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白の魔法少女  作者: 流瑠々


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第36話 人類の心臓

しずくは、急速な駆け足でギルベルトの下で、



戦略の基礎から――


指揮、判断、隊員の配置、予算の振り分け、報告の整理、


作戦行動の指示までを学んだ。


そのすべてが、ただ戦うだけの魔法少女から、


部隊を導くナンバーズへと変わるための本質を教える時間だった。


 


そして、ギルベルトは静かに告げた。




「――真壁しずく。君には、ナンバーズとして、ある秘密を伝えておく」



「現在、ユナイトアーク障壁によってマガツの進行を防いでいる。


その結界は大量の魔素を消費しており、


それらを生成しているのが――核。


つまり、ユナイトアークには人類の心臓とも呼べる場所が存在する。」


 


「それが、生命の間だ。


 この情報はナンバーズにしか知らされていない。


 他言は絶対に許されない」





「そして、それを守る者がいる。


ガレス・アイアンハート――


彼女は他のナンバーズとは少し立ち位置が異なる。」


 


「ガレスと会って、そこの構造をその目で見ておくべきだ。


 それに――君自身も、ナンバーズとしての重さを知る必要がある」


 



ギルベルトの目が、真っ直ぐにしずくを貫いた。


 



「それと……彼女は、君の姉――るりの元部隊員でもある。



 面識はないかもしれないが、その背中から学べることは多いはずだ」


 


しずくの胸に、なにかが響いた。



「……はい。分かりました。会いに行ってみます」


 


しずくは静かに頷き、ギルベルトに一礼した。


 


外で待っていたカレンと共に、指示された場所へと歩を進める。


 


道中、カレンが語る。





「しずく、ガレスさんは他のナンバーズとは違う。



 彼女の任務は――マガツを倒すことでも、治安維持でもない」


 


「え……?」




「生命の間を守ること。たったそれだけだ」


 


二人は静かな廊下を進む。



やがて行き止まりのように見える場所で、カレンは足を止めた。



「あの……カレンさん、ここ……?」


 



カレンは無言で壁に手をつく。



淡い光が壁面に走り、ブロック状の構造が動き出した。




壁がスライドし、通路が出現する。


 



「さぁ、入れ。しずく」


 



深く息を吸い、しずくはその先へと足を踏み入れた。


 


狭い通路を抜けた先に――




突如として、視界が開ける。



そこに広がっていたのは、



まるで神殿のような、荘厳な大空間だった。


 


天井は高くそびえ、光の筋が差し込み、



大理石の床には円形の紋章が彫られている。




幾層にも連なる柱と回廊が、静かに聖域の空気を纏っていた。


 



しずくは息を止めた。




「こんな場所が、ユナイトアークに……」


 


背後から、静かな声。


 


「ふっ。私も最初、セレス様に連れてこられたときは、君と同じ顔をしていたよ」


 



振り向くと、重厚な扉の前に――



ガレス・アイアンハートがいた。




鎧をまとい、戦斧を携え、静かに鎮座している。


 


カレンが丁寧に頭を下げた。


「ガレスさん、真壁しずくを連れて参りました。



 ナンバーズとして、この場所を伝える必要がありますので」




「しずく、この扉の先に、核が存在する。


 ガレスさん、もしくはイザベラ様の許可がなければ、


ナンバーズでも入ることはできない。もちろん、リサさんやセラフィナ様ですら、


未だに足を踏み入れたことはないはずずだ。」


 


その事実に、しずくは言葉を失った。


 


「ガレスさん、お忙しいところありがとうございました。失礼します」


 

しずくも頭を下げた――その時。


 


「待て」


 


ガレスの声が、空間に凛と響いた。


 



「真壁しずく。お前には――この中を案内する。ついてこい」


 


その瞬間――


 

背後の巨大な扉が、重厚な音を立てて開かれていく。



ギィィ……ン……!




空気を切り裂くような音とともに、ゆっくりと扉が広がっていく。


 



カレンが息を飲む。


 



「すまんな、カレン。お前を信用していないというわけではない。


 だが、ここは私としずくのふたりで入る」


 



「……いえ、かしこまりました」



カレンは深く頷き、しずくに目を向けた。


 


「しずく、私はここで待っているから」


 


「わ、わかりました……」


 


「さぁ、行くぞ、しずく」


 


ガレスの低く、揺るぎない声に促されて。


 


しずくは、覚悟を胸に、巨大な扉の奥――




人類の未来を揺るがす核への道へと、足を踏み入れた。



「さぁ、行くぞ、しずく」


ガレスの低い掛け声に促され、しずくは覚悟を胸に、


その巨大な扉の奥へと足を踏み入れた。



コツ、コツ――。


ふたりの足音が、静かな回廊に響く。


壁には鋼鉄のプレートが幾層にも重なり、


脈打つように光る魔素灯が、淡い灯を落としていた。



足元を照らす光が、影を揺らす。古びた文字が浮かび上がり、


まるで何かを囁いているようだった。



「……あの、ガレスさんって、お姉ちゃ、――るりさんの隊にいたんですか?」



しずくは小さな声で問いかける。



ガレスは立ち止まらず、淡々とした声で答えた。



「ああ。私は、るりさんの部隊にいた」



その響きは、どこか遠い記憶をなぞるようだった。



「るりさんは……完璧な人だった。


 人を助け、戦えば無敵で、誰からも信頼されていた。


まさに、人類の希望と呼ぶに相応しい人だった」



静かな回廊に、ガレスの言葉が穏やかに広がっていく。



「初めての実戦で、私は別部隊に所属していてな。


 作戦ミスで、命を落としかけたんだ。


 その時、るりさんが現れて、私を救ってくれたんだ」



しずくは黙って聞いていた。



「その時、決めた。――この人のために、命を懸けようと。


 彼女の部隊に志願して、戦うことを誇りに思っていた」




やがて、遠くに淡い蒼白の光を放つ金属の扉が見えてきた。




しずくは小さく息を飲む。




「……すごい人だったんですね、お姉ちゃんは」




ガレスは一瞬だけ立ち止まり、深く息を吸う。




「ある日、るりさんから告げられた。


 それがこの“核”のことだ。


 “この場所――核を守ってほしいと。私が帰るまで、絶対に、と。」



しずくの心が、ふっと熱くなる。



「それって、すごく信頼されてたってことですよね……」



ガレスは、静かに頷いた。



「嬉しかったよ。るりさんに任されたことが。


 秘密を共有する、それだけで十分だった。


 私は、この任務を絶対に全うしようと誓ったんだ。」




そして――彼女の声が、僅かに沈んだ。




「だが……るりさんは、帰ってこなかった」




しずくの喉が詰まる。




「任務中のトラブル、そう報告を受けた。



 信じられなかった。あれほど強かった人が……そんな簡単に――」



 静けさが、回廊に満ちる。




「私は抗議した。だが、返ってきたのは任務上のトラブルという一言だけだった。



 その日から、私はこの扉の前に立ち続けている。



るりさんの代わりに、彼女の願いを守るためにな」



その言葉とともに、巨大な扉がゆっくりと開いていく。


ギィイィ……ン……ッ。



重厚な音が空間を震わせ、封印されていた空間がその姿を現した。



そこにあったのは、想像を遥かに超える広さの核格納区。



天井はドーム状に高くそびえ、床には精密な幾何学模様が刻まれ、


青白い光が魔素の脈動とともに流れていた。



空気が振動し、まるで生きているかのように魔力が満ちている。



「これが……」



しずくは息を呑み、静かに呟いた。




「これが、人類の心臓――ユナイトアーク障壁を維持するための核だ」



ガレスが、静かに告げる。



「もしこれが失われれば、マガツは障壁を突破する。



 人類に、もう防衛線は残っていない。



 だから、誰であろうとも……たとえ一歩でも、この地には踏み込ませない。



 ここは、人類の最後の砦だ」




 しずくは、床の光を見下ろしながら震える声で訊いた。



「でも……なぜ、こんな場所に私なんかを……?」



ガレスは腕を組んだまま、前を見つめて答えた。




「正直に言えば、私にも分からない。


 もちろん、るりさんの妹というのもある。



 だが……君には、何かがある。言葉にはできないが、



 目の奥に光が見えた。守る意思があった。



 それだけで、理由としては充分だ」



 そして、微かに笑みを浮かべる。




「さ――昔話はこれくらいでいいか。戻ろう」



「はい……」



少しの間があって、しずくが小さく口を開く。




「……あの、ガレスさんも……もう自由になってもいいと思います」



「ん?」



ガレスはわずかに首を傾げた。



しずくは、そっと微笑む。




「お姉ちゃんも、きっと、そう思ってると思うから」




その言葉に、ガレスの口元がほころんだ。




「……るりさんに、そっくりだな」




二人の影が、静かに回廊へと戻っていく。




足音はエネルギーの波動に吸い込まれ、やがてその音も消えた。




背後で、扉が再びゆっくりと閉じていく。




こうして――しずくとガレスは、




言葉少なにカレンの待つ場所へと戻っていった。




だが今はただ、



しずくの胸に灯った、小さな決意だけが。




確かに、確かに燃えていた。

ここまで読んでいただきありがとうございます



流瑠々と申します。



もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、



ブックマークや評価で応援していただけると、がんばれます。



次回 アンナ・ヴェイル お願いします

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