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白の魔法少女  作者: 流瑠々


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第15話 夜を裂く咆哮

――夜の食堂。




正門警備を終えた三人は、椅子にぐったりと倒れ込んでいた。



「つっかれたーーー!!」



ミカがテーブルに突っ伏して叫ぶ。



「ほんとに……なんなの、あの人たち……。」



ソラもぐったりスープをすすりながらため息をつく。



「任務だから仕方ありませんが……気分のいいものではありませんね」



アヤメが姿勢を正しつつも、珍しく顔を曇らせていた。




「……じゃ、みんなで風呂入ろうか」



しずくがおずおずと口にすると、三人も「賛成!」と声を揃える。




廊下を歩きながら窓の外をふと覗く。



闇に照らされた正門の前。そこに、小さな人影が立っていた。



「あれ……?」



しずくは足を止め、目を凝らす。




――白いフードを脱ぎかけた、小さな女の子。

門番のエクリプスに必死に何かを訴えている。

小さな両手で涙を拭いながら。



(……あの子……!)




窓越しに見えた小さな背中に、しずくの心臓が跳ねた。



あの日、正門前で人波に混ざりながらも――ほんの一瞬だけ、自分に手を振ってくれた少女。


間違いない。あの子だ。



その瞬間――白いフードの一団が現れ、ユイを乱暴に抱え込む。

必死に抵抗するも、大人の腕に押さえつけられ、そのまま連れ去られていった。




「……っ」



しずくは窓を掴む手に力を込めた。




背後でアヤメが低く呟く。



「……子供まで……。なんて無理やりな……」




「可哀想に……」



ソラが視線を逸らし、小さく震える。



ミカが半ば呆然とした声で言った。



「……え? ちょっと待って……今の……本気でやばくない?」




しずくは振り返り、強く言った。



「……あたし、行ってくる!」




「えっ!? 風呂は!? っていうか今から!?」



ミカが叫ぶが、もう止められない。



「当然、私たちも行きます」



アヤメがきっぱりと言い切り、ソラも小さく頷いた。




「ちょっとぉ! せっかくのお風呂の時間が~!

 ……はぁ、もういいや! こうなったら付き合うしかないか!」



ミカが大げさに肩を落としながらも、駆け出した。



正門へ急ぎ、門番のエクリプスに事情を聞く。



彼女は困惑した顔で答えた。




「さっきの子か……泣きながら“お母さんを助けて”とだけ言っていたんだが……

取り乱していて要領を得なくてな。


 そこへ親だと名乗る教団の大人が来て、“迷惑をかけて申し訳ない”と……

それで引き渡してしまったんだ」



「……っ」



しずくは唇を噛み、拳を握りしめた。



「――行こう」




その言葉に、アヤメもソラも、そしてミカも頷く。



夕風が吹き抜ける中、四人は決意を胸に歩き出した。




裏路地は湿った匂いと薄暗さに包まれていた。

夕暮れの光も届かず、狭い通りに影を落としている。



その奥で――白いフードを被った信徒の男たちが、一人の少女を無理やり引き立てていた。



「待って!」



しずくは思わず声を上げた。



男たちが振り返る。粗暴な目つきがこちらを射抜く。



「……なんでしょうか? 我々はいま、聖なる務めの最中でして。お引き取りを」



少女の腕は強く掴まれ、泣き顔がフードの影からのぞいていた。




しずくは一歩踏み出し、声を張る。



「その子……泣いていますよ!」




フードの一人が作り笑いを浮かべた。



「人見知りなだけです。気にしないでいただきたい」




「人見知りであんな顔になるかっての!」



ミカが噛みつくように声を張った。




少女の目が潤み、必死に唇を震わせる。



「……たすけて……!」




その一言で、場の空気が決定的に変わった。




アヤメの瞳が鋭く細まる。



ミカも肩を回し、にやりと笑った。



「……やっぱりそういうことか」




「神に背くゴミどもが……!」



信徒の一人が唸り声をあげ、棒のような武器を構えた。



「我らの務めを邪魔する気か!」




その叫びに、しずくは反射的に身構える。




右手をかざし、盾を展開しようと――。




「――しずく様が出るまでもない!」



アヤメが鋭く声を上げ、先に地を蹴った。



一瞬で間合いを詰めると、正拳を突き出す。




「はっ!」




拳が空気を裂き、信徒の胸板にめり込む。

鈍い衝撃音と共に男が吹き飛び、石畳に叩きつけられた。




続けざまに、ミカが軽やかに回転しながら飛び込む。



「やぁぁっ!」




両手を地に着き、脚を振り上げる。

カポエイラのような回し蹴りが弧を描き、別の男のこめかみに炸裂した。




男は声も上げられずに崩れ落ちる。



「ふ、ふざけるな……!」




さらに棒を振りかざす信徒へ、アヤメが一歩で踏み込み、肘打ちを叩き込む。

「はっ!」




骨の砕けるような音とともに、男は路地の壁へ叩きつけられ、呻き声を上げて沈んだ。




ミカは回転を止めぬまま、背後から迫った影へと逆立ち蹴りを見舞う。



「ほいっと!」




踵が顎を撃ち抜き、信徒がよろめきながら崩れ落ちる。



――わずか十数秒。



アヤメの正確無比な打撃と、ミカのアクロバティックな蹴り技。

二人の猛攻は、路地裏の信徒たちを瞬く間に地に伏せさせた。




しずくは盾を構えかけたまま、ただ呆然と立ち尽くしていた。

――自分の出る幕など、どこにもなかった。




静まり返った路地裏に、倒れた信徒たちの呻き声だけが残る。




しずくは息を整えながら少女に膝をついた。



「もう……大丈夫だよ」




やわらかく声をかけると、少女は堰を切ったようにしずくに抱きついた。

小さな体は震え、しずくの胸元を濡らすほどに涙をこぼしていた。




「こわかったね……でも、もう平気だから」



しずくが背を撫でる。




だが次の瞬間、少女はしゃくり上げながら必死に言葉を絞り出した。



「お母さんが……マガツに……食べられちゃうの!」




その言葉に、アヤメが息を呑み、険しい顔で呟く。



「……こっちの世界に、マガツ……? ありえない……」




ミカも青ざめて首を振った。



「マガツがいる世界はユナイトアーク障壁で隔てられてるんだよ? そんなの……信じられない!」



けれど、少女は必死に涙をぬぐい、しずくの服を握りしめて繰り返した。



「ほんと……ほんとなの! お願い、助けて……! お母さんが……!」




しずくはその小さな手を両手で包み込み、静かに頷いた。




(……この子の言葉を、信じよう)




顔を上げると、仲間たちに真剣な眼差しを向ける。



「……私たちで確かめに行こう。もし本当にマガツがいるなら――放っておけない」




アヤメは唇を引き結び、一瞬だけ逡巡した。



「……正規の報告を経ずに動くのは、規律違反です。しかし……しずく様のお考えなら」




「うん、私はついてくよ!」



ミカは力強く頷き、拳を握る。




しずくは深く息を吸い、決断を言葉にした。



「ソラは本部に戻って報告を。援軍を呼ぶのが先決。……その間に、私たちで行けるところまで進もう!」



三人が同時に頷く。




涙に濡れた少女の瞳が、かすかに希望の光を取り戻した。



その小さな手を引きながら、しずくたちは夜の街へと駆け出した。


――その頃。



結界の内側。



ユイの母は息を詰めながら、襲いかかる巨影を避け続けていた。



振り下ろされる触手が石畳を砕き、飛び散る破片が頬を裂く。



血が滲んでも、立ち止まるわけにはいかない。



結界の向こう側では、司祭たちが慌ただしく叫んでいた。



「ひびを塞げ! 早く!」



「外に出すな、結界を保て!」



だが裂け目は広がり続け、マガツの赤い双眸がそこに釘付けになっている。



巨体が低く身を沈めた。突進の予兆。



母は胸の奥で息を吸い込んだ。


震えを抑え、ただ視線を逸らさず、迫り来るその影を見据える。



――その瞬間。




結界が破砕音を立てて弾け、光の粒が飛び散った。



黒鉄の壁が抉れ、マガツの巨体が現実へと滲み出していく。




轟音と共に外へと踏み出し、咆哮が夜空を震わせた。




街路に響く足音。



路地を駆け抜ける小さな声があった。




「もう少し……! あそこを曲がれば!」

ユイが必死に言葉を絞り出す。





彼女の手を握りしめるしずくは、荒い息を吐きながら頷いた。



「うん……走ろう!」




視界の先、街灯に照らされた建物の影が見えた。



そこに辿り着けば――そう信じて二人は駆け出す。




だが次の瞬間。




建物が内側から破裂するように爆ぜ、瓦礫が弾丸のように四方へ飛び散った。



轟音と共に赤黒い光が溢れ出し、その直線上にユイの小さな体がいた。




「――危ない!」



しずくは反射的にユイを抱き寄せ、身を丸めて転がる。



背中に石片が突き刺さり、息が詰まるほどの衝撃が全身を走った。



瓦礫の雨が降り止んだとき、煙の向こうから蠢く巨影が姿を現した。



触手を広げ、外の空気を吸い込む。



赤い双眸がぎらつき、夜を裂くような咆哮が轟いた。




「……マガツ……っ!」



しずくが息を呑む。



――障壁のこちら側、人の街で。



最もいてはならない“災厄”が、いま目の前に現れた。

ここまで読んでいただきありがとうございます。



いつもリアクション、評価 ありがとうございます。



支えになっております。






流瑠々と申します。




人類側にマガツ 




そこに居てはならない存在が人類の目の前に




しずく達はどうするのか












次回 蒼き盾の覚醒  お楽しみに






















もし少しでも「続きが気になる」と思っていただけましたら、
















ブックマークや評価で応援していただけるとありがたいです。












以上、流瑠々でした。

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