静寂が支配する旧ユナイトアーク施設。
人の気配も、冷たい金属の響きも――
ただ、古びたコンクリートの壁だけがひっそりと存在していた。
「ちょっと。本当に、こんなところなの?」
ライラの声が、低く震えた。
「ライラ、静かにしろ」
クラウディアが背を伸ばし、鋭い視線で制した。
「イザベラ様の手がかり通りなら、ここのはずだ」
先行していたギルベルトが、
曲がり角でぴたりと立ち止まる。
ゆっくりと腰に下げた銃のグリップに手をかけ、
金属音が静かに響いた。
「――静かに」
壁の奥。
暗がりの中に、確かな人影が揺れた。
しずくの胸が、不意に高鳴る。
(あれは……)
銃を携え、軍装に身を包んだ男。
その姿は、まぎれもない兵士だった。
「おいおい、男じゃねぇか。つまり……」
リサが顎を上げて呟く。
「あぁ。対マガツ用じゃない。あれは――人を殺すための装備だ」
ギルベルトが低く言い放つ。
「魔素兵装じゃない。つまり、対人部隊……ってとこだろう」
「ユナイトアーク中央部の……?」
エレナが静かに尋ねる。
「間違いない。どうやら想像以上に……根が深いな」
ギルベルトが眉をひそめた。
「どうする? ぶっ飛ばす?」
ライラがわくわくした声を漏らす。
「あなたのとりあえず殴る癖、そろそろ直したら?」
ミラがため息混じりにたしなめた。
その一言に、
ライラは小さく肩をすくめて黙った。
「ここから行動を起こすとすれば――もう後には引けんぞ。
上層部、ユナイトアーク本体を相手にするということになる」
ギルベルトが厳しく告げる。
「俺は覚悟できてる。イザベラが残したもの、無駄にはさせねぇ」
リサの声に、場の空気が変わる。
「もちろんよ」
エレナが頷き、
「全員、ぶっ飛ばしてやる」
ライラが拳を鳴らす。
「当然でしょ」
ミラが小さく笑った。
しずくは隣にいるカレンと視線を交わし――
うなずいた。
「もちろんです」
「では、行こう」
ギルベルトの号令が静かに響き、
影のように隊列が動き出す。
そのとき、ミラが呼んだ。
「シズ、アメリー」
暗がりの一角から、
メイド服のふたりが静かに現れる。
「お任せください」
その一言に、ライラが飛び上がる。
「うわっ、いつの間に!?」
コツ、コツ――
ヒールがタイルを叩く音。
「ん?」
男のひとりがライトを向けた。
暗がりにいたのは、メイド服の女性。
「おい、そこで止まれ!
貴様、一体何者だ? こんなところで何の用だ」
アメリーは優雅に一礼した。
「こちらでお仕事をしている方に差し入れを、と命を受けまして」
「……差し入れ? 聞いてるか?」
「いや、なにも――」
「コーヒーでございます。よく効くおやすみブレンドですわ」
アメリーの口端が裂けるほどに笑う。
「……二度とお目覚めにならないほどに」
男の唇が震えた、その刹那。
アメリーの手が光る――針が飛ぶ。
男の首筋に深く刺さり、その場で崩れ落ちる。
もう一人の男の手にも針が刺さり、
引き金は引けなかった。
その背後に――シズが足音もなく現れる。
男を抱き寄せ、静かに。
音もなく――首を折った。
数秒で、死体が二つ並んだ。
「……さすが、ミラの隊だな」
リサの言葉に、
「当たり前でしょ」
ミラが微笑む。
シズが壁に手を当てる。
指先で、細かな違和感をなぞる。
「ここです」
カチリ。
壁が震え、ゆっくりと横にスライドしていく。
――階段が、姿を現した。
「……ビンゴだな」
ギルベルトが唸る。
「で? この人たちはどうするの?」
ライラが死体を指して問う。
ミラは静かに指を鳴らす。
影が伸び、死体に繋がった。
そして――
兵士たちはぎこちない動きで立ち上がり、
銃を拾い、整列する。
「……死体が、動いてる……」
しずくの声が震える。
「こ、こっちに来させないでね……」
エレナが青ざめて囁く。
ミラは満足げに微笑んだ。
「さ、――行くわよ」
しずくたちは沈黙と闇が支配する、
地下の深部へと足を踏み入れた――。
そして、目の前に開けたのは――
広大な空間。まるで研究所そのものだった。
天井からぶら下がる古びたライトが、
まばらに点滅を繰り返し、
床は冷えた金属製の床材が張り巡らされていた。
「……旧ユナイトアークの地下に、こんなものがあるなんて……」
しずくは思わず呟いた。
壁沿いにはガラス製のカプセルが整然と並び、
その中に、横たわる影が淡く揺れていた。
足元のケーブルの束をまたいで、
皆の視線はひとつのカプセルの前に止まった。
そのガラスの中には、少女が横たわっていた。
彼女の顔は静かに閉じられ、
まるで眠っているかのようだった。
――そのとき、
ライラはそっと、ガラスに触れた。
彼女の手が震える。
「う、うそでしょ……。」
その直後、リサが息を呑んだ。
「こ、これは……間違いない、イルマだ……」
その声は震えていた。
「え……この人って?」
しずくが問いかける。
「私の隊にいた魔法少女だよ……」
ライラの声に静かな悲しみが滲む。
「掃討戦で、死んだ子だ……」
ギルベルトが近くのモニターを指し示し、
低く告げた。
「おい、こっちを見てみろ。」
皆が視線をその方向へ移すと、
整然と並ぶ見渡す限りのカプセル。
しかし、その中に横たわっていたのは――
人間ではなかった。
どのカプセルにも収められていたのは、
歪んだ形状の異形の存在。
人の面影をかすかに残しながらも、
明らかに人間ではない。
その姿は、
これまで幾度も死闘を繰り広げてきた――マガツだった。
それらが透明な培養カプセルの中に、
淡く揺れる緑色の液体とともに、
まるで眠っているかのように静かに浮かんでいた。
だが、それはただの静けさではない。
むしろ、今にも目を開け、
牙を剥きそうな圧だった。
「どうやら、イザベラの遺言は、本物のようだ」
静かに、ギルベルトが呟いた。
脳裏に、イザベラが遺してくれたデータの映像が、鮮明に蘇る。
――数時間前――
ギルベルトが静かに立ち上がり、
慎重にUSBを差し込む。
数秒の静寂ののち、
端末の画面にひとつのフォルダが現れた。
誰もが息を呑む中――
ギルベルトの指が、
そのフォルダをクリックする。
画面が切り替わり、
何枚もの画像と映像ファイルが並んだ。
画面に映し出されたのは、
イザベラの残したデータだった。
ギルベルトはデータを読み上げる。
『――ヘーゲル卿が倒れた日から、
私はずっと胸の奥に引っかかる疑念を抱えていた。
マガツとは何者なのか。あの不可解な出現頻度の増加、
増え続ける魔法少女の犠牲……。
記録を洗い直すたび、嫌な“規則性”が浮かび上がる。』
『出現位置は散発的に見えて、実は誰かに導かれているかのようだ。
私は確信した。――内部に、マガツを統率する意志がある、と。』
『疑いの矛先は、私たちのさらに上の上層部へ向かった。
彼らは何かを隠している。そう思い、私は単独で動いた。
危険なのは分かっていたが、もう放置はできなかった。』
『尾行の末、辿り着いたのは、
人が寄りつくことすらなくなった旧ユナイトアーク施設。
風の音だけが響く、忘れられた研究棟――そこで私は見てしまった。』
『冷たいガラスの向こうに並ぶのは、死んだと記録された魔法少女たちの遺体。
そして、その傍らに積み上げられた無数のマガツの標本。
目を逸らしたくなる光景の中で、
私は資料とデータを読み解いた。
全てを理解したその瞬間、背中が凍りついた。』
『私はこう結論づける。
マガツは、魔法少女である。と。』
ここまで読んでいただきありがとうございます
流瑠々と申します。
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次回 エンドゼロ お願いします




