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白の魔法少女  作者: 流瑠々


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第33話 別れの始まり

コツコツと、カレンと並んで廊下を歩く音が静かに響いていた。


議事堂を出たというのに、しずくの胸の奥では、まだ心臓が鳴り続けていた。


「……しずく」


穏やかに名を呼ばれ、しずくは思わず背筋を伸ばす。


「は、はいっ!」


カレンは歩を緩め、静かな声で言った。


「いきなり、あのようなことを言ってしまって……驚かせてしまったな」


その声は、どこか申し訳なさが滲んでいた。


だが、しずくは慌てて首を横に振る。


「い、いえ……カレンさんが私を、そんなふうに思っていてくれたなんて……その、うれしかったです」


カレンの表情が、ほんのわずかにやわらぐ。


「そうか……それなら、よかった」


しばし沈黙のまま歩いたあと、カレンはふたたび口を開く。


「さあ、今日から君はナンバーズだ。


十番目の席にふさわしい、魔法少女としての責務が待っている。……忙しくなるぞ」


その言葉に、しずくは小さく息を呑む。


「は、はい……!」


「まずは、リサに挨拶をしてくるといい。

これまで世話になったのだからな」


「そ、そうですね……行ってきます!」


しずくはそう答え、きびすを返す。


――これまでとは違う、自分の意志で。


彼女の足取りは、確かに前を向いていた。



しずくはカレンに軽く頭を下げると、廊下の先へと足を向けた。



リサの部屋――それは、これまで何度も訪れた場所だ。



だが今日は、扉の前に立つだけで、心がどこかざわつく。



(……ちゃんと、言えるかな)



扉の前で深呼吸をひとつ。



意を決して、ノックする。



「リサさん……あの、しずくです」



一拍の間。



「開いてるよ。入んな」



いつも通りの、少しぶっきらぼうで、どこか優しい声。



しずくはそっと扉を開け、部屋へと足を踏み入れた。



中では、リサが背を向けたまま、机に何かを書いている。



「お疲れさま、しずく」



「は、はい……あの、先ほどは……ありがとうございました」



しずくが言葉を探しながら頭を下げると、

リサは振り返り、肘をついたまま微笑んだ。



「何だ、改まって」



「……リサさんが、会議で言ってくれたこと、本当にうれしかったです」



しずくは、胸に手を当てるようにして小さく言った。



「私は、まだまだ未熟ですけど……でも、

リサさんの言葉に、すごく勇気をもらいました」



リサは立ち上がると、しずくの前まで来て、頭をぽんと軽く叩いた。



「お前さ、前はすみませんとかごめんなさいばっか言ってたのに、



ちゃんとありがとうって言えるようになったな」



「えっ……」



「しっかりしてきたな。――やっぱもう部下じゃねぇな」



冗談めかした口調だったが、その瞳は真っすぐで、どこか誇らしげだった。



しずくは、胸が熱くなるのを感じながら、そっと微笑んだ。




「――頼むぜ、№10」



その言葉に、しずくは小さく息を呑み、姿勢を正して深く頭を下げた。



「……これからも、よろしくお願いします」




二人の間に流れる静かな空気に、どこか温かなものが宿っていた。




リサが静かに受話器を取った。


「ああ、俺だ。――あいつらを、呼んでくれ」



たったそれだけの短い言葉。

けれど、しずくの胸に、どこかざわめくものが残った。



しばらくして、廊下の奥から足音が駆けてくる。



バタバタ、バタバタ――。

それは慣れ親しんだリズム。どこか懐かしい気配。


そして、



コンコンッ。



ノックの音が響いた。



「失礼します!」


勢いよく扉が開くと、そこにいたのは――アヤメ、ミカ、ソラの三人だった。



制服が揺れ、息を少し切らしながら、並ぶ。



「リサ様、ご用というのは……あれ? しずく様?」



「しずくちゃん……!」



部屋の空気が、ふっと緩んだ。



三人の視線がしずくに集まり、その表情が一瞬、戸惑いを帯びる。



そして、リサが立ち上がり、無造作に手をポケットへ突っ込んだまま、静かに言う。



「お前ら、ちゃんと聞いとけ。



しずくは――今日付けで№10になる」



場が止まった。



「まだ正式発令じゃねぇが、もうほぼ確定だ。



だから……今日で、うちの部隊からは外れる」



沈黙。



誰も言葉を継げなかった。



アヤメがわずかに視線を伏せ、ソラが小さく息を呑む。



そして――ミカがぽつりと口を開いた。



「……えっ」



短く、息を吐くような反応。

それきり、誰も何も言わない時間が数秒流れる。



だが、次の瞬間。



「――しずくちゃんっ、

おめでとぉぉぉおお!!!」



ミカが叫んだ。



そのまま飛び込むように、しずくの胸に抱きついてくる。



「う、うわっ……ミカちゃん……っ」



バランスを崩しかけながらも、しずくはなんとか支えた。



「すごいすごい! ナンバーズになれるなんて、ほんとにすごいよ!」



その声には、少しの寂しさと、それ以上の喜びが詰まっていた。



アヤメがにこりと笑みを浮かべて、頭を下げる。



「しずく様……本当に、おめでとうございます。



私、心からうれしいです」



「……しずくさん、おめでとう」



ソラは小さく、けれど確かに言った。



彼女たちの声は、穏やかで、あたたかくて。



しずくの胸が、じんわりと熱くなった。



「みんな……ありがとう……」



こみ上げる気持ちを抑えきれず、声が震える。



「今まで、私のこと……支えてくれて……ありがとう」



視界がぼやける。

それでも、誰の顔も、曇ってなどいなかった。



みんな笑っていた。



リサが、それを静かに見つめていた。



ふっと、わずかに口元をほころばせる。



「……よし、お前ら。今日はもう、上がっていいぞ」



「えっ、いいんですか!?」



「たまには飯でも食ってこい。――お祝いにな」



「ありがとうございます!」



「しずく様、行きましょう!」



アヤメが嬉しそうにしずくの腕を取る。



「わたし、ラーメン食べたいですっ」



「え~、温泉行こうよ~」



「私は……部屋でゆっくり、

みんなで話したいな」



三人三様の提案に、しずくは思わず笑ってしまった。



「ふふっ……どうしよう、全部行きたくなっちゃう」



「じゃあ、ぜんぶ回ろ!」



ミカが元気よく言い、全員が笑い声をあげる。



にぎやかな雰囲気のなか、四人はそろって部屋をあとにした。




その後、しずくは正式にリサ隊の仲間たちに挨拶をした。



顔なじみの仲間たちが揃って、笑って、少しだけ泣いて、そしてまた笑った。




「しずくちゃん、いっちょまえになっちゃって!」

「もう戻ってくんなよ~、ナンバーズ様!」



冗談交じりの声が飛び交い、

しずくは何度も「ありがとう」と頭を下げた。



彼女らと過ごした日々は、自分にとってかけがえのないものだった

――それは、決して消えない。

その背中には、それぞれの別れとはじまりの光が、

静かに揺れていた。




そしてその夜。




温泉に入り、ラーメンを食べて、部屋でお菓子を囲んで笑って……



しずくたちはとても賑やかで、そして幸せな時間を過ごした。




夜が更け、部屋の灯りはやわらかに落とされる。



おなじ部屋の中、しずく達はすやすやと安らかな表情を浮かべている。



けれどその隅で、ひとりだけ布団を抜け出す影があった。



そっと扉を開き、誰にも気づかれぬように廊下へ出る。



しずくの寝顔を一度だけ見つめたあと、足音を忍ばせて静かに歩き出した。



庁舎の一室。



リサは、薄明かりの下、机に向かって書類を捲っていた。



ふと手を止め、ペンを置く。



そのとき、




コン、コン――




ノックの音が、静けさを破った。




「……失礼します」




扉が開き、姿を見せたのは、制服姿のアヤメだった。




「ふっ……やっぱお前か」





リサが少し笑みを浮かべながら振り返る。




「……なんとなく、来るんじゃないかって思ってたよ」





アヤメの瞳には、はっきりとした決意が宿っていた。



その雰囲気を、リサも察していた。





静かに、時間が流れる。




やがてアヤメが、わずかに視線を上げて、静かに口を開いた。


 


「――リサ様に、伝えたいことがあります」




ここまで読んでいただきありがとうございます。






流瑠々と申します。






もし「続きが気になる」と思っていただけましたら、








ブックマークや評価で応援していただけると、がんばれます。






次回 白光隊ルミナスホワイト お願いします。






流瑠々でした。

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